第3547話 はるかな過去編 ――未来の内情――
カイト達主導で行われている北の砦攻略作戦。その重要な要素を占める古代の飛空艇の復元に携わる事になったソラ達。そんな彼らは冒険者としての活動の傍ら時にテストパイロットとして、時に極秘裏に飛空艇の部品を運ぶ輸送隊の一員として活躍しながら、日々を過ごしていた。
そうして八面六臂の大活躍といった塩梅に忙しなく動いていた彼らであったが、その結果所謂貴族派と呼ばれる貴族達からついに直接的に狙われる事になってしまう。
というわけで万が一毒を盛られた場合に備えてカイトが融通してくれた解毒薬セットを受け取るべくマクダウェル家を訪れていたソラはそこで<<雷鳴剣>>についてマクダウェル家の書庫で調査を進めていたクロードと再会すると、彼から帰り道での貴族派からの妨害工作について聞く事になっていた。
そうして打ち合わせから明けて次の日。ソラ達は密かにマクダウェル領マクダウェルを後にするわけでもなく、普通に出発となっていた。
「密かに、じゃなくて良いんだ……」
「出ていく所なぞどうせ敵にもバレているからな。重要なのは道中だ」
貴族派とてマクダウェル領に密偵は忍び込ませているだろう。イミナはソラのボヤキに対してそう告げる。暗殺や暗躍を狙うわけではないのなら、マクダウェルの騎士達も何もしてこない。出来る道理がないからだ。というわけで見張られてはいるだろう、という事もあり密かに出た所ですぐにバレるとそれなら堂々と出ていこう、となったのであった。というわけで堂々と竜車で出ていくわけであるが、その中でソラがふと疑問を得る。
「そういえばセレスちゃんってお姫様なんだよな?」
「そうですが……一応、これでもレジディアの姫です。まぁ、ベルナデット様同様に神殿に預けられている身ですので姫というより神官に近い扱いではありましたが……」
ソラの問いかけに対して、セレスティアは自身の立場を語る。これは元々ソラ達も知っており、単なる再確認でしかなかった。というわけで、ソラの質問の意図が掴めず首を傾げる。
「ですがそれがなにか?」
「ああ、うん……いや、カイトを見てるとどうやっても内部の敵っているよなって」
「……ああ、そういう」
少し聞きづらい様子のソラで、セレスティアも彼が気にしている事を察したらしい。なるほど、と少しだけ険しい顔を浮かべていた。
貴族である以上背後の家の力はどうしても存在するし、存在しなければやっていけない世界だ。そうなると自身が望む望まざるに関わらず、否が応でも敵が出来てしまうのであった。というわけで、セレスティアも隠すものでもないとばかりにはっきりと明言する。
「居ますね、私にもそういう意味での敵は」
「やっぱりそうなのか」
「ええ……もちろん、直接的な行動に出る事は珍しいですが」
珍しいということはないではなかったのか。ソラはセレスティアの口ぶりと横のイミナの少しだけ険しい顔に、それを察する。というわけで彼女が少しだけ未来の事情を教えてくれた。
「どうしても、貴族で表舞台に立つ者はその背後に家がある事は珍しくありません。私も確かにレジディアの姫ではありますが……同時にレジディアの有名な家系の血も引いています」
「レジディアの有名な家系の血? 四騎士とか?」
「いえ……シンフォニア王家の落胤……ですかね」
「そういえばシンフォニア王家の血も引いてたんだっけ」
セレスティアの言葉で、ソラはシンフォニア王家の血を引いていた事を思い出す。これについては殆ど語られる事がなかったので彼もうっすら覚えていただけだったようだ。
「ええ。これから数百年先。一度シンフォニア王家は内乱に見舞われる事になります。その内乱を鎮圧されたのが、『廃城の賢者』と呼ばれたとある賢者を養父として育った当時のシンフォニア王です。彼は在野の数多の英雄を率いてシンフォニア王国を再興する事となり、王座に座る事となりました。ですが当然、彼が唯一の王族であったわけがありませんでした」
「その時にレジディア王国に逃げ延びたのが、セレスちゃんの遠いご先祖様ってわけか」
「そういうことです。そこでレジディア王家とシンフォニア王家が交わる事になり、レジディア王家にシンフォニア王家の血が取り込まれる事になる。それを色濃く引いたのが私、というわけです」
それで一番重要なカイト様の巫女として任ぜられたわけです。セレスティアはソラの問いかけに対してそう語る。とはいえ、だからこそと苦い顔を浮かべる。
「……在野の英雄達を率いた当時のシンフォニア王は当然、即位後はその者たちの多くを要職に登用しました。誰も彼もが間違いなく英雄と称えられるだけの偉大な方々。実際、ここで登用された方々により多くの分野で様々な改革が成し遂げられ、特に『廃城の賢者』様によって教育分野……学園都市は他の追随どころか統一王朝外からさえここには勝てないと言わしめており、レジディア王家さえ留学ではなく進学という形で教育を任せる事も珍しい事ではありません」
「そういえばセレスちゃんもそうだったよな。将来性が非常に高いのか」
「そうですね。謂わばカイト様の学園と一緒です。あれがそのまま向こうにもある、とお考えください」
実際そうとしか言いようがないし、なんだったらあれがそのまま独立して都市となったようなもの。セレスティアは『廃城の賢者』の正体を知ればこそ笑いながらそう語る。とはいえ、だからこそと彼女は語る。
「少し話が逸れましたね。ですがそうなると……」
「元々の貴族達は黙っていない、か」
「そういうことです」
自分達の権益が大きく食い荒らされるのだ。我が強い貴族だからこそ黙ってはいられなかっただろう。だが相手は民衆に非常に受けが良い英雄達。真正面から敵対すれば自分達が排除される格好の名分になることは明白だった。
「それで在野派と旧主派で政治的な闘争が開始……今に至っています」
「セレスちゃんはどっちなんだ? 一応シンフォニア王国の血も継いでるんだよな? それともレジディア王国だから無関係?」
「私は在野派です。意外かもしれませんが」
「確かに意外……話の流れ的に家としちゃ旧主派じゃないのか?」
元々がレジディア王国に逃げ延びたシンフォニア王家なのだ。繋がりとしては旧主派に強いだろうし、そちらが力を持ってくれたほうがレジディア王家としても有り難いだろう。というわけで驚きを露わにするソラに、セレスティアが苦笑いだ。
「そうですね。実際、私の実家……私の背後にある母方の実家は旧主派に近いです。ただ在野派にも繋がりがないわけではない、という非常に微妙な立ち位置でもあって……」
「あー……あまり言いにくいのだが私も在野派というか、マクダウェル家は在野派なのだ」
「そうなんっすか?」
「色々とあったらしいのだが、マクダウェル家も宗家は在野に下っていたらしい」
唐突に口を挟んだイミナの言葉に、ソラが目を丸くする。そうして彼が一応と確認する。
「でもマクダウェル家はシンフォニア王家において最古の騎士の一つとも言われる一族っすよね?」「そうだ。そのウチが放逐される事になったことも、シンフォニア王国が荒れてしまう原因の一つだった。だがその在野に下った一人を『廃城の賢者』様が当時のシンフォニア王の護衛兼剣術指南役として雇用されてな。戦後マクダウェル家は在野派として再びシンフォニア王家に取り立てられる事になった。今では騎士の家でもあるが、王家の剣術指南役という役目もある」
「なるほど……」
それでマクダウェル家が在野派になるわけか。マクダウェル家が旧主派ではなく在野派になる理由にソラは思わず納得する。というわけで諸々納得した彼に、セレスティアが告げた。
「で、ここからが面倒な所なのですが……実はその在野派の一人に、私のご先祖様もいらっしゃいます。直接的な血の繋がりはありませんが」
「へ?」
「あはは……これが厄介な性格だったそうで。放蕩息子ではなく放蕩娘とばかりに当時のシンフォニア王の軍に所属すると、そのままシンフォニア王家再興に際してあっさりレジディア王家から鞍替えしたそうです。元々嫡子というわけでもなかったので家としては問題なかったのですが……」
「うわぁ……」
出たよ、英雄にありがちな好き放題して回りを盛大に振り回す奴。ソラはその当時巻き込まれただろう周囲の気苦労を想像し、盛大に顔を顰める。とはいえ、彼女の好き放題はそれで留まらなかったらしい。彼女が乾いた笑いを浮かべた。
「しかも、どうやら王陛下と懇ろな仲でもあったそうで御子まで……あははは。流石に正室ではなかったのでお世継ぎではありませんでしたが……」
「えぇ!? ま、マジで……? いや、そんな英雄を率いた王様だったら英雄だろうし……だったらありえなくもない……のか……?」
「あははは……はぁ。まぁ、流石にレジディア王家としても再興したシンフォニア王家と険悪な関係になるわけにもいかず、ウチは在野派、旧主派両方に繋がりが、というわけですね」
「で、セレスちゃんは在野派、と」
「そうなります」
好き放題の結果、レジディア王国にも利益があるといえばあるのだ。レジディア王国としてもどうするべきか非常に悩ましい所だったようで、仕方がないのでもう好きにさせる事にして繋がりだけは保有しておくことにしたそうだ。というわけで警戒が必要になるまでの暫くの間、当時の逸話や伝説に花を咲かせる事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




