第3478話 はるかな過去編 ――第二幕――
『狭間の魔物』による侵略。魔族による侵略戦争に端を発する形で訪れていた戦乱の時代のセレスティア達の世界で起きた事態に巻き込まれていたソラ達。そこで彼らはかつて存在していたという八英傑というかつてのカイトの仲間達と共にその事態の収拾に乗り出す事になっていた。
そうして『狭間の魔物』の大元と思われる巨大な触手の海の化け物により敢え無く敗北を喫したこの時代のカイトを媒体とする形で召喚された未来の時代のカイトは、自身がシステムとしての魔王のオリジナルである事を知る大魔王との交戦に臨む事になるのであるが、そんな戦いも大魔王が一通り自分の今後と現状に満足する形で終わりを迎えていた。
というわけで戦いが終わりヴィヴィアンの攻撃により自分の敗北を認め去っていった大魔王の背を、カイトとヴィヴィアンは見送っていた。そんな背を見ながら、ヴィヴィアンがはっきりと認める。
「強いね、あの子」
「あの子扱いか」
「彼? 彼女?」
「どっちもかもしれないな」
それであの子呼びだったのか。ヴィヴィアンの問いかけに、カイトは僅かに肩を震わせる。大魔王の性別であるが、これはあるとも言えるしないとも言える。敢えて言うのならば両性具有だ。
本来システムとしての魔王は世界のシステムに属し、滅ぼされる存在だ。世界にとってそんな存在が男であれ女であれ、それが必要と認められない限り意味なぞなかった。ただどちらでもない存在を創るより、どちらでもある存在を創る方がやりやすかったというだけだろう。
「……ま、そうだな。強いことは間違いないだろう。オレがもう一段上を切る事を考慮するぐらいにはな」
「そう言えば聞いていないけど、できるの? もう一段上って」
「お前と再会した頃のオレなら無理だ。身体が耐えきれない。ただ今のオレなら、だな」
ぐっ、ぱっ。カイトはヴィヴィアンの問いかけに拳を握りしめ、改めて自らの身体を確かめる。調子で言うのなら、正直に言えば分身で活動している状態の自分より非常に良い。
「そっか。大変だね」
「相変わらず軽いな、お前も」
「そうかな? よく重いって言われるけど」
「その重いとこの軽いはまた別だろ」
まるで今までずっと一緒だったかのように、二人が軽口を叩き合う。そんなこんなで楽しげなカイトであるが、彼は上を見上げて一転して気を引き締める。
「……はぁ。嫌になるね、あの頭上のは」
「知り合い?」
「ここで知り合って未来でもう一度バトる。仕留めきっときゃ良かった」
先にカイトが述べているが、この頭上を覆い尽くす巨大な触手の海は『強欲の罪』の雛。いつか『強欲の罪』へと至る個体と同一個体だ。
つまり終わりなき旅の中でカイトは今よりはるかに多くの仲間と共にもう一度、成長しきった『強欲の罪』と戦わねばならなかった。というわけで今はマーリンの幻術により行動を止める『強欲の罪』のコアらしき女性の影をカイトは見てため息を履いた。
「やれやれ……別嬪さんとの再会はウェルカムなんだが……」
「流石にあれはお近付きになれそうにないね」
「『強欲の罪』ってなんなんだろうなぁ……」
なぜ他の個体を吸収し、手駒のように操るのだろうか。カイトは『強欲の罪』の特性を思い出し、おそらくコアらしき女性の姿を見ながらその根本的な原因を考える。
『七つの大罪』と呼び表された魔物は全て、七つの大罪に擬えた何かしらの所以がある。かつて『リーナイト』で戦った『暴食の罪』であれば他の魔物を吸収し自らの肉体とすること。カイト自身の果てである『傲慢の罪』であれば、まるで神の如き振る舞い。他も似たりよったりだ。
「『強欲の罪』……他の個体の知識や性質を取り込み、自らのモノとしてしまう強欲な簒奪者。文明を取り込み発展を遂げた時点で世界の崩壊どころか全ての世界の崩壊さえ招く事態になってしまうわけだが……」
「これからなるの?」
「なったな。どこかの銀河連邦だか共同体だかを取り込む事に成功したようでな。冗談きっついぞ、あれは」
なにせ初見殺し。隠す知恵を手に入れられれば、一見すると普通の文明だ。しかしそうして油断したら最後、自分達もまた『強欲の罪』の餌食だ。恐ろしい敵であった事は間違いなかった。そうして始まった大戦争を思い出す。
「最初はなぁ……普通に行き違い等に端を発する大戦争だったんだ。オレが当時所属していた銀河連邦政府も単なる交渉決裂かと思っていたんだが。途中から当時参列していた使者が軒並み奴に操られている事が発覚して、危うく政府中枢が乗っ取られかけていたよ。正直あそこから良く盛り返して撃破したもんだ」
「カイトが頑張ったおかげかな?」
「あははは……ああ、思い出した。そうだ。最後はあいつと戦ったな。奴の訝しみはそれか。下半身が普通の人のそれに戻っていたから気付かんかった」
ヴィヴィアンの言葉にカイトは記憶の奥底で錆びついていたかつての戦いを思い出して苦笑いだ。どうやら最終的にはあの個体のコアは分離していたらしい。それがより一層、敵が普通の文明であるとカイトにさえ気付かせない結果をもたらしていた。
「……」
正直もう二度と戦いたくない相手の一体に間違いないんだが。カイトは『強欲の罪』のコアを見ながらそう思う。とはいえ、この時代の自分の不出来さが原因でここに呼ばれたのだ。腹を括る以外に彼に選択肢はなかった。
「やるかね、それじゃ」
「うん」
兎にも角にもこの事態を乗り切らなければならない事は間違いないのだ。カイトはヴィヴィアンと共に総司令部へと降下する。
「「「……」」」
まぁ、あれだけの戦闘力で戦闘を繰り広げたのだ。総司令部はあまりに桁違いの戦闘力を行使したカイトに、誰もが言葉を失っていた。そうして言葉を失う中、カイトはレックスへ問いかけた。
「どうだった?」
「……ちっ。強くなりすぎだろ、お前」
「安心しろ、どうせお前も似たりよったりになってんだ。それはオレが保証する」
「厳しい事言いやがって」
カイトがここに至るまでに重ねた努力は、唯一対等と認める自分だからこそ理解できる。故に段違いの戦闘力を見せたカイトへの羨望なぞレックスにはなく、そこにあるのはただそうならねばならないという見栄のようなものであった。
「あははは……ま、今回ばかりは切り札は任せてくれ。大魔王様にも切ってない切り札がまだまだ何枚もある。今のオレなら、個としての戦闘力も軍としての戦闘力も十分に奴と戦える領域だ」
「それが聞けて安心だ……っ!?」
「なんだ!?」
唐突に響く鬨の声に、カイトもレックスも困惑を露わにする。そんな彼らに、ベルナデットが口を挟んだ。
「ああ、カイト様の戦いを喧伝させて頂いておりましたー……効果抜群ですねー。流石に大魔王様とやらの戦闘力には結構各国へこたれてたみたいですねー」
それがカイトが互角の戦いを繰り広げた事により決して人類側も負けたものではないと認識。ならばやってやる、と奮起したというわけであった。
「それに後は……そろそろですねー。カイト様、いつも通りですがベストタイミングですねー」
「次は何!?」
「ほら、来ますよ」
カイトの問いかけにまるでこれが答えだ、とばかりに天から巨大な階段が舞い降りる。そうして先遣隊本隊が到着した事により人類側は息を吹き返す事になるのだった。
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