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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3523話 はるかな過去編 ――攻略――

 後に『強欲の罪(グリード)』となる触手の軍勢との戦いも終わり、暫く。海を隔てた鬼と龍が治める鬼桜国へと足を踏み入れたソラと瞬はそこで鬼の王にして稀代の女傑でもある希桜から<<廻天>>と呼ばれる他の属性を利用して別の属性を生じさせる技法を学んでいた。

 そんなある日のこと。湯治にやって来たカイトの来訪をきっかけとして彼と共に温泉街へと足を伸ばしたソラと瞬であったが、そこで流桜が率いる軍が邪眼兵というかつての破壊神を信奉する者たちにより苦戦させられていることを知る。

 そうしてその助力に赴いた三人であったが、カイトとソラを囮として瞬が砦の近くまで肉薄することに成功。カイトに砦の防衛力を割いたことでついに現れた邪眼兵を打倒した瞬は、そのまま砦近くまで進撃していた。


「ふっ!」


 流石に砦の防壁の一部は打ち砕かれていたし、いくらなんでも瞬を警戒してこの世界最強戦力の一角たるカイトを疎かにするなぞ出来るわけがない。なので瞬の側は崩れた防壁はもはや無意味とばかりに兵力が集まっており、無数の矢や魔術が放たれて人海戦術による足止めを行っていた。


「……」


 流石にこれ以上の進軍はかなり厳しくなってきたかもしれない。瞬はここが抜かれれば終わりと理解しているからこそ必死さが垣間見える邪眼兵達の抵抗にそう思う。

 一歩進むごとに攻撃の熾烈さは増しており、一撃一撃は先程の三つ目族の邪眼兵ほどではないものの数の多さから十分に脅威で瞬も迂闊には近寄ることはできそうになかった。

 とはいえ、かなり苦戦を強いられているはずの彼の顔には特別焦りも苦みもなく、ただここまでかと思っているだけの様子だった。というわけで、彼はこれ以上は駄目かと判断する。


「……駄目か。カイト、これ以上は進めそうにない」

『そうか……状況は?』

「予定よりは、という所だろう」


 瞬に焦りがないのは当然だった。なにせこれは最初から決まっていたことで、逆に少し成果が出すぎたかと逆に内心少し不安だったほどである。というわけで、瞬の報告を受けたカイト側で一気に動きが起きる。


「なんだ!?」

「逆側!?」

「西の勇者か!」


 そもそも逆側をカイトが攻めていたことは邪眼兵達もわかっている。だが自分達が奉ずる神使であればなんとかしてくれるかもしれない、と信じていた部分があったようだ。攻撃の激化により彼の行軍がかなり遅くなったことも大きいだろう。しかしそんな甘い期待を打ち砕いて進むのが、人類最強の勇者なのである。


「どっせい!」


 がぁんっ、という轟音が鳴り響いて砦の防壁の一部があっけなく砕け散る。大剣の腹で防壁を叩き割ったのだ。そうして防壁を叩き割った彼は再度大剣を振りかぶって、まるでハンマーの様に更に奥にあった第二第三の防壁へと大剣を叩きつける。


「おらよ!」

『あの、マスター……ハンマーじゃないのですが……』

「あ、悪い……でもお前らでやると山というか砦というか真っ二つになっちまうからなぁ。かといって拳で、となると……オレ拳苦手だからなぁ……」

『まぁ……そうなのですが……』


 多分マスターだと山が消し飛ぶでしょうね。そうは思いつつも、さりとて自分の腹で叩き割られるのは大剣とはいえ剣である以上なにか釈然としないものがあるようだ。

 大剣の精霊はカイトの言葉に道理を見るが故になんとも言えない様子であった。とはいえ、逆もまた然り。カイトもまた大剣の不満を理解するが故に、どうするか悩んだようだ。


「……まぁ、一発ぐらいなら」

『やめてください。すぐに騎兵隊がそちらに回りますから』

「了解です」


 狐月の言葉にカイトは笑いながらここまでで十分かと判断する。たった二発。たった二発で彼の側に構築されていた砦の防壁は全壊しており、次の一発は内側の砦の本丸へとダメージを与えられるものだっただろう。

 ただ問題はカイトが一番苦手とする拳での一撃となると砦の本丸は中の邪眼兵ごと消し飛ぶ可能性があった、という所だろう。邪眼兵から情報が欲しい鬼桜国側としてはカイトの助力は有り難いが、些か承諾しかねる所であった。というわけで砦の防壁をたった二発で全て打ち砕いた彼に変わって、鬼桜軍の隊列に潜んでいた竜騎兵達が一気に突撃する。


「「「おぉおおおお!」」」


 防壁が崩れたことにより、一部の魔力の流路もまた壊れてしまっていたようだ。砦から放たれていた多くの攻撃はカイトが配置された方面ではすでに勢いをなくしており、突撃してもさしたる被害をもたらさない程度でしかなかった。

 というわけでカイトと入れ替わりに砦に取り付いた兵士達を見届けて、カイトはその場を後にして本陣へと帰陣する。そんな彼を出迎えたのは、流桜であった。


兄様(あにさま)!」

「おう。ま、オレ一人でも十分だったが……助っ人の分際で本気でやるってのも筋が通らん話だしな」

「それでも流石です。たった数多兵たちが苦戦した砦を二発とは」

「それは瞬が兵力を引き付けてくれたから、ってのもあるな」

「瞬も見事でした」

「ありがとうございます」


 流桜のねぎらいに、こちらも戻ってきていた瞬が頭を下げる。カイトの言う通り、最初から彼一人でやっても砦は普通に落とせた。ではそれをしなかった理由はなにかと問われると、彼が一人でやった場合砦は跡形も残らないからだ。

 なぜか。考えるまでもなく彼一人で突き進めば全戦力が彼に集中するわけで、そこにカイトが一撃を叩き込むのだ。砦が無事で済むわけがない。生き残る可能性があるのは最奥に居るだろう神使ぐらいなもので、その神使とて魔術師であれば生きていられるかどうかは微妙な所であった。


「で、ソラは……もうちょい頑張らないと駄目かね」

「だろうな。まだ攻撃は終わっていない……いや、もしここで全方位から攻められれば砦は終わりだ」

「この状況じゃ終わりも同然だがな」


 瞬の言葉にカイトは笑いながら首を振る。すでに彼が攻防共に打ち砕いた部分から竜騎兵が突っ込んで荒らし回っており、砦から放たれていた火球等の魔術の勢いはソラが守る本陣側からさえ失われていた。砦そのものが力を失いつつある証拠だった。

 とはいえ流石にこれ以上攻め込まれればもはや後がないことは邪眼兵達もわかっているようで、鬼桜軍の接近を少しでも遅らせるべく本陣側へは攻撃の手を緩めていなかった。


「……ま、後は任せるわ」

「かしこまりました。流桜様。総攻撃の指示を」

「わかりました。出ます」

「お供いたします」


 流桜の言葉に、狐月が一つ頭を下げて横に従う。そうして彼女が出たと共に銅鑼が打ち鳴らされ、全軍が鬨の声を上げて一斉に攻めかかった。多少の損害はどこかで折り合わせねばならないのだ。

 ならば浮足立ち再起の見込みが潰えつつある今しかなかった。というわけで流桜が全軍に総攻撃の指令を出して戻って来る。彼女の役目はお飾りでしかないし、彼女自身それはわかっていた。なので狐月もこれ以上を望んではいなかった。


「良し、これで終わったかな」

「ありがとうございました」

「おう……ん?」

「「「……え?」」」


 完全に無意識的な行動だったのだろう。流桜の感謝に笑って気にするなと態度で告げるカイトが、流れ弾として飛来した矢をまるで火花でも払うかのような無遠慮さで振り払う。だがそうして起きた光景に、流桜を含めて一同言葉を失った。そうしてそんな一同の様子でカイトもまた何が起きたかを察して、思わずしまったというような顔を浮かべた。


「……あ」

「な、なな、なんだこりゃ!?」


 どうやら全軍への総攻撃の少し前から、ソラへは作戦終了の連絡が入っていたらしい。これから全軍で総攻撃を仕掛けるという時にその場で留まって防壁を張るなぞ無意味だろう。というよりも邪魔でしかない。

 というわけで戻ってこようとしていた彼は何が起きたかを全く見ておらず、カイトの払った腕の軌跡に沿って空間が裂けているのを見て思わず上ずった声を上げるしかなかった。


「あははは……ま、こんなわけで。ふと油断しちまうとこんな風になっちまうってわけ」

「「……」」


 ただ軽く無意識で手を払っただけでこうなってたまるか。ソラも瞬も照れくさそうに笑いながら裂けた空間を元通りにするカイトに言葉なくそう思う。そうして、二人は何も言えぬまま戦いの終わりを待つことになるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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