第3509話 はるかな過去編 ――到着――
後に『強欲の罪』となる触手の軍勢との戦いも終わり、暫く。戦いに参加した人類・魔族の超級の戦士達が魔法もどきに対応しつつ自軍の被害を防ぐべく無茶を繰り返した結果、軒並み行動不能に陥っていることになっていた。そんな中でソラ達は未来のカイトからの助言により東国と四騎士達への協力として古い文明の光神を探す旅に出ることになる。そうしてシンフォニア王国を後にしたソラは瞬と共に二人、東国を目指して船の上だった。だがそんな船旅も終わりを迎えつつあった。
「おー……すごいっすね、活気が……」
「戦乱が遠いからな、ここらはよ。戦乱が関係ない別の大陸の船もあるから、やっぱそっちの連中はな」
感嘆の言葉を漏らすソラに、アイクが笑う。たどり着いたのは、東国の西側にあるとある港町だ。そこは所謂国際港のような役割を持つ所だった。
東国の場所柄も相まってレジディア王国等の東国から見て西側にある大陸諸国や更に東にあるという異大陸の船が到着するようで、見たこともない国章が入った船がちらほら見受けられていた。というわけでそんな異大陸の船を興味深い様子で観察するソラに、アイクが教えてくれた。
「こっから大体20日ぐらい東に行けば、別の大陸にもいける……んだけどよ。流石に今回は行かねぇからここで仕舞いだ」
「行くことあるんでしたっけ」
「おう……もともと俺達の一族はそういう海運で生活してるからな。ま、これでも異大陸でもけっこー有名なんだぜ?」
ソラに語るアイクの顔はどこか自慢げだ。なお、港に到着したなら到着したで荷下ろし等は良いのかと言う所であるが、彼の役割は荷下ろしの指示等ではない。ここにソラや瞬といっしょに居るのは、使者を待っていたからだった。というわけで、瞬がアイクへと問いかける。
「一応話は全部通っているんですよね」
「あにぃ曰く、だけどな……まぁでもこの間の会議でもカイにぃが大怪我してたのは希桜様もご存知だ。希桜様はカイにぃをかなり気に入ってるから、話は通ってるって考えて間違いないだろ」
「そうなんですか?」
「カイにぃが昔御前試合やったって聞いてるか?」
「はい」
ここらは少し前に天醒堂にてセレスティアとカイトが話しているのを瞬も聞いている。そしてその際に東国を治める希桜とやらとカイトが大将戦で戦ったとも。
「そか……なら大将戦でカイにぃが希桜様と戦ったってのも聞いてるだろうよ。その時に自分以上の猛者だって認めたカイにぃを随分気に入ってな。色々と便宜を図って下さるんだ。それに特に今回は色々とヤバい相手だったから、結構湯治を目的にして訪れる武芸者も多いらしくてな。広く受け入れてもいるらしい」
「へー……」
もともと武張った国だ戦士の国だ色々と言われていたが、逆にそうであればこそ武芸者はかなり訪れることも多かったようだ。そしてそうなれば必然、怪我を負った武芸者らが治療に訪れることも多いらしい。そんな流れに道理を見て感心する瞬に、アイクは続ける。
「まぁ、そういうこともあって医療分野にもかなり強くてな。こっちの名医を何度かあにぃに連れて行ったこともある……カイにぃはヒメアの姉貴が居るから連れて行くことはないんだけど」
「そうなんですか?」
「ああ。やっぱ治療方法も違ったりして、そっちの方が良いってなることも多いらしいんだ。そこで希桜様が紹介してくださることもあるし、連れて行くことはなくても回復薬の素材とかを融通してくださることもある……今回みたいにな」
瞬の問いかけに頷きながら、アイクは港の治安を守っているらしい兵士達の動向を確認する。とはいえ、やはりアイクや彼の率いる船団はかなり有名らしい。
警戒より敬意を向けられている様子の方が強く、兵士によっては顔見知りなのか遠目にでもアイクへ頭を下げていることがちらほらと見受けられた。
そしてそんな兵士達からの連絡が回っていたのだろう。上陸から少しすると、ちょうど港湾施設を統率するらしい建物の方角から身なりの良い女性が何人かの供回りと共に現れる。
「アイク殿。お待ち申し上げておりました」
「お久しぶりです。ご無沙汰しております」
どうやら現れた身なりの良い女性はアイクと知り合いだったらしい。おそらく東国式と思われる作法で深々と頭を下げる彼女に、アイクもまた頭を下げる。そうして両者頭を上げた所で、女性が視線をソラと瞬へと向けた。
「それでそちらが?」
「はい。レックス王子よりご連絡させて頂いていた二人です」
「かしこまりました。マクダウェル卿のご要望であれば、と希桜様も快諾されております……それでマクダウェル卿のご容態は?」
やはりカイトのことは遠くの東国でもかなり有名らしい。後に希桜から二人が聞く所によると、やはりエドナの機動力で各地を行き来出来るのは強いらしい。何気に隣国であるレジディア王国に居を構えるレックスより、立場等も相まってカイトの方が足繁く訪れていたようだ。
時には希桜側がカイトを呼びつけることもあるそうで、カイトの方も同盟相手ということがあり応ずることが多かったらしい。今回のいろいろな配慮もそこらがあり、早期の実現となったということであった。
「すでに危機的状況は脱していると聞いております。ただそれも、と言うべき所と」
「相変わらずな御方ですか」
「ええ」
どうやら東国でさえ、カイトが大怪我をすることが多いことは知られているらしい。使者の女性は苦笑に近い様子で笑っていた。
「ああ、失礼しました。希桜様よりマクダウェル卿の怪我は名誉の負傷でしかあるまい。最大限の融通をする様に申し付けを頂いております。神木の朝露はすでに確保し、積み込みが行える様にしております」
「ありがとうございます。早急にお届けさせて頂きます」
「お願いいたします」
本来アイクは単なる運び屋だ。なのでカイトの治療に必要な素材の調達に関するやり取りはシンフォニア王国と東国の間で行われており、準備も色々と整っていたようだ。というわけで積荷に関する色々とを終えた所で、アイクが女性へと問いかける。
「それで二人については?」
「こちらでお引き受け致しましょう……お客人。お初お目にかかります。花月と申します」
「「ありがとうございます」」
花月。そう名乗った女性に、ソラも瞬も頭を下げる。そうして両者挨拶と自己紹介を交わした所で、二人に花月がこれからの流れを軽く説明してくれた。
「マクダウェル卿よりお話は伺っております。彼が率いる四人の騎士達のため、ご助力されているとか」
「はい。それでカイ……マクダウェル卿より相生と相剋を学び、四騎士達に手ほどきをして欲しいと」
「伺っております。確かに相生や相剋は西の魔術師達はさほど重要視しない所ではありましょう」
実際自分達もそうだしなぁ。ソラは花月の言葉を聞きながら、今まで軽視してきた部分であることを内心で認める。というよりカイトから言われるまで意識したこともなかったのだ。有益だというのであれば、存分に学ばせて貰うだけであった。
「こちらへ。首都へ向かう竜車をご用意しております」
「ありがとうございます……アイクさん。ここまでありがとうございました」
「おう。じゃあ、次は数ヶ月先だ。そっちも達者でな」
「「はい!」」
当然の話であるが、魔術の基礎だけとはいえ習得し他者に教えられる様になるのであれば数ヶ月は最低でも必要だろう。そして光神の探索もすぐに終わるわけではない。
なのでソラも瞬もここで数ヶ月修行の日々を送ることになっていた。というわけで、二人はアイクと別れて花月に案内されて希桜の待つ首都へと、今度は陸路を進むことになるのだった。
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