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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3546話 はるかな過去編 ――帰路――

 カイト達主導で行われている北の砦攻略作戦。その重要な要素を占める古代の飛空艇の復元に携わる事になったソラ達。そんな彼らは冒険者としての活動の傍ら時にテストパイロットとして、時に極秘裏に飛空艇の部品を運ぶ輸送隊の一員として活躍しながら、日々を過ごしていた。

 そうして八面六臂の大活躍といった塩梅に忙しなく動いていた彼らであったが、その結果所謂貴族派と呼ばれる貴族達からついに直接的に狙われる事になってしまう。

 というわけで万が一毒を盛られた場合に備えてカイトが融通してくれた解毒薬セットを受け取るべくマクダウェル家を訪れていたソラであるが、そこで開祖マクダウェルことリヒト・マクダウェルが魔界への門を閉じるのに使用したという<<雷鳴剣>>の真の力を呼び覚ますべくマクダウェル家の書庫に籠もっていたクロードと会う事になっていた。


「まずはソラ。本当にごめんなさい。驚かせて」

「ああ、良いって。あれで怒ってたら俺なんてウチのギルドホームに月何回あんな事してるんだ、って話になっちまうし」


 クロードの改めての謝罪に、ソラは笑いながら頭を振る。というわけでひとまずの謝罪が終わった所で、セレスティアが一つ問いかけた。


「クロード様。<<雷鳴剣>>を試されていたとの事ですが、実際の所どうなのですか? 閉じる事は出来そうなのですか?」

「そうだね……正直な所、多分出来るのだろうというのが僕と兄さんの所感……かな。ただ想像している感じじゃなさそうだ」


 ことん。クロードは自身がお守りとして保有していた<<雷鳴剣>>の小太刀を取り出して、机の上に置く。それはかつてカイトとレックスが俎上に載せていたものとは違い、確かな力が感じられた。それを見ながらクロードは話を続ける。


「あの戦いのおり、世界が呼んだ守護者達の一人に開祖様もいらっしゃった。そこで力を取り戻して下さったわけだけど……」

「「「……」」」


 結局のところ、あの戦いの中身は大半が誰しもの記憶から封じられている。なので未来から来たカイトの記憶はソラ達未来から来た者達を除いて誰も持っておらず、リヒト達の顕現は世界側がかつての彼らを再現したものだとされていた。

 とはいえ、そこらどういう認識にされたのかというのはソラ達にはわからない。なので下手に触れない方が良いと考えたのか、三人とも黙っていた。というわけでその沈黙をどう取ったのか、クロードが謝罪した。


「ああ、ごめん。とりあえずは力を取り戻してはいるんだけど、まだ全然使いこなせていなくてね。それでも流石は開祖様の剣というべきか……僕みたいに半端に使いこなしているだけでも次元を裂いてしまえるみたいだ……まぁ、見て貰ったほうが早いかな。少し下がって」


 論より証拠。クロードは小太刀を手にすると、立ち上がって三人から少し距離を取る。そうして彼はまるで力を入れず、ただ小太刀で撫でるように虚空を一薙ぎした。


「「「……は?」」」

「こんな塩梅でね。これを使いこなすのは少し骨が折れそうだ」


 ばちんっ。紫電が僅かに迸ったかと思えば、迸った紫電が空間を大きくえぐり取っていた。軽く振るっただけでこれだ。全力で使用すればどうなるか、というのはクロードにさえ想像出来なかった。


「正直な話としては、小太刀の方で良かったと思うよ。本命の大太刀の方がもし力を取り戻していたら、こんなものじゃ済まなかっただろうしね」

「これで本命じゃないの?」

「こっちはあくまで小太刀。予備の方だからね。だから僕もお守りとして持っていたんだけど」


 これは流石にもうお守りとして戦場に持って行くには危なすぎるから置いているけどね。クロードは再び小太刀を机に置いて、そう語る。ちなみに、そういうわけなので今はまた別のリヒトの遺品をお守りとして持っているらしい。


「そういうわけでね。多分、これだけの力があるのなら魔界の扉だか門だかを破壊するには十分過ぎるんじゃないかな」

「閉じるというよりも破壊……ですか」

「流石にあれを見たら……ね」


 仰々しいが、クロードとしても今のを見ては流石に扉の開閉のようなイメージはどうしても湧かなかったようだ。少しだけ困ったように苦笑いを浮かべていた。と、そんな彼にセレスティアが問いかける。


「そうだ。聖獣様は確か、この二振りをリヒト様とどなたかが使って閉じたと仰られていらっしゃいました。となると、なにか条件があるのでは? もしリヒト様一人で良いのなら、どなたかが小太刀を使われる事なぞなかったはず」

「そう、そこなんだ。今僕が調べているのは」


 どうやらセレスティアが得た疑問はクロード達もまた疑問に思っていた所だったらしい。最初はリヒトの力が足りなかったのかとも思ったわけだが、あの戦いでの正しく神にも匹敵する力を見ればそれはありえないと理解出来る。ならば別の理由で、リヒト一人では閉じられなかったのだと考えるしかなく、クロードは書庫に籠もって過去の資料を読み漁っていたというわけであった。


「多分、場所か儀式の条件か……魔界の門を閉ざすには何かしらの条件が必要なんだと思う。だから開祖様も一人では閉じられなかった。ただ困った事に魔界の門を見た事はなくてね。どういうものかわかれば、推測のしようもあるんだけど……」

「そうですか……」

「ごめんね。君達がいる間にわかれば、共有してあげたい所ではあるんだけど……これは多分、ウチの書庫にある情報だけじゃ無理な気がする……かな」


 まだ全てを調べきったわけじゃないから、もしかしたらあるかもしれないけれど。クロードは肩を落とすセレスティアに苦い顔で謝罪する。まぁここでもし簡単に見付かっているのならそもそも調べ直す必要もなかっただろう。と、そんな所に。ソラが首を傾げる。


「そういや、聖獣様とかグウィネスさんとかは?」

「聖獣様はその状況ではそうせざるを得なかった、今回もそうなるかは実際を見てみないとなんとも言えないとの事らしい。グウィネス様は……またどこに行ったのやら、という塩梅だ。あの方も本当に風のように自由にされているよ」


 気付いたらいなかった、とは大神官様の言葉だね。クロードは珍しく感情を露わにして兄を罵っていたスイレリアを思い出し、僅かに苦笑いを浮かべる。

 とはいえ、彼の方は彼の方で仲間もいる。そして彼は隠者にも近しい。好きに生きているというよりも、自分は過去の人物として表舞台に関わらないようにしている、と考えた方が良さそうだった。というわけで苦笑いを浮かべた彼であったが、気を取り直して頭を振る。


「……ああ、ごめん。まぁ、<<雷鳴剣>>の話はここらで良いか。とりあえず今は眼の前の話を片付けないとね」

「貴族派の動き、か」

「うん……流石にこの街の中は大丈夫だ。それは安心して貰って良い」


 流石にマクダウェル家のお膝元でマクダウェル家の協力者に手を出されては堪ったものではない。そしてもちろん、マクダウェルの騎士達がそれを許すはずもない。なので貴族派も流石にマクダウェル領では手出しは出来ず、カイトもそれを踏まえてマクダウェル領に行くように指示したのであった。というわけでこの街の中での安全を担保したクロードであるが、すぐに険しい顔に変わる。


「でも……うん。多分どこかに張っているとは思う。行きじゃなかった以上、帰り道に仕掛けてくる可能性は高いと思う。で、面倒なのは相手も国軍という事……かな」

「つまり巡回を装って仕掛けてくる可能性がある、って事か」

「そういうことだね。そうなると面倒だ」


 王国軍である事に間違いはなく、ただそれが本物の巡回かどうかはわからない。なので臨検を行う、と言われても正規の臨検の可能性は十分にあるのだ。

 だがそこで応じてもし偽物であったら、一巻の終わりだ。しかも同じ王国軍であるクロードらであれば突っぱねる事も出来るが、ソラ達にそれは難しい。逆にこれ幸いと指名手配さえ出来るだろう。


「僕らみたいに突っぱねられない以上、君等にとっての最善はそもそも遭遇しない事だ。だから正規の道は通るべきじゃないだろうね」

「ということは……冒険者達の通る道があるのか?」

「うん。僕も詳しくはないんだけど……兄さんは詳しくてね。地図はあるかい?」

「ああ」


 クロードの求めに応じて、ソラは持っている地図を机の上に広げる。それは冒険者達が持っているもので、王国軍が保有するものより遥かに精度は低いが街と街の間で迷わない程度には山や川などの自然の目印、宿場町などが書かれていた。旅をするには十分ではあるだろう。

 というわけで、そんな地図の丁度マクダウェル領と王都までの道のりの幾つかの場所に、クロードはカイトから渡されたメモを見ながら街道と街道を繋ぐように線を引く。


「ここから……ここ。それとここから……ここ。ここに冒険者達しか知らない道があるらしい」

「なるほど……確かにこりゃ巡回からは外れてそうだな。でも良いのか? こんな道放置してて」

「流石に兵士の数も有限だからね。全部が全部見回りが出来るわけじゃない。もちろん、完全に放置しているわけではないけど……ここまで巡回は無理だ。もしここを正規兵が巡回していると言っても、それは逆に疑うに足る理由になり得る。逃げたとしても、僕らの方から逆に突っ込んで問題にはさせない。それは相手だってわかっているだろうから、兵士は少なくとも配置しないはずだ」

「兵士は、か」


 とどのつまり冒険者や暗殺者など、金で動く使い捨ての駒はいる可能性があるということか。ソラはクロードの言葉をこちらもまた険しい顔で理解する。そしてそのつぶやきをクロードもまた認めた。


「そういうことだね……十分に注意して欲しい」

「おう……あ、でもそれなら帰りは徒歩しかないか?」

「そこらは兄さんが手を打ってるよ。ひとまずこの宿場町を目指してくれ。そこからは兄さんが手配してくれているから、それで大丈夫だ」

「わかった……諸々ありがとな」

「あはは。それはこっちのセリフだよ。ごめんね、協力してくれているのに」


 ソラの感謝に対して、クロードは一つ笑って頭を振る。そうしてその後は少しの間貴族派の動きについての情報共有を行って、翌日三人は教えられた裏道を通って密かにマクダウェル領を後にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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