第3490話 はるかな過去編 ――帰還の途――
『狭間の魔物』による侵略を受け召喚された未来の世界のカイト。そんな彼の出現により『狭間の魔物』こと『強欲の罪』との戦いは次の段階へと移行。<<青の騎士団>>との合流したカイトは死者の召喚を執り行うと、彼の呼びかけに呼応する形でかつてこの世界で名を馳せた騎士達が現れる。
それに護りを任せたカイトはというと『強欲の罪』との戦いに臨もうとするのであるが、それを阻む様に星にも匹敵するサイズの巨大な融合個体が出現。あわや星ごと壊滅という事態に陥りそうになるのであるが、カイトはなんとか『星に比する巨人』を星から引き剥がすと一時間近くにも及んだ戦いの末、なんとかその討伐に成功する。
「やれやれ……幾らオレが『神』を呼べるからとこいつは割ときつかぁねぇかね」
「でも父様でなかったら無理」
「まぁなぁ……これが数百年後のレックスなら余裕でやっちまうだろうが」
流石に今は無理だな。カイトは数百年先にある最後の別れの直前に行った手合わせを思い出して楽しげに笑う。今のカイトにとってレックスとの最後の記憶。未来でありながら過去でもあるという複雑な時間の中にある忘れ難き記憶。あそこで振るわれた武芸の数々はもはや神業にも等しい領域に引き上げられており、今の自分より上だったとはっきり断言させるものであった。
「とはいえ、それはまだ未来だ。今はまだ……ならばこそ、オレがやるしかねぇさ」
「なら戻る?」
「戻りたい所だが……レックス。聞こえるか?」
『カイトか! 今どこだ!? 『神』を呼んだ所までは理解出来たんだけどさ!』
「今? 今は……まぁ、宇宙……簡単に言うと星の海だ」
『?』
良くわからん事を。カイトの返答にレックスが困惑気味な顔を浮かべる。とはいえ、そんな事を話していられる状況ではない事は誰よりも彼がわかっている。
『まぁ、良いか。とりあえず戻れそうなのか?』
「ああ、戻れる……ただ時間は掛かりそうだが」
まぁ、こうなるだろうな。カイトはまるで自身の帰還を妨害するかの様に現れる無数の魔物の群れに、思わず苦笑いを浮かべる。『強欲の罪』が自分についてどこまで気付いているかは定かではないが、間違いなく『強欲の罪』にとって厄介と言える相手と認識されている事は間違いない。ならば可能な限りその合流を阻害しようと思うのは自然の摂理だろう。
とはいえ、同時に流石に『星に比する巨人』ほどの厄介そうな相手は見受けられなかった。というわけで、カイトは頭を掻きながらはっきりと告げる。
「ま、なんとか戻るよ……こっちで片付けた方が都合が良い相手も多そうだしな」
やはり巨大な魔物に関しては『強欲の罪』も星の近くに呼び出すつもりはなかったようだ。そしてこれが幸か不幸かは定かではないが、宇宙に住む魔物を呼び寄せるセントエルモの火のような力は『暴食の罪』ほどではないらしい。守護者なしでもなんとかなる可能性は高かった。というわけで最低でも『神』以上のサイズを誇る魔物の群れを見ながら、カイトは<<バルザイの偃月刀>>を顕現させる。
「やれやれ……面倒が多そうだ」
この調子だと面倒の度合いは『強欲の罪』も『暴食の罪』もさほど変わらないだろうな。カイトはそんな様子で諦め半分で融合個体の群れに突撃していく。そんな彼に、アル・アジフが少しだけ笑いながら問いかけた。
「だが父よ。『暴食の罪』の時ほど、悲壮感を感じんぞ?」
「あたりめぇよ! こんな程度で負けられるほど、オレはヤワじゃねぇんでな!」
何より幼馴染達が見ている前だ。しかも人類の切り札として、呼び出されているのである。ならば気合の一つは入るし、見栄の一つも張りたい所であった。というわけで、状況の悪さに反してカイトはやる気に満ち溢れていたのであった。そうして、鋼の『神』による掃討戦が繰り広げられていくのだった。
さて『星に比する巨人』の討伐からおよそ30分。はるか彼方で『星に比する巨人』と戦い、その後戻りに『強欲の罪』が操る無数の巨大な融合個体との交戦を繰り広げる事になったカイト。そんな彼はなんとか世界の壁を引き裂いて現れた融合個体の群れを殲滅し、なんとか星に帰還する。
「はぁ……ったく、本当に何体居るってんだ」
『神』の顕現を解除して、カイトは盛大にため息を吐く。おそらく討伐した魔物の数は百は二百では足りないだろう。相変わらずの孤軍奮闘っぷりであった。だがだからこそカイトにも若干疲れが見えており、『神』の顕現を解除したのもそれ故であった。というわけで大地に降り立ったカイトは周囲を見回して、ここが戦場から少し遠い場所である事を理解する。
「……」
世界の壁の崩壊はもうここまで広がっているのか。カイトは彼方に見える世界の亀裂を見て、相当厄介な状況だと再認識する。とはいえ、幸いな事に周辺に文明の痕跡がないからかそれとも統一軍・魔族軍の連合軍に注力せねばと考えているからか、『強欲の罪』の下より先に融合個体が現れている形跡はさほどなかった。まぁ、だからと融合個体が居ないかと言われればそんなわけはなかったが。
「やれやれ……こりゃ総司令部に戻るだけでも面倒そうだな」
『そっち、どうなってるんだ? こっちに外の状況はあまり報告が入ってなくてさ。いや、無いわけじゃないんだけど、直に見た感想ってのがほとんどない』
「そうだな……まぁ、厄介な融合個体が外に出てる様子はない。こいつらはまぁ……呼び寄せられている融合個体って所だろうな。外周部の状況は?」
『そんな所だよ……最悪は無視して貰っても構わない。とりあえず今は戻って来る事を優先してくれ』
「やばいのか?」
『いや……まぁ、ヤバいっちゃヤバいんじゃね? この状況って』
未来から自分が呼ばれるほどの状況だ。これをどう考えればヤバくないという判断が出来るのか、カイトも自分で言っておきながら疑問が浮かぶ状況であった。何より『強欲の罪』のヤバさを誰より理解しているのは彼だろう。それでヤバくないわけがなかった。というわけで、カイトは自分で何を言っているのだろうと思わず失笑する。
「……そりゃそうだ」
『だろ?』
「おう……ま、相変わらずお嬢さん、こっちをじーっと見てらっしゃるから合流するには時間が掛かりそうだ」
『そうか……まぁ、とりあえず注意して帰ってきてくれ。今のお前なら問題無いんだろうけどさ』
「あいよ……ん?」
レックスの言葉に応じて双剣を再び腰に帯びたカイトであるが、その瞬間。何かの違和感に気付いて首を傾げる。
『どうした?』
「いや、なんていうか……世界が僅かに書き換わったような……」
『例のアレか? だが何か攻撃されたような印象は……』
カイトの言葉にアル・アジフが首を傾げる。が、そんな彼女が異変を理解するより前に、ヴィヴィアンが異変を理解していた。
「そうでもないみたいだよ」
『む?』
「……なるほど。確かにこっちへの攻撃として使う以外にもそういう使い方もあるのか」
ヴィヴィアンが指さした方向を見て、カイトはなるほどと一瞬の違和感を理解する。
「人気者は辛いね」
「だな……レックス」
『どした?』
「融合個体……いや、融合個体は大丈夫かもしれんが……『強欲の罪』の肉片には十分に注意しろ」
『そりゃしてるけど……なんで今更?』
「どうやらやっこさん、自分自身の肉片の存在を書き換えて戦力を上書きしてくるらしい」
『は?』
「こーら面倒くさい……ちょっと戻るの時間掛かりそう」
先ほどまで単なる融合個体だった肉塊の内側を突き破って現れる触手の人形に、カイトは苦笑いだ。とはいえ、やらないという選択肢は彼にはない。というわけでヴィヴィアンらと共に、カイトは今度は触手の人形の軍勢と戦うのだった。
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