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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3469話 はるかな過去編 ――大魔王――

 『狭間の魔物』による侵略。かつてそんな事態に見舞われていたセレスティア達の世界であるが、過去へと飛ばされた彼女らはそれに巻き込まれる事になってしまう。

 そうしてカイトが瀕死の重傷を負わされる中で開始された『狭間の魔物』との戦いはその多くが雑魚と言える個体だったが故に『狭間の魔物』の殲滅戦にも近かったものの、それも開始から数時間。世界の亀裂が大きく広がり周囲一帯を覆い尽くすほどになった事により、ついに敵の親玉とも言える巨大な触手の海の『狭間の魔物』が出現。無数の触手の塊を降り注がせ、それが無数の触手の人形を生み出していた。

 そうして無数の触手の人形との戦いを経て一度総司令部へと戻る事にしていたソラと瞬であるが、その道中。世界を引き裂いて現れた身体の各所から触手が生えた1つ目の巨人との交戦状態に陥っていたのであるが、それもなんとか終わり二人は総司令部への最後の直線を駆け抜けていた。


「っ!」

「冗談きっつい!」


 ばりばりばり。世界がまるでお菓子のように裂けていくのを見ながら、ソラと瞬は地面を滑りながら急制動を仕掛ける。あの1つ目の巨人でさえこの二人が同時に仕掛けてなんとか勝てたような相手だ。

 そしてこの世界を引き裂いて現れる相手以外にも当然、親玉となる触手の海が生み出す触手の人形も降り注ぎ続けている。ここに来ての増援に若干嫌気が差していたのは、無理もないことだろう。


「これ絶対<<守護者(ガーディアン)>>案件だろ、もう!」

「諦めろ! 出てこない限りどうしようもない!」


 次に出てくるのは一体何か。二人は後少しが進めない事に僅かな苛立ちを露わにしながら、即座に鬼武者と黄金の戦士へと姿を変える。だがそうして世界を引き裂いて現れたのは、得体の知れない魚のような巨大な魔物だった。それを見て、二人が思わず気勢を削がれる事になる。


「こ、これは……」

「ちょ、っと……」

『『む……』』


 流石にいくらなんでも二人で相手をするのは厳しすぎる相手じゃなかろうか。おそらく50メートルほどこちらに入り込んできたにも関わらずまだ尻尾どころか鰓も見えない巨大な魚のような魔物に、二人や瞬の内側の酒呑童子、<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>が揃って苦笑いを浮かべる。流石の酒呑童子でさえ、この相手に今の瞬が勝てるのかと言われれば無理だろうと笑う領域だったようだ。


「ちぃ! やるしかない! ソラ、やるぞ!」

「うっす!」


 どれだけ勝ち目がなかろうと、戦わねば死ぬのだ。ならば気合を入れるだけだ。というわけで気合を入れて飛び上がろうとしたその直後。遥か彼方の天高くから、一筋の光条が迸った。


「「……は?」」

『これは……』

『ほぅ……』


 瞬とソラが困惑し、<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>は驚愕。酒呑童子は感心という塩梅で各々声を零す。あまりに圧倒的な魔物に対してさえあまりに圧倒的な一撃。この主が誰か、と問われれば一人しかいなかった。


「「……」」


 こちらを認識しているわけではないかもしれない。ソラも瞬もこれが単なる自分たちが恐怖心から抱く幻想と理解しつつも、そう思わざるを得なかった。

 それほどまでにこの場に集う全ての戦士で最も多くの融合個体に囲まれながらも一切埋もれる事のない大魔王の存在感は大きく、そしてその存在感は寒々しかった。


「……ソラ。<<死魔将(しましょう)>>と比べてみてどう思う」

「……比べ物になんないっす、あれは。間違いなく。絶対に」


 どちらが上か、なぞ聞く必要もない。ソラの返答に瞬は大魔王が視線を外す事を心底願いながら、万が一戦闘になった場合を考える。無論そんな事になればおそらく抗う事なぞ出来ない事は彼にもわかっている。だがそれでも、諦めるわけにもいかないのだ。そうして一瞬。二人どころかその周辺の戦士たちにとっても数十秒にも感じられた時間が流れ、大魔王が視線を外す。


「ぐっ!」

「はっ……はっ……」


 ここが戦場だということはわかっている。だがそれでも、二人は思わず膝を屈して乱れた呼吸を整える事を止められなかった。そして乱れた呼吸と精神を整えて、少し。再び立ち上がろうとして、瞬は思わず再び力なく膝を屈することとなった。


「……なん……だと……?」

「ど、どうしたん……は?」


 何があったのか。一瞬遅れて周囲の状況を確認出来るようになったソラが、瞬の様子に周囲を確認。見えた光景に彼もまた愕然となる。なんと周囲に無数に居たはずの魔物が跡形もなく一切合切消え去っていたのである。


「なに、が……?」

『あり得ん……あり得んことだ。真言……この領域の真言なぞ人の子が使えて良いわけがない。何者なのだ、あれは……』


 愕然となるソラの手の中で、<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>が恐怖で恐れ慄く。後の彼曰く、大魔王は自身が戦ってきた全ての猛者たちが集まったとてそれを遥かに上回ると断言させていた。勿論、かつて自分たちが総力を挙げて戦った邪神の最盛期と比べても、だ。そんな彼の言葉に、瞬が問いかける。


「しん……ごん……それは……確かあれか? 言葉を(まこと)にしてしまう魔術……魔法の一歩手前とも言われるあの……」

『……そうだ。だが本来はこのように大量の……それも本来普通の戦士であれば手こずるような魔物を消す事なぞ出来ん。やろうとすれば一切合切を、が限度であろう。それを、我らや兵たちを除いてなぞ……どのような複雑な言の葉を紡げば出来る』


 無論<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>とて、これがなし得たのは直接あの世界を引き裂いて現れた巨大な魚のような魔物を倒したからだという事は理解している。圧倒的な力量差があれば出来た事だ。だがそれでも、規模も範囲もあまりに広すぎた。というわけでもはや呆けるしかない一同に、声が響いた。


『呆けたくなる気持ちはわかるし、僕としても正直巫山戯るなと声を荒げたい所だが……今のうちに立て直せ。今なら一直線に総司令部へと移動出来る』

「りょ、了解です」

「うっす……」


 正直に言えば少し心が折れそうだ。ソラも瞬もサルファの言葉になんとか笑う足に力を入れて総司令部へと駆け込むのだった。




 さてソラと瞬が総司令部へと駆け込んで暫く。幸か不幸か大魔王により総司令部近辺もきれいに掃除された事により一時の安息が得られる事になるのであるが、総司令部は下手をすればカイトが致命傷を与えられたと知らされた時以上に重苦しい雰囲気が蔓延していた。


「……」


 おそらくお通夜であったとしてもここまで重苦しい雰囲気にはならないだろう。ようやくの思いで帰り着いたソラはその原因が理解出来ればこそ、自分もまた同じ様に重苦しい気分にならざるを得なかった。あまりに圧倒的。勝ち目なぞないようにしか思えなかった。と、そんな二人に声が掛けられた。


「お二人共、ご無事でしたか」

「セレスティアか……ははっ。正直に言えば無事かどうかはわからん。あんなものを見せられては、な」

「……」


 わからないでもない。セレスティアは自身が未来の世界において魔族軍と最前線で戦う者の一人であればこそ、あの光景を見せられて心が折れそうになるのは無理もないと思っていた。

 そもそも彼女らは大将軍級には数多の犠牲を払ってようやく一太刀入れられるか、という領域なのだ。もし未来の大魔王がこの時代の大魔王と同等の実力者であれば、と考えるだけでも嫌になった。そしてだからこそ、彼女は素直に認める事にする。


「そうですね……ですが、カイト様もレックス様も勝利なされた。それでも決して勝てない相手ではないのでしょう」

「そう……なんだろうな」


 逆説的に言うのならば、おそらく単体として戦ったならば勝てなかったほどの実力者という事で間違いないだろう。と、そんな彼にセレスティアは更に指摘する。


「それに……この状況は大魔王をして一人では対処し得ないと判断している状況です。まずは眼の前の事をやらねばなりません」

「……そうだな。よし。すまん。柄にもなく落ち込んだ。何よりカイトに丸投げで良い話だしな」

「あはは……」


 瞬の言葉にセレスティアが笑う。そうして気を取り直した所で、三人はカイトの所へと移動する。そこには八英傑が勢揃いしていたわけであるが、そこもまた重苦しい空気が漂っていた。


「カイト……ああ、レックスさんも。今戻りました」

『……ああ』

「……おう」

「「っ」」


 これが死にかけの男と激戦を終えた後の男が出せる闘気なのか。ソラも瞬もカイトとレックスから放たれる尋常ではない量の闘気に思わず気圧される。が、すぐに彼らが闘気を収めた。


『ああ、悪い。全く……嫌になるよな、あれは』

「それでもやるんだろ?」

『おうよ。なにせこちとらマクダウェル家の騎士だ。一度マクダウェル家が中心となって大魔王様とやらの侵攻を退けておいて、子孫が負けましたなんぞ情けなくてしゃーないんでな……だろう!?』

「「「おぉおおおお!」」」


 まるで挑発するかのようなカイトの問いかけに、総司令部に詰めていた2つの騎士団の騎士たちが鬨の声を上げる。やはり彼らは未来においては全員が名を残す英雄たち。少し圧倒されはしたものの、逆に奮起するきっかけにしかならなかったようだ。これに同意するように牙を剥いて笑うレックスにカイトが問いかけた。


『お前も当然やるよな?』

「当たり前だろ? 俺は英雄になるんだぞ。魔族の侵略程度で情けないことなんて言えるかよ」

『そうこなくちゃな……大精霊様!』

『ふふふ……なんだい?』

『そろそろ教えてくれ。最後の秘策を。もうそろそろヤバいだろ』


 おそらく大精霊たち側もここがタイミングとして最適解と判断しているとカイトは判断していた。というより、このままでは大魔王の力で本来味方であるはずの統一軍側が瓦解しかねないのだ。ならば統一軍、ひいては人類側を奮起させられる切り札を切らねばならなかった。


『そうだね……』

「お待ち下さい」


 どう説明したものか。一瞬だけ逡巡を見せたシルフィードの問いかけを遮るように、ベルナデットの声が響く。


「御身らの秘策はこの状況を好転させられるものと存じます……ですがそのデメリットをつぶさにお聞かせ頂けますか」

『……ああ、流石は賢者の娘だね。君は正確に僕らが考えていた秘策を理解していたんだ。そしてそのデメリットも』

「なればこそ、判断は慎重に行わねばなりません」


 後にレックスが言う所によると、ベルナデットがここまで真剣な顔をしたのを統一王朝の崩壊の時でさえ見なかった、というほどに真剣な顔でシルフィードへと力強く明言する。というわけで重苦しい雰囲気が吹き飛んだ事でいつもの風に戻ったレックスが小首を傾げて問いかける。


「わかってたのか?」

「はい。大精霊様が考えられている秘策……それは未来のカイト様をこの時代へ呼び寄せるという事ですね」

『そう……彼の力はこの敵にとって特攻とも言えるものだ』


 カイトの力。それは色々とあるが、今回特攻とも言えるのは生者の縁を頼りとして現れる死者の軍勢だろう。それは本来彼が知り得ない相手でさえ呼び寄せる事を可能としており、魔力が足りる限りは無制限に呼び寄せる事が可能となる。

 そしてあくまでも死者。死体でさえ取り込める今回の『狭間の魔物』であれ、一夜の幻は取り込めない。死が即ち敵の強化に繋がるこの状況において、非常に優位に働くものであった。


「そんな事が出来るのか?」

「はい……セレスちゃんの話を聞いて、実現可能と理解しました。カイト様を召喚出来る巫女がこの場に居て、死に瀕したカイト様の肉体がある。そして世界の法則は乱れ、糺される事はない。カイト様を触媒として未来のカイト様を召喚してみせる土台は完全に整っています」

「なるほど……確かにあの影の軍勢は強いよな……でもなにをそんなに恐れているんだ?」


 ベルナデットがここまで恐れている姿は幼馴染として、夫としてもレックスは見た事がない。それこそ死地と言われた一度目の魔王の侵攻においてカイトと二人で魔王の討伐戦に臨んだ時よりも恐怖を抱いていた。


「……何が起きるかわからないからです。未来のカイト様を召喚せしめるということは即ち、未来の因果を確定させるということです。この先に何が起きるかは私にもわかりません。わかりませんけど、おそらく良い事ばかりではないのでしょう」

「あー……ベル? ちょっと良い?」

「……はい? あいたっ!」


 ヒメアの言葉にうつむいて唇を噛み締めていたベルナデットが顔を上げて、そして唐突にデコピンされて涙目になる。そんな彼女に、ヒメアが盛大にため息を履いた。


「このバカは私がフォローする。あんたはレックスのフォローをする。あんたはレックスの事だけを考える。私もこいつの事だけを考える……そう言ったでしょ」

「でも……」


 ヒメアの言葉にベルナデットは不満げだ。だがこれに、ヒメアが声を荒げた。


「でもも何もない! 何十年だろうと何百年だろうと、こいつのフォローは私がする! こいつが死ぬまで……ううん。死んでも私がフォローする! レックスのフォローはあんたがする! 死んでもフォローしろ! カイト!」

『おう』

「良いわね」

『当たり前だ……未来の世界であれ、オレ(お前の騎士)が最強である事を証明している事を証明してやる。未来のオレに頼るのは些か業腹だが……この醜態を晒している状態で何を今更でしかねぇな』


 それがここに自分が居る意味であるのなら、カイトは迷いなくそれを掴むだけだ。何より自身の油断により醜態を晒して家族とも言える仲間たちに無理を生じさせているのであれば、その尻拭いは自分でするつもりだった。こうして、未来のカイトを召喚するべく準備が整えられる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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