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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3475話 はるかな過去編 ――三分間――

 『狭間の魔物』による侵略。かつてそんな事態に見舞われていたセレスティア達の世界であるが、過去へと飛ばされた彼女らはそれに巻き込まれる事になってしまう。

 そうしてカイトが瀕死の重傷を負わされる中で開始された『狭間の魔物』との戦いは序盤一進一退の戦局となっていたものの、一夜が明ける頃に姿を現した触手の海から生み出された無数の触手の人形。世界を引き裂いて直接現れる強大な融合個体たちの出現により人類・魔族の合同軍が押されつつあった。

 そんな中でこの時代のカイトを媒体とする形で召喚された未来のカイトであったが、そこに現れたのは魔王としてのオリジナルに引き寄せられた大魔王であった。そうして大魔王との戦いに臨むカイトは大魔王との短な会話の後、三分間を耐え抜く事を提案。それを大魔王が受け入れて始まった戦いであるが、その中でもカイトはやはり余裕を見せていた。


「はぁ!」

「……あの白い男か」

「なんだ。気付いていたのか」

「ふっ……そうでもなければ今まで猛攻を仕掛けてきた『狭間の魔物』共の攻勢が急に弱まるなぞあるまい」


 無数の剣戟を交えながら、その何分の一程度の文字数で二人が言の葉を交わす。どうやら大魔王もまたマーリンの存在に気付いていたらしい。そうしてカイトの大太刀を両手剣の腹ですべらせるようにして防ぎながら、大魔王が笑う。


「手品師の業であろう。こうして目立つ所に視線を向けさせ、本当に隠すべき行為へ死角を生じさせるのは」

「まぁな……まさかマーリンが来ている事には驚いたが……彼なら並以上の働きをしてくれるだろうさ」


 自身の懐に入ってきた大魔王の両手剣を今度は大剣の腹で受け止め、カイトは少しの驚きを露わにする。実のところ、彼自身マーリンの実力が如何ほどのものかは理解していなかった。

 おそらく幻術の方面ではティナ以上である事は間違いないだろうと思っていたが、まさか世界や『強欲の罪(グリード)』さえ騙せる腕の持ち主とは些か想定以上だったのである。

 とはいえ流石に雛とはいえ永劫の旅の中で最強クラスと断言させる<<七つの大罪(セブン・シンズ)>>の一角。警戒されていては通じない事もわかっており、彼は敢えて大魔王の余興に乗る形で『強欲の罪(グリード)』の視線を向けさせていたのである。そして大魔王もその意図を察して、こうして戦っていたのである。


「ナコト」

「っ」


 原初の頃にオリジナルが自らのために拵えた魔導書か。大魔王はナコトから放たれる無数の魔弾を認識すると共に即座に距離を取る。この魔弾は単なる魔弾ではなかった。


「っぅ」


 障壁を掠めたか。大魔王はナコトの放った魔弾の一つにより障壁が表層の数枚程度だが柔らかくなった事を理解する。自律する魔導書の厄介な所は正しくこの点だ。主人の意を受けて行動しない事もある代わりに、主人の意を受けずとも勝手に行動するのだ。

 故にナコトは自身の判断で魔術を行使してきている上、魔導書の性質上なんの魔術が放たれるかは放たれるまでほとんど未知数。防ぐより回避や相殺が中心にならざるを得なかった。そうして障壁が緩まったのを見逃すほど、カイト達は甘くない。


「はぁ!」


 障壁が緩まった瞬間を狙い澄ますように、ヴィヴィアンが大剣を翻す。これに大魔王は一瞬だけ逡巡する。ヴィヴィアン自身も理解しているが、大魔王にとって避ける事も防ぐ事も容易い。

 だが、ヴィヴィアンはそれを承知で攻撃しているのだ。あくまでも更に先に向けての布石に過ぎないのである。故にまるで詰将棋のように追い詰められる可能性があった。


(背後になにかがある)


 まだ出現はしていないが、何かを仕掛けられている雰囲気がある。大魔王は魔術による世界の改変を認識し、眼の前のヴィヴィアンへの対処を考えながら同時に背後への対応を考える。


「……ちっ」


 迎撃しない方が得策か。大魔王は相手が自身のオリジナルである事を念頭に置き、この行動の次が自身にとって詰み行動になる可能性が高いと判断したようだ。その場に立ち止まる事になるヴィヴィアンへの迎撃を取り止めて急降下する形で回避する。


「あっ……仕方がないか」


 上でヴィヴィアンの残念そうな声を聞きながら、大魔王は自身の判断が正確であった事を理解する。なんとヴィヴィアンの斬撃が大魔王の居た位置を取り囲むように前後左右全てから同時に放たれたのだ。そうしてまるでガラスが砕け散るような音と共に斬撃が砕け散る。


(どこぞの幻術の類であるが……)


 それを理解するのが限界か。あれがどうやって成し遂げられているかは大魔王をしても理解は出来ない。だが少なくともあの時点で防いでいれば四方八方から斬撃に取り囲まれ、更にカイトの追撃まで許すことになる事は明白だっただろう。そうなれば、いつかはジリ貧だった。というわけで急降下して距離を取った大魔王へと案の定カイトが肉薄する。


「はぁっ!」

「……」


 双刃と両手剣が激突し、火花が舞い散る。そうして舞い散った火花が、水の花へと変貌する。


「あ、これオレも見たことない」

「っ」


 なのにそんな場に居座ろうとするか。大魔王はまるっきり自分が巻き込まれることがない、もしくは巻き込まれた所で問題ないと判断しているカイトに思わず笑みが溢れる。そしてその意図を理解することなぞ容易い。そうして逃げられぬように放たれる無数の剣戟を両手剣一つで防ぎ、数瞬。巨大な水の爆発が巻き起こる。


「っぅ!」


 水属性の爆発なぞ面白い魔術を使ってくれる。衝撃波で吹き飛ばされながら、大魔王は笑う。そうしてまるで水の花が咲くかのように広がる水の爆発を見ながら、彼は両手剣を右手一つで携えると、空いた左手で魔術を編む。


「返礼だ」


 水の花を誰が作ったか、なぞ考えるまでもない。ヴィヴィアンだ。そして彼女がどこにいるかは常に気配で察知している。故に自身の裏に回り込んでいた彼女を見ることもせず、左手を後ろ手に回して闇をまるで薔薇の花のように爆ぜさせる。


「おっと!」


 ざんっ。放たれる巨大な闇の薔薇を一刀両断に斬り伏せて、ヴィヴィアンがその場に停止する。そうして放たれる巨大な斬撃を尻目に、大魔王は水の花が収束していく中心へと虚空を蹴った。


「……」


 この男にだけはありとあらゆる属性攻撃が通用しないことなぞ知っている。魔法であろうと魔術であろうと一切が通用しないのだ。ならば仲間の水の睡蓮だろうと敵の闇の薔薇だろうと関係ない。爆心地であろうと、おかまいなしに留まれる。が、それを知るからこそ大魔王は誤った。


「!?」


 がしゃん。大魔王の斬撃がカイトの姿を捉えた瞬間、カイトの姿がガラスのように砕け散る。そうしてその中から現れたのは。


「ふふ」

「……」


 やられた。どの瞬間に入れ替わったのかはわからないが、背後に回り込んでいたのはヴィヴィアンではなかったのだ。そうして水の睡蓮の中から現れたヴィヴィアンが大魔王の斬撃を大剣で防いだその瞬間。背後で切り裂かれた闇の薔薇の花びらの間を縫ってカイトが現れる。


「さぁ、どうする!?」

「……」


 ああ、楽しいな。大魔王は背後から迫りくる人類最強の一人の声に、これが楽しいという感情であると理解する。そうして完全に万事休すに陥ったはずの大魔王は、ただ興奮に身を任せる。


「「っ!?」」


 大魔王の身体から迸る闇色の光を見て、カイトもヴィヴィアンも驚きを浮かべる。この意味を理解することなぞ簡単だ。


「ヴィヴィ!」

「っと!」


 詳しく言う必要はない。こんな状況、何千と踏み越えている。故にヴィヴィアンは大剣を手放すと、剣を介して放たれていた自身を逃すまいとする力場から離脱。そこから間髪入れず、一切の迷いなく障壁をすべて解除してカイトに身を任せる。


「おっと!」


 移動力などをすべて保持させたまま転移させ、ヴィヴィアンを自らの懐に抱き寄せたその直後。大魔王から巨大な闇の光を放つ薔薇の花が生ずる。だがそれはカイトの右手を中心として即座に吸収。一切のダメージを二人へ与えることなく守り抜く。


「……そうか。それは大精霊の御業。思えば吸収までのタイムラグなぞないものであったか」


 闇の薔薇を生じさせ、大魔王は自らの思い違いに苦笑する。ここら知識として識っているだけと実際に見て理解するのはまた別だ。それを感情を得た大魔王は改めて思い知る。


「なんだ。それを確かめるために敢えてやっていたのか」

「然りよ……さて。そろそろ身体が温まってきた頃だ。もう少しギアを上げるぞ」

「おぉう……」


 さすがは八耀を相手取って戦うことを想定された魔王。カイトは迸る力を見て、思わず感心する。先ほどまでの力が興奮に身を任せたものであるのなら、今は明白な感情を持ちながらもきちんとした技術が兼ね備えられた達人じみた風格を感じられた。そんな大魔王を見て、ヴィヴィアンがカイトを見上げる。


「うーん……少し余裕を見せすぎたかな?」

「ま、そこは年季と技術でカバーって所で一つ」

「りょーかい」


 二人はまるで遊ぶように笑い合いながら、まだまだ余裕が失われていない様子を見せる。そうしてヴィヴィアンが理解を示すと同時に、二人を分かつように斬撃が走る。


「「はぁ!」」


 双刃と大剣が同時に疾走し、世界をも裂きかねない大斬撃を両断する。しかし疾走するのはヴィヴィアンのみだ。そうして彼女に一瞬だけ前線を預けて、カイトは次の支度に取り掛かる。といっても、それは時間が掛かるものではない。


『一分半……おおよそ折り返しだな』

『どうする?』

「とーぜん……こっちももうちょっとだけギアを上げてやろう」


 魔導書達の問いかけに、カイトは彼女らに手を伸ばして自らへと吸収する。そうして身体全体に刻印を浮かべてカイトもまた戦線へとすぐに復帰するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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