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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3522話 はるかな過去編 ――承諾――

 後に『強欲の罪(グリード)』となる触手の軍勢との戦いも終わり、暫く。未来から来たカイトの指し示した指針を受けて、レジディア王国より更に東。海を隔てた鬼と龍が治める鬼桜国へと足を踏み入れたソラと瞬。二人はそこで鬼の王にして稀代の女傑でもある希桜から<<廻天>>と呼ばれる他の属性を利用して別の属性を生じさせる技法を学んでいた。

 そうして数ヶ月の修練の日々が過ぎるわけであるが、修練の終わりを告げたのは最近復活を果たしたカイトであった。そんな彼はしかし先の戦いにより身体が本調子でなく、湯治に来たついでにソラ達の戻りの船が近づいていることを告げる。

 というわけで希桜により彼の道案内役を仰せつかることになったソラと瞬は、彼と共に久方ぶりの休暇を温泉宿で取っていたのであるが、そこに兵士が駆け込んできて流桜が邪眼兵と呼ばれるかつての破壊神を信奉する者たちに苦戦させられていることを知らされることになり、その救援に赴くことになっていた。


「あ!……」

「え? 何、その超絶変な反応」


 自分が見えた瞬間に満面の笑みを浮かべた流桜がその直後になにかしまったというような様子で不満げな顔を出したのを見て、カイトが楽しげに、そしていたずらっぽい様子で笑う。そんな彼に、流桜が不満げに問いかけた。


「……何をしに来たのですか」

「おてつだ」

「必要ありません。あの程度の砦ならば私一人で十分です」

「せめて最後まで言わせてよ……」


 自分の言葉を遮ってまでの拒絶に、カイトは笑いながら肩を竦める。まぁ、最初の反応の時点で嫌われているわけではないことは明白だろう。そんな流桜が、再度はっきりと断言する。


「大丈夫です。問題ありません」

「流桜様」

「……」


 むすっ。敢えて擬音を付けるのならば、そんな様子だ。流桜は横に控えていた武人らしい女性の言葉に不満を顔で顕す。とはいえ、この女性は流桜が黙った時点で自分の言葉が正論であると認めている聡い子だと知っていた。が、やはり年相応の部分が邪魔をしていることもまた見抜いていた。故に諭す必要があり、そのために自分が居ることも、だ。


「流桜様……優れた将たらば、活用出来るものは全て活用し兵の被害を抑えるのが優れたる証です」

「ですが高々賊徒の討伐に手を借りては、無能のそしりは免れません」

「それもまた然りではありましょう。それが普通の賊であるのなら、ですが」

「……」


 どうやら今回の相手は普通の邪眼兵ではなかったらしい。女性指揮官の指摘に流桜の顔が苦みで満ちる。というわけでカイトが一つ問いかける。


「普通じゃないのか?」

「はい」

狐月(こげつ)!」


 この女性指揮官は狐月という名らしい。カイトの問いかけを認め頷く彼女に、流桜が声を荒げる。とはいえ、これに狐月が窘めた。


「流桜様……確かにこのまま増援を待ち攻め落とせぬ相手ではございません。御身と私の二人で彼らと同じことをすれば、攻め落とせるでしょう。此度、希桜様より命ぜられたのはあくまで指揮官としての立場。一介の兵として戦えと言われておりません。それに我らが突っ込んで誰が兵達の指揮をすると?」

「……」


 狐月の指摘に、流桜が口を真一文字にキツく結ぶ。そうして、流桜の顔が年相応の子供のそれになる。そしてそんな彼女が見るのは、カイトであった。


「でも……」

「なんだよ」

「……」


 むっすー。からかって楽しみたいとばかりのカイトの問いかけに、流桜は不満げだ。まぁ、実際狐月が怒らないのはこれがカイト以外の誰かであれば流桜も有り難くその助力を受け入れるだろうことがわかっていたからだ。というわけで、狐月もまた苦笑いで頭を下げる。


「申し訳ありません、カイト殿」

「あははは。構いませんよ、いつもの事ですし」

「出来たもん……」

「「あははは」」


 年相応の様子で不満を零す流桜に、カイトと狐月が苦笑いを浮かべる。そんな二人に、瞬が問いかける。


「狐月さんと知り合いなのか?」

「オレの方が付き合い長いぞ? そもそも何年この国と関わってると思うんだよ」

「それもそうか」


 狐月というのは狐系の獣人の一人で、流桜のお目付け役という所だ。無論戦士としても将軍としても一流で、今回の鬼桜軍も彼女が実質的に指揮していると断言しても過言ではない。

 そして希桜の下で修練を積む瞬もその関係で顔をあわせており何度か手合わせを頼んだことがあったらしく、お互いに知っているのであった。というわけで彼の問いかけに答えたカイトは、屈み込んで流桜に視線を合わせて告げる。


「お前がオレ達がやろうとしていることが出来ることぐらいわかってる。だが、トップなら突っ込まず最後方で指揮せにゃならんこともある。それがわかってたから、あそこに増援を求める様に伝令を出したんだろ?」

「……」


 カイトの問いかけに、流桜は無言だ。そもそも今の瞬達とも短時間であれば互角に戦える流桜だ。魔術の腕であれば、二人よりも上だろう。そんな彼女がカイト達がやろうとしていることが出来ない道理はなかった。


「お前がオレに手を出されたくないってのはわかってる。でも下手に長引かせりゃお前の風聞にも差し障る。それはひいては兵達に無駄な犠牲が生ずることになる。それは避けなきゃならん」

「でも兄様は全部やってしまえます」

「オレは……オレとレックスは特別なの。後は希桜様とかもな。そのオレ達だって四騎士だなんだって優秀な騎士がいてはじめて出来ることだ。全部自分でやろうと考えるな」

「……はい」


 どうやら流桜はカイトが突っ込んで攻めの起点になりながら、総指揮官としての役割まで果たしてしまえることが羨ましいらしい。とはいえそれはカイトの言う通り彼やレックスという無双の武勇と並外れた指揮力、ずば抜けた部下達という全てが上手く噛み合ったがために出来ていることだった。


「良し。だから足りない部分をオレ達が補ってやろう、って話だ。ガキなんだからよ、オレ達頼れ」

「……」

「な、なんだよ」

「兄様は私ぐらいの年齢で出来たと聞いてます」

「出来てねぇよ!? オレの初陣もっと後よ!? てか、オレなんだったら希桜様の判断ガチめに正気疑ってるんよ!?」


 神格化しすぎてないでしょうか。カイトは流桜の様々な感情の滲む視線に思わず声を荒げる。まぁ、そういってもこの程度の尾ヒレ背ヒレはよくあることだ。

 そしてそんな彼もやはりこの年齢から軍の将軍としての教育を施そうという希桜の考えは正気の沙汰ではないと思っていたようだ。というわけで、ちょっと思った以上に誤解されていそうなのでと半ば呆れながら流桜に言い聞かせる。


「はぁ……お前の年齢の頃にゃオレはまだ父さん……先代の団長の背を追ってた頃だ。いや、下手すりゃ負ぶさられてた頃かもな。ちょうどエドナと出会った頃……ぐらいだったかもしれん。そっから一年間旅して、更にまた何年かその背を見て学び、だ。お前、急ぎすぎなんだよ。まだまだ何千年もあるんだからさ。そう急ぐなって」

「……でも」

「うん?」

「……なんでもありません」


 カイトの窘めにやはりなにかを言い返そうとしたらしい流桜であるが、その彼女は少し考えた後に言わないでおこうと思ったようだ。そしてカイトの側もこれはなにか不満は不満でも今の自分が助けを乞うことに対する不満ではないと理解していたからか、その理由までは察せられなかったようだ。というわけで、一つ苦笑して立ち上がった。


「そうか……狐月さん。敵のことを教えて下さい。普通の邪眼兵ではない、と?」

「ええ……どうやら神使かそれに類する存在が居そうなのです」

「……なるほど」


 それでここまで攻めあぐねているのか。カイトは狐月の返答に精兵で知られる鬼桜国の兵士達が苦戦を強いられている理由を理解する。そしてそれならば、と彼は改めて自分達が来たのは天佑だったと納得する。


「とはいえ、そうなると我らが来れたのは幸いでしたか。やはり流桜は前線に立たせられませんね」

「ええ……万が一流桜様に差し障ることがあれば、我が国の恥では済みません。希桜様へと流桜様を託した東の龍神達にも……失礼。お忘れを」

「構いませんよ」


 何を言おうとしたのかは定かではないが、どうやら流桜のことは龍神達にも関わりがあることだったらしい。ソラも瞬も僅かに興味は鎌首をもたげるが、流石に触れることはしなかった。もしどうしても気になるのなら未来に帰ってカイトから聞くという手があることも大きかっただろう。


「わかりました。我ら三人が攻撃を突破し、砦に取り付きます。後はお願いします」

「いえ、こちらこそお願い致します」


 カイトの言葉に狐月が応諾を示して頭を下げる。そうして、カイト達三人は鬼桜国軍の最前列へと向かうことになるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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