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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3522話 はるかな過去編 ――突破――

 後に『強欲の罪(グリード)』となる触手の軍勢との戦いも終わり、暫く。未来から来たカイトの指し示した指針を受けて、レジディア王国より更に東。海を隔てた鬼と龍が治める鬼桜国へと足を踏み入れたソラと瞬。二人はそこで鬼の王にして稀代の女傑でもある希桜から<<廻天>>と呼ばれる他の属性を利用して別の属性を生じさせる技法を学んでいた。

 そうして数ヶ月の修練の日々が過ぎたある日。ようやく復帰して各国の牽制のため諸国を歴訪していたカイトと再会したソラと瞬は彼と共に湯治に向かうことになる。

 しかしそんな中でやって来た伝令の兵士により、将軍としての経験を積むべく出兵していた流桜が邪眼兵と呼ばれるかつての破壊神を信奉する戦士達に苦戦させられているということを知らされる。

 というわけで相変わらずの面倒見の良さで勝手な助っ人として参戦することを決めた三人は流桜の許可を得ると、山をくり抜いて作られた砦を目指して三方向に散開していた。


「ソラ。そっちは大丈夫か? 一番キツい所を受け持つことになったが」

『いや、俺よかお前の方がヤバかね? なにせ勇者様だろ? 気付かれたら絶対そっちのが集中砲火されるにきまってるだろ。それに俺なら最近<<廻天>>を覚えたから、かなり継続戦闘能力高くなったし』

「そうか……ま、オレは余裕よ」


 ソラの言葉にカイトは楽しげに笑う。そんな彼が移動したのは流桜の展開した正面の本陣から見て右翼側だ。右翼側には元々この展開を想定して機動力と突破力に長けた兵士達が密かに展開しており、全てが順調に進んだ場合はここが起点となって一気に突破することになっていた。

 だがその分最も温存したい所であり、支援が最も望めない場所だった。まぁ、だからカイトが受け持っていたわけでもある。


「オレと瞬が右翼と左翼から一気に。お前が正面でジリジリと……とりあえず誰か一人でも取り付けば良いが、おそらく取り付けたら取り付けたで面倒なことにはなってくるだろう。まぁ、オレか瞬だろうがな」

『面倒、か……神使か御使いだかは知らんが、確かに面倒そうだな』

「もし無理なら遠慮なく引け。戦闘に支障はないからな」

『わかった……だが、そっちからこっちに来るのは厳しいだろう。こちらで出来る場合はこちらでなんとかする』

「あいよ」


 カイトとしても瞬やソラの腕前を信じていないわけではない。だが、神使の厄介さは彼も知っており、油断出来る相手ではないとも認識していたのであった。もちろんそれは半ば神使に足を突っ込んでいるソラもそうだし、それを知る瞬もまた同様だった。


『とりあえず俺が速度なら一番速い……か? カイト。まさか騎馬戦なんてやりださないよな?』

「流石にやんないわな、ここでは……そもそもオレ、ここに居ないことになってるんだし」

『そうだったな……そう言えば聞きそびれたんだが……本当に鎧なくて大丈夫なのか? いや、俺達からすれば見慣れた格好みたいな感はあるが……』

「そういや、そう言ってたな」


 瞬の問いかけにカイトは今更自分の格好を見て苦笑いする。先に彼も言っているが、そもそも『勇者カイト・マクダウェル』という男はこの場に存在していないことになっている。なので彼の特徴の一つであるエドナは今回異空間で待機しているし、彼を騎士たらしめる鎧も身に纏っていない。

 一応武器も適当な刀を見繕うか、と思ったが流石に敵が神使かもしれないとなって双剣の精霊達が流石にやめろと彼を叱ったので武器は双剣だが、彼本来の武装はそれだけだった。


「ま、そこらはなんとかなるよ。要は斬り捨てて進めば良いんだろ」

『『そっち!?』』


 避けるんじゃなくて叩き潰して進むのか。ソラも瞬もカイトの思わぬ選択に思わず仰天する。だがこれに、カイトは何を当たり前なという様子で逆に問いかける。


「だって楽だろ」

『いや、まぁ……え、どうなんっしょ……』

『わ、わからん……』


 確かに避けるとなると次の敵の攻撃を見極めて自分が詰将棋の様に詰まない様にしないとならないが、盤面を叩き潰して進むのならそういう心配はない。なにせ駒を破壊するのだから当然だろう。

 だが、その考える労力と破壊する労力のどちらが楽かと問われれば、ソラも瞬も判断に困るのであった。まぁ、そのどちらが楽かについてはカイトもわかって言っているらしかった。混乱する二人を見て彼は楽しげに笑う。


「あははは……っと。信号弾が上がったか」

『しゃあっ!』

『やるか』


 本陣前面の最初は最も火力が集中する所にて作戦開始の合図を待っていたソラが一つ気合を入れて、瞬もまた深く息を吐いて意識を集中させる。そうして二人が気合を入れるのに対して、カイトは気楽なものだ。


(作戦は簡単。三方向に攻撃を分散させて、砦に取り付くわけだが……それを総戦力でやれば被害が馬鹿にならん。だから単騎で突破出来る冒険者や猛者に頼んで取り付かせて、まず砦からの攻撃を黙らせる。その直後に一気に兵士達も突撃して、一気に戦力差で押し潰すやり方だな)


 何方向に分かれるかは人員と立地次第だが、この世界における砦を叩く際の基本戦略の一つだな。カイトは流桜の立案した作戦を自身も何度か取ったことを思い出す。それほどまでに基本戦略の一つだった。


(ま、これが出来ないぐらいの火力だったら話は別なんだが……さて、あっちはどうすっかな)


 隊列を離れ砦へとてくてくと歩いていくカイトが考えるのは、ようやく再び動き出した『北の砦』の攻略だ。あちらは流石に技術、単体戦闘力が上回る魔族が守る砦だ。

 こんな戦略を取ろうものなら砦の中に控える高位の魔族により瞬く間に殲滅されるのが関の山で、さりとて大兵力で攻めようにもあの魔導砲があってどうにもならない。かなり戦略を考えて攻めねばならなかった。


「っと、そんなの考えてられるのも今のうちか」


 隊列を離れて猛烈な速度で砦に近づいてくる二人の戦士を砦側が見逃すはずがない。そうしてソラに向けて放たれていた火球の一部が一気にカイトと瞬にも放たれる。


「ほぅ……」


 少しでも攻撃が緩くなるかと思ったが、そうでもないのか。カイトは正面に放たれる火球とはまた別に放たれる幾つもの火球を見て僅かに眉を潜める。


(あながち神使が居るというのも嘘じゃない、ってことか)


 そうなるとまた別の厄介な問題に派生するわけだが、それは後で考えるか。カイトは火球を宣言通り一太刀に斬り伏せてそう思う。と、斬り伏せた所で双剣の精霊がカイトへと報告する。


『若。僅かですが斬り裂いた際に神使の匂いがしていました。おそらく間違いないかと』

「そうか……なら少し厄介の度合いを上げておくか。希桜様には……どうすっかね?」

『若からご報告しては?』

『流桜ですし、流石にあの子から報告させるので良いかと』

「あはは」


 自分がここに居ることは希桜にはバレるだろうが、敢えて自分からバラして注意喚起を行うのはまた別ではないか。双剣の片割れの提案に反対する声にカイトは笑う。


「ま、報告については流桜からさせるか。オレはこの場には居なかった、ってことだしな」

『『御意』』


 カイトの決定に双剣の精霊達が承諾を示す。そうして一太刀で敵の戦力を見極めた彼であるが、だから何かが変わるかと言うとそういうわけがなかった。というわけでまるで無人の荒野を進むが如くに悠々と自分達の攻撃を斬り捨てて歩く彼に、邪眼兵達も気付いたらしい。


「あれは……」

「西の勇者マクダウェルか!?」

「報告! 報告を入れろ!」

「復帰したのか!? なぜここに!?」

「火力をこっちに集中させる様に連絡しろ! 奴とてまだ本調子ではないはずだ!」

「おっと……」


 流石にオレが相手となると今までの様に三方面に均等に攻撃を分けることは出来ないか。カイトはソラの読み通り自身に向けて今までの比でないぐらいに強く、多くの火球を放つ砦側に僅かにほくそ笑む。自分の介入がバレることなぞ最初から織り込み済みだ。


「こちらマクダ……じゃなかった。カイト。作戦第二段階確認」

『第二段階確認了解しました』


 本陣と繋げていた通信機から、流桜の声が響く。ここまで火力を集中させたのだ。自然、正面と左翼は薄くなる。だが正面はどうしても鬼桜軍の本隊がいる。邪眼兵側も狐月や流桜が居ることは把握しているはずで、その二人が本陣に控えている状況では緩めるのは難しい。なので攻撃の手が緩まるとしても僅か。ならば、一番割を食うのはどこか。簡単だった。


「さて……取り付くまではそっちに任せるぞ」


 砦を挟んで正反対の場所に雷が降り注ぐのを見て、カイトは少しだけ歩く速度を緩める。別に彼とて何も火球を斬り裂いて進むことをいつもしているわけではない。単に意図的に、ゆっくり動くためにそうする判断をしただけであった。というわけで、邪眼兵の砦の攻略は瞬へと委ねられることになるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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