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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3473話 はるかな過去編 ――魔王――

 『狭間の魔物』による侵略。かつてそんな事態に見舞われていたセレスティア達の世界であるが、過去へと飛ばされた彼女らはそれに巻き込まれる事になってしまう。

 そうしてカイトが瀕死の重傷を負わされる中で開始された『狭間の魔物』との戦いは序盤一進一退の戦局となっていたものの、一夜が明ける頃に姿を現した触手の海から生み出された無数の触手の人形。世界を引き裂いて直接現れる強大な融合個体たちの出現により人類・魔族の合同軍が押されつつあった。

 そんな中でこの時代のカイトを媒体とする形で召喚された未来のカイトであったが、そこに現れたのは魔王としてのオリジナルに引き寄せられた大魔王であった。そんな大魔王自身はなぜ自身が統一軍の総司令部に来たかもわからぬままにカイトに手を出してしまったのであるが、もはや何もかもが想定外となった大魔王は生まれて初めて自らの気の赴くまま、カイトとヴィヴィアンへと交戦を申し出ていた。


「……」


 この気分をなんと言い表せば良いのだろうか。大魔王は今までの自身が到底感じたことのない心情を得て、感情の発露を抑える事が出来ていなかった。故に浮かぶ獰猛な笑みに、カイトが懐かしい物でも見たかのように笑う。


「あぁ、覚えてるな、その顔は」

「む?」

「その顔だ。その面をなんとか歪ませてやりたいと思ってたが……ついぞ叶わんかったなぁ」

「……」


 カイトの懐かしげな声に大魔王は未来における自分の定められた敗北を理解しつつも、自らが携える剣に僅かに映り込んだ自らの顔を見て驚愕の表情を浮かべる。そこに浮かんでいたのは紛れもない笑みだ。それも彼が疎む獣のように獰猛な、だ。


「これは……」

「なんだ。気付いていなかったのか。世界達もお粗末な粗悪品を創るな……所詮、世界達にとってお前は効果さえ上げてくれれば十分な道具に過ぎないってわけか」

「……」


 自分が笑っている事さえ理解出来ていなかった大魔王に、カイトはどこか苦みと哀れみの滲んだ顔を浮かべ呟いた。今この時ほど、大魔王と自分、そしてヴィヴィアンしか理解出来ない言葉が使える事が便利だと思う事はなかった。

 どれだけ強大であろうと、所詮大魔王は世界にとって操り人形。戦乱を巻き起こす事でこの世界に蔓延った悪徳を刈り取るための道具。感情なぞ与える意味も必要性もない、と判断していたのだと考えられた。だがそんな彼の声に乗る僅かな怒りを、大魔王は自らが彼を模した者であることと感情を手に入れつつあればこそ察した。


「……なぜ貴公が我についての事で怒る」

「ん? 怒る?」


 どうやら今度はカイトの方が怒りを湛えていた事を理解していなかったらしい。どこか同じ様な顔で驚きを浮かべていたのは、元々大魔王がカイトを模した存在だからなのかもしれなかった。

 とはいえ、そこから先はやはり違っていた。故に自らの怒りを察したカイトはままならないものだ、とばかりに苦笑いだ。


「まぁ……オリジナルだからだろうな。模したのならしっかり拵えてくれれば良いものを、粗悪品のような形で再現されては腹も立つってもんだ。ま、変に感情を与えすぎても面倒になる。それが良いのかもしれんがな」

「……」


 どうなのだろうか。感情を与えられずただ現象のように世界に産み落とされた事について、大魔王は今更ながら考える。が、すぐに吹き出した。


「……くっ」

「どうした?」

「いや、我が道具のように生み出された事についてどうでも良いと思ったのだ。世界が我に与えた命はただ破壊せよというのみ。考えんで良い話だと思うのみであった……今もそれは変わらぬ。生まれた理由なぞどうでも良い。どうせどのような形で事を成せなぞ命ぜられてもおらん。事を成した後どうせよとも」

「……」

「……よいのか? この時代の貴公が返って苦しむ事になるのだぞ?」


 ああ、この男はかつて魔王だったからこそ、自身の内を見抜いている。大魔王はそう察していればこそ、敢えて無言で牙を剥いて笑うカイトへと問うてやる。だがこれに、カイトは逆に慇懃無礼に問いかけるのみだ。


「おや……大魔王様は矮小な人間如きのお願いを聞いてくださるのでしょうか?」

「貴公は人ではなく神であろう。ならば聞くやもしれん」

「……そのつもりはないが、って顔してるよ」

「……」


 楽しげなヴィヴィアンの指摘に、大魔王は笑う。最初この世界に来て遠目に見ていた頃より随分と良い顔をするようになった。彼女は魔王の一人としてそう思う。

 そして大魔王の顔は、さもそれこそが答えだと言わんばかりであった。というわけでカイトはかつて原初の魔王であった者として、自らを模して生み出された大魔王に許可をくれてやった。


「良いぜ。好きに生きろよ。どうせお前の言う通り、世界は腐敗を刈り取れと言うだけだ。刈り取った後に幕を引けなぞ言う事も……いや、それどころかどうしろと言う事もないだろう。それこそ、お前が天下を取った所で世界は文句一つ言わんだろう」

「……」


 そんな事は今の今まで、それこそ未来のカイトと出会い気まぐれを起こすまで一度たりとも考えた事はなかった。だがこれで腹は決まった。そうして、カイトへと切っ先を向ける。


「先に告げたぞ……後悔するな、と。だが我が道を示した貴公には敬意を表しよう。貴公の聖女は一切汚させはせぬ。存分に、死力を尽くし挑むが良い」

「それはこの時代のオレに言ってやれ。今この場においては、その言葉(死力を尽くせ)はオレが言う側だ」

「言える事ではあるまい。故にそう告げた事を貴公に刻むのみよ」


 ああ、これが楽しいという事なのだろう。大魔王はカイトとの対話は一切隠す必要がなければこそ、あけっぴろげに話せる事がこうも楽しいのだと理解する。そしてだからこそ、彼は今は気の赴くまま自らの全てを振るう事にする。


「……」


 瞬間。戦場全ての者の時が凍り付く。何が起きたのかなぞわからない。ただ大魔王の切っ先から強大にして強固な、あまりの濃度にまるで塊のような魔力の光条が放たれ、それはしかし全員が交戦に気付いた瞬間には切り裂かれていたのだ。そうして閃光の中を抜けて、ヴィヴィアンが切り込んだ。


「じゃあ、存分に楽しもっか」

「胸を借りよう」

「女性にそれはセクハラだよ」


 きぃん、と澄んだ音が鳴り響いて、火花が周囲を一瞬照らす。だがその火花が消えるよりも前に、2つの剣閃が激突する。そうして驚きを浮かべたのは大魔王の方だ。大剣と両手剣である事を差っ引いても、大魔王の剣の方が大きく弾かれていたのだ。


「む」

「ふふ……さっきまでのは単なる遊びだよ」

「失礼した」


 それはそうだ。彼女もまた自分が模した一人なのだから。大魔王は先程まで自身が防ぐ事もせずとも防げたヴィヴィアンの剣閃が単なる存在をアピールする程度に過ぎなかったのだと理解する。そうして礼を失した詫びとばかりに、大魔王の剣戟の速度が先程の数倍に跳ね上がる。


「ん」

「おっと」


 押し負けたヴィヴィアンをカイトが魔糸で編んだ網で受け止めて、彼女と入れ替わるように大魔王の前に躍り出る。そうしてついに両者が直接対峙する。


「「……」」


 瞬間、両者共に同じ顔を浮かべている事を鏡を見なくとも理解する。そうしてカイトの双剣と大魔王の両手剣が交差して、ただでさえ崩れかかっていた世界が大きく鳴動した。


「ぐっ……」

「くっ……」


 双剣と両手剣の押し合いはまだほぼ互角。そうして獰猛に笑う両者であるが、先に次に移ったのはなんと大魔王であった。


「っ!」

「かぁ!」


 一瞬だけ両手剣を右手一つで支えた大魔王が、カイト目掛けて左手を突き出して魔力弾を発射。彼を跳ね飛ばす。そうして吹き飛ばされていく彼へと追撃を仕掛ける。だが、その前にヴィヴィアンが立ちふさがる。


「まさか行けるとは思っていないよね」

「無論……行けぬと思うか?」

「!」


 一瞬だけ獰猛に笑う姿を見て、ヴィヴィアンが僅かな驚きを浮かべる。そうして大剣が翻る前に大魔王は強引に身をねじ込んで、タックルじみた動きでヴィヴィアンを吹き飛ばす。


「おぉおお!」

「おっと……ちょっとはしゃぎ過ぎだな」


 雄叫びをあげて突っ込んできた大魔王に、カイトはまるで親友と殴り合うかのように楽しげな顔で双剣を構える。そうして大魔王の剣戟が袈裟懸けに彼を斬り裂いた。


「っ」


 がしゃん。カイトを斬撃が捉えた瞬間、ガラスのように彼の姿が砕け散る。そうして一瞬だけ驚きを浮かべる大魔王であったが、さすがは未来のカイトをして最強の一角を謳わせる者。即座にカイトの本体の居場所を探り当てる。


「はぁ! っ!」


 しくじった。大魔王が自身が一手遅れていた事を悟ったのは、彼が振り向いた瞬間だ。その眼前には魔銃――世界側の知識を持つ大魔王は魔銃等の未知の道具も見れば分かるようにされていた――があったのだ。そうして、大魔王の端正な顔面を魔力の光条が飲み込んだ。


「……これが魔銃か。見るのは初めてだ」

「そりゃこの時代にゃ無いもんだからな……おかわりもどーぞ!」


 だんっ。大魔王の顔が閃光の中から現れると同時に、もう一つの魔銃から魔力の光条が迸り大魔王の腹部を捉える。そうして今度は大魔王が吹き飛ぶ番だった。が、これにカイトが追撃を仕掛ける事はなかった。そんな彼の横にヴィヴィアンが舞い降りた。


「ふぅ……ちょっとだけ油断しちゃった」

「みたいだな……さって」

「……」


 吹き飛んだ大魔王が再び両者の前へと現れる。そうして再び両者の間で闘気が高まっていくわけであるが、激突の直前。再度カイトが手を突き出して3の数字を露わにする。


「残り四分中三分。頑張ってみせろ」

「さすればどうするつもりだ」

「ご褒美をくれてやる」

「それは楽しみだ。褒美は与えるものであって、貰ったことなぞないものでな」


 ご褒美がなにか。それを大魔王は理解していた。そうして大魔王は更に闘気を高めて、再度両者が激突するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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