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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3514話 はるかな過去編 ――御前試合――

 後に『強欲の罪(グリード)』となる触手の軍勢との戦いも終わり、暫く。『強欲の罪(グリード)』との戦いにより期せずして発生した一時の平穏の中で、ソラと瞬はカイトの助言を受けてレジディア王国より更に東。海を隔てた島国へと足を踏み入れていた。

 そんな東国にて出会ったのは、鬼の王にして女傑である希桜であった。というわけで彼女へと魔術の教授を頼んだ二人であるが、そんな二人へ希桜が下したのは娘にして数百年後の未来において猛者揃いの鬼桜国の戦士を束ねる名将となる流桜との御前試合であった。そうして御前試合に臨んだ瞬であるが、流桜の腕が侮ってなんとかなるものではないと理解する。


「……一つ謝罪しておこう。侮った。申し訳ない」

「……構いません。慣れてますから」


 戦闘の最中に口を開いたかと思えば、出たのは謝罪だ。流桜も普通であれば無駄口を、と思うが素直に謝罪されると流石に応ぜねばと思ったらしい。そして謝罪してくるのであれば、即ちとも理解する。


「……」


 僅かに流桜の気迫が変わった。今までは目に物見せてやろうという負けん気が表に出ていたのであれば、今は敵を相手にするという冷静さが滲み出ていた。足運びもそれに合わせる形ですり足が増え、攻め込む隙を探っている様子があった。

 一方、瞬は呼吸を整えて流桜に相対。僅かに腰を落として、こちらから攻め込めるようにも逆に流桜からの攻めを誘うようにも見える様に僅かに穂先を下げる。そうして数瞬の沈黙が流れる。


「「……」」


 流石に流桜も侮りがなくなった相手に無闇矢鱈に攻め込むほど愚かではなかった。故にここからは一個の戦士として相対するつもりらしく、攻め込もうとはしない。彼女自身は瞬を侮ってなぞいなかったのだ。というわけで、瞬は待ちから攻めへと切り替える。


「っ」


 まるでふわりと浮かぶような自然さで、彼自身が地面を蹴って一歩を踏み出す。だが、その一歩は普通の一歩ではなかった。


「ふっ」


 まるで地面を水平に滑るような動作を織り交ぜ、更にその動きに合わせて穂先を絶妙に下げることで悟らせないという技を見せた瞬は、後僅かにまで距離を詰めた所で一瞬で流桜の眼前まで槍の穂先を跳ね上げる。しかし流石に流桜も警戒していたのだ。この動作は見切られ、跳ね上げる動作に合わせる形で逆袈裟懸けに大太刀を振るわれて更に上まで跳ね上がる。


「はっ!」


 流桜は槍の柄を叩いて跳ね上げ、反動で僅かに動きが鈍った瞬間を狙い定めて更に返す刀で瞬の槍を彼の手から吹き飛ばす。だが、この動きは瞬が誘ったものだった。二撃目が当たる瞬間、彼は右手を僅かに開いて敢えて弾き飛ばされやすくして衝撃を左手一つに留めていた。そしてそれが意図する所は一つしかないだろう。


「!?」

「おぉ!」


 この戦いで初めて、流桜の顔に驚きが。希桜の顔に興味の色が浮かぶ。左手が上がった瞬間に瞬の右手にはまた別の槍が魔力により編み出されていたのだ。

 この稀有な才能を予想しろ、というのは中々に難しい。驚きと興味が浮かぶのは自然なことだった。というわけで瞬は更に一歩踏み出して、短めの槍を右手一つで流桜へと繰り出した。


「っ」


 突き出される短めの槍に、流桜は迷いなく地面を蹴って背後へと飛ぶ。ここで幸運だったのは、瞬がやはり幼子相手に戦う経験がなかったことで間合いを正確に掴みきれなかったことと、どうしても二槍流は取り回しの関係で通常の槍よりも柄の短い短槍とせねばならないことだ。

 攻撃圏内から逃れるのは、流桜であれば咄嗟の事でも十分に可能だったようだ。というわけでこの御前試合で初めて守勢に回った流桜であるが、即座に空中で身を翻してその動きを利用して弧を描くように斬撃を放つ。


「はぁ!」

「はっ!」


 飛来する斬撃に対して、瞬は今度は左手に短槍を編み出す。そうして編み出された槍を突き出して、流桜の斬撃を貫いて消し飛ばす。


「ふぅ……はぁ!」


 放たれた流桜の斬撃を消し飛ばすと共に、瞬は左腕での突きに合わせて引いていた右腕の短槍で薙ぎ払うような形で斬撃を放つ。そうして今度は流桜の側に斬撃が飛来するが、地面に着地した流桜は砂利を弾き飛ばしながら急減速。余剰の力を利用してまるで独楽の様に一回転。身を捩りながら回転斬りを放ち、瞬の斬撃を相殺する。


「ふっ」


 たんっ。瞬の斬撃を相殺した流桜はその衝撃を身体を伝って足に流し、地面との間で反動を生じさせてそれを起爆剤として再び超高速で移動する。


「……」


 速い。瞬は伊達に御前試合の大将戦を任されるわけではなかったと再認識する。とはいえ、今は侮っていたが故の驚きではなく、事実を認識するものだ。故に今度は見失うことなく、流桜の姿を追えていた。


「はっ!」

「ふっ!」


 瞬を飛び越えるような動作で瞬の背後へと回り込んで、着地の直後に振り向きざまに剣戟を放つ流桜に、瞬は即座にその場で半回転。斬撃に二振りの槍を合わせて防御する。そうして火花が舞い散った次の瞬間だ。流桜が激突の衝撃を利用して、腕の力で瞬から距離を取る。


「ふっ」


 小さな呼吸音と共に瞬が地面を蹴って、一度距離を取って仕切り直しを図る流桜を追撃する。とはいえ、どうやら追撃されるだろうことなぞ流桜もわかっていたらしい。瞬が地面を蹴り、ちょうど流桜が一度足を乗せた地面の真上にたどり着いた瞬間だ。地面から斬撃が生える。


「っ!?」


 見たことのない技だ。瞬は正しく斬撃が生えたとしか言いようのない状況に僅かに目を見開く。とはいえ、対応せねばならないし、現状で取れる手は僅かだ。

 というわけで彼は追撃を諦めることにしたらしい。即座に二槍流にしていた槍を束ねて普通の一本に持ち替え、地面に槍を突き立て斬撃を飛び越える。


「っと……む」


 一瞬、視線が外れたか。瞬は斬撃が彼の視界の大部分を覆ったそのタイミングを見計らって仕切り直し、どこかへと消えた流桜の気配を追い掛ける。


「……」


 おそらく仕掛けてくるまでコンマ数秒もありはしないだろう。瞬は気配を追いかけきれないことを理解して、周囲に再び雷によるソナーを展開。流桜の襲撃を待ち構える。だが、今度はこの動きこそ流桜が誘ったものだった。


「っ!?」

「っ」


 気付かれた。流桜は攻撃の一瞬手前。流れた風に乗った着地の音で瞬が自身の襲撃を察知したことを理解して、しかしそのまま攻撃を叩き込むことにする。そうして放たれる剣閃に、瞬は思わず<<雷炎武(らいえんぶ)>>を起動させる。


「……え?」

「……今のは……」


 流桜の驚愕は言うまでもなく<<雷炎武(らいえんぶ)>>による身体能力の向上なぞ想定していなかったことによるものだ。間違いなく直撃とまではいかずとも、十分に防御を打ち崩せるだけの一撃だったはずだ。それが防ぎ切られたのだから、驚くのも無理はない。それに対する瞬の驚きはというと、これだった。


(ソナーが消された? 無力化……か? 風が流れてくれたから偶然気付けたようなものだが……)


 何かをされて、瞬が常時自身の周辺へ展開しているセンサーが反応しなかったのだ。それに彼は驚いていた。そうして驚きを浮かべる両者であるが、驚きの程度であれば瞬の方が大きかったようだ。流桜は何よりクロードら似た力の持ち主達と何度か相見えていたことが大きいのだろう。一瞬先に気を取り直すと、彼女は今までで一番力強く地面を蹴って距離を取る。


「「……」」


 両者共に、未知の力を相手が行使したのだ。瞬はセンサーが無力化されていた以上は下手に追撃すれば罠に嵌められる可能性があったし、何よりここで今まで以上に距離を取る流桜が何をしようとしているか警戒する必要もあった。

 対する流桜は瞬がいきなり今までの想定を遥かに上回る反応速度と身体能力を見せたのだ。不意を突いた上で防がれている以上、何かしらの対抗策を講ぜねばただいたずらに体力と魔力を浪費するだけになる。お互い、次の手札をどうするか悩ましいタイミングであった。というわけで再度訪れる沈黙であるが、瞬は相対する流桜の闘気が今まで以上に高まっていることに気がついた。


「……っ」


 おそらく今まで以上に本気で仕掛けてくるつもりなのだろう。瞬は切ってしまった以上はと<<雷炎武(らいえんぶ)>>を展開し、それを待ち構える。そうして流桜の身体から闘気と共に紅色の魔力が漂い出し、しかしそこで声が上がった。


「そこまで!」

「え?」

「は?」


 轟いたのは希桜の声だ。それが意味する所は御前試合の終了で、唐突な終わりに瞬はもちろん、何よりこれから一枚手札を切って仕切り直しを考えていた流桜が驚きを浮かべていた。が、そんな彼女に、<<雷炎武(らいえんぶ)>>を展開した瞬でさえ見切れぬ速度で希桜が横に立っていた。


「いたっ!」

「馬鹿野郎。客にそいつを切ろうとするな、ガキンチョ。切って良いのは俺かカイトだけだ」

「……ごめんなさい」


 デコピンで弾かれた額を擦りながら、流桜は希桜の言葉に少しだけ涙目で謝罪する。どうやら彼女が瞬に対抗してやろうとしたことは希桜が禁止を命じていた内容だったらしい。しかも筋が通っていた内容だったようで、希桜の注意を流桜も素直に受け入れる。というわけでそんな彼女を抱き上げながら、希桜が明言する。


「あれを切ればお前が勝つかもしれなかったが、そいつは駄目だ。あれは今のお前じゃ手に余る。他所様に迷惑を掛けてまで使うな」

「……はい」


 流桜は希桜の言葉を少しだけうなだれた様子で受け入れる。そうして少しだけ不完全燃焼ではあったものの御前試合は終わりとなり、改めて空間が元の謁見のための部屋へと変貌を遂げることになるのだった。

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