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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3537話 はるかな過去編 ――試験飛行――

 後に『強欲の罪(グリード)』と呼ばれる強大な魔物となる触手の軍勢との戦いで呼び出された未来のカイトから、東の島国鬼桜国にて<<廻天>>という属性を操って別の属性を生み出すという力を学ぶ事になっていたソラと瞬。そんな彼らは数ヶ月の修行の末になんとか基礎を習得し、再びシンフォニア王国へ帰還。四騎士達へと<<廻天>>を伝授するわけであるが、そんなある日のこと。ノワールから王城の地下で研究されている古代文明の飛空艇の復元への協力を求められた瞬達は、飛空艇の改修に必要な部分への助言と飛翔機の輸送を手伝う事になる。

 というわけで瞬がおやっさんと共に飛翔機の輸送を終えて数週間。元々片側の飛翔機の復元が終わっていた事もあり、運び込まれた最後の飛翔機の修復は一ヶ月と掛からず終わりを迎える。

 そうして復元された飛翔機を飛空艇に組み込んで翌日。ついに本格的な試験飛行に乗り出す事になり、ソラと瞬の二人はそのテストパイロットを担う事になっていた。


「出力安定。オートバランサー問題なし」

「出力安定確認。オートバランサー問題なし確認」


 瞬の確認した部分をなぞるように、ソラがダブルチェックを行う。結局、飛空艇も飛行機も超速度で空を飛ぶ巨大な飛行物体である事に違いはない。もし万が一都市部に墜落してしまえば大災害だ。

 故にチェックは入念に行わねばならない、とエネフィアの飛空艇の教習所では操縦士が二人居る場合はダブルチェックを行う事を教え込まれていた。今回はシミュレーターではない初飛行。念には念を入れての対応だった。そうして一通りのチェック項目を確認して、瞬はソラに視線を送る。


「良し」

「うっす……むっちゃ久しぶりっすね、これ」

「そうだな」


 もう半年近く飛空艇に触れていなかったが、魔術の補佐もあるからか身体は覚えているものだな。瞬は久しぶりの作業であるにも関わらず、きちんと教わった通りに出来た事に僅かに笑う。というわけで笑い合う二人であったが、すぐに気を取り直す。


「ノワールさん。全項目のチェック、完了です。こちらの計器で観測されている限りで魔導炉に問題はありませんでしたが、そちらは?」

『こっちも問題ありませんね。十分飛行は可能なものかと……ただ、お話している通り十分にお気をつけを。まだオートバランサーやら諸々は完璧ではありませんから』

「わかっています。初飛行はあくまで直進だけ……ですね」

『はい。今回はあくまでも飛行出来るか、を焦点としてください。浮くぐらいなら誰でも出来るので問題ないですけど……飛ばす、となるとまた話は別ですから』

「はい」


 ノワールの改めての説明に瞬は一つ気を引き締める。そうして数度深呼吸を繰り返して、意を決して飛翔機の出力を上げていく。


「出力上昇中……上昇率安定しています」

『安定了解です……おねえさーん』

『聞こえてるわ……大丈夫。空間歪曲とかそういったヤバいのは起きてない。カイト』

『あいあい……瞬、ソラ。二人共、万が一墜落しそうになったら先に教えてくれ。オレが外から支える』

「わかった……昔ならどこの超人だと言いたい所だが」

「今なら俺らも出来ちまうのが怖い所っすね」


 何度目かであるが、この飛空艇が万が一墜落しようものなら北の砦攻略作戦は一巻の終わり。その時点で魔族との戦いの戦略も練り直しで、さらなる泥沼化を引き起こす事が予想されている。

 なので試験飛行での墜落からの大破という事態を避けるべく、カイトが万が一の場合は下から強引の支える事になっていた。人力という荒業というか正真正銘の力業だが、仕方がなかった。というわけで少しだけ肩の力を抜いて、更に出力を上げる。


「良し……出力上昇。浮力増大」

「浮力増大確認……高度計異常なし。出力、既定値到達」

「既定値到達了解……更に増加……垂直浮上ラインまで3……2……1……浮上」

「浮上確認。高度計正常に動作中……バランサー現時点で問題なし」

「垂直に浮いただけだからな……浮上までは確認出来ました」

『外からも確認しています……ここからですねー』


 瞬からの報告に、ノワールの声に少しだけ緊張が乗る。瞬の言う通り、ここまでは単に垂直に、しかも数メートル程度浮かすだけなので問題はまず起きない。

 だがここから先、実際に飛翔といえる状態になると、情報が一気になくなってしまう。ノワールからすれば未知の物体の試験だ。緊張があっても無理はなかった。


「そうですね……では、出力を一気に上げます」

『お願いします』

「ソラ、出力を60%程度まで増加させる。そこで安定した後は、出力系の計器の確認を頼めるか?」

「うっす」

「助かる」


 バランサーが正確に動作する保証がない事はソラも聞いている。なので瞬は操縦そのものに集中し、ソラが出力状態などの補助的な役割を担う事になっていた。というわけで、ソラの返答に瞬は再び出力を操作するレバーに手を伸ばして、出力を一気に最大値の60%程度まで上昇させる。


「っ……」

『何かありました?』

「いえ……揺れが思った以上ですね。全体的な問題はどうですか?」

『……まぁ、問題ないと言える状態ではあるかと』

「そ、そうですか」


 問題は起きているが、共有する程度ではないという事なのだろう。瞬はノワールの反応について、そう自らに言い聞かせる。そうして更に出力を増加した事により、飛空艇は一気に高度を上げて飛翔を開始する。


「高度、目標値に到達しました。そちらからは?」

『こちらからも到達を確認してます。揺れはまだ?』

「停止と同時に大きいのは収まっています。ただ微細な振動はありますね」

『そうですかー……うーん……やっぱりまだ調整が甘いかー』


 先ほどの問題と言えるほどではない問題はどうやら調整不足に起因するものだとノワールは考えていたようだ。とはいえ、調整不足なら瞬としても安心は安心だった。


「……どうしますか? 魔導炉やらも安定しているので、このまま飛行出来ますが……」

『お願いします。ただ出力はもう少し下げられますか? 私が考えている所が原因なら、それで揺れは少し軽減するはずです』

「わかりました。出力50まで下げます。それ以上下げると、万が一が起きた際の復帰が難しくなるので……」

『わかりました。それで構いません』


 瞬の提案をノワールが認め、それを受けて瞬は再び出力を制御するレバーに手を伸ばして今度は逆方向。下げる方向に動かす。すると、案の定出力が下がったからか揺れも若干だが軽減する。


「揺れの低減を確認……いけます」

『わかりました。こちらも準備をします』

「はい……ソラ。さっきの通り頼むぞ」

「了解」


 ソラの反応を聞きながら、瞬は飛空艇の操縦を開始する。といってもやるのは単なる直進で、複雑な操縦はせず直進しない場合等に備えて細やかな制動を行うだけだ。というわけで操縦桿を改めて握りしめて、ノワールの合図を待つ。


『お姉さん、じゃあ、お願いできますか?』

『とりあえず最初は無風。三分の一から追い風、残り三分の一からは逆風……で良いのよね』

『はい……瞬さんも、それで大丈夫ですね?』

「……大丈夫です」


 一番危険なのは逆風を受けた時だな。瞬は改めて頭の中で飛空艇の操縦を思い出し、追い風の時の注意事項。逆風の時の注意事項を確認。ノワールの問いかけにはっきりと頷いた。


『では、お願いします』

「はい」


 飛翔機の出力バランスを調整し、垂直浮上から直進への力を増大させる。すると飛空艇がゆっくりと速度を上げて、前へと進んでいく。


『おー……本当に飛んでら』

『こんなのを昔はいっぱい飛ばしてたって考えるとやっぱり想像出来ないわね』

『だなぁ……それを飛ばしまくってる未来のオレはなんなんだろ……』


 やっぱり勝てそうにないわ。カイトは飛空艇がゆっくりとだが確かに前進する様子を見ながらそう思う。そうして、無風状態、追い風、逆風と三つの工程を問題なく終わらせて、飛空艇はゆっくりと着陸態勢へと移行する。だがここで、瞬が顔を顰める。


「……あれ?」

『どうしました?』

「着陸用の脚が……動かない?」

『え?』


 それはマズいぞ。瞬からの報告に三つの工程を問題なく終わらせて安堵を浮かべていたノワールが顔を青ざめさせる。というわけで、彼女は大慌てで声を上げた。


『お、お兄さん!』

『あいよ!』


 もう着陸体勢に入っているのだ。幾ばくの猶予も残っておらず、カイトが超音速で移動する。そうして着陸までの数秒の間に、地面との間に彼が割り込んでその巨体を支えてみせる。


『……ふぅ』

「すまん」

『ごめんなさい……瞬さんも、ソラさんもごめんなさい……すぐに調整します』

「お、お願いします……」


 流石に着陸直前のこれには瞬も肝が冷えたようだ。ノワールの謝罪に一つ頷いて、ほっと胸を撫で下ろす。そうしてこの日の試験飛行は着陸が上手く行かなかった事により中止となり、再度調整を行うため数日間延期となるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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