第3542話 はるかな過去編 ――追加――
北の砦攻略に向け、古代文明の飛空艇の復元を目指すカイト達と、それに協力する事になったソラ達。そんな一同はレジディア王国の僻地にて見付かった飛空艇の残骸をシンフォニア王国の王城地下に設けられた秘密研究所にて組み上げる作業を手伝う事になり、システムの改修への意見や部品輸送の極秘任務への協力など、数々の協力を行っていた。
そんな中、アサツキに内密に話したいと呼ばれたソラは彼女から自分達が未来から来た存在である事を看破されると共に、自分達がカイトに戦後の主導権を握られる事を厭う勢力により狙われている事を知る。
その対抗策として飛空艇に代わる巨大魔導砲対策の自動で動く荷車の開発という偽情報を外へと流出させ、貴族派と呼ばれる者たちの動きを探る事になっていた。
そうして王都近郊の一角を封鎖させて意図的に外部での試験を行って数日後。ソラはここ暫くの日常で王都の地下へと足を運んでいた。
「え? じゃあ、これも作戦で使う事になったんですか?」
「はい」
驚いた様子のソラに、ノワールは少しだけ嬉しそうな様子で頷いた。どうやら単なる手慰みでしていたとはいえ、成果が出た事は嬉しいは嬉しいのだろう。というわけで彼女が数日前の偽装工作の後の話をしてくれた。
「結局ですが、あの輸送車を利用するのが良いと判断されました。北の砦の巨大魔導砲は確かに威力は高いですし命中精度は高いですが、それだけです。連射出来るわけでもなければ、命中率が高いと言っても百発百中ではありません。十分に避けられます」
「ということは、先の試験で避けきれる可能性が高まった……ということっすか?」
「いえ、そういう事ではありませんね。やっぱり最終的には命中させられるかと。何より地上ですので、巨大魔導砲以外の妨害も容易。懐に潜り込む前に貫かれるのが関の山かと……」
避けられるのはあくまでも条件付きでの事で、飛空艇ほどの可能性はないと思います。ノワールはソラへとそう語る。そんな彼女に、ソラは首を傾げた。
「それならどう使うんっすか?」
「囮です。あれは目立ちますから」
「囮? いや、まぁ……確かに目立つとは思うし、速度も速度なんで十分囮にはなると思いますけど……」
それでも命中する事がほぼ確実なのであれば、それは中の運転手は自殺行為にも等しいのではなかろうか。ソラはノワールの言葉を認めながらも、安全性の担保がされていない事に顔を顰める。とはいえ、それを理解していないノワール達ではなかった。
「あはは。もちろん危険だというのは理解しています。なのであれには誰も乗せません」
「へ?」
「以前仰られていた自動操縦。それに似たものを搭載して、ある程度砲撃を引き付ける事にしました。先程も話しましたけど、あの魔導砲は速射性は低い。もちろん、あの威力と射程距離で考えれば正直腹立たしいレベルの速射性は持っているんですが……」
あんなもの、こちらの技術で作ろうとすればおそらく一日一発が良い所なのに。ノワールは技術者だからこそ、自分達が劣っている所を見せつけられているように感じているようだ。少しだけ腹立たしげな様子だった。というわけで、そんな彼女の言葉にソラは頬を引き攣らせる。
「は、腹立たしいですか」
「本当に、正直な話ですけどね……まぁ、それは良いです。兎にも角にも問題なのはその速射性です。最大でどの程度の速射性を有するかはわかりませんが、少なくとも一度の戦闘で最大3射は確認されています。ならそれは見込んで、更に多く考える必要もあります」
「あ、そっか。飛空艇が受けられるのは確実なのは一発。もう一発はなんとか……三発目は……」
「そう。だめですね。ですが多分、三発で終わりとは思えません。間違いなくもう数発、撃てるはずです」
三発撃てる、というのは今までの戦闘で出された事実だ。だがこれは別に魔族側にスパイして手に入れた情報でもなければ、三発目で砲撃が止まる兆候が見られたなどというわけでもない。三発しか撃てない、と思い込むのは単なる希望的観測に過ぎなかった。というわけで彼女は続ける。
「更に言えば、その情報も数年前。かつてあったとある国が砦へ攻め込んで、というお話です。速射性に改良がされていれば一気に状況は悪化する……まぁ、それでも流石に毎秒とか毎分とかのレベルではないと思いますけど……ですが接近までの間に数発は撃たれると見て間違いないでしょう」
「……あの射程距離ですもんね」
なにせ先の『強欲の罪』との戦いでは数百キロはありそうな遠方から、『強欲の罪』の軍勢を狙撃したのだ。ソラとて飛空艇で接近するとて数分以上は掛かるだろうと判断。撃墜の可能性は十分にあり得ると考えざるを得なかった。
「はい……もちろん、あれは速射性を犠牲にして射程と威力を重視した結果あれだけの距離を撃てたと見做せもしますが……逆に言えば射程か威力を減らせば速射性は上がる可能性は高い。何より、飛空艇を撃墜するのに最大出力で撃つ意味はほぼないでしょうしね」
「そうですね……あの威力は明らかに過剰ですし……」
あんなものが本陣に直撃すれば一発で本陣は壊滅するだろう。あまりに過剰過ぎる魔導砲の威力を思い出し、あれはあくまで出力を重視した結果で本来そんな必要はないのだと思う。
「はい……そういうわけですので、囮は必須ではありました。今までそれは竜騎士達など人力で考えていたんですが……」
「え?」
「あはは……でもそれぐらいしかなかったですし、それぐらいはしないともうどうしようもなかった事も事実なんです」
「……」
正しく決死隊。ソラはそうせねばならないほど攻略に苦悩していたらしいノワール達の様子に返す言葉がなかった。というわけで彼の沈黙を見て、ノワールは首を振る。
「まぁ、それもあの輸送車で解決しましたので、万が一輸送車が即座に破壊された場合の第二案……という所です。それでもかなり危険性は下がったので、十分考慮に入れても良いかと考えています」
「そうですか」
「はい……というわけで、です」
「うん?」
何がというわけで、なのだろうか。ソラはノワールの言葉に首を傾げる。
「申し訳ないんですけど、自動操縦の改修にも手伝って貰えますか? もちろん、お給金は支払いますので」
「あ、うっす」
これは断れないパターンだな。ソラはノワールの笑顔での要請にそう理解する。笑顔ではあるが、同時に自分のストレス解消にもなっていたからか圧が凄かった。とはいえ、単に囮としてだけではなかったようだ。
「それに何より、あれは偽装工作にもなりますから。偽装工作の側面からも暫くは続けて欲しい、というのがお兄さんの言葉ですね」
「あ、そういえばカイトは?」
「お兄さんは今日はその件で出てますね。少し旧知の軍人さんに会いに行くのだとか」
「へー……」
やはり騎士団の団長ともなると色々と横の繋がりはあるのだろうし、貴族派があるとはいえ全ての軍が敵というわけではない。敵も多いが、味方も多かった。というわけでソラはやはりカイトの立場から味方が多い事を認識。それなら、と気合を入れなおす。
「わかりました。じゃあ、あいつのためにも頑張りまっす」
「お願いします」
気合を入れたソラに、ノワールもまた改めて輸送車を見る。どうやら今日はこちらの改修をメインに進める事になったようだ。というわけで、ソラ達はここから暫くの間、飛空艇と輸送車の2つの改修に携わる事になるのだった。




