表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3521/3943

第3499話 はるかな過去編 ――対決――

 『強欲の罪(グリード)』。どこかの世界で一大帝国を気付くという魔物と類するにはあまりに文明的な行動を見せる魔物。後にそれとなる『強欲の罪(グリード)』の雛との戦いの最中にソラ達の縁を使い未来の世界から呼び出されたカイトであったが、まるで彼に呼応する様に『強欲の罪(グリード)』もまた未来の世界からの影響を受けることになる。

 そうして現れた未来の因子を利用して『女王』は世界の仲介者であるヴィヴィアン、大魔王を面白いと判断しつつも、カイトとの戦いの邪魔と判断。三人をそれぞれ隣接する別の空間へと飛ばし、ひとまずはカイトとの戦闘行動を開始。一進一退の戦闘になっていた。


「……」


 たんっ。『女王』を追撃するカイトが虚空を蹴る。そうして瞬間移動もかくやという速度で消えた彼が居た場所を、『女王』が放った光条が薙ぎ払う。


『凄まじいな。空間も次元も焼き払うか。位相をずらした程度では……どうしようもないか』

「力は兎も角として、培っている技術は失われていない。力任せならまだ楽なんだがな」

『父と同じか』

「そうだな」


 実際、カイト自身も未来の世界ではこの時代より遥かに出力が低下している。それを補うために数々の手札を手に入れたわけで、アル・アジフの指摘はまったくもって正しかった。と、そんな彼の苦みの乗った同意に、双剣の精霊達が反応する。


『若?』

『マスター?』

「すんません、本当に。馬鹿やっとります」


 言う必要もないかもしれないが、双剣の精霊達はカイトの現状を何も知らない。そもそもカイトが今手にしている得物が村正一門により拵えられた、この神剣を模した双剣なのだから当然だろう。

 というわけで少しばかり漂った剣呑な雰囲気に、カイトは笑いながら謝罪するばかりだ。だがこれに、双剣の精霊達が声を荒げる。


『若!』

『マスター!』

「だからすんません、ってば!」

『謝れば良いというものではありません! 何をやらかしたのですか!』

「今言っている場合か!?」


 移動した先にも迸る光条に、今度はカイトが思わず声を荒げる。相手は雛とはいえ『強欲の罪(グリード)』。そのコアだ。巫山戯て戦って勝てる相手ではなかった。と、そうして巫山戯ている様にしか見えない主従に、『女王』がへそを曲げたらしい。攻撃の苛烈さが増した。


「むぅ……妾はあまり無視されるのは好きではないぞ?」

「ちっ」


 自身を狙いながらも移動しそうな地点に向けて放たれる幾つもの光条に、カイトは思わず舌打ちする。その一つはカイトの移動地点を完全に直撃するコースで、足を止めるしかなかったのだ。


「……はぁ!」


 薙ぎ払う光条を斬り裂く様に、カイトは双剣を振るって斬撃を生み出す。そうして斬撃と光条が交わりひとまずの安全は確保出来たかに思われたが、そもそも足を止めた時点で駄目だった。


「っ」


 にたり。カイトは女王が楽しげに笑うのを一瞬だけだが確かに確認する。そうして足を止めた彼を取り囲む様に、地面から無数の闇の手が立ち昇る。


『舐めるな、化生』

『その手はかつて見ている』


 顕現した無数の闇の手が、双剣から放たれる神気によりその全てが消滅する。伊達に唯一永劫にも等しいカイトの旅路を支えてきたわけではない。宿す神気は並の神器とは比べ物にならないどころか、おそらく全ての世界を見回したとて同格の物は一つと存在しないだろう領域だ。

 生半可な攻撃であれば、双剣の神気だけで十分だった。そうして闇の手の包囲網を抜け出して、カイトは超速で虚空を駆け抜けながら『女王』を追撃する。だがその追撃が上手く行くことは滅多になかった。


「ちっ……FPSとかTPSで引き撃ちが常道ってのはマジだな」


 自身に距離を取りながら放たれる無数の魔弾に、カイトは盛大に顔を顰めつつもその場で停止。腰だめに構えて、無数の魔弾その全てを飲み込むほどに巨大な斬撃を放つ。が、そうして足を止めればまた『女王』の攻撃の餌食だ。


『何かしらの手を考えねば面倒が続くだけだぞ』

「わーってる」


 足を止めればその瞬間を狙い撃つ様に放たれる魔術を面倒臭そうに相殺するアル・アジフの声に、カイトも若干辟易した様子で渋い顔を浮かべる。そんな彼に、ナコトが指摘した。


『わかっているは良いけど、どう考えても時間稼ぎをされてる』

『ですね……若。若干の損害を覚悟で突っ込むべきでは?』

「怪我すりゃするで怒るくせに」

『それはそれ。これはこれです』

「さいですか……じゃ、やってやりますかね」


 カイトの言葉に双剣の精霊の片割れが楽しげに笑う。彼女らとて武器なのだ。主人が戦闘で怪我をすることは織り込んでいる。単に自分達の居ない所で主人が怪我――しかもかなりの程度の――をしたことが許せないだけだった。というわけで覚悟を決めて強引に突破するかと考えた主従へと、声が掛けられる。


「じゃ、私が居れば大丈夫かな」

「さっすが相棒様。ナイスタイミング」

「うん……それに」

「大魔王様か」


 自身が突貫するよりも前に『女王』の近辺で放たれた巨大な斬撃に、カイトは僅かにほくそ笑む。どうやら、二人にしていた足止めは突破されていたらしい。

 元々カイトとの連携なぞ考えていない大魔王は単騎『女王』を狙いに行き、カイトとの連携を主軸に考えるヴィヴィアンはいの一番に彼との合流を目指したというわけであった。


「よっしゃ……じゃ、やったりますか」

「うん」


 勝ったな。カイトは相棒の到着に喜色を浮かべ、自身の勝利を確信する。そうして楽しげなヴィヴィアンがカイトに先んじて虚空を蹴る。それに『女王』が気が付いて魔弾を投射する。


「はぁ!」


 虚空に叩きつける様に、巨大な斬撃をヴィヴィアンが放つ。そうして放たれた斬撃が魔弾を飲み込んで行き、一瞬だけ道を構築する。だが、そこに今度は無数の光剣が立ち塞がりヴィヴィアンの進撃を阻止する。


「カイト」

「オーライ」


 光剣が降り注いでヴィヴィアンの足止めを行うよりも前。その真横をカイトが通り抜ける。そうして背後に無数の光剣が降り注いで退路を防ぐのを背に、彼は一気に『女王』へと距離を詰める。


「む」

「生憎、オレは本来ソロプレイ派じゃないんでね」


 僅かな驚きを露わにする『女王』に、カイトは自分がかつてとは異なることを言外に告げる。そうして驚きを露わにする彼女に向けて、カイトは容赦なく剣戟を繰り出した。


「……ちっ」


 駄目だったか。カイトは自身の剣戟が空を切るのを感覚で理解する。空間を拡張され、斬撃が無限遠まで遠ざけられたのだ。


「ふぅ……危ない危ない。ああ、それは見えておるぞ」

「む!」


 カイトの攻撃を無力化した『女王』に向け、力任せに『女王』の攻撃を突破した大魔王が両手剣を振るう。だがその攻撃は『女王』が杖を振りかざしただけで食い止められる。


「流石に性急であろう……少し離れよ」

「っぅ!」


 カイトから視線を外さず、『女王』は大魔王に向けた杖を明後日の方向へと向けて大魔王をそちらへと吹き飛ばす。そうして大魔王を弾き飛ばした『女王』へと、カイトは左手を空けて問いかけた。


「なら、こういうのはどうだ?」

「む?」


 幾ら『女王』がカイトと戦った経験があろうと、それはあくまでも両者にとって過去の両者だ。そしてその時点で敗死した『女王』に先がなかったのに対して、カイトはそこから永遠にも等しい時間を歩んだ。転生して後は交戦した当時と比べ物にならない数の手札も入手した。読み切れなくとも無理はなかった。そうして空いた左手を注視する『女王』であるが、それはブラフだった。


「!?」


 カイトの背後から放たれる鋼の拳に、『女王』が思わず驚きを浮かべる。難敵が唐突に左手を空にして突き出せば誰でも警戒せざるを得ないだろう。しかもそれが当人による魔術行使なら防ぐことも出来たかもしれない。

 が、この鋼の拳は言うまでもなく彼が取り込んでいる魔導書達による『神』の顕現だ。幾ら『女王』でも発動の兆候を見抜くのは厳しかったようだ。とはいえ、流石は『強欲の罪(グリード)』のコア。ギリギリ対応を間に合わせる。


「危ないのう……『神』とは。夢現にでも見ておればこそ対応出来た」

「ちっ」

「返礼よ。有り難く、受け取るが良い!」


 舌打ちしたカイトへと、『女王』が杖の先端を向ける。そうして放たれたのは、カイトも知らぬどこかの世界の神の術式だった。


「ちぃ!」


 流石にカイトも見知らぬ神の術式を受けるつもりは毛頭ない。得体も知れない魔術から距離を取って、更に神剣による剣戟でどこかの神の魔術を斬り裂く。


「カイト!」

「あいよ!」


 カイトの斬撃で斬り裂かれた空間へとヴィヴィアンが突っ込む。が、流石に一気に突っ込めるほど『女王』は甘くはない。異変に気付いたカイトが声を上げた。


「ヴィ!」

「っ」

「よっと!」

「む……迷いがないのう」


 流石にこうも迷いがなければ自分の攻撃が外れるのは無理もない。カイトの声掛けで全てを察し、一切の迷いなく彼の転移術に身を委ねたヴィヴィアンに『女王』が僅かに苦笑する。普通はもっと逡巡したりするはずが、もはや本能の領域で身を委ねたのだ。間に合うはずがなかった。そうして広がる闇から逃れたヴィヴィアンをカイトが下ろす。


「ありがとう」

「どーいたしまして……さて。段々と攻め込めてきたかな」

「だね……うん。大魔王様も復帰かな。じゃあ、私達ももう少し頑張ろっか」

「おうとも」


 ヴィヴィアンの言葉にカイトが楽しげに応ずる。確かに『女王』は難敵だが、ヴィヴィアンまで居る今、負ける気なぞサラサラなかった。そうしてカイトとヴィヴィアン、そして大魔王の三人は再び『女王』へと攻めかかるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ