第3518話 はるかな過去編 ――再会――
後に『強欲の罪』となる触手の軍勢との戦いも終わり、暫く。未来から来たカイトの指し示した指針を受けて、レジディア王国より更に東。海を隔てた鬼と龍が治める鬼桜国へと足を踏み入れたソラと瞬。二人はそこで鬼の王にして稀代の女傑でもある希桜から<<廻天>>と呼ばれる他の属性を利用して別の属性を生じさせる技法を学んでいた。
というわけで数ヶ月の教練の末、なんとか基礎ぐらいは物にした二人の所を訪れたのは、レックスの率いる四騎士の一人にして鬼桜国に繋がりのあるハヤトと、ようやく復帰を果たしたカイトであった。
というわけでカイトとの再会を経た後すぐ。二人はせっかく旧知の仲であるカイトが来たのだから、と訓練の打ち切りを命ぜられて希桜の酒盛り――専ら飲むのは希桜だが――に参加させられていた。
「聞いちゃぁ、いたがなぁ。そーかそーか。そこまでボッロボロになってたのか。大将軍とどっちがやばかった?」
「ヤバいヤバくないの話でありゃ、あっちですね。正直言えばもう二度と戦いたくない」
その二度と戦いたくない相手と都合三度戦うことになるのだが、それは当人の預かり知らぬ所だろう。というわけで希桜の言葉にカイトはただただため息を吐いて首を振っていた。
「うっわ、マジか。お前が大将軍と比べてあっち、って言うレベルか。まぁ、そうじゃねぇと大魔王様とやらまで出てきてガチの総力戦になんぞならねぇか」
「そりゃねぇ……」
「笑っちゃいるが……苦そうだな」
「……まぁ」
希桜の指摘に、カイトが苦笑いを浮かべる。正直に言えば、あの戦いの記憶が殆ど失われてしまったのはカイトとしては有り難くなかった。というわけで、その心胆を見透かしていた希桜が告げる。
「大方、どこかで停戦か終戦かを探ってたんだろ。最強の勇者様は甘い、って言う噂は良く耳にするからな」
「知ってます……ままならんもんだなぁ」
希桜の指摘には全て自覚があったらしい。そうして一人ごちる彼に、希桜が再度指摘する。
「どうしようもないもんはどうしようもない。なら、お前が貴族共を皆殺しにしちまえば良い。反対する者全てを弑逆し、ってな」
「そんな物騒なこと言わないでくださいよ」
「ははは……ま、邪鬼なんてもんを排出しちまった一族の戯言、もしくは戒めだ。そうはなるなって言うな」
どうやら希桜の言葉はあくまでも戯言に過ぎなかったらしい。ぐびりと酒を煽る。対するカイトも若干しかめっ面だったものの真に受けなかったのはそれがわかっていたからでもあった。とはいえ、そんな二人のやり取りに、ソラも瞬も意味がわからず困惑する。
「邪鬼?」
「魔物……ですか?」
「ああ、お前らここに数ヶ月居ながら聞いたことねぇのか」
どうやら鬼桜国ではそれなりには有名な話ではあったらしい。が、そうしてまるで子供が内緒話でも持ち掛けるかのような顔で身を乗り出す希桜に、花月がため息を吐いた。
「希桜様。他国の客人に遥か過去とはいえ醜聞を意気揚々と語ろうとしないでくださいませ」
「かまやしねぇさ。俺自身気にしちゃいねぇし、ああいうやらかしは後世にそうなるな、って語り継ぐことに意味がある。何より、この国じゃガキだって知ってるだろ。悪い子には邪鬼がやってくるってな」
どうやら今の立ち位置としてはおばけやそういう子供を戒めるために使われる存在らしいが、その大本にはかつて存在した鬼があるということか。ソラも瞬も楽しげに笑う希桜にそう理解する。
「ま、そんな悪い王様を排出したことのある一族ってわけだ。だから俺達はそうならねぇ様に、自分達を戒めるってわけだ」
「戒めてる人の姿ですかね、それは。真っ昼間から肌をさらけ出して酒を飲んで肉食らって」
「おいおい。戒めてねぇと今頃素っ裸で酒池肉林やってらぁな」
「……容易に想像が出来るのでなんとも言い難いですね……」
豪放磊落に笑う希桜に、花月が盛大にため息を吐いて肩を落とす。というわけで花月の反論を潰して上機嫌なのか、希桜は笑いながら一つ問いかける。
「で、カイト。ハヤトから近々伺うかもと聞いたばっかりだったんだが」
「あぁ、まぁ、いつものことと言いますか、反乱潰しの日々ですよ」
「あぁ、いつものか。そっちも大変だな。こっちもそうなるんだけどよ」
どうやらカイトが諸国に顔を出していたのは、自身の復活を大々的に知らしめることでこれから再び開始するだろう戦乱をある程度未然に抑制する効果を狙ってのものだったようだ。
「まぁ、俺らからすりゃいつものことかぐらいだけどよ。どーせまた死んだとかいう噂が流れてそれを真に受けた馬鹿が反乱しようとしたのか」
「あははは。お恥ずかしい限りで」
これはアルヴァも認めていたが、現状シンフォニア王国やその近辺におけるカイトの存在感と影響力は非常に強い。なので彼が死んだというだけで起きるだろう反乱は一つや二つではなかった。無論、希桜が言う様に鬼桜国も似たようなものではある。
それはさておき。特に今回はアルヴァが本気で救命に動いていたことと彼の瀕死の状態が会議で取り沙汰されたので、各国彼が死ぬかもしれないという事態は把握していた。
状況が状況なので大精霊の支援を受けるカイトと<<七竜の同盟>>に反乱なぞ出来なかったが、少しでも早く再び戦争状態に戻って早い内にシンフォニア王国へ反旗を翻そうと企んだ国は少なくなかったのであった。
「ま、お前の所は最悪四騎士達さえ居りゃどうにでもなるか。今回もか?」
「ええ。色々と怪しい所へ散って牽制しつつ、オレが各地へ出向いて健在をアピールって所ですね」
「ってことはお前、完全復活じゃないのか?」
希桜の言葉を認めたカイトに、ソラが驚いた様に問いかける。ハヤトからの話では復活してレックスと一試合交えた所という印象だったのだが、今のカイトの言葉ではかなり無理をしているような印象を受けたのだ。
「ああ、怪我は問題ないよ。そこは安心してくれ。今回姫様がガチでオレを離さなかったからな。姫様のお墨付きを貰って出てきているから、怪我はもう問題ない。なんだったら腕一本でお前ら相手しようか?」
「あははは。遠慮しとくよ。腕一本でも……いや、お前あの怪我の時のお前でも勝てる気しねぇわ」
「さっすがにありゃ無理だ。マージで腕一つどころか指一つ動かせなかったからな」
カイトの冗談に笑って応ずるも、突然真顔になったソラに一方のカイトは楽しげだ。なお、実際あの当時の彼ではソラどころか由利らにも勝ち目はなく、それほど酷かったのであった。
というわけでその状況はかなり昔に脱して今はこの通り各地を渡り歩くというこれはこれで忙しい日々に戻った彼に、瞬が問いかけた。
「それだったら何が問題なんだ?」
「いや、ちょっと身体のバランスがな。ああ、いや……身体の面じゃなくて、魔力的なバランスか」
「なるほど……なんか妙にいつもより張り切ってるような、と思ったけどそういうわけか」
「ええ……それでこっちに向かってるっていうハヤトに頼んで伝令を頼んだ、ってわけです。ウチの姫様も肉体的な問題なら対応出来るんですが、流石にそこらの感覚的な部分は後は自然治癒でなんとか、しか手が無いんで」
そういうことです。そう言わんばかりの様子でハヤトが無言で頭を下げる。というわけでカイトの来意をおおよそ理解して、希桜は頷いた。
「なんだ、そういうことか。それならもちろん問題ねぇよ。温泉だろ?」
「はい。逗留の許可を頂ければ」
「構わねぇ構わねぇ……ソラ、瞬」
「「はい」」
何度か言われているが、鬼桜国では強者こそが尊ばれる。なので大陸でも最強を謳われるカイトには便宜が図られるのは当然の道理だった。というわけで自身の言葉に応じた二人に、希桜が告げた。
「この間行った温泉あんだろ。案内しろ」
「今からですか!?」
「ばっか。そんなわけあるかよ」
驚いた様に問いかけるソラに、希桜は盛大にしかめっ面で彼の頭を小突く。というわけで頭を抱えて蹲る彼を横目に、希桜は花月へと指示を出す。
「あいたっ!」
「花月、紙と筆を。許可証をすぐに作っちまおう」
「かしこまりました」
希桜の即断即決に花月が応ずる。そうして、ソラと瞬の二人は顔見せついでに湯治に来たというカイトと共に、首都から馬車で一日の所にある温泉宿を目指すことになるのだった。
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