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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3526話 はるかな過去編 ――追撃――

 後に『強欲の罪(グリード)』となる触手の軍勢との戦いも終わり、暫く。海を隔てた鬼と龍が治める鬼桜国へと足を踏み入れたソラと瞬はそこで鬼の王にして稀代の女傑でもある希桜から<<廻天>>と呼ばれる他の属性を利用して別の属性を生じさせる技法を学んでいた。

 そうして数ヶ月の修練の末、なんとか基礎程度は習得したと言える二人であったが、そんな所に訪れたのは各国を歴訪の傍ら精神面の問題によって出力の制御が正常に出来なくなってしまったカイトであった。

 そんな彼と共に邪眼兵というかつての破壊神の信奉者達が立て籠もる砦の攻略に赴いたという流桜の助力に乗り出したソラ達であるが、砦の攻略戦の後。

 妙に鮮やかな撤収を果たした神使がまだなにかを狙っていると判断し流桜を一足先に首都へと戻すことになっていたはずが、破壊神の魔術を使った幻術により罠に嵌められることになってしまっていた。というわけで、彼らはカイトが神使と戦う間、二人だけで四人の精兵を相手にすることになっていた。


「やっとこさ俺も出番っすねー」

「なんだ。妙にやる気だな」

「いや、なんか今回前線で防御してただけっすから。しかも防ぐのも<<廻天>>で楽に終わったっていう」


 今にして思えば火球で爆発を起こしていたのは戦略の内だったのかもしれない。ソラは神使が砦からの砲撃で魔法陣を描いていたことに対してそう思う。まぁ、そのおかげで彼は火で風の魔力を生み出して消費を非常に少なく出来ており、その後の休憩を含めれば殆ど戦っていないも同然の状態だった。


「ってなわけで、ちょいと力有り余ってるんっすよね」

「そうか……だが勇んでなんとかなりそうな相手でもなさそうだぞ」

「ま……そっすね」


 おそらく流桜様を捕まえるなり殺すなりのために神使が他の邪神兵達とは別にわざわざ連れてきたのだ。腕は神使ほどとは言えずとも、十分に厄介と言える領域なのだろう。ソラは戦略的な観点からそう理解していた。というわけで獰猛に笑いながらも、内心では昂りを飼いならす。


『ソラ……光を溜められるな』

「わーってる……異世界で戦うってこんな厄介だったんだな」

『異世界だろうと関係なく使えるというあの方がおかしいだけだ』

「あいつがおかしくない時があったのか?」

『なんとも言えんな』


 <<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>はソラの指摘に思わず吹き出した。<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>はこちらの世界では下手に未来のカイトだとわかる言及しない方が良いと判断していた。なので彼の事を指し示す場合はあの方や神使殿と言い表す様にしたらしい。

 というわけで地球だろうと平然と死神の鎌を振るっていたというカイトにソラは別世界に来たからこそ、改めて彼のぶっ飛んだ力に驚愕半分、納得半分という塩梅であった。


「ふぅ……」

「やるのか、ソラ?」

「っすね。多分甘く見てなんとか出来る相手じゃないでしょうし」

「そうか……なら序盤はフォローする」

「すんません」


 異世界では<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>の力を解き放てない。それ故に取り付けられた『太陽石』なのだがそれでもまだ<<太陽の威光(ソル)>>を使うには些か心許ない。

 本来あれは神の力を借り受けて使うブーストだ。神の力の代用として太陽の力を使うが、十分な効果が得られるわけがないのは当然だろう。というわけで十全に力を行使するためにソラが考えたのが、<<廻天>>の応用であった。


「「「……」」」


 流桜を抱えたカイトと邪眼兵の神使が遠くで戦うのを横目に、六人の戦士達の間に一瞬の沈黙が訪れる。相対戦力比は一対二。ソラ達に不利。だが隠し持つ力ならば、神使に片足を突っ込んだソラと鬼神の子の転生体たる瞬が負ける道理はないだろう。というわけで一瞬の沈黙の後、邪眼兵の一人が二人に向けて突っ込んだ。


「ちぃや!」


 得物はナイフ、いや、短剣か。瞬はナイフほどは小さくもなく、さりとて刀ほど長くもない肉厚な刃を見て接近戦を仕掛けてくる邪眼兵に対してそう判断する。その速度は中々のもので、先程交戦した邪眼兵と同等かそれ以上の速度だった。だが同等かそれ以上程度であるのなら、ソラが下回る道理はない。


「はぁ!」

「っ!」


 雷を纏い一瞬で切り払われる短剣を回避して、まるで返礼とばかりに瞬が横一文字に薙ぎ払う。その一撃はしかし、邪眼兵が逆の手に取り出した短剣で防がれる。そうして、一瞬。瞬は邪眼兵の口角が上がったのを見た。


「死ね」


 左の手で瞬の槍を防いだ邪眼兵は、そのまま空いた右手の短剣を再度振るい、まるで突き立てる様に瞬の頭を狙う。しかし一方の瞬もまた左手を空けて短槍を編み出していた。そうしてまるで押し出すような格好で、短槍をがら空きの胴体へと叩き込む。


「!? ぐっ!」

「っ」


 仕留め損なった。瞬は打撃が完璧に叩き込まれるよりも前になにかの力で邪眼兵が引き剥がされた事を理解する。だがその力がなにかを理解するより前に、今度は大斧を持った大柄な邪眼兵が現れる。


「ぬぉおおおおお!」

「「っ」」


 また図体に見合った大音声を。ソラも瞬も大振りに振り上げる大斧と共に放たれる巨大な雄叫びに思わず顔を顰める。とはいえ、放たれる一撃の力は十分にそれに見合ったものだ。故に二人が虚空を蹴って、大斧が振り下ろされる範囲から離れる。


「っ」


 離れると同時に来るか。瞬は二人が別々になるとともに自身に襲い掛かる第三の邪眼兵に内心で舌打ちする。とはいえ、単に飛び退いただけだ。故に彼は自身の雷のセンサーの中に敵が入り込んだと同時に、半ば無意識的に槍で切り払う。


「ふっ」

「む!」


 何が起きたかは定かではないが、自身の攻撃に反応してきたのだ。第三の邪眼兵は攻撃を放とうとしていた手を止めて、瞬の槍をその手に嵌めた鉄甲で受け止める。


「ふっ、はっ! ぬぅ!?」


 左手で槍の薙ぎ払いを受け止めて、右手で槍の柄をへし折ろうとしたのだろう。掌底を叩き込んで槍の柄が砕け散ったと共に消滅したのを見て、第三の邪眼兵が驚きを浮かべる。


「はぁ!」

「ちっ!」


 どんっ、という鈍い音と共に瞬の蹴撃が第三の邪眼兵へと叩き込まれる。しかし流石に体術であれば第三の邪眼兵側に分があったようだ。少し無理な動きではあったし衝撃で大きく吹き飛んではいたものの、右肘と右膝を付けた独特な構えで防がれる。

 そうして第三の邪眼兵を吹き飛ばして最後の邪眼兵を確認しようとしたが、その第四の邪眼兵へとすでにソラが肉薄しつつあった。


「ちぃ!」


 どうやら第四の邪眼兵は所謂魔術師だったらしい。50センチほどの短めの杖を振るってソラへと火炎弾を投射する。


「っ」


 ソラは放たれた火炎弾を盾で薙ぎ払って無力化する。そうして薙ぎ払って更に<<廻天>>を利用してその力の幾らかを自らの鎧に嵌められた『太陽石』へと融通する。とはいえ、流石にそのまま突破出来るほど相手も甘くはなかった。


「っ」

「ちっ」


 来たか。ソラは今度は自らの眼前に立つ第一の邪眼兵――先の短剣使い――を見て、流石にこれ以上の無策な進撃は無理と理解する。そうして放たれる剣戟を、ソラは盾でガードする。


『ソラ』

「おう」


 肉薄直後の初撃は単なるブラフ。<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>の言葉にソラが短く応ずる。そうして放たれる第二撃に、ソラは<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>を合わせた。


「ふっ!」


 第二撃もまた防がれることは相手が熟達になればなるほど珍しいものではない。この第一の邪眼兵はそれを理解していたのだろう。<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>により弾かれた自身の短剣を引くと、即座に先に盾で防がれた短剣を高速で操って鎧の隙間を狙って刺突を繰り出す。


「っと、あめぇんだよ!」


 鎧通しのつもりだろうが、その程度の速度でやられるほど甘くもない。ソラは自身の鎧の隙間を狙って放たれる刺突に対して、鎧の機能の一つを使用して隙間の間に薄い魔力の防護膜を展開する。


「!?」


 がんっ。自らの短剣での刺突を防がれて、第一の邪眼兵は僅かに驚いたような顔を浮かべる。そしてその驚きを見過ごすソラでもなかった。


「おらっ!」


 自らの右腕の肘関節を狙って放たれた刺突を魔力による防護膜で食い止めながら、ソラは左手で盾へと魔力を通す。そうして次の瞬間。盾の前面から魔力の光条が放たれて、大きく暗殺者の一人が吹き飛ばされる。


「……」


 流石にこれでやれるほど甘くはないよな。ソラは一時的ながらも敵を遠ざけられ体勢の準備が整えられると判断する。そうして体勢を整えた彼はすぐに、視線を外された第四の魔道士を追い掛ける。


「おぉ!」


 僅かな雄叫びと共に、ソラが虚空を蹴る。その光景を横目に、瞬はソラなら心配無用だったかと内心で苦笑した。


「……まぁ、それはそれか。とりあえずやるか」


 現状この五人組を倒さねばどうにもならないのだ。というわけでソラと瞬はそれぞれ、意図したわけではないものの二手に分かれて交戦を開始する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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