第3482話 はるかな過去編 ――召喚――
『狭間の魔物』による侵略を受け召喚された未来の世界のカイト。そんな彼の出現により『狭間の魔物』こと『強欲の罪』との戦いは次の段階へと移行する。
そうして<<青の騎士団>>との合流まで各所を転戦していたカイトであるが、そんな彼はヒメアの召喚を受ける形で総司令部へと舞い戻っていた。というわけで騎士団の面々の前に姿を現した彼はいつものようにお気楽な様子であった。
「はいよ、とりあえず復活したオレですよ、と」
「それは復活……と言えるのか?」
「まぁ、復活とは言い難いか」
グレイスの言葉にカイトは肩を竦めた。所詮今の彼は未来のカイトの情報を上から貼っ付けているだけのようなもの。それが剥がれれば下地となるカイトが出てくるわけで、結局彼の怪我が癒えているわけではなかった。というわけで彼女の言葉を認めつつ、カイトは即座に騎士団長としての指示を飛ばす。
「とりあえず。今のうちに補給と治療を進めさせろ。別にオレの切り札には必要にならんが、それはそれとしてだな」
「すでに補給は進めさせています。それで切り札というのはどういうものになりますか?」
「そうだなぁ……なんて言えば良いのか。縁を利用した死者の召喚というべきか」
ルクスの問いかけに、カイトは厳密に言えばそういうものでもないのだがと考えながらも手っ取り早い表現方法としてこの言い方をする事にしたようだ。というわけで彼はここ暫く――もちろん未来でだが――気になっていた事を口にする。
「ずっと気になってはいたんだよ。なんでこの世界で唐突にオレ達の召喚なんていう話が持ち上がったのかってな」
「なんの話?」
「ああ、いや……セレス達から未来の世界でオレ達を召喚する事ができるって話は聞いてるか?」
「まぁ……聞いたわね。団長とか殿下とかがいざとなったら召喚されるって」
カイトの問いかけに、ライムはセレスティアから聞いた話としてそれを語る。そして事実、こうしてカイトはそれを応用して召喚されているわけだ。
「そうそう……まぁ、本来ならこの世界から立ち去った際のオレが召喚されるはずだったんだが……ここらオレの時系列が面倒な事になっちまってるせいで。今のオレが召喚されてるわけなんだが」
「今の団長?」
「ちょっとここら説明が面倒でな。ソラ達の時代のオレ、って考えてくれ」
そもそもカイトはこの世界からして数百年先。第二統一王朝が発足する直前に戻らねばならないのだ。なので厳密に言えばその彼は彼にとっても未来の彼なのであるが、本来召喚される彼はセレスティアにとっては過去の偉人だ。
なので本来であればそちらが召喚されるべきだが、ソラ達が媒介となった事や召喚者であるセレスティア自身が知るカイトがある種過去のカイトであるという点が複雑に絡み合った事により、このカイトが召喚されたのであった。
「でまぁ、そりゃ良いんだ。それは良いんだが、さっきのオレの疑問だ。なぜそんな突拍子もない事を思い付いたのか……そこが疑問だった」
カイト自身はこうして死者の召喚を成し得るのでそれについては疑問には思わないが、誰もが知るようにこれは本来は不可能だ。というわけで同じ様に少し疑問を得ていたらしいライムがこれに同意する。
「そういえば……そうね。というかそもそも死者の召喚なんてできっこない。本当にできるの? いえ、一人二人、それもかなり条件を厳しくすれば出来なくはないでしょうけど。それでもかなり条件は厳しいはずよ。そんなぽいぽい出来るような事じゃないわ」
「できるはできる……大精霊達全員の力に加えて、オレの馬鹿げた出力を背景として。さらにはこの時代のオレ自身の旅路の関係やらでオレ自身が生と死の門のような役割を果たせるようになっている。こんなもん、後にも先にもオレにしか無理だけどな」
「常人に出来たら困るわよ」
そんなことがホイホイとできるようでは世界の法則もなにもあったものではない。ライムはカイトの言葉に苦笑いだ。そしてこれにカイトも笑って同意する。
「あはは……そうだな。でもそういうことなんだ。普通は無理だろ? でもなぜかセレスティア達はそれを可能だという。もちろん、色々と難しいらしいが……それは横にしても。さて、そうなれば出来る何かがあるんだろうと考えるしかない。つまりこのオレというわけだわな」
「「「あー……」」」
普通考えないような事が常識のように語られるのだ。それであるのなら何か理由があるというのは自然な考えで、それが何かと言われればカイトとなれば四騎士達も納得するしかなかった。
「まぁ、とどのつまりそういうことなんだろう。この時代にオレが召喚される事により、未来の世界でオレ達を召喚するための魔術が開発される……てな具合なんだろうな。まぁ、オレ達に限定されたのは……いや、これは良いか」
おそらくオレ達に限定された理由は、その根幹を為す自身がこの世界に帰還してすぐに立ち去ってしまったからなのだろうな。カイトは自分の過去を思い出し、そこらの特殊性から認識だけ持ち合わせている部分を思い出して首を振る。というわけで首を振った彼へと今度はクロードが問いかける。
「それはわかりました……それで僕らは何をすれば?」
「いや、本来は特に何かをする必要はない。単にそこに媒介として居ればそれで良いんだ」
「ではなぜわざわざ戻るように?」
「さっき言った通り、それは原理原則の話。本来なら、なんだ。残念ながら今のオレとこの世界だとそれが難しい」
クロードの言葉にカイトは肩を竦める。
「それはなぜ?」
「そもそもオレとて無制限に死者を呼べるわけじゃない。死者の武器と死者に縁を持つ生者を媒介に、自らの魔力を媒体として死者達を召喚している。だからこの世界に呼ばれて状況を理解して、そこらを確認したんだが……どうにもこの時代のオレが媒体となっているからかそこらは再現されていなくてな。死者を呼ぼうにも媒介がない状態だ」
「で、我々と」
「そういうこと。まぁ、死者達の武器があれば良いのは変わらんが、無いならないで別の手も可能だ。で、お前らなら……」
にたり。カイトは何かを見出しているのか、牙を剥いて笑う。が、これに四騎士達は首を傾げるばかりだ。というわけでカイトは今度はクロードを見て語る。
「もう一個、ずっと疑問だった事があるんだ。なんでお前がオレに開祖様の短剣を渡したのか、ってな」
「あ……<<雷鳴剣>>?」
「おう。開祖マクダウェルの<<雷鳴剣>>……その小太刀の方だ。これは本来この世界の武器だからか、限定的に再現されていたらしい」
驚きに目を見開くクロードに笑いながら、カイトは開祖マクダウェルの使った小太刀をくるくると回す。なぜこれを渡したか、とずっと疑問だった。だがその意味をここで彼は理解していた。
「こいつらを媒介とした……という事だったんだろうな。お前ら全員、確か持ってたよな? それぞれ開祖や始祖に縁ある道具を」
「「「……」」」
カイトは楽しげに四騎士達を見て、それに四騎士達は顔を見合わせる。彼の指摘した通り、四騎士達は全員それぞれの家の開祖や始祖に縁のある道具を懐に忍ばせていた。ゲン担ぎのようなものだ。
それを思い出させるために、未来のクロードはエドナにカイトに開祖マクダウェルの剣を渡すように指示したのであった。というわけでおおよそ彼が何をしたいかを理解した四騎士達へと、カイトは告げた。
「さ、呼ぶぞ。憧れられたオレ達が憧れた騎士達をな」
別に死者の縁ははるか過去であっても問題ない。そもそも四騎士達は各家の直系に所属している。縁としては十分だ。そこに武器があるのであれば、数百年も過去の人物達でも問題なく召喚は出来た。というわけでついに、過去の英雄達を召喚する準備が開始されるのだった。
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