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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3454話 はるかな過去編 ――湖の乙女――

 世界の情報の抹消という世界を崩壊させかねない事態の発生。それを受けて大精霊が動いたことによりようやく一丸となり動き始めた大陸各国は大陸全土の国家を集めた会合を開くことを決定する。

 そんな会合は当初は罵詈雑言の嵐でスタートするという戦乱の世なのだからある種当然とも言える状況であったが、大精霊達の介入によりなんとかまともな議論を開始させる。

 というわけで人類軍・魔族軍共に大急ぎで『狭間の魔物』撃退戦に向けた準備が進められる中、大精霊の助言により魔法もどきと言い表された攻撃の対処を行うべく世界達が作った魔導具を手に入れるべく、ソラとレックスはその権限を持つ世界の代行者達と会うべくこの世界ではないどこかへと足を踏み入れる。

 そうして足を踏み入れた謎の空間で出会ったのは、地球においてアーサー王伝説にて伝説的な魔術師として名を残す魔術師マーリンであった。そんな彼に<<湖の乙女>>の下へ案内をされながら、レックスは小声でソラへと問いかける。


「元々<<湖の乙女>>ってのが地球でも知られた存在とは察していたんだけどさ。あのマーリンってのも有名なのか?」

「そうっすね。多分地球で一番有名な魔術師は、と聞けばトップ争いするぐらいの人じゃないっしょうか。少なくとも魔術が隠されている地球でも、彼と彼が仕えた王様の名前は物凄い有名です……そうっすね。多分言い表すなら開祖マクダウェルと似たようなもんっす。童話とかにアレンジされていたり、色々と親しみやすい物語が多く作られているっていう……演劇とかでも使われてたですし」

「なるほど……」


 レックスその人がそうであるように、マクダウェル家の開祖である開祖マクダウェルことリヒト・マクダウェル。その彼の物語は子供達の寝物語でも使われていた。それと同じ、と言われてレックスも地球でのアーサー王伝説の立ち位置を理解したようだ。と、そんな話を聞いていたのか先導するマーリンが恥ずかしげに笑う。


「あははは……いやはや。そう言っても私の末路なんて君も知っているだろう。勿論、物語と事実は異なるのだけどもね。君の時代にどういう脚色が加えられたかは知らないが……散々たる物なのは間違いないだろうね」

「……まぁ」


 アーサー王伝説の最後。それは騎士道物語とは程遠い、内部分裂の結果の血で血を洗う殺し合いだ。それはソラも知っており、笑うマーリンになんと返せば良いかわからなかった。というわけでその末路を知るからこそ、ソラは大慌てで話題を変える。


「あ、そうだ。マーリンさん。そのさっきのアンブローズ・メルリヌスってなんなんですか?」

「ああ、単なるラテン語だよ。マーリンをラテン語で読めばメルリヌスだね。その様子だと君はヴィヴィアンも知っているだろう。彼女にツッコミを受ける前にネタバラシ、というわけだ」

「あ、そういうことですか」


 どうやら最初からマーリンその人は自らの名を名乗っていたらしい。というわけでなんとか話題を変える事が出来た、と内心で安堵――見抜かれてはいたが――するソラへと、マーリンが問いかける。


「あ、一応聞いておくけれど。ヴィヴィアン達三姉妹は知っているよね?」

「はい……色々とあって地球の英雄譚や伝説は調べて回ったんで……」


 今でこそ各自自分の技を手に入れているので使う事はなくなったが、かつてはカイトに教えて貰って様々な英雄や伝説の武器を模した(スキル)を使っていた。その一環でアーサー王伝説も調べており、ヴィヴィアンらのことについてもソラは調べていたのだ。


「そうかい……ああ、見えてきたね」


 三人の前に現れたのは、月明かりが照らし出す少し大きな湖だ。が、それ以外には何もなく、誰もいなかった。というわけでそんな光景にレックスが問いかける。


「誰も……居ませんが」

「誰でも彼でも通せるわけではないさ……そこで待っていなさい」


 マーリンは二人に湖畔での待機を命ずると、自身はそのまま湖の上へと足を踏み入れる。そうして彼の足に合わせて水面に波紋が生じていくわけであるが、そこまで歩くわけではなかったようだ。

 数歩歩いた所で、彼は手にしていた杖で水面を軽く小突く。すると水面が大きく揺れて、湖の中心に4つの大理石のような円形の純白の足場が生まれ、そこに続く小石の道が浮かび上がる。その光景を見て、レックスが目を見開いた。


「あれが……伝説の水面に浮かぶ白き月……そこで湖の騎士は霊剣を手にしたと伺っております」

「うん? ああ、あの足場のことかな……あそこが世界や星との契約と誓約の場さ。私は君達の世界の伝説の騎士は知らないけれどね。多分、そう伝わっているのならここで契約したんだろう」


 私の主人(アーサー王)は私を介して契約したからここには来ていないけどね。マーリンはどこか感じ入った様子のレックスに対してそう告げる。これに、レックスが少しだけ驚いた様子を見せる。


「ここに常にいらっしゃるわけではないのですか?」

「常に、というわけじゃないよ。単に気が向いた時にここには顔を出しているだけ。私は元々自分の居た世界……地球で色々とあって追放されてしまっていてね」

「追放……ですか?」

「私の主人は真面目で素直な良い人でね。彼に力と私の仲間達へチャンスを授ける代わりに私自身を対価として差し出した、という所さ。元々世界にとって私は不確定要素やバグみたいなものでね。その私を追放する代わりとして、というわけさ」


 追放というのは所謂マーリンの末路の話なのだろうな。ソラはマーリンの語る追放について、内心でそう思う。そして事実、色々と言い換えられてはいるがヴィヴィアンがマーリンの追放には関わっており、実際的には彼女が世界との契約を仲介した事などからそう言われているとの事であった。


「まぁ、本来であればそういう対価を差し出さないといけない事もあるのだけど。今回は大精霊様の導きということだ。そういう対価は発生し得ないだろうから安心してくれ。単に一個人が望む場合には世界や星に対価を差し出さねばならない、という所かな」

「そうですか……少なくとも貴殿が自らを差し出すほどの相手だ。よほどの王なのでしょう」

「さて、どうだろうね。そうなれる様に頑張ってくれればと思っているのだけれど」


 どこか老成した様な、見守る者の顔でマーリンがレックスの言葉に笑う。そうして三人は現れた小石の道を進んで、湖の中心に現れた4つの足場へと移動する。


「「……」」


 やはりレックスとしても伝説的な相手かつ、世界の代行者とも言うべき存在との会合だ。少しの緊張が見て取れたのは無理もなかったことだろう。そうして十数秒。何も起きない事に彼が首を傾げて問いかける。


「……誰も……いらっしゃいませんが」

「おや……どうしたんだろう。少し待っていてくれ。いつもならそろそろ現れても不思議のない頃合いなんだが……」


 どうやらこの展開はマーリン自身も想定外だったらしい。驚いたような顔で小首を傾げていた。というわけで彼は再び杖で今度は純白の台座を小突いた。そうして魔力の波が放たれて、水面を揺らす。


「ごめんごめん。ヴィヴィが少し胸騒ぎがする、って言って遅れたよ」

「やぁ、エレイン」


 現れたのは少女ほどの大きさの虹色の半透明の翼を持つ青髪の美少女だ。マーリンの言葉を借りるのなら彼女こそが<<湖の乙女>>の三姉妹の一人エレイン、というわけだろう。というわけでそんな彼女の言葉にマーリンが意外そうな表情を浮かべる。


「にしても、あのヴィヴィアンが胸騒ぎか……あまり良くない兆候だね」

「うん。だからか久しぶりに軍精の頃の服を引っ張り出したり、色々としてたよ」

「軍精?」

「うん……ああ、君達二人が今回の来訪者か。私はエレイン。<<湖の乙女>>の一人。さっきのヴィヴィアンは長女だよ。後はもう一人ニムエというのが居るね」


 エレインがそう言うとほぼ同時。深い海の様な蒼色と淡い水色の2つの光が残る台座へと舞い降りて、人の形を形作る。そうして閃光が収まった後には同じ様に人型化した二人の妖精族の少女が現れる。

 そのどちらもエレインと似た顔立ちだったが、片方はどこか凛とした様子が。もう片方はおっとりとした様子があった。


「ごめんなさーい。少し遅れました」

「ごめんね。私が巻き込んじゃった」


 私が巻き込んだ、という所から凛とした様子の少女がヴィヴィアンというわけかな。レックスは二人の言葉からそう察する。そうして三姉妹が揃った事でレックスは跪いた。


「お目にかかれて光栄です、<<湖の乙女>>よ。私はレックス・レジディア。御身らのご高名はかねてより伺っております」

「ありがとう。そして遅れてごめんなさい……私は三姉妹の長女ヴィヴィアン。おおよそ世界から情報は受け取っています。マーリンも案内ありがとう」

「よいさ。暇つぶしさせて貰っている居候の身だからね」


 ヴィヴィアンの言葉に、マーリンが笑って首を振る。そうして真面目な話が始まると思われたわけであるが、その直前にソラがはっとなって思わず声を上げた。


「あ!」

「「「え?」」」

「あ、いや……す、すんません……」


 しまった。ソラは思わず声を発してしまった事に顔を真っ赤にして謝罪する。とはいえ、無理もない事だった。ヴィヴィアンの事は顔を見るまですっかり忘れてしまっていたが、会った事があったのだ。

 とはいえ彼が忘れてしまっていたのは無理もなく、こちらに来てからの時間経過や教国での事件に巻き込まれた事などを加味すると実質三年近くも前の事だったからだ。しかも会ったと言ってもしっかり話したりしたわけではない。単に顔を見た程度だ。そしてそんな彼に、マーリンが執り成した。


「ああ、彼は地球出身で今レックスくんに協力しているらしい。もしかしたら私達にとっては未来で。彼にとっては過去のどこかで出会っていたりするのかもしれないね。どこの時代の誰に繋げるかは世界の選択だ。十分にあり得るだろうね」

「地球? うーん……少ししっかり説明を貰って良い? 君達に授けるべき魔導具の候補は幾つかあるのだけど、状況が少し特殊そうだね」


 マーリンの言葉に少し自分達が思っている以上に厄介な状況なのかもしれない、とエレインが問いかける。というわけでレックスはソラと共に、今起こっている事を三姉妹とマーリンへと説明するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] いつの時代のヴィヴィアンであってもカイトのことはおぼえてたかな? ヴィヴィアンもややこしい立ち位置のキャラだからなぁ
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