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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3426話 はるかな過去編 ――鬼の力――

 世界の情報の消失という世界崩壊を招きかねない事態を受けて行われることになった大陸全土の国家を集めての会合。それはやはり戦乱の世の最中にある種の強制的に行われたものであるからか、非常に殺伐とした中での開幕であった。

 そうして開幕した会合の裏で各国の軍人や騎士達との間で情報交換を行っていたカイトであるが、表の会合が大紛糾してしまったことにより一時中座。大精霊達の助力を得て会合を進めることとなる。

 というわけで大精霊達が顕現することになった一方。カイト達はそれを隠れ蓑にして、天醒堂の更に奥にある扉を通してカイトが世界と世界の狭間に向かうのに必要な力を手に入れることになっていた。

 そうして入って早々に戦いを繰り広げた瞬であったが、そこで不意に現れた酒呑童子により中途半端に戦いを終わらせられ少し不満げな様子だった。そんな彼はそれはそれとしても先ほど強引に押し付けられた感覚を確かめるべく、右腕をじっと見つめていた。


「……」

「あれは誰だったんだ?」

「……ああ、あれか。あれは酒呑童子という俺の前世……いや、前前世? にあたる人物だ」

「それがどうして出れているんだ?」

「……そうだ。何故出れたんだ?」


 言われてみれば何故酒呑童子はこの世界に蘇るなぞという芸当が出来たのだろうか。瞬はカイトの指摘でふとした疑問を得る。それに、酒呑童子がようやく気付いたかと笑った。


『ようやく気付いたか。<<鬼鎧(きがい)>>とは元来、大鬼化するためのものではない。幻の腕を編み出す<<幻想鬼手(げんそうきしゅ)>>。敵から魔力を簒奪する<<簒奪魔手(さんだつましゅ)>>。幻の身体を編む<<幻体(げんたい)>>……様々な使い方がある。俺がしたのはこの最後の技だ』

「なるほど……たしかに筋は通るか……」


 <<鬼鎧(きがい)>>はそもそも魔力と闘気で編んだ巨大な肉体を纏うことで大鬼化している様に見せる技法だ。なので原理的に言えばこの巨大な肉体の形状は自由自在のはずだ。ならばその形を操ることで自身と同じ形を作ることは可能だろう。


『<<鬼鎧(きがい)>>は単なるその一番基礎となる技法に過ぎん。ただデカくなれば良い、デカくすれば良いというものではない』

「そうか……講釈、感謝する。だが勝手に人の体から魔力を奪って顕現はするな」

『……盗賊の頭にそれを言うか』

「盗賊は自称だろう」


 面白いヤツだ。酒呑童子は瞬の言葉に楽しげに笑う。そもそも奪おうとすれば瞬の肉体の主導権を奪うことさえ出来るのだ。この程度であればまだ遠慮した方と言えるだろう。というわけで再び自身の奥深くに沈み込んだ彼に瞬は呆れながら、カイトへと状況を説明する。


「なるほど。盗賊の頭か」

「盗賊は本人の自称に近いがな……どちらかといえば地方豪族の首領だろう」

「なるほど。そういうことか」


 一瞬だけ漂った寒々しい気配をカイトが雲散霧消させる。どうやら彼の盗賊嫌いはこの時代でも同様だったらしい。まぁ、そもそもの話としてこの時代は戦国乱世。シンフォニア王国内でも盗賊は出ているというのだ。その被害は彼も聞き及んでいただろうし、何より直接退治に出ていても不思議のない立場だ。嫌悪感を滲ませても無理はなかった。それはさておき。そんな彼は改めて酒呑童子の話に戻った。


「だが、なるほどな……鬼族達の<<鬼鎧(きがい)>>はオレも聞き及んでいる。ハヤトあたりならもう少し詳しくわかったかもしれないんだがなぁ」

「そうなのか?」

「ああ。あいつの血筋の関係で極東の戦士とは繋がりが強い……そう言えば極東の話ってしたか?」

「いや……そういえば聞いたことがないな」


 この世界にも極東には島国がある、とは聞いているがそれだけだ。とはいえ、実のところ東に島国があることはそうめずらしいわけではない。

 そもそもこの大陸を中心として考えているから東に島国と言っているが、あちらからすれば西に大きな大陸があるというだけだ。何より大陸の更に先に島があること自体、不思議はないだろう。単に自然の摂理としてそうなるだけであった。というわけでその東の国についてカイトが軽く教えてくれた。


「あの国は龍神と鬼神の国と言われていてな。龍神達の住まう異空間に繋がる大神木を中心として、鬼神を祖とする一族が治めているそうだ。で、奥地には龍神を祖とする龍族も住んでいるそうだ」

「す、すごいな」

「ああ。実際何度か武者修行でこちらに来た東の戦士達と戦ったことはあるが……どいつもこいつも強かった。だからか東の国は武人の国とも言われている。実際、現在のトップは鬼神と謳われるほどの凄まじい強さを持っているそうだ。ま、幸いウチは別個に同盟を結んでるから交戦することはないんだけどな」

「同盟?」

「ああ、すまん。<<七竜の同盟>>が同盟、だな。元々は統一王朝が同盟を結んでいたんだが、ウチはベルを匿ってハヤトもいる。だから同盟関係を継承出来たんだ……まぁ、一筋縄で継承とはならなかったんだけどよ」


 瞬の言葉に同時を思い出したのか、カイトががっくりと肩を落とす。そんな彼に、セレスティアが口を開いた。


「かの伝説の御前試合ですね。希桜(きおう)様がそれは楽しげにお話されておりました。惜しいな、カイトとレックスの二人が生きていればこのようなことにはならなんだのに、と」

「ぐぁ……あの人、まだ生きてるのか」

「ええ。今も壮健であらせられました。いい加減我も前線に出たい出たいとも」

「変わらねぇなぁ……未来の戦乱、楽しんでるだろ、絶対」

「あははは……」


 当代最強の鬼神にして、東の島国を統一する女帝。それが未来でも健在であることを聞いて、カイトは楽しげだ。が、一方のセレスティアはなんと答えたものかと愛想笑いしか出来ていなかった。と、そんな彼が彼女の言葉の意味を理解して驚きを浮かべた。


「ん? 前線に出たい? え? ってことは、まだ引退してない? あの希桜様が? 口を開けば前線で敵をぶちのめさせろ。御前試合は体よく自分が猛者と戦うための口実……あの希桜様が? 娘を生んだのだって代替わりするためとか言われているあの、希桜様だぞ? 戦場で御子を生んだあの戦闘狂が?」

「えぇ……?」

「あ、あははは……で、ですがまだ代替わりはしておりません」


 あまりに戦闘狂にも度が過ぎる東の国の女帝の伝説に瞬は顔を顰めセレスティアは苦笑いだが、どうやら彼女の言葉は事実だったらしい。というわけでカイトはこれを事実と捉え、少し青ざめた様子で問いかける。


「まさか……流桜(るおう)が死んだ……のか? ありえなくはない……だろうが……」

「え? あ、いえ! 流桜様もご壮健です。同盟軍では東国の全軍を担われております。希桜様が後ろに控え支援し、流桜様が前線に立たれている形です。なので私もよく流桜様とはご一緒させて頂いております」

「そうか……ふぅ。流石に肝が冷えた」


 確かに跡取りたる娘が死んでいたのであれば引退していなくても不思議はない。そんな懸念を抱いたカイトであったが、そういうわけではなかったと安堵を浮かべる。とはいえ、それなら尚更、疑問が浮かんだようだ。


「だがそれなら何故流桜に跡を譲ってなかったんだ?」

「さぁ……そこまでは詳しくは知りませんが……ただ流桜様は、数百年も昔に妾の実力がまだまだ至らぬことを知ったのでな。これで東国の長なぞ継ぐわけにはいかぬ。ワガママとは知るが、母上もそうかと受け入れてくださった。我々よりかなり強いお方でしたが……」

「ほぉ……東国の全軍統括か。やっぱりあいつ、そんな強くなったのか」


 セレスティアの実力は師団長級の魔族と同等かそれ以上だ。それより遥かに強く、しかしそれでもまだ先を目指す、という女帝の娘にカイトは喜色を浮かべていた。そんな彼に、瞬が問いかける。


「知り合いなのか?」

「まぁ、知り合いという所ではあるな。やんちゃなじゃじゃ馬娘だ……そうだなぁ。下手をすると今のお前ぐらいはあるんじゃないか? あのお姫様は……まぁ、<<雷炎武(らいえんぶ)>>を無しにした素のお前と、という所だが」

「んなっ……」


 エネフィアの上位に位置する冒険者と同等。カイトの口ぶりからするとこの流桜という姫君はかなり幼いということが察せられる。それにも関わらず自身と同等という言葉に、瞬が思わず絶句する。というわけで恐る恐るという塩梅で瞬が確認する。


「その流桜……様? とやらは何歳なんだ?」

「何歳……えっと……オレが流桜と初めてあったのはまだあいつが乳飲み子の頃だったから……あれはまだ中央が無事な頃か。となると……まだ十歳にもなってないんじゃないか?」

「……」


 それで自分と同等とは末恐ろしい。瞬はその流桜とやらの年齢に言葉を失う。とはいえ、カイトにしてみれば幼き子だ。親戚の子供を見るような眼だった。


「ま、だが無事で何よりだ。あいつが死ぬと流石にオレも寝覚めが悪い」

「伺っておりますが……あの、あのお話は事実なのですか? カイト様が目を掛けられるきっかけとなったお話は……流桜様もそれについては触れたがらず……」

「ぐっ……ま、まぁ……事実だけど」

「えぇ……」


 流石にそれはいくらなんでも大人げないのではないだろうか。セレスティアはかなりバツの悪そうかつ恥ずかしげなカイトに、少しだけ引いた様子で彼を見る。というわけでそんな視線に耐えかねたのか、カイトが思わず声を荒げた。


「しゃ、しゃーないだろ! 第一あれは悪いのは希桜様だ! 手加減せにゃせんで大人気ないだろう!」

「ま、まぁ……それはそうですが……」

「……何があったんだ?」

「その……先の御前試合で希桜様がカイト様と戦われたのですが、一説にはその前に流桜様が御前試合の大将戦を戦われたとされているのです。ただ公的には大将戦は希桜様が戦われていらっしゃいますし、流桜様当人はそのことに頑なに触れたがらず、希桜様もそういうことにしておいてやれ、と仰られているので事実ではある様子なのですが……ただその詳細があまりにも不可思議なのです」


 流れが掴めず困惑する瞬に、セレスティアは先の御前試合の詳細を説明する。だがこれに、瞬が小首を傾げた。


「大将戦? だがその……流桜様はまだ一桁の幼子なんだろう? 無理がありすぎないか?」

「はぁ……希桜様が出る言い訳だ。娘の面子を潰された以上は我が出るしかあるまいな、というな。絶対に勝てない相手に娘を差し向けて、敢えて負けさせて自分が出てるんだよ、あの人。勿論、相手は見極めてるがな」

「うわぁ……」


 それで大将を務めることになったカイトが戦うことになったわけか。あまりに無茶振りも良い所だ、と瞬は思う。そして事件はそこで起きたのである。


「それでも、流桜ならある程度は戦えるしなんだったら見込み違いな賓客は追い返せてるんだよ。だからかまぁ、そこそこ天狗になってた所はあってな……その、希桜様から鼻っ柱をへし折ってやれと言われたから遠慮なく鼻っ柱をへし折ったんだが……」

「……ふむ?」

「……ギャン泣きされた。希桜様も流石にこれはなかったことに、と言うレベルで」


 非常に言い難そうにしていたカイトが、その当時のことを改めて語る。これに瞬はさもありなん、としか思えなかったし、色々と消されるのも無理はなかった。


「あ、あー……それは……」

「はぁ……こんなことならレックスに大将戦やらせればよかった」

「なにか理由があったのか?」

「あいつが全権大使だったんだ。だからオレを自身の代理として指定した、ってわけだ。自身と同等と言われるオレを大将として指定することで、同盟が統一王朝の後継を担えるだけの力を保有していると示すためにな。実際、オレや四騎士達の力を認めさせたことで希桜様は同盟の継承を承諾されているわけだから、間違っちゃいない判断だろう」

「なるほど……」


 そうなればカイトが大将を務めるのは当然の話だろうし、そしてカイトや四騎士達の実力を希桜とやらは知っていたはずだ。となればこの時点で大将戦は単なる名目に過ぎず、流桜が出たのも納得は出来る流れだっただろう。


「はぁ……まぁ、良いわ。希桜様も流桜も無事で何よりだ。ま、機会があったらハヤトや希桜様に話を聞いてみろ。ハヤトなら話しやすいだろうしな」

「そうだな。そうしよう……だが希桜様とやらとは話せるのか?」

「ああ、あの方も今回の会合には来られているからな。機会があったら、紹介しよう。あの方の方が詳しいだろうしな」

「そうか。感謝する」


 カイトの執り成しに瞬が一つ礼を述べる。そうして、一同は更に奥を目指して進んでいくのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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