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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3492話 はるかな過去編 ――『海戦』――

 『強欲の罪(グリード)』。かつてカイトが最強最悪の七体の魔物と呼び表した七体の魔物の一体。後のそうなる融合個体の存在を魔法もどきで変換する形で現れた無数の触手の人形に足止めを食らっていたカイト。そんな彼は魔導書に記された『神』を駆って宇宙にて星規模の『星に比する巨人(ウルリクムミ)』と戦う事になるのであるが、その討伐も終わり再び星に戻ってきていた。

 そうして総司令部へとなんとか戻ってきたカイトであるが、そんな彼は少しの休憩を挟んで今度はアイク率いる『海の女王クイーン・オブ・オーシャン』に対抗して現れた触手の船を相手にする事になっていた。


「ふぅ……」


 触手の船とは言うものの、実際には触手の盾等と似た硬質化した触手で構成された船という所だろう。ただ普通と違う点があるとするのなら、それはおそらくここだろう。


(なるほど……生きた船というべきか、それとも船を模した触手というべきか……流石に『強欲の罪(グリード)』とはいえ飛翔機の情報もなく浮遊させられるわけはないか)


 本当にこの状態での『強欲の罪(グリード)』ならばまだ与し易いんだがなぁ。カイトは飛空術というある意味原始的な手段で大空に浮かぶ触手の船を見ながらそう思う。

 魔術を使うという事はすなわち、生きているという事に他ならなかった。というわけで触手の船の内部構造を読み取り、一撃で撃破するにはと考えつつ彼は更に考察を進める。


(やはり進歩は見えているな……放置すればするほど厄介になる。ある意味成長こそがこいつの真に厄介な所かもしれん。本当に、ここで仕留めきれるのなら仕留め切りたいが……それが叶わんのが悲しい所だな……)


 何度も言われているが、この『強欲の罪(グリード)』はあくまでも雛。まだ『強欲の罪(グリード)』とは呼べない個体だ。なので完全な討伐は未来の、もしくは過去の自身に任せるしかない。だがその面倒さを知っているからこそ、カイトにはここで仕留めておきたい、という願望があったようだ。無論当人もそれが叶わぬ願いである事は重々承知している様子ではあったが。


(ま……生きているおかげで魔導炉じゃなくコアがある形になっているわけだし、魔導砲に見える物は魔導砲を模した魔力を発射する器官というわけで……魔導砲を壊しても再生可能。狙うならば……)


 コアの一点のみ。カイトはこれが生きた船であるからこそ、弱点のコアを狙い撃つしかないと判断する。そうして彼の目に僅かに、真紅の光が宿る。


「……ふっ」


 カイトの口から小さく、吐息が溢れた。そうして放たれた矢は閃光と見紛うばかりの速度で一直線に飛翔。一秒と経たぬ間に浮遊する触手の船の半ばを貫いた。


「……」


 生産の効率化のためか、それともそれで十分と判断していたのか。カイトにもどちらかはわからないが、触手の船に内包されているコアは一つ限りだった。

 そして幾ら『強欲の罪(グリード)』が作ったとはいえ、そして狭間の世界で生まれた魔物とはいえ、生命の基本原則。コアの復元は難しいという道理から大きく外れられるわけではない。故に彼の正確無比な一射でコアを貫かれた触手の船は爆発し炎上。墜落していくしかなかった。そうして一隻が墜落していく様を横目に、カイトは続けざまに矢を放ち一射一隻仕留めていく。


『うぉ、すっげぇ。カイにぃ。弓上手くなってるんだな』

「弓が上手くなった、ってよりも見抜く力が強くなったって感じだ」


 おそらく弓術の正確さであれば、この時代のカイトであったとてこの程度は余裕で出来ていただろう。ただ違うとするのなら、今のカイトは武芸者としての薫陶を得ているという所だ。故に感覚はこの時代のカイトより遥かに研ぎ澄まされており、彼では到底不可能な領域での正確無比な速射を可能としていた。


「ま、そう言っても結局この時代のオレなら出力頼みで破壊出来るんだろうけどな……アイク。今の内に少し艦隊を引かせろ。白兵戦で負けるお前らとは思えんが、囲まれてフルボッコは流石に厳しいだろ」

『わりぃ……帆を張れ! カイにぃが時間を稼いでくれている間に、本陣に船を近付けて防衛戦を構築すっぞ!』

「「「おう!」」」


 アイクの指揮を受けて、『海の女王クイーン・オブ・オーシャン』の船員達が声を荒げる。大空を大海の如く進む『海の女王クイーン・オブ・オーシャン』も一応は船。飛翔機があるわけではないのだ。飛空艇の様に前後左右自由自在に動けるわけではなかった。というわけで帆を張って動き出した『海の女王クイーン・オブ・オーシャン』を背に、カイトは世界の裂け目から現れる無数の小型の触手の船を正面に見据える。と、そんな世界の裂け目から、ひときわ巨大な触手の船が現れた。


「……む」


 今まで見ていた小型の触手の船は謂わば駆逐艦のようなものなのだろう。カイトの前では無意味なものだったが機動力が高いが攻撃力も防御力も乏しかった。が、今度現れた触手の船は所謂巡洋艦等に該当するのか、コアの数も二つに増えて火力も防御力も増している様子だった。

 というわけで前後に一つずつ内包しているコアを一息に貫こうと呼吸を整え弓を引き絞るカイトであるが、その瞬間。僅かに眉がピクリと動いて視線が外れた。


「大きいものは私の方で片付けるよ。カイトは数を」

「あいよ」


 カイトが視線を外した理由。それはカイトが矢を射るよりも前に巨大な斬撃が触手の船を左右に両断せしめたからだ。というわけで一撃でコアを二つとも両断された巡洋艦級の触手の船が左右に分かれて墜落していく。その左右の残骸も続けざまに放たれたヴィヴィアンの斬撃により、跡形もなく消し飛んでいた。そうしてアイクの『海の女王クイーン・オブ・オーシャン』が撤退する時間を稼ぐこと暫く。更に巨大な触手の船が現れる。


「……おいおい」


 今までの巡洋艦級よりも更に上。例えるのであれば戦艦級とでも言うべき巨大な触手の船が世界の亀裂の先に現れたのを見て、流石にカイトも思わず苦笑いを浮かべる。そしてこれにヴィヴィアンもまた思わず笑っていた。


「これはちょっと一撃で切り裂けそうにはないね。どうしよっか」

「どうするもこうするもないだろ。仕留めるしかない」

「それはそうだけどね」


 カイトの言葉にヴィヴィアンもまた同意する。彼の言う通り、ここで仕留める以外に手はない。何よりこれが上空で暴れ回って地上へ爆撃でも開始すれば面倒この上ない事なぞ明白だ。とはいえ、流石にこれに掛かりきりになるとしても今度は駆逐艦級や巡洋艦級をどうするか悩ましい所ではあった。というわけで少しだけ戦略を構築するわけであったが、悩む必要はなかったようだ。


「「!?」」


 ばりばりばり。雷鳴が轟いて、駆逐艦級や巡洋艦級が消し炭になって灰が舞い落ちていく。その灰も続けざまに迸る雷撃により焼き尽くされ、ただの一つも地面までたどり着く事はなかった。


「……」


 ばちっ、ばちっ。そんな音が聞こえてきそうなほどに巨大な稲妻を宿し、リヒトが剣を掲げる。すると<<雷鳴剣>>へと巨大な紫電が宿り、彼がそれを振り下ろすと共に紫電が解き放たれる。そうしてとく放たれた紫電が触手の艦隊を薙ぎ払い、消し炭にしていく。


「流石、開祖様か……こりゃ負けてらんねぇな」

「心配する必要がなくなったし……やる?」

「やらいでか」


 ヴィヴィアンの問いかけに、カイトは弓を消失させて双剣を取り出す。そうして、二人は艦隊の雑魚を焼き尽くす雷の合間を縫って巨大な触手の船へと突撃するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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