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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3435話 はるかな過去編 ――急変――

 世界の情報の抹消という世界を崩壊させかねない事態の発生。それを受けて大精霊が動いたことによりようやく一丸となり動き始めた大陸各国。その裏でカイト達は今回の一件が何者かによる人為的な犯行ではなく、『狭間の魔物』による侵攻と判断。戦いが近いと判断したカイトはアルヴァにそれを報告すると、カイトは会議が開かれている裏で旧知の軍の高官であるアクストという将軍とと会っていた。

 そうしてアクストを介して接触してきた情報部から提供された情報を精査していた所、彼は自身と敵対する貴族の一派に属するフゲレ伯爵という貴族が付近を巡回していた兵士の一隊を『狭間の魔物』の中継機らしき融合個体が潜む空白地に向かわせていたことを知る。

 というわけで今度はフゲレ伯爵らへの対応を話し合っていたその時。急報が舞い込んで、フゲレ伯爵が急死したと知らされる事になる。そうしてカイトは後をアクストと情報部に任せると、自身は事態の急変に備え一路フゲレ領へと赴いていた。


「……」


 自身専用の竜に跨って最後にフゲレ伯爵が滞在していたという軍基地に移動するベルクの背を見ながら、カイトはかなり険しい顔を浮かべていた。


(どこのどいつだ? 情報部は確かに暗殺は十八番といえば十八番だが……何より言っちゃ悪いが、フゲレ伯爵の言葉にもある程度の道理はある。結局、戦場じゃ結果が全てだ。味方殺しでもしなけりゃ大抵の違反は勲功で帳消しにされる)


 まだまだ青いな。カイトは自身の前を険しい顔を浮かべながら進むベルクの背にそう内心で告げる。そして彼は内心で断じた。


(今回の案件、情報部では決してない。そんな暇もない……じゃあ、誰だ……?)


 後方支援を担っていたベルクが暗殺を疑っているということは、なにか疑わしい所があるのだろう。そしてこの状況下での急死はいくらなんでも怪しすぎた。


(ベルクは……無いな。流石に今ここで父を暗殺する事が何を招くかは理解しているはずだ。間違いなく陛下の勘気は買う。この程度の独断専行で殺すほど愚かでもないはずだ……異族達……もないだろう。逆に彼らの方こそ各国に対して行動が遅いと言っているぐらいだ)


 情報が少なすぎる。カイトはベルクに負けないほどに険しい顔を浮かべ、暗殺者の正体を考察する。そうして誰もが無言のまま移動すること一時間ほど。フゲレ領にて一番大きい軍の基地へとたどり着いた。そこではすでにカウテスの連絡を受けた基地司令やその側近達が一同を待ってくれていた。。


「ベルク様。お待ちしておりました」

「ああ……彼は語る必要もないな」

「はっ……マクダウェル卿。ご無沙汰しております」

「お久しぶりです」


 基地司令とは現場単位でのやり取りの中でカイトも何度か話をしており、話した回数や時間であればベルク以上に話をしていた。そうして基地司令と握手を交わした後。ベルクがすぐに本題に入る。


「それでペリトは?」

「彼でしたら会議室に向かう様に指示しております。急なお話でしたので伯爵様のカルテなどを用意して待つ様に、と」

「そうか……ではすぐに向かおう」

「はっ」


 ベルクの言葉に基地司令は二つ返事で応ずると、側近達と共に基地の中央にある司令塔へと移動する。やはり国境を守る軍の基地だ。規模はかなり多く、王都から貸与されている軍を合わせて数万単位の兵士が待機している大きな基地だった。

 そんな基地だがやはりトップたる伯爵の謎の急死とあり半ば浮足立ち、半ば殺気立った様子だった。そんな光景を横目に、カイトが基地司令へと問いかける。


「えらく兵が多いですね。いつもこれほど居ましたか?」

「……伯爵閣下のご命令で、近隣の基地からも兵を集めておりました。正直な所、それ故に何者かが紛れ込んだとしても不思議はありません」

「では、貴方も……」


 どうやら伯爵に近い者たちは揃って伯爵の死を暗殺と考えていたらしい。カイトの言外の問いかけに対して、基地司令ははっきりと頷いた。


「ええ……無論、何ら根拠なく言っているわけではありませんよ。伯爵閣下が亡くなられる前日まで至って普通でした。また戦が近いと酒も絶たれておいででした」

「興奮されていたりは?」

「それもほとんど。無論、戦が近いが故にこそ高揚感のようなものはあられた様子ですが……」

「ふむ……」


 確かに聞く限りでは死ぬ要因が見当たらない。が、急死は予兆もなく急に起きるから急死なのだ。いくら貴族と言えど、確たる証拠もなく暗殺だなどと決め付ける事は出来なかった。

 というわけでフゲレ伯爵の死去に関する医学以外の当時の事などを聞きながら歩くこと暫く。司令塔の会議室へとたどり着く。そこでは一人の白衣を着た50前後の小柄な男が待っていた。彼は一同が入ってくるのを見るなり立ち上がり、ベルクへ向けて頭を下げる。


「ベルク様。お待ちしておりました」

「ああ……こちらはマクダウェル卿。名前は知っていると思うが」

「存じ上げております。マクダウェル卿。この基地にて軍医全員の統率を執り行っておりますヘキム・タナヒルです。お見知りおきを」

「カイト・マクダウェルです……申し訳ないのですが時間があまりない。早速伯爵閣下の検死などを伺えますか?」

「かしこまりました」


 カイトの要請を受けて、全員が用意されていた椅子に腰掛ける一方。ヘキムという軍医は全員に見える位置へと移動し、備え付けられていたプロジェクター型の魔道具を起動させる。そうして映し出されるのは、言うまでもなくフゲレ伯爵のカルテだ。


「まず伯爵閣下の死亡推定時刻ですが、およそ夜の2時ごろ。肉体に残る魔力の残留量からの推測です」

「残留魔力に対する薬物投与の痕跡の調査と血液採取による薬物投与の確認は?」

「どちらも行っております……これがその結果です」


 カイトの問いかけに、ヘキムは続く資料を映し出す。身体に対する毒物などの影響は怪我を除けば魔力にもわずかにだが現れた。

 無論それでも当人が生きていれば影響が現れるのはかなり抑えられるのだが、死んだとなると話は別だ。毒物などの影響は死してなお残る魔力に色濃く出現し、そこから毒殺を推測する事は出来たのである。

 とはいえ、それを騙す方法がないかと言われれはないとは言い切れない。なので原則として、王侯貴族の当主や嫡男、カイト達の様に国にとって重要人物は死んだ際には血液採取などの多角的な検査が行われる事になるのが規則であった。


「……どちらも異変は見当たりませんね。正常範囲内……酒の影響さえない」

「ええ……これでまず毒殺などの薬物投与の線が消えます。続いて外傷ですが、こちらも身体の幾つかに訓練にて生じたと思しき傷や痣が見受けられる以外、死を引き起こすほどの甚大な損傷は見受けられませんでした」

「ふむ……」


 確かに若干身体に傷があるが、それが死因に繋がるかと言われれば疑問は残る。更に言えば傷もどこかにぶつけたり、または訓練で負った程度。よくあるものではあり、こちらも不思議なものではない。というわけでカイトが一つ問いかけた。


「……申し訳ない。ここまで見る限り、他殺の線はあまりない様に思える。何が気になるのです?」

「ええ……ベルク様。よろしいですか?」

「構わない。お伝えしてくれ」

「はい……それで我らが他殺の線を考えている理由ですが、それがこの黒ずみです」

「うん?」


 ベルクの許可を受けてヘキムは胸にある黒ずみの写真を映し出す。だがこれの何がおかしいのか、カイトにはわかりかねた。そうして困惑を浮かべるカイトに、ヘキムが告げた。


「この痣ですが、痣ではなく火傷の跡でした」

「いや、それにしてもこんな小さな跡では外傷を生じさせたとて無理がある。これで殺すのは無理でしょう。もしこれに刺突の跡でも残っていれば話は変わりますが……それもないのでしょう?」

「ええ。心臓に到達するような穴などはありませんでした……ですが無理ではないのです」


 もしこれが他殺だったとていくらなんでもこんな小さな傷では殺せない。そう問いかけるカイトに、ヘキムが首を振った。


「最近の研究で、心臓に微弱な電を流す事で心臓の鼓動を乱れさせ殺す事が出来ると判明しました。無論障壁の影響もあり、ほぼゼロ距離にまで接近するか対象が睡眠状態かつよほどの格下でないと不可能な事ですが……」

「そうなのですか?」

「ええ……マクダウェル卿。卿も経験はありませんか? 弱い雷属性の魔術を受け、手や足がぴくぴくと痙攣する、というのは」

「それは……まぁ、ウチですので。クロードと戦った時などはよくありますね」


 義兄弟ではあるが兄弟で仲が良いし、騎士に叙任されるより前から模擬戦は何千回と行った。一日に十や二十と小休止を挟みながら連戦、というのも珍しくない。

 そうなると後半は疲労で防御が甘くなり、手にクロードの雷が残り変な痙攣を起こして双剣を取り落として危ない目にあった事も一度や二度では足りなかった。


「それを、心臓で起こすのです。心臓とて筋肉の塊。その動きを乱せば……」

「殺す事も出来る、と……ですがその場合、残留魔力に魔術の痕跡が残るのでは?」

「そこなのです。そこをどうしたかがわからない……魔導具を用いたのか、それとも何か別の方法か……ただ魔導具であっても魔力を用いる限りは痕跡は残る……実は現在、軍の軍医の間でこういう症例が若干数ですが報告され始めているのです」

「え?」


 ヘキムの言葉にカイトが目を見開く。戦乱の最中だ。暗殺は日常茶飯事だ。シンフォニア王国でも重要な高官が暗殺された事件は年に何回かは起きている。大半は情報部が未然に防ぐのだが、視察や戦場でどうしても難しい事はあるのだ。


「これが事故死か、それとも偶然か……軍医達も頭を悩ませています。確かに報告件数は多くはありません。ただ件数が偶然と言い切るには多いので、暗殺を疑っている者がいる程度ですが……」

「なるほど……」


 そうなると暗殺の線はないではないのだろう。カイトはベルク達が暗殺を疑っている理由と、そしてそれを断言出来ない理由を理解する。そうして暫くの沈黙の後。カイトはベルク達の要望を理解して、口を開いた。


「……わかりました。私の方から情報部と王立研究所に確認してみましょう」

「お願い出来ますか?」

「良いでしょう。ただそのかわりと言ってはなんですが、兵達にはこのまま待機をお命じ頂きたい。此度生前お父君がなされていたことは先駆け。戦場の常ではありますが、発覚してしまった限りは命令無視です。やめて頂かねばなりません」

「無論です。ご迷惑をおかけ致します」


 カイトの求めに対して、ベルクは二つ返事で了承する。そうして、一同はこれで話は終わりとそれぞれ戻るべき場所に戻る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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