第3460話 はるかな過去編 ――転移――
世界の情報の抹消という世界を崩壊させかねない事態の発生。それを受けて大精霊が動いたことによりようやく一丸となり動き始めた大陸各国は大陸全土の国家を集めた会合を開くことを決定する。
そんな中で大精霊達の助言によりカイトさえ敢え無く敗北を喫した魔法もどきとも言い表される攻撃への対抗手段を手に入れに世界の仲介者である<<湖の乙女>>達の所へ向かったレックスとソラであるが、地球で地球出身の仲介者であるヴィヴィアンらと会合。彼女らへ現状を説明すると、<<時戻しの杖>>という杖を入手する事に成功する。
そうして<<時戻しの杖>>を手に入れてシンフォニア王国の王都へと戻る最中。準備を整えた魔族軍による攻撃が開始される事になり、人類軍は近くまでたどり着いていたレックスをマーカーとして先遣隊を転移させていた。
「おらよ! ふぅ……」
『ソラ。大丈夫か?』
「うっす。そっちがヤバそうなの受け持ってくれてるおかげで、まだ全然大丈夫っすよ」
空中に躍り出ておそらく鳥かそれに近い魔物を取り込んだらしい融合個体を切り捨てて、ソラはレックスの言葉に<<偉大なる太陽>>を掲げて応ずる。まだまだ余裕というわけだった。
『あはは。ま、まだまだ呼ばれてる程度の個体だ。お前でも勝てるよ……でもこっから先が厄介だからな』
「うっす……てかそろそろ地上降りとかないとやばくないっすか?」
『……それもそうだな。合流しよう』
「うっす」
ソラの問いかけにレックスも同意。戦いに出る直前に一応の目印としてサルファに浮かべて貰った幻影の旗を目印に移動する。そうして移動したとほぼ同時だ。星が震えるのを、二人は感じ取った。
「なんだ!?」
「サルファ!」
『すみません! 何が起きているかこちらからではわかりません! おそらく世界の外からなにかが発せられているのかと!』
「ちっ……ってなると敵も本格的に反撃を開始ってわけか」
今の振動が何かはわからないが、間違いなく何か良くない事である事はわかった。故にレックスは今回の一件が良くない事態を引き起こす事を理解。一つ舌打ちしたものの、すぐに次に取り掛からせる。
「もう時間はなさそうだ。転移の準備は?」
『……いけます。そちらの状況は?』
「まだ本格的な攻撃はどっちもしていない……って所か。魔族共も、侵略者共も」
『どちらも侵略者ですよ』
「違いないな」
魔族軍は世界の壁の破壊に伴って引き寄せられる融合個体を撃退しながら、まだ本格的な反応を見せない世界の壁の外に居るらしい『狭間の魔物』達に向けて魔術や矢などを放っていた。
が、やはり数が多い上に法則も狂っているせいか世界の外側の個体には攻撃がうまく命中していないらしい。先程から散発的な攻撃はしているものの、最初は嵐のように放たれていた魔術はこちら側に侵入してきた魔物を狙撃する形になっていた。
『こちらが遠慮してやっているにもかかわらずよく吼えるものだ』
『「「っ!」」』
ぞわり。レックスも念話の先のサルファもまた放たれた男の物とも女の物とも取れる美声に、しかし思わず背筋が凍り付く。その声は確かに綺麗で聞き惚れるものであるが、そうであればこそ人の物とは到底感じられず、自分達を遥かに越えた超常の存在だと察するには十分だった。そんな声に冷や汗を掻きながらも、レックスが問いかける。
「お前が……大魔王か?」
『そうだとするならどうだ。今はそんなものは意味があるまい……それより貴様らが兵を転移させるというのだから、大規模な攻撃を控えてやっているのだが?』
「そいつぁ、どうも」
確かに大魔王の言う通り、もしこの大魔王が本気で攻撃をしかければ転移なぞ一切不可能になるだろう。それだけの圧倒的な強者だった。というわけで大魔王の言葉に牙を剥いて、レックスが確認する。
「おい、サルファ。大魔王様がお望みだ……やれるな?」
『……いけます。せっかくのご観覧ですから、完璧にやってみせますよ』
「オーライ……はぁ!」
どうせやるなら派手にやってやるさ。レックスはせっかく敵の大将が見てくれているのだから、と大剣を天高く掲げてみせる。そうして立ち昇る真紅の輝きが天を裂き、サルファがそれを目印とする。
『……座標固定。空間・次元のゆらぎを強制的に固定』
『<<天の階>>、フロアスキップ完了……ベルさん』
『はい……では、行きますねー』
相変わらずこんな状況にもかかわらず呑気なものだ。レックスは自らの妻がこんなとんでもない状況にも関わらずいつも通りである事に笑う。とはいえ、だからこそこの展開はまだ彼女にとって想定の範囲内であるのだと安堵も出来た。そうして、次の瞬間。超巨大な階段が彼の眼の前へと出現する。
「でっか!」
自分達が天醒堂に行った時の数百倍はある。ソラは現れた超巨大な<<天の階>>に思わず声が裏返っていた。そしてそんな彼の声がまるできっかけだったかのように、<<天の階>>が光り輝いた。
「「っぅ」」
ざんっ、ざんっ、ざんっ。閃光の中に無数の軍靴の響きが轟いた。そうして閃光が収まった先には、見慣れた姿が幾つかあった。
「おぉ、こりゃすっげぇな……って、フェリクスか?」
「ああ……おい、アルダート。あっち見てみろ」
「……って、おぉ!? 山が消し飛んでねぇか!?」
響いたのはおやっさんとフェリクスの声だ。どうやら二人共近くに出るとは思っていなかったようで、一瞬は驚いた様子を見せていたもののフェリクスがすぐに状況を理解。苦笑いを浮かべる彼に指摘され、おやっさんも大いに驚いていた。
「おやっさん!」
「おう、ソラか! 無事だな!」
「うっす!」
「……」
合流出来た事に喜色を浮かべるソラの傍ら、レックスは少しだけ苦い様子だった。やはりこれだけの軍勢を無理やり転移させたのだ。やはり隊列は乱れていた様子だった。というわけで、どうやら目の前だけではなく幾つかの地点に飛ばされていたらしい。彼に後ろから声が掛けられた。
「レックスさん」
「ルクスか……バラけちまったか」
「ええ……まぁ、それでも敵のど真ん中は避けられていますし、隊列を整えるだけの余裕はありそうです」
「ああ……ベル。聞こえているか?」
『聞こえてますー……ちょっとずれちゃいましたねー』
『ベルなら私達と一緒だからその点は安心して。私の結界で一つに纏めてたから、全員一緒よ』
「さっすがヒメア」
どうやら全員がバラバラにされてしまう可能性は可能性として考えられていたらしい。それに対抗するべくヒメアは八耀の全員を結界で一つに括っていたらしい。
その結果もあって転移でもバラバラにならず、一箇所に転移となったようだ。まぁ、何より瀕死の状態のカイトの事がある。彼が一人で放り出されればどうなるかわかったものではない。そのついで、という所も大きかった。
「よし。じゃあ、合流しよう」
『ええ……信号を打ち上げるわ。同盟ので良い?』
「ああ……あっと、ちょい待った」
ヒメアの問いかけに応ずるレックスであるが、その前に何かに気付いたようだ。彼は喉をとんとん、と叩いた。
『全員、聞こえているな! 統一軍総司令代理レックス・レジディアだ! 各国将軍は一度隊列を整えてくれ! また統一軍の臨時指揮所をすぐに設営する! 隊列を整え次第、統一軍の軍旗下へ使者をよこしてくれ!』
先遣隊の第一陣は一応ある程度の纏まりはある様子ではあったものの、完全にバラけてしまっている部隊も少なくなかったようだ。なので状況がわからず混乱を生じつつあり、まずは状況を落ち着かせるようにしたのであった。
「よし……ベル。統一軍の軍旗を頼めるか?」
『わかりましたー……特別大きなのを掲げますねー』
「普通で良いよ、普通で……ヒメア、頼んだ」
ベルナデットの言葉にレックスが笑う。そしてそんな彼の要請を受けて、ヒメアが同盟の目印となる信号弾を打ち上げる。それを目印として、レックスはソラと偶然近くに飛ばされたルクスと共に移動を開始するのだった。
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