第3439話 はるかな過去編 ――接触――
世界の情報の抹消という世界を崩壊させかねない事態の発生。それを受けて大精霊が動いたことによりようやく一丸となり動き始めた大陸各国。その裏でカイト達は今回の一件が何者かによる人為的な犯行ではなく、『狭間の魔物』による侵攻と判断。戦いが近いと判断したカイトはアルヴァにそれを報告すると、カイトは会議が開かれている裏で旧知の軍の高官であるアクストという将軍とと会う事になる。
そうしてアクストを介して接触してきた情報局よりフゲレ伯爵という空白地に最も近い貴族が独断先行をしていることを知らされるわけであるが、その最中にフゲレ伯爵死亡の急報が舞い込む事になる。
そんなこんなで色々な事態を経たカイトは王立研究所にいる養父の先代のマクダウェル卿の妹であるノアの所へと協力を求めてやってきていた。そんな彼女との話し合いの最中。クロードの要請を受けたソラから、話を聞く事になっていた。
『らしいです……なのでそれを逆に利用すれば、殺す事も可能なんじゃないかと』
「この火傷は?」
『わからないんっすけど……多分、そういうのを再現しようとして電流を直接流してるんじゃないかと。それにこういうのって知識ないとわかんないでしょうし』
「あり得る」
ソラの推測に対して、ノアは目を見開いた。ノアにせよソラにせよ、心肺蘇生法を知っているからこそこの火傷が心臓に雷を流し込もうとした形跡なのではと思える。もしその前提がなければ謎の火傷だとしか思えず、暗殺とさえ思われていなかった可能性は十分にあった。
「ああ、ソラくんだったわね。ありがとう。どこでその話を聞いたか、とか色々と気にはなるけれど……とりあえず有益な情報だわ」
『ありがとうございます』
『じゃあ、ノアさん。こちらはまた警備に戻ります。出たり入ったりなので連絡は繋がれば、というところですが……』
「ああ、とりあえずこれで良いわ。クロくんもありがとう」
『だからクロくんはやめてくださいって……』
犬とか猫じゃないんですから。クロードはノアの呼び名にため息を吐く。とはいえ、雑談してばかりもいられない。なので彼はため息を吐くものの、それで終わりとしたようだ。通信機が停止する。
「やっぱり推測通り、この火傷の痕跡は雷……ソラくん? だっけ。彼の言葉に従うのなら電流が通過した跡と考えて良いわね」
「電流か……わかりやすくて良いな」
読んで字の如く。カイトはソラ――もとい日本――の電流という言葉がわかりやすいと気に入ったらしい。それにノアが笑った。
「そこ?」
「学者の言葉はわかりにくいんですよ。長ったらしいし」
「それは名が体を表しているからよ。長いのではなく現象を表現すると長くなるの。その意味で言えば」
「いや、良いです。あと、時間もないですし」
「ああ、そういえばそうだったわね」
自身の言葉を遮ったカイトの言葉に、ノアもまたそれはそうだと納得を露わにする。
「とはいえ……そうなると後の問題は誰がこんなことをできるのか、というところでしょうか」
「誰が、となると十中八九魔族たちしかいないでしょう」
「それだと解せないことが出てくるんですよ」
ノアの指摘に対して、カイトはため息を吐いて首を振る。そうして彼は今回の会合でさえ秘匿されている魔族たち側の協調について説明する。
「むぅ……そうなると中々に掴めないわね、相手は……」
「ええ……最前線を両方殺す意味は正直言えば軍事行動を遅らせる以外に意味はない。が、今の時点でそんなことをする利は魔族側にもないはず……」
「そうとも、言えないのよねぇ」
「「っ!」」
響いた女の声に、カイトとノアがそれぞれの武器を取り出してそちらに向ける。そうして振り向いた先にいたのは、イヴリースだった。
「……なんのつもりだ?」
「はぁ……そう殺気立たないで頂戴な。出てくるのを待っていたのよ。それなのに王都から出たり入ったり。接触の隙がないったりゃありゃしない」
カイトの問いかけに対して呆れるようにため息を吐きながら、イヴリースは敵意がない事を示すように諸手を上げる。それにカイトもまた刀を仕舞う。これにノアが少し困惑するように杖を下ろす。
「……よいの?」
「ああ……さっきも言ったが、現状魔族側と事を荒立てたくない。話ぐらいは聞いておこう」
話せ。ノアの問いかけに答えながら、カイトはイヴリースに事情の説明を促す。これにイヴリースが先に大魔王から下った指令を伝える。
「大魔王様のご命令よ……そのシンフォニア、レジディア、エザフォス……この三軍で動く気配があるならば頭を殺せ、と。ああ、実行犯は私じゃないし、私の管轄にある話ではないわ。動いたということはその2つは軍を動かそうとしていた、ということでしょうね。もちろん、エザフォスの方でも準備はしているでしょう。そちらが動いたかどうかは、私も知らないわね」
「で、お前はそのどこか一つでも殺された場合にオレに事情を説明、と」
「そういうことね。顔見知りならまだあなたも矛を収めやすいでしょう」
ここまで来るのだって楽じゃないんだけれど。イヴリースは盛大にため息を吐きながら、カイトの問いかけに肩を竦める。まぁ、そう言ってもそもそも王立研究所は魔族側のスパイが入り込んでいるだろうことはカイトも知っていたし、アルヴァも知っている。
だからこそ王城の地下に秘密研究所を設営しているわけだ。というわけでここまで入りこまれたこと。大魔王の命令で暗殺が行われたことなどについてはカイトもひとまずの納得を浮かべる。
「ふーん……まぁ、本来は敵同士。敵の敵は味方、って今回だけ限定で組んでいるだけだ。しかも魔族側との共闘関係は大っぴらになぞできん。そうするしかないってんならそうした方が良いと判断したんだろうよ。大魔王様とやらは」
自軍の国境警備を担う貴族が殺されているのだ。納得はしているもののカイトの言葉がかなり棘を含んでいるのは仕方がないことだろう。とはいえ、そこらを飲み込んででも今回の戦いには勝たねばならないのだ。その音頭を取っている自分がここで台無しにすることはできなかった。そんな彼にイヴリースも仕方がないと再び肩を竦める。
「それで良いわ。で、意図だけれど……こちら側の要塞から初手で一撃を加えるわ」
「「っ」」
なるほど。あんなものに巻き込まれれば派遣された軍なぞひとたまりもないだろう。カイトとノアはカイトたちでさえ攻略が難航する理由の一つである北の砦にある巨大な魔導砲を思い出して顔を歪める。しかも砦を攻める時は当然だが今のように撃ちます、と教えてくれるわけではないのだ。魔族側からすれば巻き込めば良いものを、ある意味で言えば魔族側のかなりの妥協点と考えられた。
「でも多分、それでも倒しきれないだろうというのが大魔王様の推測よ」
「その後はなんとかしろ、と」
「いいえ。その後もこちらも関わるわ。わかっていると思うのだけど、今回の相手を放置すればこの世界は終わりよ。魔界とてただではすまない。自分たちの命運を他人に任せるなんて冗談でも笑えないわ……貴方たちもそうでしょう?」
「全くもってその通りで」
もしカイトが魔族に任せて待機なぞ言われれば例え王命でも拒絶するだろう。なぜ自分の命を他人に、それも敵に預けねばならないのか。そんな当然の考えでしかなかった。というわけで今度は苦笑いで同意する彼であるが、そこで一つ問いかける。
「そうだ……それなら一つ聞きたいんだが」
「調査隊のことね」
「ああ……連絡を途絶したまま応答がない。やはりお前たちか」
「ええ……彼らについてはこちらの準備が整い次第、送り返す手はずになっているわ。ただ色々と面倒だから、連絡役はこちらで偽装した兵士を送るわ」
カイトの問いかけを認めつつ、イヴリースは大魔王の指示をカイトへと伝達する。
「ヴィルベイ……伝令兵はそう名乗ることにしている。それが来たら発射準備などが整ったと思って頂戴」
「ヴィルベイか……わかった。こちらはそれに向けて各国の兵を集めつつ、攻撃と同時に即座に応戦できるように手配を進めよう」
「なにか考えがあるわけ?」
「それはこれから考えてもらう……まぁ、もう考えられてそうだが」
カイトが思い浮かべるのはベルナデットだ。彼女であれば確かに色々とすでに考えていそうであった。というわけでカイトは更に魔族側からの情報提供を受けてることになるのだった。
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