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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3489話 はるかな過去編 ――星に比する巨人――

 『狭間の魔物』による侵略を受け召喚された未来の世界のカイト。そんな彼の出現により『狭間の魔物』こと『強欲の罪(グリード)』との戦いは次の段階へと移行。<<青の騎士団>>との合流したカイトは死者の召喚を執り行うと、彼の呼びかけに呼応する形でかつてこの世界で名を馳せた騎士達が現れる。

 それに護りを任せたカイトはというと『強欲の罪(グリード)』との戦いに臨もうとするのであるが、それを阻む様に星にも匹敵するサイズの巨大な融合個体が出現。あわや星ごと壊滅という事態に陥りそうになるのであるが、カイトはなんとか『星に比する巨人(ウルリクムミ)』を星から引き剥がすと一時間近くも魔力を削っていた。


「ほいよっと!」


 星にも匹敵しうるサイズの『星に比する巨人(ウルリクムミ)』の総身を引き裂くのは手間だが、それでも腕や指だけであればその何百分の一というサイズだ。大きくても数キロという所で、『神』を操るカイトであれば十分に斬り裂く事が出来る領域だった。

 というわけで彼はもっぱら殴り掛かられたり蹴り掛かられたりする瞬間を見定め、カウンターで斬撃を叩き込んで肉片を切り飛ばしていた。そしてもちろん、切り離すだけでは終わらない。


「コード・ハスター」

「ついでに凍っておけ」


 ナコトに続けてアル・アジフが双銃から絶対零度より更に極寒。負の領域に到達した氷の魔弾を放つ。そうして凍てついた肉片はハスターの力を宿した風が虚空の中に吹き荒れて、その全てを再生不可能な状態にまで微塵に切り刻む。


「さてさて……随分と削り取ったが……」


 これで倒せるのなら世話はないな。カイトは投げやすく柳葉刀のような形へ変換した<<バルザイの偃月刀>>を投げつけて触手を何本も両断しながら、最初の頃に比べて『星に比する巨人(ウルリクムミ)』がかなり精細さを欠いている事を見抜く。

 なお、両断された肉片は双銃により時に太陽より強い熱量で燃え尽き、時に存在さえ吸い尽くす負の熱量によりすぐさま消滅させられていた。


「父よ。その論拠はどこだ」

「論拠のない言葉は単なる願望。それは空虚でしかない」

「信用ねぇなぁ……まぁ、簡単だ。奴がオレの攻撃で受ける反動が制御しきれなくなりつつある。ゆっくりとだが確実に、星から離れている」


 娘達の求めに応ずる形で、カイトは『神』のコクピットの正面。外の状況を映し出すモニターの一角にかつて自分が住んでいた星と『星に比する巨人(ウルリクムミ)』の距離を計測したデータを映し出す。本来ここらのフォローは二人がしてくれるのだが、今は攻撃にその性能の大部分を割いていた。そうでもしないと長期戦になり過ぎるからだ。と、そうして映し出される情報を見て、アル・アジフが僅かに眉を潜める。


「……ん? 父よ。随分と戦場の軸が星からズレているようだが」

「気付いたか。流石にいつまでも一直線に奴と星を並べたくなくてね。奴を動かす際にゆっくりとだが戦場の中心も動かしていた。もうこれだけ離せばあの背中のでかい目玉の光線でも大丈夫だろう」

「あいも変わらず小器用だな」


 カイトの説明にアル・アジフが僅かに笑う。どういう技法を用いてそんなぶっ飛んだ事をしたかは定かではないが、出来るか出来ないかで言われればカイトであれば出来るだろう。娘達からしてもそれは明白だった。


「まぁな……それはそれとして、だ。はてさてどうしたものか……」


 とりあえず星から引き剥がせて距離を取れているのは良いが、問題はこのデカブツをどうやって早期に討伐するかだ。このまま削り取って倒す事は確かに不可能ではないが、時間は掛かる。

 さりとて『神』による大破壊を行おうにも星一つを破壊するのは些か手間だ。なかなか考えものであった。というわけで手立てを考えるカイトに、ナコトが告げた。


「父様……来る」

「……ちっ。まぁ、わかりきった話か」


 楽に勝たせてくれるほど楽な相手ではない。カイトもそれを理解していた。そして『強欲の罪(グリード)』の強みはやはり何と言っても触手で侵食出来ればその力を自分のものにしてしまえる事だろう。これが意図した事かは定かではないが、この『星に比する巨人(ウルリクムミ)』を目印にでもしているかの様に宇宙を漂う魔物達が集まっていた。


「何発でやれる」

「一発で十分だ……我らを舐めるな」

「オーライ。じゃあ、弾幕の雨でなんとかしておいてくれ」

「一発で十分だと言っただろう」


 鋼の『神』の頭部からまるで虹の髪の様に閃光が伸びる。それはまるで自分の意思を持つかの様に蠢くと、虚空に現れた双銃を絡め取った。そうして虹の髪を介して魔力が供給され、巨大な閃光が魔物の群れへと投射。アル・アジフの言葉通り、一発につき一体を完全に消滅させていく。


「はいはいおにーさん。つまみ食い禁止っすよー」


 その一方、取り込んで魔力を回復しようと魔物へと伸びる『星に比する巨人(ウルリクムミ)』の触手をカイトが両断。残った残骸はナコトの操る魔銃により消滅させられる。こんな事を一時間ずっと繰り返していた。そうして数分で迫りくる魔物の群れを壊滅させ再び『星に比する巨人(ウルリクムミ)』の魔力の削り取りに戻りながら、カイトは改めて攻略手段を考えていた。


「さてさて……いっそ太陽にでも突っ込んでやろうか」

「太陽は所詮熱量……最悪は吸収されるぞ。いや、太陽ほどの熱量を吸収なぞ幾らこいつでも不可能だろうがな」

「それでも回復されれば面倒」

「ま、それはそうだがね」


 『星に比する巨人(ウルリクムミ)』は確かに星にも匹敵する巨大な質量を有しているが、流石に太陽ほどの巨大さはない。そして太陽信仰というように、太陽はある種の神にも近い力を有していた。

 その熱量を吸収し魔力を回復させるのは些か困難で、太陽に突っ込まれれば大抵の存在は間違いなく死ぬだろう。が、これはあくまで突っ込まれればの話だ。例えば距離を取ったりして上手くやれば、回復する事は不可能ではない。そうなっても面倒だった。というわけでどうするべきかを考えるカイトに、ヴィヴィアンが一つ提案をする。


「いっそ大魔法陣から極大熱量でも叩き込んであげたらどうかな? 太陽をも上回る無限の熱量なら流石に堪えきれないでしょ?」

「星を覆うサイズの大魔法陣? ちょっとキツくね?」

「……まぁ、無理ではないだろう。星辰を偽り星星の運行を操り、星を覆う魔術を使う事は出来る」


 ヴィヴィアンの問いかけにしかめっ面のカイトに対して、アル・アジフは現実的にどうかを考えたらしい。モニターにその手段を表示させる。というわけで実現可能性を考えるカイトへと、ナコトが口を挟んだ。


「これ以上長引かせるのは得策とは言い切れない……後『神』の顕現はそろそろ終わらせたい」

「それが本音だろ」

「面倒」


 『神』の顕現は基本的にはカイトに壮絶な負担を強いているわけであるが、その術式の維持や破損時の修繕は魔導書側が行わねばならない。なので魔導書側に負担が無いかというとそんなわけがなく、『神』を顕現し続けながら戦闘を行うというのは魔導書側も最高位の力量を有していなければ出来ない事でもあった。

 『神』の顕現とは主人も魔導書も最高位の魔術師であってはじめて出来る事なのであった。それを面倒の一言で片付けられるあたり、この二人の魔導書達の力量は主人相応にぶっ飛んでいると断言出来ただろう。というわけで若干面倒くささがにじみ出てきたナコトの言葉に押されて、カイトも意を決した。


「はぁ……しゃーない。さっさと終わらせる事にしますか」

「承知した……得物はバルザイで良いか?」

「それで良いよ。どうせ邪魔もされるだろうしな」


 本来、<<バルザイの偃月刀>>は儀式に用いる魔導具の一種だ。それを偃月刀だからと近接武器の様にぶん回すカイトがおかしいのである。

 ちなみに偃月刀と言われているが元来はシャムシールのようなアラビアの刀剣の類に近い。物語では青銅製と言われているが、実際には青銅に近い全く未知の素材だった。それはさておき。近接武器としての使い勝手は良く、またその形状から投擲武器としても使いやすかったようでカイトも好んで使っているのであった。


「さってと……」


 くるくるくる。カイトは<<バルザイの偃月刀>>を弄びながら、まるで剣舞でも踊るかの様にして飛来する巨大な腕を時に切り裂き、時にその流れを敢えて受け止める事でその動きを誘導して移動させる。

 と、そんな彼に業を煮やしたのか、『星に比する巨人(ウルリクムミ)』がカイトへといつもの薙ぎ払いではなく殴り掛かるような動きで拳を放った。


「キシュの印」


 正面から迫りくる正に大地の如き巨大な拳に、カイトは<<バルザイの偃月刀>>を何処かへと投げて手放すと特殊な手印を結んでどこかの次元へと接続させる。そうして巨大な拳が次元の裂け目へと飲み込まれ、明後日の方角へと出現する。


「コスの印」


 開いていた次元がカイトの次の手印により強引に閉じられる。それは次元の裂け目の中へと突っ込まれていた『星に比する巨人(ウルリクムミ)』の腕なぞお構い無しで、その巨腕をいとも容易く両断せしめる。そうしてそれを見た瞬間、今度はどことも知れぬ次元への扉が開かれる。


「キシュの印」

「コスの印」


 伊達に二冊の魔導書を同時に運用するという常人には不可能な事をしているわけではない。ナコトの開いた次元の裂け目が『星に比する巨人(ウルリクムミ)』の両断された巨腕を飲み込むと、その中にある何かが外に漏れ出る前にアル・アジフが次元を閉じる。


「これで一本」

「すぐに再生する」

「まぁな」


 ナコトの言葉の正しさを認める様に、『星に比する巨人(ウルリクムミ)』の両断された腕の断面が蠢いて、超高熱の水蒸気とともに急速に肉が再生する。そうして苦悶の声が宇宙の中に響く中。カイトが技を見せる。


「……」


 ちんっ。虚空の中、響くはずのない音が耳朶に響く。そうして音が響くとともに、残っていた三本の腕が全て宙を舞った。それらは内部で蠢いていた触手により『星に比する巨人(ウルリクムミ)』本体に強引に接続しようとするも、即座に何処かへと消え去った。


「ナコト」

「了解」


 四本の腕が斬り裂かれ悶え苦しむ『星に比する巨人(ウルリクムミ)』の首がぐるりと回り、前後が猛烈な勢いで入れ替わる。そうして背にあった巨大な目玉が鋼の『神』を捉えるが、その直後。まるでそれを予知していたかの様に、『星に比する巨人(ウルリクムミ)』の顔面を煙が包み込む。


「特別に調合した薫香だ……そのまま夢現の狭間に堕ちろ」


 どうやら煙は単なる目くらましではなかったらしい。アル・アジフの言葉から間を置かず、煙を吸い込んだ『星に比する巨人(ウルリクムミ)』が酩酊状態に陥る。そうして意識が落ちつつある『星に比する巨人(ウルリクムミ)』を包むように、魔法陣が出現する。


「初手の<<バルザイの偃月刀>>を見逃した時点でお前の負けだ……」


 結界に包まれていく『星に比する巨人(ウルリクムミ)』を見ながら、カイトは追加で顕現させた<<バルザイの偃月刀>>をくるくると弄ぶ。といっても別に手慰みとして遊んでいるわけではなく、それを使って彼方に投擲した別の<<バルザイの偃月刀>>を操っていた。

 そうして猛烈な勢いで閉じられていく結界であるが、やはり『星に比する巨人(ウルリクムミ)』も並ではない。結界が閉じきる寸前に酩酊状態から復帰。同時に両断されていた腕の一つが再生して、閉じつつある結界をこじ開けんと持ち上げる。


「残念……もう遅い」


 じゃきっ。敢えて擬音を当てるのであれば、そんな音が響く。そうしてカイトが<<バルザイの偃月刀>>を上に放り投げて、虚空から四丁二対の双銃が現れる。


「「「ジャックポット!」」」

「意味あるの、その言葉?」

「ねぇな」


 四丁二対の双銃から魔弾が放たれ一つはその腕を撃ち貫き、続く一つが貫かれた腕を強引に押し戻す。残る一つがなんとか這い出ようとする『星に比する巨人(ウルリクムミ)』の頭部を撃ち破砕し、最後の一つがこちらに反撃しようとしていた『星に比する巨人(ウルリクムミ)』の巨大な目を貫いて蓄積されていた魔力と反応し大爆発を引き起こす。そうして、僅かに勢いが緩んだ結界が勢い良く閉じる。


「終わりだ」


 ぱちんっ。カイトが指をスナップさせると、完全に閉じられた魔法陣の中で極光が生ずる。そうして、『星に比する巨人(ウルリクムミ)』は跡形もなく消し飛んだのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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