第3494話 はるかな過去編 ――別行動――
『強欲の罪』。どこかの世界で一大帝国を気付くという魔物と類するにはあまりに文明的な行動を見せる魔物。後にそれとなる『強欲の罪』の雛との戦いの最中にソラ達の縁を使い未来の世界から呼び出されたカイトは、自身の顕現を見抜いたヴィヴィアンと共に触手で出来た船を撃破するべく巨大な触手で出来た船の内部へと潜入する。そうして暫く移動していた二人を待っていたのは、王宮の謁見の間のような空間で騎士のような触手の人形であった。
そんな触手の騎士をヴィヴィアンが討伐した後。二人はというと謁見の間らしきエリア最奥の光球を調べていた。
「コアの概念……という所かな?」
「おそらくな。となれば……こいつを壊せば良いわけだが」
「妨害はもうなさそう……で良いかな」
触手の騎士はヴィヴィアンによって倒された後だ。そしてあの領域の個体を何体も生み出せるのであれば、最初から侵略に使っているだろう。こういった重要箇所を守らせるために配置しているというのであれば、必然数は少ないのだと思われた。というわけで、カイトが一歩コアらしき光球へと近付いた。
「とりあえず防衛システムのようなものはなし、と……さっきのあれが防衛システムじゃなければ、だが」
「防衛システムというよりも守護者じゃないかな」
「さてな……とりあえず停止……は無理そうか」
なにせコアだ。魔術を用いることで外的要因でコアを停止させることは確かに不可能ではないが、この規模の相手かつこの状況下で出来るとは到底カイトには思えなかった。そしてそんな彼の言葉にヴィヴィアンもまた同意する。
「コア、一つじゃなさそうだもんね」
「そういうこった……まぁ、壊しとけばとりあえずは外への影響が若干は低下させられそうか……?」
「出力は必然下がるから、やっておいて損はないんじゃない?」
「それもそうか……ヴィ」
「うん」
カイトの手招きを受けて、ヴィヴィアンが彼の後ろへと回り込む。別にこのコアを破壊した所で何が起きようと大した問題にはならないだろう二人だが、だからといって油断して良いかどうかは話が別だ。というわけで彼女を庇う様に更に一歩前に移動して、カイトは腰に帯びた双剣の片方を手に意識を集中させる。
(……やっぱコアっぽいが……そうなるとそうなるでまた摩訶不思議な状況ではあるが。ここはなんなんだ? 異空間ではあるんだろうが……それならどうやって外に魔力を送っている? この触手の船の内部……という概念になってるのか?)
どうなのだろうか。カイトは答えは出ないだろう疑問について考えながら、意識を研ぎ澄まして魔力の経路を読み解く。この規模かつ出力だ。最低でも生体コアとでも言うべき普通のコアが二つはある。ならばそこへの道筋の手がかりの一つ欲しい所であった。
(……駄目か? いや、この船が生物にせよそうでないにせよ、流路はないとおかしい。それは構造上の絶対だ)
この原理原則から外れることは幾ら『強欲の罪』が創り上げた触手の船であれ不可能。いや、不可能ではないがここまでの戦闘力は出せない。カイトは効率の側面から考えて、『強欲の罪』がそんな愚を犯すことはないと判断していた。そしてであるのなら、と彼は改めて意識を集中させる。
「……見付けた」
「わかるの?」
「頑張ったら、だがな……この光球が乗っている台座のすぐ下に触手が生えている。そこから外に繋がっているみたいだ」
「ということは壊して下から抜ければ出られる?」
「出してくれるとは思わんけどな」
ヴィヴィアンの問いかけにカイトは一つ笑う。確かに光球を収めている台座の下には触手があるが、カイトの見立てでは肉塊のようなものだ。なので通り抜けられるのは普通に考えれば魔力だけであった。が、普通でないのがこの二人だ。
「出してくれなくても良いよ……勝手に出るだけだからね」
「ごもっともで……良し。帰り方はわかった……あとの問題は他のコアをどう見つけるかだが……」
「共鳴とかはしてないの?」
「してるんだろうがなぁ……多分、この空間全体を炉に見立てているという所だろう。だから空間と空間で共鳴させてるんじゃないかな」
コアにせよ魔導炉にせよ、出力の高い方が力が強いのは当然だろう。だが実のところ、一つ一つの出力が弱い魔導炉を複数搭載するのと大規模な魔導炉を一つ搭載するのであれば複数個の魔導炉を搭載する方が高い出力を得られることが時々あった。
それは共鳴を用いて相乗効果を得て出力を増幅しているからで、普通の火力発電等とは違う魔導炉特有の現象だ。無論その分だけ制御は難しくなるので、そこは飛空艇の設計者と技士の腕の見せ所という所でもあった。
「うーん……じゃあ、この空間そのものを吹き飛ばした方が良いのかな?」
「いや、この一つを吹き飛ばしたところで他には影響はさほどないだろう」
「だよね……やるなら3ついっぺんにやりたい所だけど……」
ここに居るのは自分とカイトだけだ。ヴィヴィアンは次の一手を切るには自分達の乏しい手札に少しだけ悩ましげだ。
「……しゃーない。速攻を仕掛けるか」
「まぁ……出来なくはないと思うよ、私達なら」
「やるしかない以上、やるしかないさ」
色々と考えた所で面倒なことにこの異空間は外部と遮断されているし、触手の船の内部なのでコアを破壊しても残るコアが無事なら自然に再生する可能性は大いにある。
もちろん、コアの再生は本来は即座に出来ることではない。だが相手は『強欲の罪』。数多ある魔物の中の頂点だ。その猶予がどれだけかはわからないが、二人にはあまり猶予がないのだと理解できていた。というわけで二人は手早く打ち合わせを済ませることにした。
「とりあえずこの外には二つ、異空間があるはずだ。なら後は」
「この空間を破壊した後に強行突破、だね」
「オレ達らしくて良いだろ?」
「もちろん」
カイトの問いかけに、ヴィヴィアンが上機嫌に笑う。ここからやることは非常に簡単だ。この異空間を破壊すると同時に隣接していると思われる異空間の壁を破壊。隣接する異空間へと強引に潜入し、おそらくまたいるのだろう守護者らしい存在を斬り捨ててコアを破壊。しかる後に脱出だ。
というわけで方針が定まったことで、カイトは改めて意識を集中させる。だが今度は、無駄な思考は一切カット。ただ全てを斬り裂くのみを考えていた。
「……何分後に合流?」
「……五分ってとこかな」
「もっと猶予あると思うよ?」
「オレ達五分以上ってなったら遊びかねないだろ」
敵が再生するのではなく自分達が変なことをしかねないから。そんなカイトの指摘に、ヴィヴィアンが一瞬呆気にとられる。が、すぐに楽しげに吹き出した。
「あはは……そうだね。じゃ、五分で終わらせちゃおっか」
「おうともよ」
ヴィヴィアンの言葉に、カイトが楽しげに笑う。そうしてその次の瞬間、その周囲を斬り裂く大斬撃が放たれて空間ごとコアを両断。二人は異空間から外に出ることになるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




