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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3544話 はるかな過去編 ――裏で――

 北の砦攻略に向け、古代文明の飛空艇の復元を目指すカイト達と、それに協力する事になったソラ達。そんな一同はレジディア王国の僻地にて見付かった飛空艇の残骸をシンフォニア王国の王城地下に設けられた秘密研究所にて組み上げる作業を手伝う事になり、システムの改修への意見や部品輸送の極秘任務への協力など、数々の協力を行っていた。

 そうして北の砦攻略に向けて急ピッチで作業が進められる中、カイトは旧知の将軍から貴族派が輸送車の製造に必要な物資の入手へと妨害工作を図っている事を知ることになる。というわけで、カイトはソラ達に注意喚起を行う事になっていた。


「というわけだ」

「……本命ではあるんだろうが動きが大きくなってきそうではある状況……ってわけか」

「そういうことだな」


 ソラの理解に対して、カイトは大きく肩を竦める。そうして、彼はため息混じりに現状を共有する。


「まぁ、オレが頼みにしている将軍も将軍だ。王国軍が全体として持つ補給線とは別に独自の補給線……というか、コネクションか。コネクションは構築されている。だから王国軍の補給線に妨害が仕掛けられてもある程度は地力でなんとか出来る。だが、流石に一大作戦の肝を担う部分を賄い切れるもんじゃない」

「あくまで妨害を受けても生き延びられる程度、ってわけか」

「そういうことだ。それを利用してある程度は確保してくださっているわけだが、どうしても量の確保が出来ない」


 ソラの理解に応じつつ、カイトは再度ため息を吐く。当たり前の話だが、北の砦をカイト達騎士団だけで攻略出来るわけがない。最終的にはアルヴァ指揮の下全軍に号令が掛けられ、大規模な動員が行われる。そうなると必要になる輸送車の量もそれに見合った量になってしまい、どうしても足りなかったのだ。


「だからといっても足りないからそれで足りないままにしておくこともできん。別口で用立てるしかない」

「で、お前が動くってわけか」

「前線に後方支援にと大忙しだ」


 ソラの言葉にカイトは苦笑気味に笑う。とはいえ、それは即ち彼という抑止力が消えるという事でもある。色々と動きが見えて不思議のない状況ということだった。


「まず一番危険なのはお前らだな。テストパイロットを殺す事は趨勢には影響は与えないが、同時に妨害工作にはうってつけだ」

「ってことは……」

「まぁ、そういうことだな。冒険者の活動を控えるつもりはないんだろう?」

「お金は必要だからな」

「すまん」


 ここら完全に生活に問題ない程度を支払えるのなら良いのだろうが、流石にソラ達もそこまで面倒を見て貰う事は遠慮というか辞退した。彼らは帰ってからも冒険者として活動していかねばならないのだ。そうなると必然として腕を落とすわけにもいかず、冒険者としての活動も続けねばならなかった。というわけで、ソラがカイトの謝罪に首を振った。


「いいって。そもそもそれを望んだのは俺達の方だしな……まぁ、あの時はこんな事になるとは思ってなかったわけだけど」

「あははは……今更だが騎士団で召し抱えちまったほうが早かったかと思わなくもないな」

「やめてくれよ……お前らの戦場に突っ込まれて生きて帰れる自信マジでねぇわ……」


 これでもエネフィア上位層の冒険者だったんだけどなぁ。深い溜息を吐くソラはこちらに来てカイト達の戦績を聞けば聞くほど、自分と最低で同格。自分より格上の戦士が数千人規模で存在する現実に、改めて自分達の実力がまだまだ最上位層には程遠いのだと思い知らされる日々であった。そんな彼に、カイトは笑う。


「あはは……まぁ、笑い話はこの辺で。兎にも角にも外に出る時は気を付けろよ。連中、ガチ目の時はガチで仕掛けてくるからな」

「暗殺仕掛けられるって経験はマジでないんだけど……何を気をつけりゃ良いんだ?」

「食う寝るヤるの三つだな」

「基本中の基本か」


 人間というより全ての動物は三大欲求を発散している時が一番周囲への注意が疎かになるものだ。なので未来のカイトも基本中の基本と明言しており、性欲は別にしても警戒時の食欲と睡眠欲への対策は教え込んでいた。


「食う……に関しちゃ自分達で作ってるし、調味料とかも自前だったな?」

「飯関連は全部自分達でやれ、ってお前に言われてるからな……お前にだけど」

「未来の?」

「そ」


 カイトの指摘の通り、やはり暗殺やら妨害工作において食事への薬物の混入は基本中の基本だ。なので冒険部では料理は完全に自前だし、万が一の混入に対する対策も幾つも持っていた。そしてそれはこちらのカイトも聞いていた。


「ま、そりゃオレ達もそうだからなぁ……後は寝るとヤるの2つだが……よほどの冒険者じゃない限り外でヤるって奴はほぼないからこっちは良いか」

「だな……それでもヤりたきゃマジで厳重な場所をなんとか確保しろ、って話だっけ」

「おっさんと同じ事教えてんな、未来のオレ……」


 なんでよりによってあのおっさん(フェリクス)と似た感じになっちまってるんだ。カイトはソラから聞く未来の自分の助言に肩を落とす。


「あはは……まぁ、未来のお前曰く三大欲求は避けられん。避けようとして問題を起こすぐらいなら適度に処理出来るように、って話だそうだ。下世話な話だがな、って笑ってたけど」

「そこまで同じかよ……なんかつくづくあの親父が智将とか知将とか言われるのが良くわかるわ」

「そ、そうか……」


 ってことは俺もそうなっていかないといけないのだろうか。ソラはフェリクスの事や未来のカイトの事を思い出し、目指したい指揮官としての形をイメージしてみて僅かに顔を青ざめる。そんな彼を、カイトが訝しんだ。


「どうした、急に」

「い、いや……なんでも……まぁ、その2つはなんとか出来る。なんか聞いた話だと食事に関しちゃ下手すりゃ今のお前以上にやばい橋を渡ってるっぽかったから、そっちへの対策は十分に出来てると思う」

「マジで? オレ以上?」

「ああ……国に喧嘩を売って暗殺者を差し向けられた数はたくさん。救った村の人に裏切られて一杯盛られたとかも何回かあるとかなんとか」

「……は? え? ま……え? 盛られた? しかも……何回か? 複数?」


 それはいくらなんでもヤバ過ぎるだろう。カイトは未来の自分が経験したという内容を一瞬理解出来ず、思わず困惑を露わにする。


「らしい。これはお前から聞いた話じゃないんだけど……その昔は盗賊を見敵必殺で対処してたらしい。で、盗賊からの報復を恐れた村人がお前を売ったんだって。何回かはヤバかったって話だけど……まぁ、生きてるって事が全部の答えだ、ってな」

「……まさか」

「いや、村人は殺さなかったらしい。盗賊と内通してた奴は流石に殺してたけど、とは言ってたけど……あまりにやば過ぎて、お前の名前聞いただけで盗賊が裸足で逃げ出すレベルにはやば過ぎたらしい」

「はっ、そりゃ良い。盗賊に容赦までするほどのあまちゃんだったらどうしようかと思ったがな」


 裏切られても村人は傷付けず、逆に害悪となっていた盗賊は皆殺しだ。おそらく自分ならばそうしただろう事をやっていた事にカイトは上機嫌だった。とはいえ、彼は同時に未来の自分を憐れにも思ったようだ。ひとしきり笑った後、苦い顔を浮かべる。


「だが……そうか……そうだよな……はぁ」

「どうした?」

「いや、オレは今まで一度もそういう騙されたり、って事はされた事がなかった。背後には王国が……陛下の威光あった。シンフォニア王国がない時にさえ、レジディア王国が背後にあった。どこへ行っても最初からオレ達は救世主様扱いだ。一度目に至っちゃ殆ど荒れてなかったしな。だからオレが来た時点で民衆はみんな味方になってくれた」


 当たり前だ。自分達の庇護者が苦境に駆け付けてくれたのだ。それを疎む者なぞあり得るわけがない。よく思わないものでさえ、自分達の苦境にカイトが来たとなると泣いて喜んだ事さえある。

 それしか見て来ていないカイトにとって自分が救った民衆に売られるという経験はなく、恐怖を覚えるには十分過ぎたようだ。


「だが……そうか。このまま荒廃が続けば、いつかはそうなってしまうかもしれないのか。そりゃ、怖いな」

「……」


 ああ、おそらくこの男はやはり勇者なのだろう。民の心が荒む前に戦いを終わらせよう、と強い決意を滲ませるカイトの姿に、ソラはそう思う。と、そんなカイトだったが、少し恥ずかしげに気を取り直した。


「ああ、すまん。とりあえずそういう事なら多分、オレが教えるより多くの対策を知ってるだろう。それならそれなら下手に対策を教えるより、そうした方が良い。だが解毒剤なんかは流石に伝手がないとだめだろう」

「そっちは流石にな」

「だろうな……ってなわけで、これ。さっきの今で申し訳ないんだが、マクダウェル領まで行って貰えるか? 解毒薬を貰えるように手配している。色々と用意したから、症状とかから使い分けるようにしてくれ。道中の足も中に手配しておいたから、安全ではあるはずだ」


 カイトは懐から一通の紹介状を取り出すと、それをソラへと差し出す。これにソラは少しだけ驚きながらも、有り難く受け取った。


「良いのか? 薬なんて貴重品だろ?」

「構わん……それと受け取る時に暫く顔を見せられず申しわけありません、と伝えておいてくれ」

「お前の知り合いなのか?」

「身内だ。ウチは騎士の家系だからな。非戦闘員も多くが薬剤師やら医師やらが多いんだ。母上もそうだったろ? 戦えなくなってそっちに転向というのも珍しくない」

「そうか……わかった。恩に着るよ」

「逆だ。恩に着てるのはこっちだ。この程度はさせてくれ」


 感謝を滲ませるソラに、カイトは苦笑混じりに笑う。というわけでソラは予定を少しだけ切り替えて、マクダウェル領へ赴く部隊と王都に残留して冒険者として活動し資金を稼ぐ面子に分けて行動する事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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