第3503話 はるかな過去編 ――終幕――
未来の世界にて別の生命として再誕を果たしていた『強欲の罪』のコアたる『女王』。カイトとの戦いの敗戦により、一足先に未来の世界へと戻された『女王』が目覚めた一方。コアたる『女王』を討伐したカイトは、『女王』というコアを失ったことにより巨大な魔力の塊にも等しいだけとなった『強欲の罪』の本体を大魔王と共に削る作業に取り掛かっていた。
「はぁ……楽は楽だけど大変は大変だな」
「砲撃で削れる分だけまだ楽だろう」
「です……ねっ!」
『神』の両肩部と両腰に顕現させた魔導砲の砲口に光が宿り、巨大な光条が放たれる。流石に『星に比する巨人』並の大きさはないが、それでも『神』なぞ目でもない規模の大きさだ。狙わずとも当てられる。当てられるのだが、カイトの顔は渋かった。
「はぁ……削れるは削れるし外れもしないが……硬い。むっちゃ硬い」
「まぁ……謂わば今の状態でも『強欲の罪』そのものの性能が失われたわけではないからな」
「なんだよなぁ……っと」
『強欲の罪』のコアである『女王』を倒して失われたのは統率力とそして魔術等を使う知性的な行動力だ。『強欲の罪』そのものの性能が失われたわけではない。
なので本体が保有する障壁の強度等はほとんど変わっておらず、再生力ももちろん変わっていない。ランクSの魔物を消し飛ばせる一撃でも、せいぜい少し削れる程度だった。
「はぁ……この砲撃も厄介といえば厄介……まぁ、無視しても良いんだが」
「無視した所で防ぐのは私達だぞ。娘の手を煩わせる父はどうなのだ」
「へいへい」
『神』の背後に顕現した飛翔機にも似た装置から虹の粒子を撒き散らし、カイトは『強欲の罪』の本体から放たれる光条を回避する。そうして幾重にも重なる光条がギリギリを通り過ぎると共に、『神』の四門の魔導砲から砲撃を行う。
「大魔王様も頑張っちゃいるんだけど……ちょっと大変じゃすまないよなぁ……」
ちょうど自分達の逆側で起きる大爆発を見ながら、カイトは少しだけため息を吐く。起きた爆発に対して、削れた領域は少しだ。もちろん、それはカイト側も同様だ。というわけでため息を吐いていた彼にナコトが明言した。
「それでも『暴食の罪』よりは楽」
「そうだな……あいつは攻撃してはならない、とかいう超絶面倒だったし」
最盛期にはどちらが面倒かと問われれば『強欲の罪』ではあったが、雛や死に体の状況でどちらが面倒かと問われれば『暴食の罪』だとカイトは述べた。
まだ攻略方法を編み出した彼だから良いものの、攻略方法を知らなければ『暴食の罪』は倒そうとして逆効果にしかならないのだ。というわけで攻撃の効果が見える分だけ、『強欲の罪』の方が楽だった。
『なぜここで『暴食の罪』の名が?』
「また戦ったんっすよ、あいつと」
『た、倒したのですか?』
「倒してなかったらここにいませんねー」
『暴食の罪』の力はカイトと共に戦い抜いた双剣達もよく知っている。というわけで双剣の精霊達が驚きに包まれる一方で、カイトは『神』による砲撃を続行する。
「はぁ……とりあえず砲撃を続けてはいるんだが……削れている範囲が限定的すぎるな……ん?」
『カイにぃ! あにぃからこっち手伝ってやってくれって言われたんだが、砲撃やっても良いか!?』
「アイクか。おう! やっちまってくれ! だが地上は大丈夫なの……大丈夫か」
『俺がその分頑張るって』
「流石だよ、お前は」
『強欲の罪』の身体さえ貫いて天高く立ち昇る真紅の光条に、カイトは親友が本気で行動に入ったことを理解する。『女王』が討伐されている今、わざわざ統一軍に綿密な指揮を出して軍事行動を取らねばならないような状況ではない。あとは各個撃破でも事足りる。
ならばレックスが本気で戦って削っていく方が被害は減らせそうであった。というわけで『海の女王』からも放たれる無数の光条を見ながら、カイトはもう一度気合を入れる。
「よっしゃ。じゃあ、オレももうちょっと本気出すか」
「いつもいつも言うが、最初から本気でやってれば良いだろうに」
「本気は本気でやってるさ。ただまぁ……ちょっと遠慮してるってだけだ」
アル・アジフの指摘にカイトは笑う。そうして『神』の両手にバズーカ砲にも似た長大な魔導砲が顕現する。
「流石に六門同時は爆発力が違うだろ?」
「確かにな……共鳴効果で爆発力を増しておく。引き金の同期は任せておけ」
「あいよ」
今まで四門だった魔導砲が六門になり、更には一度に全てを発射して共鳴を起こさせて破壊力を増大させることにしたらしい。そうして、『海の女王』による砲撃も加った『強欲の罪』本体の削り切りが再開されるのだった。
さて『強欲の罪』の本体に向けた攻撃が開始されておよそ一日。面倒な融合がほとんどなくなったことにより地上での戦いは掃討戦の赴きが強くなり、あらかた片付いた所で今度はレックスや四騎士達も『強欲の罪』の削り取りに参加。更に勢いを増すことになるも、一日掛かりの作業はついに終わりを迎えることになる。
「これで、終わり! にしたい! 終わって!」
「いい加減やけっぱちになっているな」
「やけにもなるだろ……何時間だ? そろそろ本当に24時間経過するだろ」
朝日と共に繰り広げられていた『強欲の罪』本体、そして『女王』との戦いだが、終わってみれば次の朝日が昇っていたのだ。カイトが盛大に嫌気が差していたのは無理もなかった。
「24時間ぐらいは経過したね。私としてはゆっくり話せて良かったけど」
「そうだなー。お前が居てくれて本当に助かった。この苦行がまだ楽に感じられた」
先ほどまでの渋い顔が一変し、カイトはヴィヴィアンの言葉に笑顔を浮かべる。そうしてカイトによる最後の砲撃が放たれた後に起きた閃光が、収まった。
「……終わりか」
「うん、終わったね」
「よっしゃ……はぁ。『神』の顕現を24時間ぶっ続け、ってのは久しぶりにやったが。やっぱ疲れるもんだな」
「普通の輩であれば一時間も保たすことも出来んがな」
「ま、そこはオレだからな」
アル・アジフの指摘にカイトは笑う。と、そうして最後の一欠片が倒されたことを受けてだろう。『神』の眼前に大魔王が現れる。
「……」
『……』
変に言葉を交わすこともない。『強欲の罪』が討伐された以上、お互い元通り敵同士だ。だがそれはカイトにとっては過去のことで、おおよそ全てを理解している今にしてみれば特にどうでも良いことでもあった。
だが、大魔王の方はそうではない。大魔王はただ小さく、誰にもわからない程度にいろいろなことを踏まえて頭を下げて消え去った。魔族軍の本陣に戻ったのだろう。
「最初で最後の大将軍達との共闘か……面白いことも起きたもんだ」
『どの程度、マスターは覚えていることになるのでしょうか』
「さてなぁ……ま、だがこう出来たのも結局の所、オレが魔族さえ共生出来る世界を作ったからかもしれないなぁ」
双剣の精霊の言葉に、カイトは少しだけどうでも良さげに。しかし少しだけの感慨を抱きながらそう呟く。と、そんな彼の前で、巨大な雷鳴が轟いた。
「まだ地上は終わってない、か」
「終わらせるか?」
「そうしよう」
どうせここまでやったのだ。もうガッツリ戦うことにするか。カイトは『神』の顕現を解除すると、高空から戦場全体を確認。自身が顕現した最初と同じく、無数の武器を魔力で編む。そうして、地上の戦いを終わらせる破壊の雨が、戦場全域に降り注ぐのだった。
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