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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3487話 はるかな過去編 ――星に比する巨人――

 『狭間の魔物』による侵略を受け召喚された未来の世界のカイト。そんな彼の出現により『狭間の魔物』こと『強欲の罪(グリード)』との戦いは次の段階へと移行。<<青の騎士団>>との合流したカイトは死者の召喚を執り行うと、彼の呼びかけに呼応する形でかつてこの世界で名を馳せた騎士達が現れる。

 それに護りを任せたカイトはというと『強欲の罪(グリード)』との戦いに臨もうとするのであるが、それを阻む様に星にも匹敵するサイズの巨大な融合個体が出現。あわや星ごと壊滅という事態に陥りそうになるのであるが、大魔王の協力を得たカイトにより星に比する巨人はカイト達の住まう星から引き剥がされていた。


「さってと……サイズ比は大人と子供よりもっとひどいが……」


 宇宙空間を飛翔しながら、カイトははるか先を飛んでいく星に比する巨人を見る。ただでさえ比較対象の乏しい宇宙空間だが、それでも星に比する巨人は今まで彼が戦ったどの魔物より大きいと認識出来た。


「名前、何にしようか」

「相変わらず変な所に着目するな」

「ふふ。成長はしてると思うよ?」

「成長してそうなのが武術の腕ぐらいだろうと思うのが困るな……」

「お前ら気楽だなぁ……」


 アル・アジフとヴィヴィアンの言葉にカイトは僅かに眉間に寄っていたシワが解れ肩の力が抜けるのを自覚する。


「でもいつまでも名前なしだとやり難くない?」

「こいつ以外に似た個体が出てきてくれても困るんだがね」

「でも巨人種とかそういうので言い表すと今後困らない?」

「あー……確かになぁ……」


 これはもう既存の巨大な魔物という規格から大きく外れている。それなのに同じ種別に含めると追々学術的な側面や軍事的な側面で面倒を引き起こしかねないだろう。というわけでカイトは自分達の認識として合わせやすい様に、敢えて地球の名称を利用する事にする。


「『星に比する巨人(ウルリクムミ)』」

「ヒッタイトの神話だね」

「流石」

「貴方が来るまで暇で暇で仕方がないからね」


 ヴィヴィアンが正確にどの時代から来ているかはわからないが、間違いなくインターネット等は開発されるより前。下手をすると大航海時代よりも更に前かもしれないのだ。なのに欧州以外の神話にも明るいのだから、相当な時間を用いて調べていたのだと思われた。とはいえ、そんな彼女にカイトは笑う。


「それなら政治や経済にも明るくなってくれれば良いんだがね」

「それはだめ。モルもリィも立つ瀬がなくなっちゃうからね」

「さいですか」


 自分の立ち位置がわかっていると言うべきなのか、単なるものぐさなのか。自身の魂に一番寄り添ってきた相棒の言葉に、カイトは肩を震わせる。彼をしてこれがどちらで発せられた言葉なのか、わからなかった。と、そんな彼にアル・アジフが告げる。


「それは良いが、『星に比する巨人(ウルリクムミ)』が近いぞ。奴も星から離れたせいで動きに遠慮がなくなっているようだ」

「撃って良い?」

「まだだーめ」


 確かにそろそろ魔術や魔銃であれば射程圏内に捉えられる様子ではあったが、カイトはナコトの提案に首を振る。『星に比する巨人(ウルリクムミ)』がその巨体に見合った戦闘力を有している事は間違いない。遠距離からの攻撃でもある程度の距離では通用しない可能性は高かった。というわけで提案を却下されたナコトが別の提案を行った。


「じゃあ加速」

「そいつは承認!」


 ゆっくりと動いている様に見えるが、実際には音速を超過した速度で腕を振るおうとしているのだろう。カイトは閃光と見紛うばかりの速度まで一気に加速し、長大な距離を一息で薙ぎ払う『星に比する巨人(ウルリクムミ)』の腕をくぐり抜けて距離を詰める。

 そしてどうやら、距離を取れる様になった事により『星に比する巨人(ウルリクムミ)』は本来の戦闘力を発揮出来る様になったのだろう。皮膚の内側が蠢くと、その一部が裂けて巨大な触手が姿を見せる。


「おっと」

「コード・ニトクリス」

「オーライ」


 ナコトの言葉にカイトはおおよそ彼女の提案を理解すると、そのまま彼女に対応を任せる。そうして触手の先端から無数の魔弾がまるで嵐の様に放たれて鋼の『神』を狙うが、その一つが触れた瞬間。鋼の『神』の姿が砕け散る。そうして舞い散るガラス片を吹き飛ばして、少し後ろの暗闇から鋼の『神』が姿を現す。


「バルザイ!」

「承認。アップロード」

「ダウンロード……完了」

「コード・ニトクリス……追加だ」

「上出来! おらよ!」


 くるくるくる。カイトは顕現した<<バルザイの偃月刀>>を振り回して勢いを蓄積させる。そうして彼が<<バルザイの偃月刀>>を手放した瞬間、偃月刀が一瞬だけ輝いて分裂する。


「さて……」


 獰猛な笑みを浮かべるカイトであるが、その内面まで熱に浮かされているわけではない。楽しげに笑いながらも彼は魔弾に打ち砕かれながらも飛翔するいくつもの偃月刀の結果を確認。即座に考察出来る様に思考を研ぎ澄ます。


「……」


 魔弾の雨を鋼の『神』の背に顕現させた飛翔機に似た機構で回避しながら、カイトは偃月刀の一つが触手の一つを斬り裂くのを見る。が、その結果を見て彼は少しだけ苦々しい様子だった。


「やっぱりきっついなぁ……輪切りには出来んか。重特機も一緒に持ってきてくれりゃ良かったのに」

「あれを動かすのは面倒だ……このまま気張れ」

「うぅ……娘がひどい」

「気持ち悪い態度はやめろ」


 カイトの放った偃月刀は魔力を宿し、その刃が触れた瞬間に巨大な魔刃を生じさせる。故に喩え5メートルほどの刀身であっても、その斬撃の規模は数キロ単位にも及ばせる事は出来た。

 が、これはあくまでもなにもない場合や圧倒的に弱い相手ならばという意味だ。ここまで馬鹿げた出力を有する魔物相手に範囲を重視してはそもそも切り裂けない。配分を見極める必要があった。


「あはは……でも効果がなかったわけじゃないみたいだよ?」

「まぁ、そりゃな……でもあの程度じゃあ一瞬弾幕を緩められるぐらいだろう。流石に星を両断するクラスの斬撃は放ちたくないなぁ」


 放てないではなく放ちたくない。そんな正気を疑われる発言だが、今の自壊の恐れのないカイトであれば不可能ではないのだろう。何よりそうなると攻撃範囲が過剰になりすぎて、近隣の星さえ切り裂きかねない。そんな面倒事はやらない方が良かった。

 というわけでどうするべきか考える彼の前で、案の定『星に比する巨人(ウルリクムミ)』の斬り裂かれた触手が再生。すぐに魔弾の投射を再開する。


「おっと……ちょっと方向を変えるか」

「それが良いだろう」


 自分達の背後には『強欲の罪(グリード)』も居るが、同時にそのすぐ横には過去の自分達が住まう星もあるのだ。流れ弾は大魔王が星半分に展開した結界で防がれているが、その分だけ大魔王の魔力は消耗する。別にこの時代の自分にとって敵なので斟酌する必要がないといえばないのだが、現状頼まねばどうにもならない相手でもある。気遣いは必要だった。

 というわけで再び閃光と化した鋼の『神』はぐるりと『星に比する巨人(ウルリクムミ)』を迂回すると、その背に回り込む。と、そうして回り込んだ背後には背中を覆い尽くすような巨大な目があった。


「おぉ? 目?」

「バロールにした方が良かったかな?」

「かもな……そしてですよね!」


 ぎょろりとこちらを睨む巨大な目を見ながら笑うカイトとヴィヴィアンであったが、その目が光り輝いたのを見てカイトは即座に<<バルザイの偃月刀>>を複数枚顕現。それらを柳葉刀――中国の幅広い刀身を持つ刀――の様に刀身を拡張し、まるで花びらの様に刀身を重ね合わせて前面に展開。即席の防護壁とする。

 そうして、数秒。『星に比する巨人(ウルリクムミ)』の光条に飲まれた偃月刀であるが、その一切をカイトへ通す事はなかった。


「っぅ! ふぅ……こんなもん初手でぶち込まれてたら終わってたぞ……」


 やれやれ。カイトは幅数十キロにも及ぶ巨大な光条を防ぎきり、盛大にため息を吐く。正面を向いて顕現したのが偶然かそれとも『強欲の罪(グリード)』による指示かはわからないが、これを顕現と同時に放たれていれば間違いなく甚大な被害を被っていただろう。というわけでため息を吐いた彼であったが、彼に今度はナコトが報告する。


「父様……上」

「んぁ? おぉ……こいつぁ……え? 良いの、それ」

「多分……皮も千切れてるけど再生してる」

「というよりもそもそもこいつは本来触手に融合された個体だ……ガワなぞどうでも良いという事だろう」


 ぐりん。首がそんな様子で回転したのを見てドン引きしたカイトであるが、所詮相手は魔物。喩え人と同じ様な構造に見えても人体の道理を考えるだけ無駄だった。というわけで首が回転すると同様に肩も回転し、『星に比する巨人(ウルリクムミ)』の前後が入れ替わる。


「……それ出来るなら最初から目を前にしときゃ良かったんじゃねぇっすかね」


 ぶぉん、と振るわれる巨大な腕を見ながら、カイトはどこか呆れた様にそう口にする。なぜこの目玉が背中――なのかはもはやわからないが――にあったのかはわからないが、前後入れ替わった事は事実だろう。というわけでカイトは一つ気合を入れる。


「……しゃぁ! まぁ、とりあえず後ろを気にしなくて良くなったって事は良いこった! やるか!」

「それに考えようによっては触手が生える面積も狭まった」

「おぉ、そりゃそうか」


 確かに言われてみれば目玉からは触手は生えていない。まぁ、目玉から触手が生えたとて、あの光条に飲まれれば一巻の終わりだ。流石にそれは『星に比する巨人(ウルリクムミ)』を操る『強欲の罪(グリード)』とてあまりやりたくはないだろう。

 というわけで考えようによっては弾幕が薄くなった、とカイトもナコトの指摘に道理を見たようだ。そんな彼は超音速で飛来する『星に比する巨人(ウルリクムミ)』の巨腕を、事もなげに顕現させた<<バルザイの偃月刀>>で斬り裂いた。


「さ、じゃあ……」

「なぶり殺しの時間か」

「膾切りの時間」

「言い方悪いな……」


 そうといえばそうなのだが。こういう巨大な魔物の倒し方はいつだって、どんなサイズになろうと変わらない。とりあえず魔物の身体を削って再生を促して、魔力を減らしていくのだ。

 というわけでカイトはきり飛ばされた腕の先端を魔銃で消滅させる。そうして、カイトは『神』を操って『星に比する巨人(ウルリクムミ)』の身体を削り取って行くのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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