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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3459話 はるかな過去編 ――戦闘開始――

 世界の情報の抹消という世界を崩壊させかねない事態の発生。それを受けて大精霊が動いたことによりようやく一丸となり動き始めた大陸各国は大陸全土の国家を集めた会合を開くことを決定する。

 というわけで人類軍・魔族軍共に大急ぎで『狭間の魔物』撃退戦に向けた準備が進められる中で、大精霊の助言により魔法もどきと言い表された攻撃の対処を行うため世界達が作った魔導具を手に入れるべくソラとレックスの二人は世界の仲介者たる<<湖の乙女>>達が居る特殊な空間へと足を踏み入れる事になる。

 そこで<<時戻しの杖>>という巨大な触手の海の『狭間の魔物』が使う魔法もどきと言い表される情報の改変に対する対抗策を手に入れた二人は急ぎシンフォニア王国の王都を目指してひた走っていたのだが、その最中。魔族側による攻撃が開始。レックスと共にソラは空白地へと急ぎ向かっていた。


「「!?」」


 一度目の砲撃の直後。はるか遠くから壊れた世界のその先へ放たれる無数の攻撃を見ながら、二人はさらなる攻撃の兆候を知覚する。そしてそれと同時だ。空白地の直上に、超巨大な魔法陣が浮かび上がる。


「なっ……なんなんっすか、あれ!?」

「知らねぇよ! 何をするつもりだ!?」


 ソラの問いかけに、レックスも顔を真っ青にしながら声を荒げる。と、それとほぼ同時だ。遥か彼方の空で再び巨大な閃光が迸り、一直線に光条が魔法陣へと伸びていく。


「またか! むちゃくちゃしやがる!」

「また砲撃っすか!」

「しかないだろ!」


 何をするつもりなんだ。一直線に光条へと飛んでいく要塞からの砲撃を見ながら、レックスは盛大に顔を顰める。そうして二人の見ている前で砲撃が魔法陣へと突入。魔法陣が光り輝いたかと思うと、砲撃が角度を変えて直下に降り注ぐ。そして、その直後だ。巨大な爆発が起きて、爆風が二人の所まで襲いかかる。


「っ、ふっざけんな!」


 ここに居る事がわかってるんだから少しぐらい声掛けしてくれよ。レックスは自分達にさえ容赦のない大魔王の采配に悪態をつきながらソラを引っ掴んで飛び降りると、即座に愛馬をレジディア王国の王都にある専用の厩に送還。入れ替わりに大剣を取り出す。


「はぁ!」


 ざんっ。レックスが大剣を切り上げる様に振り上げると、天高くまで次元が裂けて爆風と閃光が両断される。そうして煙が切り裂かれて、先が見える。


「……は?」

「ちっ……むちゃくちゃやりやがる。だがまぁ……これで消し飛んだか? 流石に……」


 元々山の一角を消し飛ばすとは聞いていたが、これは一角じゃないだろう。レックスは遠くに見えていた山が跡形もなく消し飛んでいるのを見てため息を吐きながらも、同時におそらくあそこに居たのだろうなにかもまた消し飛んだのだと理解する。そして何より、あれだけの力で焼き払わねばならなかったのだとも。と、そうして再び空白地へ向かおうかと考えたその時だ。念話が響く。


『レックスさん。ご無事ですね』

「サルファか。どうした?」

『ノワールが現状から提案を』

『すみません、一度今の位置で停止して頂けますか?』

「うん? そりゃ良いけど……」


 ノワールの問いかけに対して、レックスは訝しみながらも了承を露わにする。とはいえ、すでに魔族達は交戦を開始しており、魔族達による先制攻撃を理解した『狭間の魔物』も続々とこちらの世界へとなだれ込んで来ている。猶予はあまり残っていなかった。


「何をするんだ?」

『レックスさんほどの魔力があれば、擬似的なマーカーとして利用出来そうです。なのでその位置を中心として誤差を限りなく小さく出来るのではないかと』

「なるほど……そりゃ良い。出てってる事が吉になったか」

『はい……それで第一陣を送った後はこちらで作成した魔導具をマーカーとして、順次支度が出来た部隊から転移させていきます』


 間に合わなかった事が逆に幸いしたか。レックスはノワールの言葉を聞きながら、僅かにだが状況の好転に喜色を浮かべる。


「よし……だがここだと少し遠すぎるだろ。もう少し近付いても大丈夫そうか?」

『それは大丈夫です……でもあまり近過ぎると、今度は魔族の攻撃により転移に誤差が大きくなります。限界地点をこちらで確認します……』

『わかった……レックスさん。僕の方で限界値を可視化させます。そこで止まってください。あ、でもあまり物凄い速度で移動しないでくださいね。レックスさんには僕、追い付けないので……』

「あはは。あいよ……ソラ。気を付けろよ。流石に魔物も何もないがな」

「うっす」


 先ほどの一撃で弱い魔物は完全に消し飛んでいるし、そもそもこの周辺の魔物は『狭間の魔物』が送り込んだと思しき融合個体に引き寄せられていたと考えられる。なのでもはやこの場に居るのはレックスとソラだけで、少し離れた所に魔族軍がいるぐらいであった。というわけで、二人はここから先は飛空術で低空を移動する事にして、更に山の残骸まで近付いていく事にするのだった。




 さて飛空術で移動を行って十分ほど。二人は眼の前に半透明の壁のような物が出現する。これに二人はこれこそが先程話に出ていた限界だと理解する。


「サルファ。これか?」

『はい……こちらも準備が整いました。転移可能です』

「よし……どれぐらいだ?」

『同盟、エザフォス、フェリクスさんが声を掛けていた南部諸国の連合……合わせて先遣隊第一陣3万。更に明日の朝出発の第二陣として7万。先遣隊合計10万。本隊は現在調整中ですが……早急に支度を進めさせます』

「先遣隊でも随分集められたな。それでもまぁ……同盟の全軍にもならないか」


 今回は流石に大精霊様のご指示があったからか、やはりどこの国も最低限動かせる戦力はすぐに供出出来るようにしていたという所か。レックスはすでに動けるだけで3万という言葉を聞いて笑う。というわけで一度地上に降りて小休止を取りながら、ソラが問いかけた。


「どんなもんなんっすか? 第一陣3万、第二陣7万って」

「同盟の全軍にも全然届いていない。同盟でだって一週間時間がありゃ10万は集められるからな。エザフォスだって今回の案件に割ける戦力の2割ぐらいだろ」

『その程度ですね。それでも、この短時間しかない中での第一陣・第二陣で合わせて10万は驚くべき数字かと』

「へー……」


 あくまでもこの世界では一介の冒険者でしかなく、しかも貴族達との伝手もほぼ無いに等しい状況だ。ソラにはこれがすごい多いのか少ないのかもわからなかったが、どうやらレックスが感心するほどにはすごい数字ではあったらしい。そうなんだ、と思うのみであった。というわけで動く事も出来ず何もする事もないので、ソラはそのまま流れで問いかける。


「全軍で今回はどれぐらいを想定してるんっすか?」

「大体50万。後方支援にその数倍……って所かな」

「ご、50万!?」

『それでも全然だ』

「そ、そうなんっすか?」

『今回の交戦で各所で動くだろう『狭間の魔物』の掃討にも割かなければならないからね。全軍を出すわけには各国いかないのさ。だからその数倍の後方支援、というわけだ』

「あ……」


 シンフォニア王国国内だけでさえ、すでに何箇所も『狭間の魔物』を素体とした融合個体が見付かっているのだ。そこに加えてまだ未発見の個体もこれから動き出す事が想定されているし、今回同盟が通達を出すまで何も知らなかった国も少なくない。これから何が起きるかわからず、各国大本は討伐せねばならないが同時に全軍を出せるわけではなかったのである。


「そういうわけ……そしてどうやら、こっちもゆっくりはしていられなさそうだな」

『……ですね。こちらからも可能な限り支援はしたい所ではありますが……』

「そっちは転移に集中してくれ……ソラ、やれるな?」

「何がっすか?」

「来るってわけだ!」


 ソラの問いかけに答えると同時に、レックスが大剣を振りかぶってはるか天高くまで斬撃を飛ばす。


「んなっ!?」

「こっちに集まってくるのか、集めてるのか……来て即座に戦闘になる! 十分に注意するように伝えてくれ!」

『わかりました……ご武運を』


 落ちてきた魔物の肉片を魔力の放出で消し飛ばすレックスに、サルファが激励を告げる。そうして、レックスとソラは先遣隊が来る場所を守るべく一足先に交戦を開始する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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