第3464話 はるかな過去編 ――大休止――
『狭間の魔物』による侵略。かつてそんな事態に見舞われていたセレスティア達の世界であるが、過去へと飛ばされた彼女らはそれに巻き込まれる事になってしまう。
というわけで彼女らの時代には伝説的な英雄として名を残すかつてのカイトらと共にその侵略に対抗するべく動く事になっていたわけであるが、その最中に魔法もどきとでも言うべき攻撃によりカイトが瀕死の重傷を負う事になってしまう。
そんな中で開始された戦いはその多くが雑魚と言える個体だったが故に『狭間の魔物』の殲滅戦にも近かったものの、あまりの数の多さに戦闘開始から数時間は一進一退の拮抗状態に陥っていた。
というわけである種の拮抗状態を生み出していること。これがおそらく『狭間の魔物』の戦略の一つである事を理解したソラにより、一同は大休止を取る事になる。そうして彼らが大休止に入った頃。最前線にほど近い所にレックスは居た。
「状況は?」
『かなり良くないな。正直倒しても倒してもきりがない。どこかで生み出されていると考えた方がいっそ楽だな』
「だよなー……グレイス、ルクス。悪いんだけどもう暫く壁の展開を頼む。その間に他の連中に補給させる」
すでに今回の指揮系統はレックスに一括されている。なのでグレイス達はカイトが負傷している事もあり彼の指揮下に入っており、小休止を取るための防壁の展開も全て彼の指示であった。
(とりあえず、順番で休憩を取らせているけど……どうしたもんかなぁ……)
ソラが気付いたように、レックスも随分と前から現状の雑魚が前面に出て強い個体がまだ姿を見せていない状況が『狭間の魔物』による意図的なものであると察していた。なので彼自身周囲の鼓舞のために戦ってはいるものの、余力はかなり残していた。そして四騎士達にも余力は残させていた。
(魔族側は……余裕かよ。嫌になる、と言って良いのか知らねぇけどさ)
やはり魔族側は大魔王という存在が居て、全軍で足並みを揃えられる土台があるからだろう。しかも大魔王の出陣という魔族達からして今までに一度もない事態に士気はかなり高く、元々の一人一人の戦闘力の高さも相まって人類側より数は圧倒的に少ないものの余裕はかなり見えていた。
味方であれば頼もしいが、これが敵なのだと理解すればこそ心底嫌になるしかなかったのも当然であった。というわけでレックスは内心で大きなため息を吐く。
(……はぁ。まぁ、とりあえず……いまデカブツが散発的にこっちに入ってるのは攻め込まれないため、だろうな。流石にあんなのが居るってなりゃ攻め込めるもんじゃない)
こちらに入り込もうとする度に大魔王が消し飛ばしてはいるのだが、巨大な触手の塊とでも言うべき融合個体はある程度の時間間隔を取りながらもこちらへの侵攻を何度も繰り返していた。
そしてそれを一息に消し飛ばすには大魔王とて容易ではないらしく、周囲には大きな破壊が巻き起こっていた。そもそもが山ほどの大きさなのだ。それを一撃で倒せる時点で火力は察するに余りある。そしてそうであるのなら、その余波がとてつもないものであるのもまた当然だろう。それを掻い潜って世界の外の敵の本隊に攻撃を仕掛けるのは到底現実的とは言えなかった。
(……やっぱり一枚手札が足りない。奴らを倒してなお、なんとかしてみせる手札が)
おそらくこれは大魔王も理解しているのだろう。レックスは魔族側も敢えて攻め込まずこちらに入り込んできた個体の討伐に務めている現状をそう推測する。
そしてそれは本来機動力と火力を両立させるカイトであるのだが、そのカイトが居ないのだ。レックスの顔に苦みが浮かんでいたのは、無理もないことであった。
(……もう暫くは待ち……か)
勝機があるとするのならば、敵の首魁がこちらに姿を見せた時しかないだろう。無論それは敵が今回の侵攻の総仕上げに入ったという事になり、今の比ではない領域の規模と戦闘力の敵がこちらに来るという事でもある。が、そうするしかないのであればそうするしかない。というわけで、レックスはもう暫くは余力を残した戦いを繰り広げる事にするのだった。
さてレックスが戦線の維持を優先した戦いを繰り広げていた頃。同じく余力を残すべく大休止を挟む事にしたソラが、カプセルで安静にさせられているカイトへと問いかけた。
「どんなもんなんだ、状態としちゃ」
『良い悪いで言われれば良くはない。けどまぁ、魔力としちゃ十分と言えないまでもある程度は回復してる』
「そうなのか」
ぷかぷかと溶液に浮かぶカイトであるが、念話で響く声はいつも通りだ。確かに声だけ聞いていれば戦闘も可能には思えるが、この様子で戦えるとは到底思えなかった。
「そう言えば……この溶液って何なんだ? 気持ちよかったりするのか?」
『気持ちよくは……ないな。てかこの溶液って回復薬を思いっきり濃縮させた物って感じだから』
「濃縮させた回復薬か……それで回復しないって……」
『そりゃ魔法もどきだ。回復薬による治癒効果も阻害されちまう……まぁ、そんな攻撃なんて大将軍達とやりあってりゃ日常茶飯事に食らうけどな』
「まじかよ……」
軽い感じで言うが、そんな相手は滅多に存在するものではない。ソラはカイトの戦う敵の強さを改めて理解して、思わず顔を顰める。
『あはは……ま、それでも昔みたいに血が滲み出て溶液を何時間に一度交換にならないだけ楽にはなった。今は一日一回だな』
「今の溶液はにじまないのか?」
『らしい……オレはこの状態だ。ぶっちゃければわからんよ』
「あ、あー……」
カイト当人は言うまでもなく完全に意識がないような状況だ。いわば魂だけで動いている幽体離脱のような状態と言い表しても過言ではないだろう。
しかも今回は非常事態という事で完全に起き続けているが、通常はヒメアに無理やり眠らされてそれもないらしい。楽になった、というのも聞いただけで実際どこまで楽になったかは彼自身わかっていなかった。
「でもまぁ、無事そうなら何よりだ。こっからどうなるかもわからないしな」
『まぁな……それに大精霊様がオレにどういう指示をされるのかもわかってない。いや、本当にどういう指示をされるんだろうなぁ……』
「わっかんねぇんだよなぁ、それ」
カイトのボヤキに対して、ソラもまたボヤく。今更だが大精霊達はこの場の話を聞いているだろう。なのに自分達の疑問に対して何かしらの反応が起きるわけではなかった。それは楽しみにしていろという事なのか、それとも自分達がそう思っているだけで本当は何もないのかさえわからなかった。
『まぁ、とりあえず。こんな状況で休めるかはわからんが、休めるなら休んだ方が良い。それとも気が昂って眠れないか?』
「ああ、いや……そりゃそれもあるけど。一応順番で休憩取ろうって話はしてる。万が一、お前と俺達が必要な事態があってもすぐに対応出来るようにな」
『ああ、そうなのか』
それで一番最初はソラがその休憩を取らない人員で、自分の所に来ていたというわけなのか。カイトはソラ達の判断に納得する。
なお、ソラも認めている通り彼が敢えて一番最初に休憩を取らない人員に志願したのは精神が昂っていたからでもあった。色々と考える役割のせいである程度思考に整理を付けないと休めなかった、とも言える。
『ま、それなら暫くはゆっくりしてろ。ここは若干静かではあるから思考をまとめるにせよやりやすいだろうさ』
「あれ? そう言えば……確かに静かだよな。外だともっと魔導砲の轟音とか響きまくってたのに」
「私がそうしてるのよ。こいつの周辺でトラブるとこいつが出ていきかねないから」
「あ、あー……」
多分カイトならそうするだろう。ソラはヒメアの言葉――彼女は当然だがカイトの側を離れられないし離れない――に納得する。そうして彼はカイトの言葉に甘えさせて貰う事にして暫くその場に滞在させて貰いながら、時折カイトから助言を貰いながら今後についての推測を重ねる事にするのだった。
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