第3493話 はるかな過去編 ――触手の船――
『強欲の罪』。かつてカイトが最強最悪の七体の魔物と呼び表した七体の魔物の一体。後のそうなる融合個体の存在を魔法もどきで変換する形で現れた無数の触手の人形に足止めを食らっていたカイト。そんな彼は魔導書に記された『神』を駆って宇宙にて星規模の『星に比する巨人』と戦う事になるのであるが、その討伐も終わり再び星に戻ってきていた。
そうして総司令部で小休止を挟んだ彼は、今度はアイク率いる『海の女王』に対抗して現れた触手の船団を相手にする事になっていた。というわけで今度は彼は数百メートル級の巨大な触手で出来た船をヴィヴィアンと共に相手にしていた。
「とりあえず!」
がんっ。カイトの背後から鋼の拳が顕現し、こちらの世界に乗り出そうとしていた巨大な触手の船の勢いを殺す。相変わらず触手という生物由来の素材のはずだが、殴り付けた衝撃音は金属質な音だった。そうして勢いが死んだ所に、ヴィヴィアンが大上段から大剣を振り下ろした。
「はぁ! っ」
振るわれた斬撃は戦艦級の触手の船を飲み込んで十分な範囲に及んでいる。そしてカイトが押し留めた結果、外れるという可能性もゼロに等しい。そうして直撃かと思われた斬撃であるが、その舳先に到達するかというかという瞬間、斬撃が唐突に消失する。と、それを察していたのだろう。即座にカイトがヴィヴィアンを魔術で引き寄せる。
「よっと」
「ありがと……これはその御礼かな!」
カイトにより引き寄せられたと同時。ヴィヴィアンが船底目掛けて斬撃を放つ。それは船底目掛けて一直線だが、やはり直前で食い止められる。そうして斬撃が消失した後には、半身が船と一体化した触手の人形が大剣を引き絞り今にも斬撃を放とうとしていた。
「ヴィ」
「りょーかい」
この距離は色々とマズい。カイトが腰を落とす一方、大剣の反動を利用してヴィヴィアンはその場から離脱する。そうして離れたと同時に、彼女が魔糸をカイトへと巻き付けて彼女が引っ張ると同時にカイトが居合い切りを放ち触手の人形の斬撃を相殺する。
「これもう人形の集合体なのか船なのかわかんねぇな」
「面倒だね、これはちょっと」
二人が距離を放つと同時に現れる何体もの半身の触手の人形に、カイトもヴィヴィアンも思わずため息を零す。半身だけの触手の人形の半分程度は右手が巨大な砲門になっており、その砲口は二人を狙っていた。これにカイトは指をスナップさせて盾を編み出す。
「やれやれ……いつかはこうなるだろうとは思っていたが。中途半端というかなんというか」
「それは良いけど、どうする? 出た途端に狙い撃ちだよ?」
「別に狙い撃ちなら問題はないだろ……接近と同時に斬り結ぶ事になるってのが面倒だな」
どうせ速度であればこちらの方が速いのだ。足を止められなければ砲撃を命中させられるような事にはならない。と、そうして盾の裏でどうするか話す二人であるが、ふと盾に激突する音が変わった事に気が付いた。
「なんだ?」
「甲高くなった?」
「っぽい……? んなっ」
魔力で編まれた盾を僅かに透明化させその先を見て、カイトが思わず頬を引きつらせる。
「おいおい……そんなのありか」
「どうしたの?」
「あいつら、硬質化した触手を撃ってやがる。それに気付くか」
めんどくせぇなぁ。カイトは『強欲の罪』の『女王』を見る。そちらは相変わらず自分を監視し続けているが、間違いなくその知識を利用しているのだと察した。
「ということは、先端に穿孔の概念を付与してる感じ?」
「そんな感じ……ちっ」
毎秒ものすごい勢いで削られていく盾とそれの修復に回す魔力の消耗に、カイトが僅かに舌打ちする。別にこの程度の消耗が苦になる事はないが、下手に放置してまた別の手段を思い付かれても厄介だ。故にカイトはヴィヴィアンと頷きを交わすと、ヴィヴィアンが大剣を後ろに引いてカイトが盾に回す魔力をコントロール。息を合わせる。
「「……」」
こくん。両者頷きを交わして、直後盾の顕現が解除。そうしてカイトがヴィヴィアンの後ろに回り込むと同時に、ヴィヴィアンの大剣が巨大な斬撃を生み出した。
「ほいよっと!」
ヴィヴィアンが斬撃を生み出した直後。カイトが彼女をお姫様抱っこの様に抱きかかえて、背に顕現させた羽を羽ばたかせて飛翔する。そうして甲板側に躍り出ると、今度は触手の人形もまた甲板側で生えてくる。
「速度は十分。貫通力も十分……じゃ、こういうのはどうだ!」
甲板側に躍り出ると同時に、カイトは無数に武器を魔力で編んで発射する。そうして放たれる武器の雨が触手の人形を貫いて、甲板へと突き刺さる。
「甲板は駄目っぽい?」
「さて……」
ヴィヴィアンの問いかけに、カイトは僅かにほくそ笑む。そして直後だ。甲板に突き刺さった武器の先端から魔力が光条の様に迸り、触手の船の内部で魔力が炸裂する。だが、閃光が僅かに外へ漏れるだけで内部から破壊とはならなかったようだ。
「……だめっぽい?」
「駄目っぽい」
ヴィヴィアンの言葉にカイトは苦笑いを浮かべながら認め彼女を虚空へと下ろす。まぁ、せいぜい触手の人形を掃討し面倒な魔弾の投射を一時的でも終わらせられたのが、良しと出来る程度だろう。というわけで小手先の技でなんとか出来る相手ではない、とカイトは判断する。
「……こりゃ、しゃーない。やりますか」
「それしかないかな」
「やりたくねぇなぁ……絶対何かあるもん」
「あはは……じゃあ、また『神』でも呼ぶ?」
『やらんぞ。こんな雑魚相手に』
「あらら」
アル・アジフの返答にヴィヴィアンがニコニコと笑う。というわけでカイトが双剣を抜き放つ。
「やれやれ……雑魚じゃないと思うんだがな」
『この程度で苦労する父か?』
「ま、苦戦なぞせんがね」
再度現れる触手の人形と再開する砲撃を瞬時に見切り、カイトは一直線に甲板に向けて降下する。そうして甲板に降り立ったと同時に、近くにいた触手の人形を両断。そのまま粉微塵にする。
「後始末ぐらいはしてくれよ」
『そのぐらいならしてやろう』
カイトの言葉に彼の長髪が動いて、虚空から呼び寄せた魔銃へと絡み付く。そうして彼が片付けた個体を双銃が焼き払い消滅させる。そうして彼が舞い降りて触手の人形を片付けると同時に、彼を取り囲む様に触手の人形がまた生えてくる。
「はぁ!」
生えてきた触手の人形をヴィヴィアンの大剣が頭から叩き潰す。そうして一体を2次元に圧縮した彼女の大剣が翻り、カイトの周囲の触手の人形を切り飛ばした。
「よっと」
切り飛ばされた触手の人形を見て、カイトは双剣を曲芸の様に上に放り投げる。そうして虚空から双銃を取り出すと、髪が掴んでいる双銃と合わせて四門の砲口から無数の魔弾が発射されて肉片を消し飛ばした。
『若……』
『マスター……かなり行儀が悪くなっております』
「戦場で行儀が悪いもなにもないだろ」
呆れた様に自身に苦言を呈する双剣の精霊達に笑いながら、カイトは舞い降りてきた双剣の柄を掴む。そうしてくるくると双剣を回して見栄を切って、甲板をぐるりと見回した。が、そんな彼に浮かぶのは嫌そうな顔だ。
「……入りたくないんだよなぁ、あれ」
「はいはい。やろっか」
「あいよ」
諦めようとは思ったものの、やはり気後れはしているらしい。船であるのなら艦橋とでも言うべき形状のちょうど甲板との接合部には扉らしいものがあり、いかにもここから中に入れますよといわんばかりであった。というわけで周囲の安全を確保したことでカイトが扉を蹴破るが、その先には真っ暗闇が広がっていた。
「……」
「行こっか」
「あい」
これ明らかに罠しかないよな。カイトは思わず肩を落とすわけであるが、外から壊せないのであれば中からやるしかないのだ。というわけで、二人は暗闇の中へと突入するのだった。




