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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3492話 はるかな過去編 ――小休止――

 『強欲の罪(グリード)』。かつてカイトが最強最悪の七体の魔物と呼び表した七体の魔物の一体。後のそうなる融合個体の存在を魔法もどきで変換する形で現れた無数の触手の人形に足止めを食らっていたカイト。そんな彼は魔導書に記された『神』を駆って宇宙にて星規模の『星に比する巨人(ウルリクムミ)』と戦う事になるのであるが、その討伐も終わり再び星に戻ってきていた。

 が、そんな彼を出迎えたのはこの時代の仲間達ではなく、自らから切り離した触手の塊を魔法もどきで変換。触手の人形とする事で顕現した無数の触手の人形の軍勢であった。というわけで無数の触手の人形との交戦に臨んでいたカイトとヴィヴィアンであるが、流石にあまり足止めされてばかりもと判断したマーリンの介入によりなんとか総司令部に帰り着いていた。


「はぁ……たっだいまー……まーた派手にやってんなぁ。フラウの魔導砲か? 大空で海戦ってのはいつ見ても面白いもんだな」

『おう……そっちでもやっぱりこんな事出来るのって俺ぐらいなのか?』

「そりゃそうだろ。誰がどう考えたら船を大空に浮かべるなんて発想が出来るんだよ」


 アイクの言葉にカイトは楽しげに『海の女王クイーン・オブ・オーシャン』とその周辺の『海』を見る。あの『海』は海の概念そのものにも近く、浮かんでいるというよりも浮いているという方が近かった。


「つーか、まーじで海戦だもんなぁ、あれ……色々と珍しい物を見てきたが、この光景は見れなかったなぁ……」


 とはいえそろそろ対抗策の一つや二つは打たれそうではあるな。カイトは『海の女王クイーン・オブ・オーシャン』の奮戦を見ながらそう思う。と、そんな彼に声が掛けられる。


「あんたから見てどう思うの?」

「うーん……まぁ、機動力は乏しいな」


 やはり比較対象となるのが自身が率いるマクダウェル家の艦隊だからだろう。原始的な手段とも言える『海』の概念を周囲に展開する事で浮遊する『海の女王クイーン・オブ・オーシャン』についてそう思う。とはいえ、上回っている部分がないわけではない。


「ただ総合的な火力だとこっちが上だろう。まぁ、アイクの実力に量産可能な技術で追い付こうってのが馬鹿げた話ではあるんだけどさ」


 敢えて言うのであれば空を飛ぶ要塞。カイトは『海の女王クイーン・オブ・オーシャン』を見ながらそう思う。サイズやそもそもの成り立ち等から比較して良いものではないが、エネフィアであればレガドを小型化し戦闘に特化させたようなものと考えて良いだろう。

 しかも中に居るのは技術は兎も角総合的な戦闘力であれば武蔵を上回るだろうアイクだ。そしてもちろん、彼が率いる海兵達も武蔵の道場の剣士達と同等以上の実力者揃いだ。この無数の融合個体、『狭間の魔物』がひしめき合う戦場でも墜落する様子は一切見られていなかった。


「……なんだよ」

「やっぱり不思議というかなんというか。私のカイトはもっと馬鹿」

「ひっでぇなぁ……」


 大魔王と同じく世界を荒らす者(魔王)であった時には大抵、ヴィヴィアン達が共にいた。そうでなく最後に死ぬとしてもヒメアやレックス達と共にあれた時は必ず最初から彼女が一緒に居た。

 そのどちらもなく、単にどこにでも居る少年として転生した事はほとんど、下手をすると彼が記憶する限り一度もなかったかもしれなかった。というわけで色々と理由があっての現状を思いつつ、カイトは遠くを見詰める。


「ま、色々とあったのさ……お前を抱きしめたくなるぐらいにはな」

「……」


 ああ、この男は本当に自分を愛してくれているのだろう。ヒメアはカイトがこちらを見る事もなく告げる言葉にそう思う。それがどうしてこちらを見ないのかもわからない。顔を見せないのかもわからない。そうして彼がぽつりと呟いた。


「……はぁ。馬鹿だと駄目だったんだよ、結局は。この時代のオレは良くも悪くも、騎士である事に拘り過ぎた」

「私の騎士だったら不満ってわけ?」

「違うさ……姫様の騎士で居続けたい。今の関係のままで居続けたい……そう思っていた。オレも、な」

「っ」


 そんなものは誰よりも自分が一番理解している。ヒメアはカイトの言葉に顔を歪ませる。一歩を踏み出す事が怖かった。幼馴染という普遍的であればこそ崩されない安寧を続けたかった。お互いの立場や様々な建前もある。何もかもを崩しかねない一歩を踏み出せなかった。


「……ま、そういうわけさ」


 これで何かが変わるわけでもない。どうせここでの事は記憶からも記録からも消される。自分がここに居た事は誰も知らないし、レックス達も必要な時まで自分の介入の事を忘れる。ヒメアに至ってはその前に死ぬのだ。この言葉に、ヒメアに不安を与える以外に意味なぞなかった。というわけでそんな不安を振り払う様に、ヒメアが口を開いた。


「……それでも、私は死んでも貴方を信じ……あい」

「ストップ……それがどれだけ勇気を出してくれたかもわかってる。オレが一番聞きたい言葉だってのもある……けどだからこそ、それは言わないでくれ」


 聞きたいからこそ。言いたいからこそ。そして分かるからこそ。カイトは自分が抱えるどうしようもない感情を理解し、いつか出会うヒメアもまたそうだと分かるからこそ、ここで彼女に言わせるわけにはいかなかった。そしてそれが何故かを語られずとも、カイトがなぜ自分に言わせなかったかをヒメアは理解する。


「……わかった。でも絶対言うから」

「おう」

「あのー……戦場でイチャイチャしないでくれませんかねー」


 覚悟は決まった。喩えこれが一夜の夢であっても、この男と添い遂げると心に決めたのだ。そしてそれを未来のカイトとはいえ受け入れてくれたのだ。ならばいつか一歩を必ず踏み出して見せる。そう決めたヒメアへと、手をうちわの様に仰ぎながらベルナデットが非常に楽しげに苦言を呈する。これにヒメアが顔を真っ赤に染め上げた。


「っぅ!? 見てたの!?」

「見られてたな、最初から」

「気付いてたの!?」


 それを知っていて平然と振る舞えるか、この男は。ヒメアはカイトの言葉に更に顔を真っ赤に染め声を荒げた。だがこれに、カイトは何を今更と言わんばかりであった。


「そりゃ総司令部に総大将が控えてて何ら不思議もないだろ」

「そうですよー……どうしました?」

「お前は気にするな……オレの尻拭いはオレがやるし、姫様のフォローもオレがやる。これにオレが望んだ事だ。姫様も自分が責任を取るって言ったんだ。これは、オレ達が二人で乗り越えないと駄目な事だ」

「あはは……隠せませんねー」


 自分が抱える後ろめたさのようなものを見抜かれて放たれる言葉に、ベルナデットは苦笑いだ。とはいえ、これはもしこのカイトが未来のカイトではなくこの時代のカイトであったとて気付いただろう。


「本当に大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ……ま、お前ならその先も分かるだろ」

「予想は半分という所ですよー……そうならなければとは思いますがー……」

「お前のならなければと思う、ってのはそうなったと理解している言葉だな」

「……」


 おそらくこの先、ヒメアは相当な心労を受ける事になるのだろう。それこそ、精神が壊れてしまうほどには。それを親友として支えられない事がベルナデットには何より心苦しかった。だからこそ、彼女はカイトへと問いかける。


「……お願いして、良いんですね?」

「当たり前だ。そういうものなんだろ? まだ知らないんだけどさ」

「ふふ……私も、まだ実感はありませんよー。レックス様もお忙しいですからー」


 最悪の事態だけは避けられている事を喜ぶべきなのだろう。ベルナデットは理性としてそう思う。そんな彼女にカイトは笑った。


「ったく……ヒドい旦那様だこって」

「ですよー」

『ちょっと!? 俺頑張ってるのになんで裏で貶されてるんだ!? てかカイト! 戻ったなら言ってくれよ!』

「あははは。ただいまー」


 声を荒げるレックスに、カイトが楽しげに笑いながら応ずる。というわけで少ししんみりとした空気が流れていたわけであるが、カイトは気を取り直して思考を戦闘モードに切り替える。


「っしゃ。で、どうよ?」

「ああ、そうですねー。おそらくそろそろあちらへの対抗策が打たれる頃ではないかと」

「あー……やっぱり?」


 ベルナデットが見るのは『海の女王クイーン・オブ・オーシャン』だ。これにカイトも同じく『海の女王クイーン・オブ・オーシャン』を見てなんとなく理解はしていた通りだという様子であった。


「ええ……そろそろ、かと」

『ベルねぇ? それマジ?』

「マジですよー。そりゃそんな厄介な要塞、残しておきたいわけないですよー」


 軽いなぁ。カイトもヒメアも相変わらずお気楽な様子を滲ませるベルナデットにそう思う。そしてそんな彼に、彼女はしかしと告げる。


「ですがそのためにカイト様に戻ってきてもらってここで休憩して頂いておりますからー。安心して大丈夫ですよー」

『あ、そうなのか。なら安心だ』

「おいおい……そんな信頼されてもオレはお前が知ってるオレじゃねぇんだが」

『カイにぃはカイにぃだろ。確かに色々と違うけどよ。根っこは同じカイにぃだ。姫ねぇと話す時の様子でそれが分かる』

「お前らは全員オレがヒメアと話す時の様子を判断基準にするなよ」


 それだけ自分の事を良く見てくれているという事なんだろうが。カイトはアイクの言葉に少しだけ恥ずかしげに笑う。と、そんな事を話しているとだ。案の定の事が起きる。


「なんだ!?」

「多分、来ますねー……飛空艇もどき、とでも言いましょうかー」

「あー……そうなるのね」


 バリバリバリ。そんな音が響きながらこの世界に現れるのは、硬質化した触手で構成された巨大な船だ。その上には『海の女王クイーン・オブ・オーシャン』同様にいくつもの魔導砲が備え付けられており、砲門には光が宿り発射を今か今かと待ちわびていた。そうして触手の船がこちら側に完全に入り込んだと同時。それら魔導砲が一斉に火を吹いた。


『っとぉ!? って、え?』

「さてさて……姫様」

「……ええ、いってらっしゃい。この程度は良いわよね?」

「もちろん」


 ヒメアの言葉に背を押され、カイトがヴィヴィアンと共に再び空中へと舞い上がる。そうして、カイトは今度は『海の女王クイーン・オブ・オーシャン』防衛戦に乗り出す事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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