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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3520話 はるかな過去編 ――湯治――

 後に『強欲の罪(グリード)』となる触手の軍勢との戦いも終わり、暫く。未来から来たカイトの指し示した指針を受けて、レジディア王国より更に東。海を隔てた鬼と龍が治める鬼桜国へと足を踏み入れたソラと瞬。二人はそこで鬼の王にして稀代の女傑でもある希桜から<<廻天>>と呼ばれる他の属性を利用して別の属性を生じさせる技法を学んでいた。

 というわけで数ヶ月の教練の末。ようやく復帰を果たしたカイトの来訪を受けることになる。だが、そんな彼は復帰して早々自身の不在の隙を利用して反乱・反攻を企てる者たちの牽制として各国を歴訪。自身の健在をアピールする日々であったことを知らされると共に、鬼桜国へは湯治に来たことを知ることとなっていた。

 そうして彼の道案内を命ぜられた二人は、連れ立って首都から一日の距離にある火山地帯の麓にある温泉宿へとやって来ていた。というわけでたどり着いた温泉宿にて、三人――ソラと瞬はせっかくだから――は温泉に浸かっていた。


「あっ……つぅ……」

「やはり沁みるのか? まだ復帰してすぐなんだろう?」

「いや、怪我そのものは癒えているから問題はない。魔族達の医者数百人より上の姫様だ。そこで問題は出ないよ」


 温泉に浸かるなり早々にしかめっ面になった自身を心配する瞬の言葉に、カイトは少しだけ恥ずかしげに笑う。とはいえ不調だからこそ湯治に来ているわけだ。やはり違和感を感じていたからこそ、声が出てしまったである。というわけで、彼が教えてくれた。


「どうしてもデカい戦いの後はこうなっちまうんだ。身体の中を流れる魔力がなんというか、こう……広がったまま? そんな感じになっちまって、日常生活に支障を来すことになっちまう」

「ってーと、どうなるんだ? 例えばコップを割ったりみたいな?」

「まぁ、身体能力を向上させる類の魔術は使わない分、日常生活に支障を来すといってもそういう物を壊すということはない……いや、無いかと言われりゃちょっと微妙だけど……」


 どうやら思い当たる節はあったらしい。ソラの問いかけにカイトは先程より恥ずかしげな色を強くする。というわけで、そんな彼が慌てて首を振って脱線した話題を元に戻す。


「そりゃどうでも良いんだ……まぁ、なんというか出力の制御が難しい所があってな」

「出過ぎる、ってことか?」

「そうなんだよ。強化していなくても出力が高いとやっぱり厄介でな……」

「やっぱりコップ割っちまったり?」

「だからちげぇって」


 どこかいたずらっぽいソラの問いかけに、カイトが呆れ半分で笑いながら首を振る。とはいえ、状況としてはこれより悪かったようだ。


「ちょっと軽くジャンプで山一つ跳び越してた、とかだな」

「余計悪くね!? なんでそれでコップ割らねぇんだよ!」

「コントロール出来ている時は良いんだ。咄嗟の対応がかなり難しいんだ」

「なるほどな……無意識的に出る瞬間がマズいのか」

「そういうこと……戦闘時の力が不意に出ちまって陛下に怪我を、なんてことになったら末代までの恥だ。一応、気を付けてはいるが……」


 王侯貴族が多数控えている王城。しかもカイトの隣室はヒメアという状況。万が一が起きてはいけない立場だ。そして不意の瞬間とは意識していないからこそ起きるのだ。早々に対応が必要なのは当然だった。


「不意ってのはどうしても防ぎようがない。早々に対応したいってわけだ」

「へー……で、この温泉にはそういう力があるってわけか」

「そうなるな。実際、この温泉街は湯治の客が多いだろ?」

「俺らもそれで世話になったからな」


 カイトの問いかけにソラが数ヶ月前のことを思い出しつつ答える。先に希桜が案内しろ、と言っていた様に実は二人もここには何度か世話になっている。

 立地的にも片道一日の距離だし、いくら<<廻天>>の教練がメインだと言っても武術の稽古やらをやらないわけでもない。そうなると実践的なものとして実戦もあり、怪我を負うことは少なくなかった。その中で、ここを利用させて貰っていたのである。そしてここらはカイトも不思議に思わなかったようだ。


「だろうな……魔力の流路が拡張されたままってのは精神が緊張状態になったままだから、ってのがデカいらしい。ノワの受け売りだけど」

「精神が緊張状態? 戦いは終わってるだろう?」

「まぁ、詳しいことはオレも良くはわからん。だが心の片隅に戦闘が抜けきっていないみたいな感じだそうだ。で、突発的な事象に思わず戦闘時の精神で対応しちまうから、出力異常が起きちまうんだと」

「ということはもしかすると戦闘は逆に問題無いのか?」

「そういうことなんだよな、困ったことに」


 もしや、という様子の瞬の問いかけにカイトは困った様に笑うしかなかった。精神が戦闘状態にあるということは、実際に戦闘状態になってしまっても問題はないということに他ならない。

 なので日常生活に支障を来す以外に問題がないがゆえに、カイトでもなければ早急な対応が必要になることは珍しいらしかった。というわけでそこらを理解して、今度はソラが首を傾げる。


「あれ? でもそれなら別にわざわざ他国に来てまで温泉に入る必要ないんじゃないか? いっそリラックス出来るお香でも焚いて部屋の風呂にでも入りゃ良いんじゃないのか?」

「あははは……冒険者とかなら、そうする奴も居るらしいな。でも悲しいかな、オレの部屋は……」


 あははは。カイトは乾いた笑いを浮かべて、ソラも瞬もそう言えばとカイトの部屋のことを思い出す。


「はぁ、まぁ、そりゃ本来のオレは護衛の騎士なんだからしゃーない……後は頻度の問題もあるか」

「「頻度?」」

「ああ。風呂に一度長く浸かれば良いってわけでもないらしい。長く浸かることも重要だが、一日に何度も風呂に入ってリラックスする時間を長く取らないといけないそうだ……もちろん、長過ぎるのも意味はない。身体がリラックス出来る程度で、緩急つけて身体を元に戻すってわけだ」


 二人の問いかけにカイトは温泉の中で手足を伸ばし、固くなった身体をほぐす。魔力の不調だからと身体を無視して良いわけではなかった。


「ま、だからここから数日は風呂に入って寝て、の繰り返しか。こうなると流石に姫様でもノワールでもどうにもならんからな」

「そりゃそうか。気の持ちようの話だもんな」

「そういうことだな……ま、それはそれとして。修行の状況はどうなんだ? 任せっきりで申し訳ないとは思うが、一応来た以上は進捗ぐらいは聞いておかないとな」


 瞬の言葉に応じつつ、カイトはついでなのでと二人の状況を確認する。が、これにソラが指摘した。


「いや、お前せっかく休みに来て仕事してたらなんの意味もねぇんじゃね? 戦闘より絶対大変そうだし」

「……それはそうだな」


 ソラの指摘はもっとも過ぎた。カイトはここで真面目に仕事をしようとした自分を戒める。というわけで少し恥ずかしげに、彼は頭を掻いた。


「まぁ、つってもやることないんだよな。いや、何もするながここでのオレの仕事っちゃ仕事だからそれをしろ、と言われたら何も言い返せないんだけど」

「それはそれで大変そうだな……運動……は流石にできそうにないか。読書とかはないのか?」

「読書なぁ……」


 それはそれで乗り気にはならんな。瞬の問いかけにカイトは少しだけ苦い顔だ。


「なんかのんびりするしかない以上はのんびりすりゃ良いんじゃね?」

「それができりゃ苦労はしない……はぁ。こういう時ばかりは姫様が一緒に居てくれればと思うわ」

「いつもは一緒なのか?」

「姫様にも休息が必要だからな……ただ今回は色々と……まぁ、光神様の件とかがあってオレ一人だ」


 光神を祀る神殿にて育ったのはベルナデットだが、ヒメアも関わりがないわけではないらしい。というわけで彼女は彼女で光神に関わる何かしらに関わっているらしく、今回は別行動らしかった。実はソラと瞬がこちらに送られたのはその関係もあり、カイトの暇つぶしになればという希桜の気遣いであった。というわけで、ソラも瞬もカイトと共に数日の間温泉街に逗留することになるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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