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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3425話 はるかな過去編 ――真紅の真球――

 世界の情報の消失という世界崩壊を招きかねない事態を受けて行われることになった大陸全土の国家を集めての会合。それはやはり戦乱の世の最中にある種の強制的に行われたものであるからか、非常に殺伐とした中での開幕であった。

 そうして開幕した会合の裏で各国の軍人や騎士達との間で情報交換を行っていたカイトであるが、表の会合が大紛糾してしまったことにより一時中座。大精霊達の助力を得て会合を進めることとなる。

 というわけで大精霊達が顕現することになった一方。カイト達はそれを隠れ蓑にして、天醒堂の更に奥にある扉を通してカイトが世界と世界の狭間に向かうのに必要な力を手に入れることになっていた。が、そうして更に奥へ向かって早々。一同は魔物ともなんとも言えない奇妙な存在との交戦に臨むことになっていた。


「ふぅ……」


 ふわりと舞い降りた真紅の球体を見ながら、瞬は逡巡する。


(カイトが言うからには敵……なんだろう。見た目からして火属性に長けた敵……か? サイズは2メートルほど。楕円……ではなく真球か)


 これは魔物かどうかは横にして、基本的に魔物などは見た目にある程度特徴が現れることがままあった。それは翼や角などの身体的な特徴は勿論のこと、属性に長けた場合は緑色に変色していたり周囲に炎が燃え盛っているなど様々だ。その常識に当てはめれば、赤色であれば火属性に長けている可能性は考えられた。


(ならば)


 相性は良いと言えるだろう。瞬は自身も得意とする属性が火と雷であることから、多少の被弾を覚悟で攻撃しても問題はないかもしれないと考える。そうしてまだこちらに来ていない、もしくは来ても状況を把握しきれていない面々の体勢を構築する時間を稼ぐべく、瞬は敵をまずは引き剥がすことにする。


「……やって、みるか」


 この真紅の球体が如何なる存在かは見た目からは判断出来ない。炎の集合体にも見えるが、同時に赤色の光沢のない金属で出来ている様にも見える。魔物に類するのであればどんな可能性だってあり得るのだ。

 前者なら物理的な攻撃が通用しない可能性は十分にありえるし、逆に後者であれば魔術を得意としない瞬にとってあまり吹き飛ばす攻撃が使い難い。別の手札を考えねばならなかったのであるが、瞬はその別の手札を幾つか考えていたようだ。少しだけ獰猛ながらもほくそ笑む。


「ふぅ……はぁ!」


 どんっ。瞬は炎と雷を纏いながらも、それと同等かそれ以上に鬼の力を活性化させる。そうして、彼の右腕を中心として巨大な半透明の腕が生ずる。


「……」


 存外やってやれるものだ。瞬はまるで自身を覆う様に現れた巨大な鬼の腕に僅かな笑みを浮かべる。その巨大な腕は彼の腕の動きに連動して動いており、まるで彼そのものが巨大化したような印象さえあった。そしてこれは当然、血肉の通った肉体ではない。闘気と魔力の融合により編み出された魔力の腕だ。故に、使い方次第では実体のない存在であっても掴むことが出来た。


「おぉおおお!」


 巨大な鬼の腕を顕現させた瞬が雄叫びを上げて鬼の腕を振りかぶる。そうして2メートルほどもある真紅の球体を握りつぶさんが如くに握りしめると、野球のサイドスローの様にして思い切り遥か彼方目掛けて放り投げた。そんな光景を見て、後ろで出入り口を守っていたソラが少しだけ興味深い様子で問いかける。


『今のってずっと練習してたっていうあれっすか?』

「ああ……<<鬼鎧(きがい)>>。大鬼化とも言うあれだ。流石に全身は無理だし、今のサイズが限界だったが……」


 出来るヤツが本気でやれば大型魔導鎧にも匹敵するほどの巨大な鬼になれる。瞬は未来の世界のカイトから聞いた話を思い出し、まだまだ要練習と胸に刻む。と、そんな彼であったが触れてみてわかったことがあった。


「今のあいつ。物凄い熱とともに硬度を持っていた。出来るならあのまま握りつぶしてやろうかと思っていたんだが……」

『だめだったんっすか』

「まるで卵を握りつぶそうとしたような感じだった……っ!」


 ソラの問いかけに自身が得た所感を共有していた瞬であったが、放り投げた方角から小さな閃光を見て咄嗟に左手で炎の盾――単に炎の力を収束させただけだが――を顕現させる。そしてその直後のことだ。超高温の熱線が迸り、地面を薙ぎ払う様に燃やしながら瞬へと襲いかかった。


「っ……」

『大丈夫……そうっすね』

「ああ。この程度なら大丈夫だ」


 攻撃力としては中々のものだが、属性的な相性の良い自分であれば無策に受け止めでもしなければ問題にはならないだろう。瞬は十分に警戒するべきとは思いながらも、同時に自分だけで相手は出来ると判断する。


「ソラ。こいつは俺一人でなんとか出来る。相性的にも悪くないだろう……どうやらカイトの言う通り、まだまだ来ていそうだ。そちらに割り振る様にしてくれ」

『了解っす。ただ万が一は撤退も』

「わかった」


 両者ともに暗にソラが出入り口を結界で覆って退路の確保をしつつ、その他の面々で敵を倒していくことで合意したようだ。というわけで瞬はこのまま真紅の球体の相手をすることにして、距離を詰めるべく地面を蹴る。


(距離は……大体五歩か)


 瞬は短距離の<<縮地(しゅくち)>>を起動させ、おおよそ接敵までの距離を割り出す。そうして更に一歩。着地とともに雷の力でコンマ秒が数秒に感じられるほどに拡大した反応速度が真紅の球体から迸る僅かな閃光を捉える。


(来るか)


 おそらく最後の一歩を踏みしめた瞬間を狙い定め、こちらに熱線が放たれるだろう。瞬は真紅の球体への魔力の収束を見ながら、自身の動きを脳内でシミュレーション。次の<<縮地(しゅくち)>>を繰り出す。


「っ」


 案の定。瞬は四度目の着地とともに真紅の球体の表面から熱線が放たれるのを目視する。それに、彼は先ほどの鬼の腕に炎を纏わせる。


「はぁ!」


 だんっ。巨大な鬼の腕で地面を叩きつけ、その反動で瞬が跳躍する。炎は万が一自身が読みを誤って避けきれないとなった場合の目眩ましだったが、必要はなさそうであった。

 そうして自身の真下を超高温の熱線が通り過ぎていくのを迸る熱波で感じながら、鬼の腕の顕現を解除。中に潜ませていた槍をしっかりと握りしめる。


「おぉおおお!」


 雄叫びとともに、瞬は身体の全身をバネの様に大きく海老反りにして渾身の刺突を叩き込む。その速度たるや、穂先からソニックウェーブが生じていたほどであった。だが、だ。そんな彼の渾身の一撃の結果に彼自身が驚きを浮かべることになる。


「!?」


 刺突に失敗した。彼の刺突は真紅の球体の曲面に滑って刺さらなかったのだ。瞬は今まで数千数万の敵との交戦で片手の指ほどしかないミスに、思わず眼を見開いて驚愕を生じさせる。そしてその隙を見逃すほど、真紅の球体は甘くなかった。


「ぐぅっ!」


 真紅の球体の全体が黄金色に光り輝くと、先程の熱線とは比べ物にならない巨大な熱線が迸る。それに、瞬が飲み込まれる。


『先輩!』

「大丈夫だ!」


 今のは俺でなければ即死だっただろうな。吹き飛ばされ宙を舞う瞬はソラの問いかけに答えながら、自身が<<雷炎武(らいえんぶ)>>の補助的な効果で助かったことを噛みしめる。そうして宙を舞う彼に向けて、三度熱線が放たれる。


「そう何度も!」


 ぐるん、と空中で身を捩り、瞬は放たれた熱線に向けて顕現させた槍を叩きつける。そうして僅かな拮抗が生まれる。


「はぁ!」


 先ほどのような不意の直撃を受けなければ、瞬にとって熱線は脅威ではなかった。そうして熱線を弾くと、瞬は飛空術を使用して一気に距離を詰める。


「おぉおおおおお!」


 再度の熱線が来る。瞬はそれを認識しながらも、雄叫びを上げてそれを真正面から受け止める意思を見せる。そして両者の距離が最初の四分の一ほどまで縮まった瞬間、真紅の球体から熱線が放たれた。


「はぁああああ!」


 穂先に魔力を収束させ、瞬は熱線と激突。僅かに瞬が減速するも、彼は総身から魔力を放出してそれを推力に加える。そうして一瞬の拮抗の後。再度瞬が爆発的に加速して、コンマ数秒後にはその穂先が真紅の球体へと激突する。だが、しかし。その一撃はやはり通用しなかった。


「!?」


 どういうことだ。再度の刺突の失敗に、瞬が困惑を露わにする。そんな彼に、内側から声が響いた。


『ヤツは真球……一切の歪みのない球体だ。しかもあの硬度。概念としての点の一撃を放つ以外、物理的な攻撃は一切通じないだろう。見てみろ。表面に引っかき傷一つ付いていない』

『……』


 それで傷一つないわけか。瞬は先程同様にカウンターで一撃を貰わない様に距離を取りながら、酒呑童子の説明に道理を見る。と、そんな彼は瞬の内側にいればこそだろう。その思考を読むことは容易かったようだ。


『ならば打撃を……とでも考えているな』

『ぐっ……』


 酒呑童子のその通りなのだから瞬は息を詰まらせるしか出来なかった。まぁ、実戦経験も人生経験も何から何まで格上の相手だ。というわけで、そんな彼に酒呑童子が何処か馬鹿にする様に笑った。


『やめておけ。真球だ。打撃も通用せんぞ』

『ならばどうしろというんだ』

『面白い物を見せてやろう』


 瞬の問いかけに対して、酒呑童子が楽しげに笑う。そうして、彼の身体から魔力が強引に吸い上げられた。


「ぐぅっ! 何をする!」

「片手一つしか出来ん貴様に技を見せてやろうというだけだ。こんなサービス、滅多にないぞ」

「なぁ……」


 自身の内ではなく後ろから響いた声に、瞬が驚愕しながら後ろを振り向く。そこには、夢で見た通りの酒呑童子の姿があった。そんな酒呑童子の姿に絶句する瞬であるが、そんな彼を横目に酒呑童子の右手に半透明の鬼の大腕が現れる。


「?」


 単なる鬼の腕にしか見えないが。瞬は酒呑童子の意図が掴めず、制止も出来ずただ見守る。そもそも出れないと思っていた彼が出てきてまでしようとしているなにかに興味があったこともあった。そうしてまるで羽虫でも振り払う様に、酒呑童子が腕を振るった。


「……は?」


 酒呑童子が腕を振るい、それに連動して鬼の大腕もまた振るわれる。そうして鬼の手の中に真紅の球体が包まれる。ここまでは瞬が先程したことと大差ない。だが結果はあまりに異なっていた。


「……どこ……だ?」

「ふっ」


 瞬にはまるで真紅の球体が消えた様にしか見えなかったらしい。真紅の球体が鬼の大腕に包みこまれた直後、鬼の大腕とともに真紅の球体もまた消え去っていたのだ。そうして間抜けな顔を晒す瞬に、酒呑童子が笑う。


「真球ならもうこの有り様だ」

「なぁっ……」


 酒呑童子が勝手に顕現した時と同等かそれ以上に、瞬が絶句する。酒呑童子の右腕には真っ赤な球体、真紅の球体のコアが握られていたのだ。しかもそれは暴れ出す様子もなく、完全な沈黙状態だった。そうして、右手のコアはそのままに酒呑童子は左手をその場から瞬に向けて突き出した。


「<<鬼鎧(きがい)>>が大鬼化だけだと思うな。本来<<鬼鎧(きがい)>>は幻にも近い」

「っ! なに……? がぁ! あっ、がっ!」


 半透明の鬼の腕が伸びて自身の胴体を貫いたかに見えた瞬であったが、血が吹き出るどころか痛みさえないことに困惑。が、腕が引き戻され心臓あたりまで来た瞬間だ。心臓がなにかに物理的に握られる痛みと不快感が瞬へと襲いかかった。


「心臓を直接握られるのは気持ち悪かろう」

「がはっ……ぜぇ……ぜぇ……」

「まだまだだ。訓練しろ」

「っぅ……」


 好き勝手した挙げ句に好き勝手言いやがって。瞬は心臓あたりを押さえながら、膝を屈しつつも酒呑童子を睨みつける。そうしてそんな彼の視線をどこ吹く風とばかりに酒呑童子は消え去って、瞬の眼前へと真紅の球体のコアが転がってくる。こうして、この空間での最初の戦いは酒呑童子の介入により不完全燃焼の形で終わりを迎えることになるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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