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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3443話 はるかな過去編 ――狭間――

 世界の情報の抹消という世界を崩壊させかねない事態の発生。それを受けて大精霊が動いたことによりようやく一丸となり動き始めた大陸各国は大陸全土の国家を集めた会合を開くことを決定する。

 というわけで会合の裏で色々と動いていたカイトであったが、会合の裏で起きた魔族側の暗躍や様々な情報共有の結果、『狭間の魔物』との決戦に向けて情報を収集する事として彼自身もまた世界と世界の狭間に赴き、敵情の偵察を行う事としていた。

 そうして準備を行ったカイトは、ソラ達への協力要請と情報共有の翌日。エドナと共に世界と世界の狭間へとやってきていた。


(正直言うと……気持ち悪い空間だな、これは……)


 どれぐらいの時間が経過したのだろうか。それとも時間の経過はあるのだろうか。カイトははるか遠くを満たす虹色の光を見ながら、そんな事を思う。

 幸いと言って良い事に景色が何も変化しないという事はなかった。時にまるで小惑星の様な岩が漂っていたり、彼の知識では到底理解できないような高度な技術が使われているのだろう金属片のような物が漂っていたりとしていた。

 が、そのどれもこれもが壊れていたり人類には形容しがたい状態であったりと精神的な負担は大きかった。というわけで、彼も流石に耐えかねたらしい。エドナの手綱を引いて、移動を停止させる。


「……っと」

『どうしたの?』

「ああ、申し訳ありません。流石に少し疲れたので……」

『……そうだね。流石にこの空間は君でもキツい。しかも慣れない思考での移動だ。まだ時間的猶予はあるはずだ。休み休み行くべきだろう』


 カイトの言葉にシルフィードは休息を認める。というわけでカイトは近くにあった岩壁なのか岩盤なのか微妙な平らな巨大な岩と近付く。


「……はぁ」


 自身に対して並行に浮かんでいた岩に向け自身を垂直にして、カイトはエドナと共に岩盤に足を着く。狭間の世界は当然だが重力もなく宇宙空間みたいなものなのだが、カイトにもエドナにもその宇宙空間の知識がほぼないようなものなのだ。

 一応土属性の魔術に重力を操作するものがあるので完全に無重力に耐性がないわけではない。だがそれでも二人共かなり疲労が溜まっていたようだ。カイトの口から思わず深い溜め息が零れ落ちていた。


「……」


 その場に座り込んで少しだけ呼吸を整えて。カイトは少し遠くを眺める。そうして見えるのはまさしくホワイトアウトと言うほどのブリザードだ。が、そこから少し視線を外して自分達が来たと思しき方向を眺めると、景色はすぐに一変する。


(ブリザードのすぐ横でファイアウォール……巨大な水の塊と思えば中には巨大な岩壁……しかも急変する事さえある。むちゃくちゃだ、ここは)


 極寒地獄だったものが急に灼熱地獄と化す程度であれば、まだカイトも想像出来る。が、周囲が虹で満たされていたにも関わらず急に虚無の空間と化した時は心底肝が冷えたらしい。そんな無秩序な世界をひたすら進み続けていたのだ。その精神的、肉体的な負担は想像を絶するものであった。

 無論、消耗する魔力の量も極限まで絞ってさえとてつもない勢いで減っていく。その上、いつゴールか大精霊達にさえわからないのだ。どこかで休まねばとてもではないが最後まで辿り着けそうになかった。


『カイト。大丈夫?』

「姫様?」

『なによ、そんな驚いた声出して』

「……ああ、そうか。契約を介したら話せるのか」


 実のところ、ここまでの道中何度か魔物と思しき姿を確認していた。なんでもありな空間だ。油断した所に幻術を受けた、という可能性がないではなかった。

 が、自身の腕に宿る契約の紋章が輝いていた事から彼もこれがヒメア本人であると認識したようだ。そうして上げかけた腰を再び下ろして、僅かな苦笑を浮かべる。


「はぁ……今ほど姫様の声が聞けて嬉しいと思った事はないな……」

『なにそれ。いつもは嫌ってわけ?』

「まさか。いつも聞けて嬉しいと思ってるよ。ただここだと姫様の声を聞ける事が本当に嬉しい」

『……』


 すでに言われているが、カイトもエドナも相当に疲れている。しかもその疲労は大半が精神的なもので、唐突な好意の言葉にヒメアが思わず息を呑む。

 が、カイト当人はそんな事を口にした認識もないほどに疲れていた。故に何処か不安そうに、何も発せない彼女へと問いかける。


「姫様?」

『な、なによ!』

『えーっと、あの、あー……いちゃついている所悪いんだけど、大丈夫……じゃなさそうだな?』

「レックスか……どうした?」


 今回カイトが偵察に赴くにあたり、何が起きても良い様に八英傑は全員揃っていた。無論この偵察は昨夜の内に各国にも通達していたし、王様達の中にはなんとか偵察を出せないかという意見も出ていたらしい。

 アルヴァらもこれに同意していたらしく、レックスら八英傑からの申し出に即座の承認が下りたのであった。というわけで苦笑いのレックスがカイトの問いかけに応ずる。


『いや、さっき天醒堂の会議が一旦ストップしてな。今回は議論沸騰とかではなく、すぐにでも出動が出来る様にさせるための待機命令を出させるための中断だ』

「ということは……もう半日程度経過していたのか?」

『それも……わからなかったのか?』


 カイトの言葉にレックスが驚愕する。カイトが出立したのは朝一番。まだ会議が開始されるよりも前だ。にも関わらず、気付けば半日程度が経過していたらしい。この言葉にカイト自身が愕然となる。


「ああ……ここだと何もわからない。太陽が登る事もなければ、月が満ちる事もない……吹雪が急に止まる事もあれば、海が降る事もある。なんでもありだ」

『……ヤバそうか?』

「くっ……大丈夫だ、問題ない……だが半日か」


 ヒメアの声が安心をもたらすのであれば、レックスの言葉はカイトに見栄を張らせる。彼の前で情けない姿を晒すなぞ、自分自身が許せるものではないのだ。故に気弱になっていた自身の精神を一喝すると、カイトは改めて状況を再確認する。


「今どうなっている? こっちも移動はしているが、時間の感覚さえ狂っているらしい。この程度で済んでいる事を喜ぶべきかもしれない。なにかそっちで問題は?」

『いや、こっちで特に問題はない。それにこの状況だから、各国すぐに軍を出せる準備も整えてきていたらしい。特に南国はフェリクス将軍の根回しが上手かったみたいだ。ウチとこもやれるところは軍備を整えさせていたし、北の帝国も同様……案外、足並みが揃わなかっただけで各国準備は進んでいたみたいだ』

「それは朗報といえば朗報だな」


 やはり大精霊様が出てきた結果か。カイトは存外こちら側の準備も早々に整いそうだと僅かに胸をなでおろす。そしてこれにレックスもまた頷いた。


『ああ……だがだからこそ、お前の情報が重要だ。どれぐらいの数の敵が居て、首魁はどんな奴なのか。それ次第で打つべき手が変わってくる』

「あいよ。もうひと頑張りしてきま……ああ、そうだ。それなら多分夕方にはもう一度集まりを行うだろう?」

『そうだな……ああ、わかった。そっちの状況は伝えておく。俺達もまた夜には集まる。その時にこっちの状況をもう一度伝えるよ』

「助かる。時間経過がわからん上に大精霊様にもゴールがわからんらしい」

『そりゃ……ヤバいな』


 それはいくらカイトでも精神的にまいるわけだ。レックスはゴールも見えず無茶苦茶な世界に一人居るというカイトを想像し、思わず苦笑する。とはいえ、そうなればこそこの話し合いはカイトにとっては救いにも等しかった。


「あはは……だろ? ま、半日なんとかなってるし、ゴールはあるんだ。ならなんとかたどり着けるだろうさ。最悪それでも無理なら、姫様に助けてって泣き付くさ」

『歌でも歌ってあげましょうか?』

「やめてくれ。眠くなる」

『どういう意味よ!』

「安心する、って意味」

『っぅぅぅ!』


 この男は調子を取り戻すとこれだ。今度は意図的にくさいセリフを吐いたカイトに、ヒメアが恥ずかしい――周囲にレックス達が居るため――やらおちょくられている怒りやらで顔を真っ赤にする。そうしてそれを契約を介して感じながら、カイトは身体に活を入れる。


「よっしゃ。じゃ、もう一度行くか」


 どうやら下手に時間を使うと何が起きるかわからない事になりそうだな。カイトはレックス達からの情報で気付かぬ内に半日が経過していた事を胸に刻む。そうして、彼は再びエドナに跨って移動を開始するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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