第327話 特訓 ――ソラ達の場合・4――
2016年1月18日――明日――から断章・6の投稿を開始していきます。時間は何時も通り、21時投稿予定です。
カイトから次に目指すべき方向性を教えられたソラ達だが、それを見て唖然とするしか無かった。なにせそれは明らかに今の彼らからするとぶっ飛んだ領域だったからだ。
そうしてそんなカイトを見ていた一同だったのだが、ふと、ソラが疑問に思った事があった。それは先程由利が苦労していたバランスに関する疑問だ。
「そういや、お前バランスってどうやって取ってるんだ? 1000メートル上って結構風吹いてるんじゃね?」
「ん? まあ、そりゃこっちよりは風が強いな」
カイトは風を魔術でキャンセルしているので大して気にしては居なかったが、それを打ち消せば当然、とんでもない風が吹きすさぶ事は想像に難くない。
しかも彼らが練習場に選んでいるこの海岸線は当然だが、海の側だ。浜風が当然のように吹くのだ。普通よりも風は強いのが、ソラにもわかったのである。
「お前、それでどうやってバランスとってんだ?」
「ん?」
「いや、さっき由利と練習してたんだけどよ……結構難しそうだったんだよな。盾の上でバランス取るの」
カイトの訝しんだ様子の顔を見て、ソラが疑問に至った理由を告げる。彼は使用者なので乗る事は出来ない――そんな事が出来れば簡単に空を飛べる――為、サーフィンに似たような感覚なのか、と思っていたのである。そんなソラに対して、カイトが一つ申し出る。
なお、<<操作盾>>が使用者を乗せられない理由は技の構成上の問題だ。
既に述べたが、<<操作盾>>は最終的には使用者の盾に直結している。もしこの状態で使用者が<<操作盾>>の上に乗ってしまうと、使用者の重さは<<操作盾>>に付加され、腕に負荷が掛かる事になる。そして再びこの重さが加わった分の負荷が<<操作盾>>に加わり、再びその負荷は使用者に帰り、という無限ループに陥ってしまうのである。
こうなってくると今度は<<操作盾>>が壊れるか、使用者の腕が砕けるか、のどちらかになってしまう。一応腕が砕けない様に衝撃のフィードバックにもセーフティが掛けられているが、それは乗らない事が前提だ。乗った場合には即座に<<操作盾>>が消失するようになっているのだった。
「んー……まあ、確かに難しくはある。お前も一回乗ってみりゃ良い。そうすりゃ、よく分かるだろ」
「は? だって……ああ、そっか。お前盾も使えるんだよな」
カイトの申し出にソラが一瞬疑問に思うが、よくよく考えて見れば出来ないはずが無かった事に気付く。カイトは滅多に盾を使わないが、使えないわけでは無いのだ。
実際、第二次トーナメントのエキシビション・マッチでは聖剣と聖盾の二つを使いこなし、ティーネ達現代の公爵軍と一戦交えている。それをソラも思い出したのである。ちなみに、カイトがソラにこう言ったのは簡単で実際に体験させてみるのも、良い経験になるからだ。
「じゃあ、頼んで良いか?」
「ああ……良し。じゃあ、<<操作盾>>」
ソラの申し出を受けて、カイトが盾を創り出し、更に<<操作盾>>を創り出す。それは強度こそソラと圧倒的な差こそあれど、ソラの創り出した<<操作盾>>と同じ物だ。
「乗ってみろ」
「おう……よっと……結構揺れないんだな」
由利の様子からかなり揺れるのか、と思っていたソラだが、想像したよりも地面が安定していた事にあっけなさを感じる。だがそんなソラに対して、由利が首を傾げた。
「えー? もの凄い揺れたよー?」
「そりゃ、オレとソラの技量の差だ」
「そりゃ、悪うございました」
由利の言葉を聞いて、カイトが苦笑して、そんなカイトにソラが拗ねた様に口を尖らせる。由利がソラの<<操作盾>>に乗った時には若干沈み込んで揺れる様な印象を受けていたのである。
それに対してカイトの場合、きちんと揺れない様に衝撃を完全に受け流した為、ソラには一切の揺れが感じられなかったのだ。
「とは言え、これは実は気をつけた方が良いのも確かだ。オレは今足場として完璧にする事を目的としてやったが、これがもし幻影なんかと連携する場合とかは、逆にこれが有利にも不利にも働く。翔、お前はまだ実体を持つ幻影は使えないよな?」
「ん? ああ」
いきなり水を向けられた翔だが、無理な物は無理だ。隠す必要も無かったので、素直に認める。そうして翔の言葉を受けて、ソラに告げる。
「そして今のソラじゃあ、振動を再現するのは不可能だ。打ち消す事もな。そんな事細かな操作は無理だろう?」
「ああ、無理だ。そもそも出来てたら相談なんてしてないって」
カイトの問い掛けに、ソラが笑いながら認める。彼の言った通り、出来ていれば相談はしていないだろう。出来ないからこそ、相談しているのだ。それはカイトもわかっているので、笑いながら、そんな二人に注意を促す。
「そんな二人が連携を組めば、当然、足場の揺れだけで実体を見抜く事が出来る。どっちかが補佐するなり幻影は乗せない様にするなり、気をつけとけよ。魅衣もな」
「わかった」
カイトは一応の注意を促しておいて、更に遊撃手として翔と同じく牽制役をやる時のある魅衣に注意を促す。魅衣もまた、幻影で分身を創り出す事が出来るのだ。
それに今後は翔や魅衣以外にも分身を創れる様になる者が出ないとも限らない。注意を促しておいて悪い話では無かった。
「まあ、それで、こう出来るのはここまでだ。乱暴に動かすから、舌噛むなよ」
「おう、頼んだ」
一通りの注意を終えてカイトが本題に話を戻す。それを受けて、ソラが腰を少しだけ落として、衝撃に備える。そうして、カイトが<<操作盾>>の操作を開始した。
が、それに伴い、ソラがカイトの創り出した<<操作盾>>の上でグラグラと揺れ始める。
「って、うぉ! とっと! うお!」
「な、なんか楽しそうだな」
「オレも少し予想外だった」
幾ら乱暴に、と言っても所詮はカイトの腕だ。怪我をさせない様に注意していた事もあって、やはりソラ程の荒っぽい動きにはならなかったらしい。ソラはまるで荒れる海を乗りこなそうとするサーファーにでもなった様な気分なのか、器用にバランスを取りながら楽しそうな笑みを浮かべる。
流石にこれにはカイトもその他の面々も予想外だったので、一同顔に少しの呆れと多大な苦笑を浮かべるしかなかった。
「まあ、そう言ってもこのままでもダメか」
このままでは、ソラの為にならない。そう思ったカイトは更に少しだけ、<<操作盾>>の扱いを乱暴にする事にした。これには流石にソラも余裕を浮かべる事が出来ず、砂浜に落下するしか無かった。
「あいたたた……おまっ、いきなり乱暴にすんなよ……」
「いや、楽しそうだったからな。参考にならん……で、理解したか?」
「ああ……これ、無茶苦茶難しいな……」
砂を払いながら、ソラがカイトの言葉に頷く。何もカイトがやったのは無茶苦茶な操作、というわけではない。きちんと戦闘であれば考えられるぐらいの操作を行っただけに過ぎないのだ。そうして、自らの身で難しさを体感したソラが苦笑しながら、カイトに問い掛けた。
「これであの一キロも上でやれ、って無理じゃね?」
「そりゃ、今みたいに普通に乗ってるだけだったら、そうなるだろうよ。よくよく考えても見ろ。オレはお前の盾の上で普通にしてたんだぞ? バランス感覚だけでなんとかなるもんじゃない……そうだな。もう一回試しに<<操作盾>>で足場を作ってくれ。見せたほうが早い」
「ん? ああ」
百聞は一見に如かず。というわけでカイトはソラに取り敢えず<<操作盾>>を創らせてその内の一つに飛び乗った。
「うぉっと……」
「まあ、そういうわけでこれ、逆さ向きにしてくれ」
「……は?」
足で自らの乗る<<操作盾>>の足場を示して逆向きにしろ、と言ったカイトに、ソラが眉の根をつける。どう考えてもそれは落下する未来しか見えないのだ。
確かに飛空術を使うのなら別だろうが、流石に現状で使うわけも無し、とソラには理解出来ないが、まあ相手はカイトだ。天井張り付きぐらい出来ても不思議では無かったので、その指示に従う事にした。
「んじゃあ、まあ……ほらよ」
カイトの指示に従い、彼の乗る<<操作盾>>を逆さ向きにしたソラであったが、やはり案の定、カイトは落下する事なく、一緒に180度回転して、そのまま天地逆で一同の前に浮かんでいた。
「ああ、やっぱ?」
「驚きが無いのはつまらんな……ああ、もう良いぞ。戻してくれ」
「おう」
ソラ以外にも全員が大方起きる事が理解出来ていたので誰も驚かず、カイトは少し不満気だったが、取り敢えずこのままでの解説はさすがの彼も頭に血が上る。なのでソラに頼んで向きを戻してもらって、一度地面に着地した。
「ああ、すまん、ソラ。もう消して良いぞ……それで、今のだが、あれはさっき翔に説明した足場を固めるのの応用だな」
「ん? そうなのか?」
「ああ。さっきのは足場を固める力としたわけだが、今のは足場に引っ付ける様にしただけだ。魔力を使って強引に<<操作盾>>をひっつかんでいる……いや、どちらかと言うと足場と接続している様な感じか。足の裏を接地面にして、足下の地面に魔力を通して、と結局は同じだ。まあ、こっちは他人の魔力で構成された足場の分、難易度も上がるが……結局は同じだ」
翔の言葉を受けて、カイトが更に解説を行う。結局はこれも足場を操作する事には変わりがないのだ。ならば、難易度の差こそあれ、必然やることは似たような事になるのであった。
「なあ、もしかして、これ習得すると、壁走りとか出来るのか?」
「普通にな。足場が他人の魔力で無い事を考えると、壁の方が簡単だ」
カイトの問い掛けを聞いた翔が興味深そうに問い掛けると、カイトは平然とそれを認める。壁も見ように拠っては、地面と垂直な床とも見なせる。なら、出来ないはずは無いのだ
「歩くの一つとっても、冒険者って奥が深いんだな……」
「そりゃ、そうだ。常在戦場を心掛けて練習している冒険者は多いぞ。町中でもふと目をやってみれば、普通に鍛錬代わりに足場を固める歩き方を練習している若い冒険者とか、<<空縮地>>の練習か足下に魔力の足場を作ろうと努力している熟練の冒険者も少なくない。それこそ路地裏に入れば、魔力の足場を作って屋根の上までたどり着こうとしている奴も目に入る。これらは町中でも訓練出来るし、誰にも迷惑がかからないからな。意外と、みんな努力してるんだよ」
当たり前の事を、当たり前にカイトは指摘する。だが、そんな事一つ取って見ても、彼らは気付けていなかった。
これはひとえに、カイトが街の指導者として、更には同じく冒険者として、隅々まで――サボタージュの名目の下――観察しているからに他ならなかった。まあ、歩きながらでも観察しているのは観察しているので、そこはやはり、カイトの注意深さのおかげ、という所だろう。
「はぁー……俺も今度から足場作る訓練やってみるかなぁー……」
「俺も」
翔のつぶやきに、ソラも同じく感じ入る様に同意する。誰も彼もが努力を欠かしていないのだ。才能だけが取り柄だった彼らにとって、その下駄が失われかけている今、練習は人一倍欠かせない物だ。それ故に、少しだけ危機感を覚えたのである。そんな彼らに、カイトは満足気に頷いた。
「ま、それで良いさ。何も今すぐに高速で移動する<<操作盾>>の上を飛び跳ねながら弓を射つ、とか斬撃を放つ、とかいうのはまだまだ先のお話だ。そもそもどれだけ足掻いた所で、今のお前らはランクCがせいぜい。既にオレ達が履かせた下駄は無い。後はゆっくりやってくだけだ。オレみたいに……いや、すまん。忘れてくれ」
オレみたいに、生き急ぐ必要は無い。そう言おうとして、言う必要も無い事か、とカイトが苦笑して頭を振るう。彼らには、そうさせないというのが、カイトの決意だ。そうであるのだから、言う必要は無かったのである。そうして、カイトは照れ隠しに、一同に告げる。
「まあ、丁度良い。外に出て来てるから、お前らの練習でも見てやるとするか。何か疑問があったり、出来ない事があったら、ここで晴らしておけ」
「そういうことであれば、余も付き合うとするかのう。幸い老マーリン殿の作った<<王たる証の剣>>の理解にもう少し時間が欲しい、と言っておったからの。暇じゃ。暇つぶしには、丁度良かろう」
カイトの言葉に続いて、ティナが告げる。そうして、心機一転やる気を満たした一同は、カイトとティナの下で、今までわからなかった些細な疑問や無理だった部分等を修正して、この日を終えるのだった。
お読み頂き有難う御座いました。
次回予告:第328話『海水浴』




