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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3556話 はるかな過去編 ――戦いへ――

 カイト達主導で行われている北の砦攻略作戦。その重要な要素を占める古代の飛空艇の復元に携わる事になったソラ達であったが、彼らはその偽装工作に関わる中でノワールが手慰みに開発していた輸送車のテストパイロットとしても活動することになっていた。

 というわけで飛空艇の陽動として簡易式の自動操縦システムを組み込んだ輸送車の開発にも携わる事になった彼らは、ノワールの要請を受けて王都近郊の軍工廠で急ピッチで製造される簡易量産型の試験に協力する事になる。


「おまたせしました。全台確認完了です……あ、瞬さんもソラさんもありがとうございます」

「いえ……それでこちらの簡易量産型? の試験を行いたいという事でしたが……」

「はい……まぁ、本当は自動操縦システムでも組み込めればと思ったんですが……無理そうでしたので」

「駄目だったんですか?」

「お兄さんからダメ出し食らいましてー」


 あはは。瞬の問いかけに、ノワールは少し恥ずかしげに視線を逸らす。というわけでカイトからのダメ出しについて彼女が教えてくれた。


「戦場の荒れた道をどう迂回するんだ、とか言われたんですよね。ぶっちゃけ無理でしたねー。いっそ専用の使い魔を量産したほうが良いぐらいに」

「それは……手間が掛かり過ぎになりそうですね」

「そういうことですね。というわけで無理と判断したので、代替策を用意する事にしました」


 かんっ。ノワールは瞬の問いかけに同意すると、杖を虚空から取り出して地面を軽く小突く。すると周囲の空間が歪んで、試験に適した空間が現れた。


「その代替策は、遠隔操縦。陣地最後方に専用の区画を用意して、輸送車に信号を発信。信号を受信する一台を介して周辺の複数台の操縦を同期させます」

「それだと動きが似通うのでバレませんか?」

「そのために、お二人に来て貰いました。ある程度は自動で判断して障害物などを避ける様にします。そこらが組み合わされば、ある程度誰かが乗って動かしている風を装えるのではないかと思いました。ただそうなると今度は元通りの隊列に戻したり、といろいろと問題があるので……そこらの情報収集にご協力頂きたいんです」

「「なるほど……」」


 確かにある程度障害物を避ける事ができれば、外からは誰も乗っていないようには思えないだろう。そしてもちろん、この陽動が上手く行けば上手くいくほど飛空艇の生存率が底上げされるのだ。二人に断る理由はなく、早速データの収集作業に取り掛かる事になるのだった。




 さてそんなこんなで時に飛空艇の調整、時に輸送車の簡易量産型の開発にと忙しなく動く事幾星霜。ソラ達がデータの収集に勤しむ間も工兵達により夜を徹した作業が行われ、それを搭載してはまた試験を繰り返していた。

 そうして飛空艇の復元から数ヶ月。数百台の簡易量産型の輸送車が出来上がる事になる。というわけで北の砦攻略作戦の最終段階に移るとあって、レックスが視察に訪れていた。


「……すっげ。なんだこれ」

「あー……そういやレックスさんは見るの初めてっすもんね」

「そうなんだよなー……はー……」


 まぁ言ってしまえば近代ヨーロッパの指揮官の前に現代の高機動車を数百台並べているようなものだ。これが魔道具だし突飛な発明も色々としていたノワールを知っているからただただ凄いという感想だけで良いだけで、最初はこの簡易量産型の輸送車の製造を主導するアクストさえ数百台並んだ簡易量産型に苦笑していたほどであった。というわけで流石に感嘆を隠せなかったレックスであったが、急に頭を下げた。


「ありがとう。最初は直感でお前らを拾ったんだが……まさかそれがこんな風に実るなんてな」

「いえ……頭を上げてください。俺らだってこっちに来てからはおんぶに抱っこ状態ですし、向こうじゃカイトに世話になりっぱなしなんで……先に借りを作れたんなら逆に有り難いっていうか……」

「ありがとう」

「そうだな……私からも礼を言う。ありがとう」

「「アクストさん」」


 どうやらレックスの到着を聞きつけたのだろう。視察に合わせて工廠にやって来ていたアクストが声を掛ける。これに驚くソラと瞬であるが、その一方のアクストが周囲を見回した。


「そういえば小鳥遊くんは? 彼女にも是非礼を言っておきたい」

「あー……あいつは……まぁ……」

「どうしたのかね」

「いや、流石にふたりとも来るってなって逃げました」

「「逃げた?」」


 ソラからのまさかの返答に、レックスとアクストが揃って目を瞬かせる。もちろん、この逃げたがシンフォニア王国から逃げた事を意味するわけがない。単にこの場への同席から逃げた、というだけであった。というわけでその大半を知るソラがアクストに苦笑混じりに教えた。


「まぁ……また実際に見せてくれと言われたら堪ったものじゃない、ってことで……」

「そうなのか? だが彼女の技術があればこそ、この輸送車部隊は完成したようなものだ。砦の攻略が成し遂げられた暁には陛下にも報告し、直々に勲章の授与も考えていたのだが」

「……あははは」


 この世界に道路交通法なぞあるわけがない。そんな常識も当然ない。そして想定される運用は戦場だ。自動車教習所で習うような運転より、そういったものがない常識外れの運用が望まれた。

 それに最もの適性があったのが、元走り屋の由利なのであった。だが、当人は過去の経歴もありそれを非常に恥ずかしがり、何も知らず絶賛してくるアクストを苦手としていたのであった。

 当然ここで地球において犯罪行為にあたる事や補導され今は恥じている事を明かせれば良いが、流石にそれもやりにくい。なので結果として逃げる、という形となってしまったのであった。


「ま、まぁそれはそれとしてです。とりあえずレックスさん。いつもの事っすけど時間ないんじゃないんっすか?」

「あ、ああ、そうだな。とりあえず将軍。状況を教えて下さい」

「おっと……失礼しました。殿下、こちらへ」


 レックスの要請を受けて、アクストが直々に案内を開始する。ソラ達がレックスと共にこちらに来たのは彼に案内を望まれたからだ。レックスとしても今回の攻略作戦において陽動作戦、本命となる飛空艇の操縦など八面六臂の活躍をしてくれた一同に直接礼を言いたいと考えての事であった。

 というわけでレックスの視察に同行する事になるのだが、その裏でふと瞬がセレスティア――イミナと共にレックスが来る以上と同席している――に問いかける。


「なぁ……この輸送車は未来に残っていないのか?」

「数台だけ現存している……とは聞いています」

「聞いています?」

「管理が学園なのです。未来の学園……今でいう王城の地下にカイト様が残された遺物がいくつかあるそうなのですが、その中に地走艇と呼ばれる物があるそうです。おそらくそれこそ、この輸送車なのではないかと」

「なるほど……使えないのか?」


 ふるふる。瞬の問いかけにセレスティアは首を振る。そうして彼女が小声で続けた。


「セキュリティが仕掛けられていて動かせない、という事だそうです」

「そのセキュリティというのは……あれか」

「あれですね……あははは」


 当然だが輸送車は現状軍事的な運用しか考えられていない。なので持ち出されたりしない様にノワールが作った鍵を使わないと操縦出来ない様にされていた。もちろんこれ以外も物理的、魔術的なセキュリティが仕込まれていたのであった。


「はぁ……相談して良かったです、本当に」

「ん?」


 セレスティアは瞬の視線を受けて、少しだけイタズラっぽく笑う。


「鍵の複製を一本頂きました。おそらく学園の地下に残されていたのは……とのことです」

「そ、そういうことか」


 未来の時代で再び魔族の侵略がある事を知ったノワール達が意図して遺したもの。瞬もノワール達もそう判断したのであった。そして聞けばこの鍵は謂わば認証キーのようなもので、ノワールか最低でも同レベルの魔術師でなければ複製出来ないらしいかった。とどのつまりエネフィアにおいてティナの技術を模倣しようとするようなもので、魔族達でさえ無理の様子であった。


「過去に来てしまった時はどうしたものかと思いましたが……我々としても実りある旅路となりました」

「そうか」


 セレスティアとしては防具は本来の姿を取り戻したし、鍵まで貰えたのだ。カイト達の技術を直に見れた事で巫女としても、戦士としても強化されている。確かに彼女にとっても実りある旅路となっていた。とはいえ、瞬からすれば直にこの時代の戦争に触れて少しの畏怖を滲ませる。


「だが……これだけやっても、なのか」

「これだけ出来るからこそ、この大陸だけで事態を抑えられたとも言えます」

「そうか……」


 カイト達八英傑が全戦力を傾けてさえ、魔族達とは一進一退の攻防にしかならないのだ。それと同等の戦力が攻めて来ているだろう未来の戦場を垣間見てぐっと拳を握り締める。が、そんな彼にセレスティアがおずおずと問いかける。


「あの……気を引き締めている所悪いのですが流石にこちらの戦いには……そもそも皆さんはその前に地球に帰られる方が先では?」

「そ、それもそうか」


 師匠であるクー・フーリンが見れば流石俺の弟子と大歓喜しそうな瞬であったが、そもそも彼らの本来の目的は地球への帰還だ。この世界の未来の戦争に首を突っ込む事を念頭に鍛え直しを考える彼がおかしいのであった。というわけでそんな変な思考に至っていた瞬はその後も視察に参加。視察の結果作戦の発動が承認される事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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