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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3436話 はるかな過去編 ――王立研究所――

 世界の情報の抹消という世界を崩壊させかねない事態の発生。それを受けて大精霊が動いたことによりようやく一丸となり動き始めた大陸各国。その裏でカイト達は今回の一件が何者かによる人為的な犯行ではなく、『狭間の魔物』による侵攻と判断。戦いが近いと判断したカイトはアルヴァにそれを報告すると、カイトは会議が開かれている裏で旧知の軍の高官であるアクストという将軍とと会っていた。

 その中で『狭間の魔物』の端末の中でも大規模な物が潜んでいると思われる空白地にして紛争地に一番近いフゲレ伯爵という貴族が独断専行をしている事を知らされるのであるが、その話し合いの最中。フゲレ伯爵が急死したという急報が舞い込む事になる。

 というわけでカイトはフゲレ領へ赴き、フゲレ伯爵の息子であるベルクという若者と会談。彼や検死を行ったという軍医達から話を聞いて、フゲレ伯爵の死が暗殺の可能性があると知らされる。そうしてベルクの要請を受けてカイトは王都に戻るとすぐに情報部――というよりアートルム――との間で情報共有を行っていた。


「そんな事が……」

「ええ。それで少尉。一つ、お聞かせ頂きたい」

「ありませんよ、それは。時間も人も。そんな暇があれば、でさえある」

「でしょうね」


 本当に情報部の暗殺の線はないのか。そう問いかけるカイトに、アートルムは少しだけ苦笑いを浮かべて首を振る。いくらなんでもバカバカしかったようだ。

 そしてこれは数時間前にカイトも考えていた通り、あり得ない話だ。万が一という事もあるので聞いただけに過ぎなかった。というわけで同意する彼に、アートルムが続ける。


「とはいえ……その話であれば我々も伺っております。不審な死が散見されており、心臓あたりに小さな火傷が見受けられる、と。ただその原因は不明」

「となると……もしや?」

「ええ。実のところ、この事態が発生しているのは我が国のみではないようです。我々が確認している限りではレジディアでも発生している様子ですし、同盟外ではエザフォス、ソル・ティエラ……色々な所で起きているようです」


 アートルムはまるで見えないメモ帳でも捲るような手付きをしながら、カイトの問いかけに答える。そうしてそんな彼が手を止めた所で、再び口を開いた。


「そうですね。直近であれば……我々が掴んでいる所では……っ」

「どうしました?」

「一番直近はレジディアのバー少佐……件の紛争地の最前線を守備する基地司令です」

「っ」


 それでその顔か。カイトはアートルムの顔が歪んだ理由を察して、彼自身もまた盛大に顔を顰める。そうして再び見えないメモを捲るような手付きを開始したアートルムへと、彼が口を開いた。


「答えはわかりかねますが……少なくとも現状で何も無いとは考え難いですね」

「ええ……ですが申し訳ありません。これ以上は我々情報部としても何も」

「この件について、王立研究所はなんと?」

「可能かどうか、などですか?」

「ええ」

「申し訳ありません。確かに協力は依頼しておりますが、まだ回答などは何も……我々としても本件が暗殺かどうか決めかねる所がありましたので……」


 急がせてはいなかった。アートルムはカイトの問いかけに対して言外にそう語る。戦乱の世において最前線を駆け抜けるカイト達も忙しいが、その裏で暗躍する彼らも同じぐらいには忙しい。

 勿論、王立研究所とて一緒だ。怪しんではいるので調査は行っているが、暗殺と断定出来るほどの確証がなかったので優先度は低かったようだ。とはいえ、ここまで来ると暗殺の可能性は非常に高い。優先度は上げた方が良さそうだった。


「本件はどこが調査を?」

「……第4研究科ですね。マクダウェル卿には馴染が深いかと」

「あー……」


 いつものあそこか。カイトはアートルムの答えにどこかしかめっ面で納得を滲ませる。件の第4研究科というのはこういった暗殺かもしれない、という案件を専属で担当する部署だ。

 最前線かつ貴族達に疎まれるが故にありとあらゆる暗殺が仕向けられる彼はある意味お得意様とも言えて、未知の手段やらから平然と生還してくるカイトからの直の情報を有り難かっていた。


「それでしたら私が直接行った方が早いでしょう」

「お願いできますか? 私も局に戻って情報を集めます」

「お願いします」


 王立研究所への問い合わせなぞカイトでも出来る。だが情報部が秘匿する情報はアートルムでなければ入手出来ない。というわけで両者はお互いがここから為すべき事を定めると、足早に各々が向かうべき場へと向かうのだった。




 さてアートルムとの情報共有を終わらせたカイトであるが、そんな彼は王都にある王立研究所へと向かいながら下手な学者達より雷属性に詳しいクロードから意見を聞いていた。


『そうですね……不可能ではないかと。確かにその理屈は通っています』

「それをやるかやらないかは別にして、か」

『ええ……そこまでしなくても敵の行動を妨害するのに雷を使う事はままあります。なのでそれを用いて心臓を止める……というのは考えた事はありませんでしたが、可能かと思います』


 暗殺とは騎士から一番遠い戦い方だ。マクダウェルの騎士と言われる彼らにとってその手法は何より恥ずべき行為で、特に父が騎士として散った彼ら兄弟がその手段を取る事はなかった。

 しかし一方で二人も暗殺とて戦場においては必要な手段とは考えているので、暗殺そのものに対して思う所はない。なので話し合う声に怒りはなく、それもまた戦場の道理と捉えていた。


『ですが……そうですね。魔術の痕跡を残さず殺す、となると僕でも無理かと』

「お前で無理ならこの時代は……後はノワールぐらいしか出来そうにないな」

『流石に彼女でも無理じゃないでしょうか』


 確かに天才と言われるノワールであるが、あくまでも魔術師だ。魔術の絡まない内容は一般と同程度か一般より少し詳しい程度にしかない。興味のない分野に至っては一般人以下という所も多い。今回の様に魔術が絡まない可能性が高いとなっては彼女の管轄外の可能性は高かった。


「そうかもな……まぁ、そのために研究所があるわけでもあるか」

『そうですね。流石にそこらの複合的な案件となれば、僕よりそちらの方が詳しいかと』


 クロードやノワールが詳しいのはあくまでも魔術を使う場合だ。魔術を使わない場合というのは普段生活する上で基本は考えられないが、だからと研究しないで良いかは別だ。そしてそこらのお金にならない可能性の高い研究をするために、王立研究所はあった。


「……ああ、そうだ。もし天醒堂の方に戻ったら、ソラ達に一度魔術を使わないで雷を使う方法はないか聞いてみてくれ。確か彼らの世界は魔術が一般的じゃなかったんだろう? にも関わらずオレ達の世界より民間の技術はかなり進んでいたという。ならなにかあるのかもしれない」

『なるほど……たしかにそうですね。魔術を使わない文明なら、魔術を前提にした調査の痕跡が残らない』


 この時二人は未来のカイト自身が魔術を使わない地球の科学技術を応用した様々な手段を有している事を知らない。なのでソラ達がこの時、すでに答えに近い答えを持ち合わせている事を知らなかった。というわけで知らない以上は仕方がなく、カイトはそのまま王立研究所へと向かう事になる。


「はぁ……またか」


 今回の一件だと、おそらく流れからあの人だろうな。カイトは旧知の研究者を思い出し、盛大にため息を吐いた。改めて言うまでもない事であるが、マクダウェル家の得意とする属性は雷属性。そして今回は話の流れから、雷属性に長けた研究者に会わねばならない事は間違いないだろう。


「……いっそラシードさんに頼みゃ良かった」

『もう遅いですよ。それに怒られるんじゃないですか? わからなくはないけどな、と言いつつ』

「だよなぁ……はぁ……」


 悪い人じゃないんだけど。カイトはこれから会う人物を思い出しながら、再度ため息を吐いた。と、そんな彼に王立研究所の守衛が気が付いたようだ。向こうも足繁く通う彼は顔見知りなのか、少し驚いた様子は見せながらも普通に声を掛けてきた。


「……おや、マクダウェル卿。今日はマクダウェル女史へ?」

「……たぶん女史かと」

「多分?」

「情報部……情報局からの要請です。これで取次を頼んでくれ、と」


 守衛に対して、カイトは今回の一件の研究などを担当する部署への取次を指示する内容の書面を提出する。なお、情報局と彼が言い直しているのは情報部が情報局へと格上げされているからだ。

 情報部時代から関わっている者たちは昔の名残りで情報部と呼んでいたのだ。なので軍関係者以外だと情報部では通じない者も珍しくなく、こういう守衛であれば尚更だった。


「ああ、なるほど……マクダウェル卿も大変ですね」

「あはははは」


 苦笑いを浮かべる守衛に、カイトもまた盛大に苦笑いを浮かべて応ずる。そうして、カイトは取り次いでくれた守衛の指示に従って、王立研究所の敷地内へと足を踏み入れるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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