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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3484話 はるかな過去編 ――召喚――

 『狭間の魔物』による侵略を受け召喚された未来の世界のカイト。そんな彼の出現により『狭間の魔物』こと『強欲の罪(グリード)』との戦いは次の段階へと移行する。

 そうして<<青の騎士団>>との合流したカイトは死者の召喚を執り行うと、彼の呼びかけに呼応する形でかつてこの世界で名を馳せた騎士達が現れる事になる。


「なんだ?」

「炎の……海……?」

「いや、これは……天が……灼けている……のか?」


 ぼしゅっ、という音と共に天を焦がすほどの業火が南の空を焼く。地獄の業火よりなお熱い炎は魔物達を塵さえ残さず焼き尽くし、ここに居場所がない事を苛烈に知らしめる。


「……? 冬の一族か?」

「グラキエース?」

「これは……」


 はるか北では巨大な氷が立ち昇り、時さえ凍り付くほどの極寒が顕現する。それは迫りくる魔物達だけでなく、世界を侵食していた外なる世界の侵食さえ食い止める。


「っ、これ以上西へ進ませるな! 村がある!」

「なんだ!? た、立ってられ、っく!」

「なんだ、これ!? 奴らの肉が……抉れてる……!?」


 西から吹き荒ぶのはもはや地面に根付く大樹さえ吹き飛ばすほどの業風。しかもただの業風ではなく、魔物共の肉を裂き骨を千々に打ち砕く風の塊。それは広がりつつあった戦線を押し戻し、その外に住まう無辜の民達へ近付く事を許さない。


「「「……」」」


 東の空に轟いたのは神の怒り。其れは正しく神也(かみなり)。神の怒りを前にしては、誰もがただ黙し裁きを待つ矮小な存在でしかできない。巨大な雷は魔物の存在を一切許す事なく、その全てを焼き尽くす。そうして天地を揺るがす事象の中から、四人の騎士達が出現する。


「っ……あれが、か」


 流石のグレイスも自身の祖先にしてスカーレット家を騎士の名家へと押し上げた女傑の顕現には息を呑んだ。確かにスカーレット家には騎士スカーレットの肖像画が何枚も飾られている。だが実物の存在感は絵画で表しきれるものではなかった。


「……」


 ライムは自分達と同等かそれ以上の極寒地獄の顕現に、かなり目をすぼめていた。見えている姿は確かに当人のものに間違いないだろうが、そこに居る事は偽り。本体がどこに居るかはまだ見付けられていなかった。


「噂には聞いていましたが……あれが伝説の……」


 あれがそうなのか。ルクスは自らの祖先が携える素朴な弓と金髪碧眼の自らと異なる種族の姿に少しばかり興味を抱いていた。四騎士の一人、風迅卿。彼の姿はほとんど情報が残っておらず、優れた弓兵でエルフの伝説的な弓兵の神弓を携える事を許された事だけが伝わっていた。


『「……」』


 雷を纏い、ただ静謐さに佇む銀髪灼眼の男。彼が一睨みするだけで雷が敵を焼き尽くす姿は正しく神にも等しい。カイトとクロードの兄弟は自分達がかつて何百度と寝物語にねだった、シンフォニア王国における騎士の祖とでも言うべき開祖の姿に思わず感動さえ覚えていた。そしてその横には。


「クロード。見えてるか?」

『はい……あれが、伝説の……勇者リヒトとその仲間達』


 開祖マクダウェル。それは確かにマクダウェル家を興したリヒト・マクダウェルの呼び名として正しい。だがもし当時の者たちに当時の呼び名を聞いたのであれば、別の呼び名をした。

 その称号は、カイトと同じく勇者。カイトと同じく魔王を退けた勇気ある者。偶然でもなんでもない、同じ偉業を成し遂げた者へ与えられた称号。

 それが、当時彼に与えられた称号であった。そしてその横に居たのはどんな寝物語にでも語られる戦士や神官、魔術師達だった。と、その彼の顕現と共に、遠くの空に獅子の遠吠えが響き渡った。


「……?」

『まさかこんな事になるとはのう。よもやお主にもう一度出会うとは……』

「……」


 現れたのはレーヴェだ。そしてその上にはスイレリアがどこか感極まった様子で一緒だった。だがその一方、現れた二人に銀髪灼眼の男ことリヒトは怪訝そうな顔を浮かべ、横に居た神官のような格好をする女性を窺い見る。


「……?」

「え。困ったからって私の方を見ないでよ。この時代に知り合いなんていないわよ。一人除いて。誰?」

「いや……私に振らないでくれ。言ってはなんだが、私はエドナより知り合いは少ないぞ。それに異族ならシアだろう」

「威張れる事じゃない……エルフ……グウィンは?」

「あいつはまだ生きてるみたいだから、一緒に呼ばれてはいないみたいよ」


 女三人寄れば姦しい。リヒトの横に並んでいた三人の女性達が口々に話し合う。その中でも一番おしゃべりな神官のような格好の女性がおそらくエドナの由来となったリヒトの幼馴染にしてレーヴェにさえ自分よりおしゃべりと言わしめたエドナだろう。というわけで魔物の襲撃そっちのけ――リヒトが全て無言で片付けていたが――で話す三人に、レーヴェが盛大に苦笑いする。


『か、変わらんのう、お主ら……いや、死者に変わったと言う事の方がおかしいんじゃろうが……』

「あはは……お久しぶりです、皆さん。スイレリアです」

「「「えぇ!?」」」

「……!?」


 自分達が見知った姿とはまるっきり異なるスイレリアに、リヒトと女三人が驚愕を浮かべる。なにせ死ぬ前最後に見た姿は幼き少女だったのだ。それが美女に様変わりしていれば、驚くのも無理はなかった。


「と、ということは……レーヴェ?」

『ようやく気付いたか……ぐぇ!?』

「うわっ、すごっ……もふもふ」

「なに?」


 自分達の事を理解した事に目を細めたレーヴェであるが、エドナに唐突に――かなりの力で――抱きしめられ悲鳴を上げる。が、そんな彼女のまるで潰れたカエルのようなくぐもった声は無視し、エドナの言葉に彼女の横に居た女戦士と小柄な純白の女性――エドナの言葉に反応したのは女戦士――まで駆け寄って撫で回す。


『や、やめい! 妾これでも聖獣じゃぞ! 猫のように撫で回すではない! なぜお主らは妾への敬意がない!』

「リヒトリヒト。あんたも触ってみ? すごいもふもふ」

「……」

『ぎゃあ! リヒト! お主宿雷(しゅくらい)で触るでない! 静電気が! 妾の毛並みが!』


 あの開祖マクダウェルが手招きするエドナに呼ばれ、どこか子供のように目を輝かせてレーヴェを撫ぜている。その姿にカイトは思わず笑みが溢れる。

 英雄譚なぞ所詮は読み聞かせるために作られた物語。実際はおそらくこんな他愛もない会話を延々と続け、面白おかしく旅をしてきたのだろう。カイトは自分がそうだからこそ、繰り広げられる勇者一行の姿に親近感さえ抱いていた。と、そんな彼らへと楽しげな声が響く。


「あはは……勇者リヒトとその御一行様に掛かれば聖獣も形無しだね」

「へー……彼らが昔のあんたの仲間?」

「そうそう……まさかこうなるとは思ってなかったなぁ」

「……グウィン」

「やぁ、久しぶり。本当に……久しぶり」


 目の端に涙を湛え、グウィネスがリヒトへと笑い掛ける。彼からしてみればすでに数百年も昔に死んだ相手だ。それと再会出来るなんてシルフィードの指示を受けて動いていた彼でさえ思ってもみなかったことだ。と、リヒトの言葉で今度はエドナがグウィネスの出現に気付いたらしい。顔を埋めていたレーヴェから顔を上げてそちらを見る。


「え? グウィン?」

「久しぶりー」

「うそっ! ……また随分と可愛い格好をするようになったのね」

「あはは。一般人に紛れたいなら服ぐらいなんとかしたら、って誰かさんに言われたからね」


 開口一番に思う事はそれなのか。エドナの言葉にグウィネスは感動の再会を期待する自分が馬鹿だったと逆に感動さえ覚えていた。というわけで自分の記憶のままどころかかつての旅路そのままの姿で呼ばれた彼らに、グウィネスが問いかける。


「状況は分かってる?」

「ああ……」


 グウィネスの問いかけにリヒトは天空で自分達を見詰めるカイトへと視線を向け、その視線が交わる。そうして深々と頭を下げるカイトに、彼は一つ小さく頷いた。


「……問題はない」

「そっか。僕もさっき大精霊様から聞かされてね。大急ぎでやってきた所だけど。全く。やるなら最初から言って欲しいよ」


 そうしたら心づもりの一つでも出来たし、ちょっとぐらい格好を付ける事も出来たのに。グウィネスは少しだけ恨みがましい様子でカイトを見る。

 もちろん、彼はこのカイトが自分が出会ったカイトではなく未来の世界のカイトだとシルフィードから聞いている。その情報の共有が難しかった事もだ。

 だが、やはり自分の仲間達との再会だ。格好を付けさせて欲しい、というのは何ら不思議のないことだろう。そんな彼の愚痴を尻目に、リヒトはレーヴェとスイレリアを取り囲む三人の女性に視線を向ける。


「……」

「は? 私達だって呼ばれたんだから来ても良いでしょ。あんたの不満なんて知ったこっちゃないわよ」

「相変わらず思うんですが……流石ですね」

「だからリヒトが喋らなくなる。彼もものぐさだし」


 無言のリヒトに対して一方的に会話を成立させている様子のエドナに、スイレリアが驚きを浮かべる。その一方で彼女を観察していた純白の女性がため息を吐いていた。と、そんな彼女にスイレリアがおずおずと申し出る。


「あの……シアさん。そろそろ、その……」

「……」


 じろり。スイレリアの言葉にシアと呼ばれた女性が僅かに敵愾心を露わにする。その手はスイレリアの乳房に伸びており、時に持ち上げたり時にもんだりして調べている様子であった。


「……本物」

「そ、そうですが……あの、そろそろ本当に……」

「……この怒りは敵にぶつける」

「は、はぁ……」


 まさか復活した彼女に敵意を向けられるとは。スイレリアは全く予想だにしていなかった展開に困惑ながらも非常なやる気を滲ませるアナスタシアに続くように杖を構える。


「リヒト」

「……む?」

「手伝い」

「あ、ああ」


 何か自分の知らない所でやる気に満ち溢れたらしいアナスタシアの言葉にリヒトが困惑気味に応ずる。そうして雷が『狭間の魔物』達の軍勢を薙ぎ払い、逃げ惑う『狭間の魔物』達を一区画にまとめ上げる。そうしてその内側へとアナスタシアが巨大な氷塊を叩き込み、それと共に伝説の騎士達の戦いが幕を上げるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 個性的な人たちだなwww 彼らは死者っぽいからそのままでは今後は登場出来ないだろうけど前世とかで登場するのかな?
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