第3491話 はるかな過去編 ――足止め――
『狭間の魔物』による侵略を受け召喚された未来の世界のカイト。そんな彼の出現により『狭間の魔物』こと『強欲の罪』との戦いは次の段階へと移行。<<青の騎士団>>との合流したカイトは死者の召喚を執り行うと、彼の呼びかけに呼応する形でかつてこの世界で名を馳せた騎士達が現れる。
それに護りを任せたカイトはというと『強欲の罪』との戦いに臨もうとするのであるが、それを阻む様に星にも匹敵するサイズの巨大な融合個体が出現。あわや星ごと壊滅という事態に陥りそうになるのであるが、カイトはなんとか『星に比する巨人』を星から引き剥がすと一時間近くにも及んだ戦いの末、なんとかその討伐に成功。総司令部から少し離れた所へと着陸するわけであるが、そんな彼を出迎えたのは魔法もどきのもう一つ別の使い方だった。
というわけで融合個体の存在を魔法もどきで変換する形で現れた無数の触手の人形を蹴散らしながら、カイトは総司令部を目指して進んでいた。
「はぁ!」
気合一閃。カイトが大剣を振るい、数体纏めて触手の人形を葬り去る。今回重要視するべきなのは、跡形も残さず消し飛ばす事と如何に数を減らすかという所だ。というわけで現れた触手の人形は面倒だろうと全て討伐仕切る必要があった。
「多いな! 本当に!」
「倒しても倒しても湧いてくるね!」
言うまでもない事であるが、この二人の戦闘力と触手の人形の戦闘力は比べるべくもない。幾ら相手が盾を構えていようと数体纏めて斬り捨てる事は造作もない事で、現に二人共そうしていた。
が、如何せんそもそもの敵の数が多すぎるし、ある程度のサイズがあれば魔法もどきによる存在変換は出来てしまうらしい。倒しても倒しても融合個体の中から出てくる触手の人形にカイトは若干辟易としていた。
「ふぅ……」
何十体目かを切り捨てて、カイトは僅かに乱れる呼吸を整える。そうして彼は呼吸を整えながら、真上にいる『強欲の罪』を見上げた。
(何を考えている? 奴は……『強欲の罪』の特徴は二つ。一つはこの触手による侵食。もう一つは高度な知的レベルを用いる事による侵略……こいつがまだ雛である事を差っ引いたとて、何か意図があるはずだ)
カイトはかつての記憶を引っ張り出し、最後は銀河に跨る大帝国を築き上げていた『強欲の罪』とそれとの最終決戦を繰り広げた自分を思い出す。
『貴様だけは取り込まぬぞ、人ならざるモノよ』
『そいつぁ、光栄! オレも触手になんぞになって堪るかよ!』
『貴様は取り込まぬだけで妾のペットとして飼ってやるというだけだ。そして貴様にはこの世全てが妾の物となる瞬間を見せてやろう』
おそらく一個人対一個人が繰り広げた戦いの中では最大規模のものだろう。星の海で宇宙服も着用せず、『強欲の罪』のコアたる『女王』とカイトは戦いを繰り広げていた。そしてその一撃一撃は牽制でさえ数十キロの範囲を破壊し尽くすもので、両者の実力のほどが伺い知れた。
そうして『女王』が触手が硬質化したかのような杖を振るい、カイトへと太陽よりも強い輝きを放つ光球を無数に放つ。それは星の半分を焼き尽くしてなお余りある攻撃だ。だがここは宇宙空間。星の半分程度の距離なぞあってないが如しだ。
『おっと!』
『ふふ……良いぞ良いぞ。ペットは元気でなくてはな』
『ペットも御免被る!』
一撃で星の半分を焼き尽くす光球を移動しながら回避。カイトは『女王』へと軽口を叩きながら、一方方向に集めた光球を星何個ぶんにも及ぶ範囲の斬撃で斬り捨てる。そうして月にも匹敵するサイズの巨大な閃光が生まれ、両者の姿が一瞬だけ隠れる。が、そんな閃光が『女王』の杖に取り込まれた。
『これこれ。拒むでない……妾はペットの世話はきちんとするぞ? 去勢なぞもせぬ。繁殖せねばならんからな。なんならこの妾が貴様の仔の母体となってやってもよい。ああ、それは良いな。夜には貴様の鳴き声を聞かせておくれ。毎夜毎夜。妾の手で。口で。舌で……欲しければ耳元で愛の言葉も存分に囁いてやろう。そのかわりとして妾の肚へその種を捧げ、屈辱と快楽でよがり、苦しむ声を妾へ聞かせよ』
『気持ち悪い事言うんじゃねぇ!』
所詮、『強欲の罪』にとってコアの『女王』はいくつもある肉体の一つというだけに過ぎない。一応単なる一個体だけでは色々と不都合があるのか、人格のようなものをいくつか形成して相互に承認や検証を行っているらしく、『女王』とはその統括を行う存在に近いのでは、というのは『強欲の罪』との戦いを経た後のカイトの推測だ。
とまぁ、それはさておき。そういうわけなので『強欲の罪』の『女王』は自分自身についてどうとも思っておらず、カイトの番、もしくは繁殖相手に自らがなる事に気持ち悪さ等微塵も感じていない様子であった。
『カイト。随分気に入られたなぁ』
『嬉しかねぇよ! つか気に入られてねぇよな、これ! どう考えても自分を削りまくってるから怒ってるだけだよな!? さっきの言葉、どう考えても性奴隷扱いだぞ!?』
『『女王』、見た目だけなら特級だぜ? そんじょそこらの娼館じゃお目にかかれねぇクラスだ。てか見たことねぇな』
『うるせぇ! じゃあ、てめぇらが飼われろや!』
この時代の仲間達の声が響く。それは若干の柄の悪さが滲んでいたものの、同時にだからこそ意思の強さも滲んでいた。
『『『そりゃ御免被る』』』
『てめぇらなぁ! こっちは大変なんだぞ!』
『こっちも大変だ……あぁ、また増援だ。あの触星をなんとかしねぇとどうにもなんねぇか』
触星。それは『強欲の罪』達の本体となる超巨大な星だ。そのサイズはもはや恒星規模で、そこから無数の触手で出来た星を渡る船が現れていた。
が、そんな無数の触手の艦隊はカイトと同じく素で宇宙空間を渡る猛者達により、何千何百と破壊されていた。この戦いではすでに政府はあてにならなかった。ゆえに奮戦しているのは、いくつもの星星で名を馳せた英雄達だった。そんなかつての戦いをカイトは思い出しながら、僅かな推察を繰り広げる。
(おそらくあれは触星の素体だろうな……流石に宇宙戦艦はまだ無理か。だが……飛空艇の一つや二つぐらいなら出来ても不思議はないだろうが……)
一応、その話はレックスにしているから万が一でも混乱状態には陥らないとは思うんだが。カイトも『強欲の罪』がどこでどういう存在を取り込んだかわからないが、飛空艇程度であれば十分に知りえる可能性はあると考えていた。なので切り札としてそれを使われる可能性は十分に考慮するべきと考えており、レックスにもその旨は共有していた。
(てか今思えばオレ以上に傲慢だったな、あの『女王』)
正しく女王と言われればそれまでではある。カイトは戦いの最中に何度となく自分をペットとして扱おうとした『女王』の言葉を思い出し、自身の果てである『傲慢の罪』よりある意味傲慢だったかも、と僅かに笑う。と、そんな彼にヴィヴィアンが告げる。
「ねぇ、カイト。気付いてる?」
「何が?」
「あの女の子? じーっとこっちを見てるよ」
「はぁ……まぁ、そうだな」
それだけ警戒されているという事だろう。カイトは相変わらず自分を監視し続ける女王に対して苦い顔だ。そんな事を話しながらも討伐を続け、そろそろ次の増援かと思われた頃合い。なぜか増援が現れず、気付けば全て討伐出来ていた。それにカイトが困惑を浮かべる。
「あれ?」
「ふふ……君をじーっと見詰めているものだから、私の方への注意がおろそかになってしまっていたみたいだ。随分気に入られたみたいだね」
「マーリンさん……気に入られたんじゃなくて警戒されているだけですよ」
「わかってるよ……幻術で君達の姿を隠した。流石にこのまま無限に増援が来られても堪ったものじゃないからね」
このままカイトの足止めをされ続けても面倒。そう考えたマーリンはカイトを総司令部へと戻すべく手を貸したらしい。
「さ、戻ろうか」
「はい」
「うん」
マーリンの言葉にカイトとヴィヴィアンが同意する。そうして、三人はそこから先はほぼ足止めを食らう事なく総司令部へと帰還するのだった。
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