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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3535話 はるかな過去編 ――任務完了――

 後に『強欲の罪(グリード)』と呼ばれる強大な魔物となる触手の軍勢との戦いで呼び出された未来のカイトから、東の島国鬼桜国にて<<廻天>>という属性を操って別の属性を生み出すという力を学ぶ事になっていたソラと瞬。そんな彼らは数ヶ月の修行の末になんとか基礎を習得し、再びシンフォニア王国へ帰還。四騎士達へと<<廻天>>を伝授するわけであるが、そんなある日のこと。ノワールから王城の地下で研究されている古代文明の飛空艇の復元への協力を求められた瞬達は、飛空艇の改修に必要な部分への助言と飛翔機の輸送を手伝う事になる。

 というわけでソラ達が飛空艇の改修に手伝う事になった一方、瞬はおやっさんの要請を受けて飛翔機の輸送任務の補佐を行う事にすると、貴族達にバレない様に主要な街道を迂回しつつも冒険者ゆえに許される近道を多用して王都を目指して竜車を走らせていた。

 そうしてレジディア王国の国境にてレジディア王国側の冒険者達から密かに飛翔機を受け取った輸送隊であるが、一週間ほど掛けて今回の輸送任務へ協力してくれる数少ない貴族の領地へとたどり着いていた。だが、その道中はやはり楽なものではなかったようだ。


「ちっ! 後少しだってのに! よりにもよって面倒な奴らに見付かっちまった!」

「知ってるんですか!?」

「ああ! ここら一帯で悪さしてる盗賊共だ! 何がどう面倒か、ってのは見りゃわかるだろうがな!」

「いや、全くですね!」


 土煙を上げて爆走する竜車の上で、瞬がおやっさんの言葉に半ば苦笑気味に同意する。そんな彼らの後ろでは、何匹もの地竜がこちらもまた土煙を上げながら輸送隊の竜車を追走していた。そうして輸送隊の最後尾で弓矢を射掛けていた冒険者が、声を上げた。


「おやっさん! だめだ! 奴らの方が速い!」

「ちっ! こっちでなにか考える! そのままお前らは射掛け続けろ!」

「「「おう!」」」


 おやっさんの号令に竜車の上から矢を射掛けていた冒険者達が気勢を上げて更に無数の矢を降らせる。だがやはりこの時代だ。盗賊達の腕も侮れない場合があり、遠巻きに射掛ける程度では牽制にしかならなかった上、地竜を足として利用しているため中々引き離せないでいた。そうしてなんとか追い付かれない様に牽制を続ける最後尾を見ながら、おやっさんが一つ舌打ちする。


「ちっ……後少しだってのに……」

「そろそろ王国軍と合流しても不思議はない時間なんですよね」

「ああ……朝一出た奴が無事合流出来てりゃ、だがな……数少ない協力者……まぁ、早い話グレイスの関係者だ。そこと合流出来れば、後は早かったんだがなぁ……」


 瞬の問いかけにおやっさんが苦々しい様子で顔を顰める。この一週間ほどの間も何度か王国側が支援者を出して道中の補給や巡回の兵士達の巡回状況等を教えてくれていたのだが、ここで合流する相手と合流出来れば飛竜に飛翔機を積み替えて一気に王都を目指せるはずだった。だがその直前に盗賊達に見付かって、追撃を受ける事になってしまったのであった。


「ということはここはグレイスさん……スカーレット家の領地……飛び地? なんですか?」

「いや、スカーレット家じゃない。だが縁戚関係ではあってな。地竜や飛竜達の調教を生業とする優秀な調教師を多く排出する家で、王家にも竜を献上してる由緒正しい名家だ。まぁ、だから野良の地竜や飛竜も多い」


 それで盗賊まで地竜を使うのか。瞬はおやっさんの言葉からそれを理解して顔を顰める。というわけで、色々と悩ましげなおやっさんへと、瞬は意を決して問いかける。


「おやっさん」

「ん?」

「後で回収を頼めますか?」

「……それしかねぇか。すまねぇな、色々」

「大丈夫ですよ。それに速さなら地竜以上と自負してますし」


 おやっさんの声を後ろに聞きながら、瞬が荷車の縁に足を乗せる。遠巻きに射掛けるだけでは追い付かれるのは間違いない。ならば、誰かが残って足止めをせねばならなかった。というわけでぐっと足を踏みしめて力を蓄積する瞬を横目に、おやっさんが声を上げる。


「おめぇら! 瞬には当てるなよ!」

「おやっさん!?」

「大丈夫なのか!?」

「なんとかしてみせます!」

「わかった! 少しで良い! 距離を稼がせてくれ! 取り零しはこっちでなんとかする!」

「了解!」


 最後尾の竜車で弓兵達の指揮を行っていた冒険者の指示に瞬が声を上げる。というわけで彼の指示を受けて、瞬は勢い良く竜車から飛び出して宙を舞う。


「おぉおおおお!」

「「「っ!」」」


 空中で雄叫びを上げながら最前列を進む地竜に乗る盗賊の一人へと猛烈な勢いで襲い掛かる瞬に、盗賊達が思わず目を見開く。こんな事をすれば普通に置いていかれるし、場合によっては一人なぶり殺しに遭いかねない。まともに考えればそんな事をするべきではなかった。

 そうして盗賊達が驚きに包まれる間にも瞬は盗賊達へと距離を詰めて、最前列を進んでいた盗賊の胸へと槍を叩き込む。


「はぁ!」

「ぐげぇ!」


 流石に虚を突かれたとはいえ、瞬と盗賊達の距離はかなりあった。元々矢を切り払っていた事も相まって、防御は間に合ったようだ。とはいえ流石に実力差もあり、地竜からは落下。何度もバウンドしながら、遠ざかっていった。


「っと」


 盗賊の一人を地面に突き落とし、瞬は盗賊が乗っていた地竜の上へと着地する。そんな彼に地竜が暴れようとするも、その前に。瞬は天高く右手を突き出して、無数の槍を生じさせる。


「はぁ!」

「「「!?」」」


 手を振り下ろすと共に、無数の槍が雨あられと降り注ぐ。とはいえ、速度も速度だ。流石に正確に盗賊達に命中させる事は難しかったし、強度より数を優先している。盗賊達の大半も槍を切り払い、直撃は防いでいた。だが、それが出来るのは乗り手の盗賊達だけだ。地竜達は眼前に降り注ぐ無数の槍に思わず足をもつれさせ、盗賊達を振り落とす。


「ぐぅ!」

「がっは!」

「ちぃいいい!」

「落ち着け!」

「よし」


 ひとまずこれで足止めは成功だ。瞬は自分が最初に叩き落とした盗賊以外の最前列を進んでいた地竜達が軒並み速度を緩め、それを受けた後続の盗賊達も転倒を防ぐべく速度を緩めた事を受けて満足げに頷く。そうして彼は自身が足場にしていた地竜の背から宙へと飛び出して、地面へと着地する。


「ふぅ……」


 足止めとしては、これで完了だ。まだ遠くに輸送隊の背は見えているし、後続の盗賊達の多くは先頭の盗賊達が転倒したのを見て大きく迂回。遅れた分を取り戻す様に速度を上げて輸送隊を追い掛けるが、その前に輸送隊の最後尾に居た弓兵達が対策を終えている。放置で問題はなかった。というわけで瞬が考えるべきなのは、自分によって邪魔され殺気立つ盗賊達の対処だった。


「てめぇ!」

「ぶっ殺す!」

「……」


 やいのやいのうるさいが、そんな罵詈雑言を聞く必要はない。相手は盗賊。重要な情報を持っているわけもないし、それどころか討伐すれば報奨金が出るような相手だ。

 大半の言葉は聞くに耐えない罵詈雑言で、気にする必要さえなかった。というわけで瞬は意識から盗賊達の罵詈雑言を除外して、その一挙手一投足を見極める。


(……問題ないな)


 地竜を使う盗賊なのだからどの程度のものかと思ったが。瞬はあくまで地竜を使った足の速さと地竜の火力の高さが問題なだけで、別に盗賊達自体はそこまで強くはない――もちろん彼基準で一般人からすれば十分に脅威だが――と理解する。というわけで思わず浮かんだ嘲りの滲んだ笑みに、盗賊達が更にいきり立つ。


「……おい」

「殺せぇ!」

「死ねや!」


 直線的で直情的な動きだ。雷を利用して動体視力を上げた瞬は、その一挙手一投足を観察。十分に避けきれるものと判断すると、十数人からの包囲網から一瞬にして抜け出した。


「「「!?」」」


 言うまでもないが、格上の相手でさえ油断していれば見失う可能性さえある瞬の<<雷炎武(らいえんぶ)>>だ。盗賊達では到底見切る事なぞ出来るわけがなく、一瞬にして消えた様にしか映らなかっただろう。


「おぉおおお! はぁ!」


 雄叫びと共に瞬の腕に宿った炎が勢いを増して、驚愕に包まれる盗賊達の一角をまるで押し出す様に数人纏めて槍の柄で打ち据えて、そのまま裂帛の気合と共に振り抜く。

 そうして猛烈な勢いで彼方の地面を何度もバウンドしながら、何人かの盗賊達が遥か彼方へと吹き飛んでいくのを彼は見る。死んだかどうかは定かではないが、間違いなく戦闘不能である事は間違いないだろう。そう判断し、彼は盗賊たちの反応を確認する。


「っ!」

「速い!?」

「雷!?」

「……」


 なるほど。どうやらマクダウェルの騎士と勘違いされた可能性がありそうだな。瞬は自身が纏う雷がそんな勘違いを生じさせたらしい事を理解する。そうして警戒と困惑、恐怖など様々な感情を滲ませる盗賊達に対して、瞬は立て直すより前に終わらせる事を選択する。


「はぁ!」

「うおっ!?」

「なんだ!?」

「立って……られない!?」


 瞬がしたのは<<震脚(しんきゃく)>>という地面を踏み抜く事で揺れを引き起こし、周囲の敵の動きを阻害する技だ。とはいえ、こんな物が通用しない相手はこの世界にもエネフィアにも履いて捨てるほどいる。通用している時点でその程度というわけで、故に彼は盗賊達が揺れに耐えきれず倒れた所へと、容赦なく襲撃を叩き込んでこちらもまた彼方へと吹き飛ばした。


「「!?」」

「遅い!」


 自分の横に居た仲間が蹴り飛ばされたのだ。左右の盗賊達は大いに驚き、慌てて剣を構えようとするも瞬の言う通り遅すぎる。剣を構えようとした時にはすでに、瞬の槍が二人の身体を打ち据えていた。そうしてゴキゴキという嫌な音を耳に。返ってくる手の感触で瞬は盗賊達が間違いなく戦闘不能に陥っている事を理解。すぐに次の敵に取り掛かる。


「……」


 多数を一人で相手にする時に重要なのは、一人ひとり確実に数を減らすこと。その相手の選定は最も浮足立っている敵から潰すこと。瞬はかつてカイトから教えてもらった事を反芻しながら、一人一人盗賊達を潰していく。

 まぁ、元々力量差は圧倒的だ。更に周囲に誰もいなかった事もあり、手加減の必要もなかった。そうして数分後。彼の周囲には最初に相対した時の半分ほどの盗賊達が倒れ伏していた。半数程度なのは、単純に彼が吹き飛ばしてどこかへ飛んでいってしまっているからであった。


「……ふぅ」


 これで間違いなく全部だな。瞬は自分が倒した感触を数えて、敵の数と合致する事を理解。一つ安堵を滲ませる。そうして警戒を解くとほぼ同時に、拍手が鳴り響いた。


「ん?」

「まぁ、見れる程度にはなったわね」

「ライムさん……どうされたんですか?」

「どうしたもこうしたもないわ。あなたが一人残って戦っていると聞いたから助けに来てあげたのよ」


 全く無駄だったみたいだけど。瞬の問いかけにライムはやれやれと言った塩梅で肩を竦める。どうやら合流する予定だった増援の一人に彼女が密かに混じっていたそうで、瞬の状況なども相まって万が一魔族の差し金で捕らえられても困るから、と出てきたらしかった。というわけで、瞬は迎えに来た彼女と共におやっさん達と合流。飛竜に乗り換えて、王都へと戻るのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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