第3423話 はるかな過去編 ――中座――
世界の情報の抹消という世界の崩壊にも繋がりかねない事態の発生を受けて行われることになった大陸全土の国家を集めての会合。それはやはり戦乱の世において強制的にすべての国を集めているからか、罵声や罵倒の絶えない会議になってしまっていた。
そうして裏でなんとか情報共有が為されていたわけであるが、かつて統一王朝が存在していた頃に進行役を担っていたことから今回もまた進行役を担うことになったエルフ王は表の会談が纏まる様子がなく、このままでは大精霊の前で共闘体制が構築出来ないという赤っ恥な事態を危惧。もはや自分達だけではどうにもならないと大精霊達に助力を申し出ることになっていた。というわけで大精霊達の動きをカイトはアルヴァへと報告していた。
「ははははは……冗談ではないのか?」
「は……というより、我々が勝手に勘違いしてしまっていた様子で……もとよりすべての大精霊様が来られるおつもりだったようです」
「……」
前代未聞の事態というのは元々わかっていたが、それにしても前代未聞に程がある。アルヴァは大精霊達は最初から全員が来るつもりだった、というカイトからの報告に一度は笑うも、それが冗談ではないと理解して真顔になり頭を抱えるしかなかった。
「はぁ……わかった。で、お前は大精霊様よりご指示か」
「は」
「しっかり頼む。要件はまだなのだったな?」
「これよりとなるかと」
「うむ……」
大方また厄介事を引き当てるのだろうな。アルヴァはカイトに対してそう思いながらも、そうしてもらうしかないと判断していたようだ。というわけでひとまず報告を受けるだけ受けた彼にカイトがふと問いかける。
「そういえば陛下。調査隊からの報告はありましたか?」
「む? ああ、例の調査隊か。そう言えばまだないな……」
今回、いつ何が起きても不思議ではなかったことから調査隊には細心の注意を払うと共に、適時報告を入れる様に厳命していた。また時間がどれだけ残されているかもわからない。
なので帝国と共に竜騎士を派遣し、迅速な調査が可能な様にしていた。というわけでカイトの指摘でまだ報告がない事を思い出したアルヴァの顔が若干険しくなる。
「……あまり考えたくはないが、万が一もあり得るか」
「……それは否定出来ないかと」
「そうだな……しかも厄介なことに、か」
「はい……休眠状態であれば大精霊様も感知出来ない。敵はやはり知性的な行動を取っていると断じて良いかと」
「うむ……やれやれ。実に厄介なことをしてくれたものだ」
カイトの言葉に同意しながら、アルヴァは深い溜め息を吐く。大精霊にも対応したり、といろいろと厄介なことをしてくる相手だ。今回派遣した調査隊はある程度の腕利きを派遣しはしたものの、最悪は全滅という可能性は十分にありえた。
「第二調査隊の派遣については準備を指示しておこう」
「はっ。万が一の場合は私が直接」
「……そうだな。万が一の場合はお前しかあるまい」
現状人類側が保有する最強の札はカイトとレックスの二枚だ。その中でこういった調査でも使えるのはカイトだが、やはり彼にも限界はある。アルヴァもあまりやりたくはない様子であったが、仕方がないとなれば彼とてその選択肢を取るしかなかった。
というわけでその後もここ暫く会合に向けた忙しさで有耶無耶になっていたり失念していたりしていないかを確認後、カイトはアルヴァの執務室を後にする。そして後にしてすぐに彼は次の場所へ向かいながら念話で問いかける。
「ふぅ……ああ、オレだ。各国大使というか王様達の様子はどうだ?」
『概ね問題はありません……まぁ、ごく一部には殺気立っている方はいらっしゃいますが……』
「バラけさせて正解ってわけか」
大精霊様がご覧になられているとわかっていながらのこれか。カイトはルクスからの報告に戦争で生まれた火種が根強いものだと改めて理解して、深くため息を吐く。
『はい……ただまぁ、やはり全員が全員というわけではなく、なんとかその方々が落ち着かせている様子です。まぁ、自分をそれらと同類と見られたくないという所はあるのでしょうが……我々としては少しありがたい所ではあります』
「そうだな」
流石に相手は一国の王様だ。一介の騎士に過ぎないカイト達には注意もし辛い。彼らでそれなのだ。一般兵達からすればもはやどうしようもないだろう。それに対して同じく王様達であれば注意しても問題は出にくい。しかも国としての親交があるのならある程度は冷静に話もせねばならないことはあるだろう。
「……わかった。それについてはそのまま頼む。が、万が一刃傷沙汰になりそうなら即座に介入する様に頼む」
『はっ』
「ああ……それで今しがた陛下と話していたんだが、北に送った調査隊からの報告がまだないらしい。第二調査隊の手配を陛下が指示されている」
『その第二調査隊を我々が?』
流石に少し無理がありすぎやしないか。カイトの言葉に念話の先でルクスが僅かに顔を顰める。流石に各国の王様や会場の警備があるのだ。その上に遠方に調査隊を派遣するのは戦力の分散とそこからの各個撃破が懸念されるのは当然だった。が、これは流石に早合点だった。
「いや、流石に第二調査隊はウチでは無理だ。それは陛下もご理解されている。が、それも連絡を絶つようなら、いよいよ敵が隠蔽をやめて本格的に動き出したと考えて良いだろう」
『その時こそ我らの出番、と』
「殲滅はオレらの得意技だからな」
『あははは……了解しました。残留している者に戦闘準備を整える様に指示しておきます』
「そうしてくれ。これがまだ調査隊が何かしらのトラブルで報告が遅れているだけであれば良いんだがな……」
アルヴァからの言葉によれば、調査隊は竜騎士を中心として構築されていたのだ。そして竜騎士はある程度の戦闘力を有している兵士の中でもエリートと言って過言ではない。それが連絡を絶つ時点でかなり厄介な事態が想定された。というわけで次の場所へ向かいながらあれやこれやと矢継ぎ早に指示を出していくカイトであるが、そんなことをしているとあっという間に次の場所だった。
「カイトだ」
『あ、おう……鍵開けた』
「おう……悪いな、慌ただしくて」
中から響いたソラの声に、カイトはわずかに苦笑しながら一つ謝罪する。何故彼らの所へ来たかというと、大精霊側からの指示だった。
「それで何なんだ? 大精霊様がまた別に話があるって」
「いや、悪い。オレもひとまずいろいろな手配を行いたかったし、大精霊様も先にそっちを終わらせてからで良いとのことだったからまだ聞けていないんだ。で、大精霊様もソラ達が一緒の場で話す方が二度手間にならなくて良い、ということでお前らも呼ぶ様に言われてな」
ソラの問いかけに対して、カイトがおおよその状況を彼へと伝える。先にエルフ王の前で要件を伝えられたわけであるが、その詳細はソラ達にも協力を頼まねばならないとのことだった。
というわけでソラ達には一旦少しの小休止後、改めて集まってもらったのであった。そして一堂が揃ったことにより、シルフィードの声が響いた。
『良し。皆揃ったみたいだね』
「大精霊様」
『うん……あ、ソラ。武装とか大丈夫? 忘れ物とかもない?』
「あ、うん……とりあえず言われた通り完全武装は整えたけど……」
今回、集合するにあたって大精霊から小規模だが戦闘があり得るから、と完全武装を指示されていた。というわけでカイトもまた儀礼用ではなく戦闘用の武装を整えることになっていたし、そこらもあって時間が必要だったのだ。
『良し。じゃあ、集まって貰った理由を説明するよ。といっても前に伝えていたことを行うための下準備、なんだけどね』
「前に伝えていたこと……ですか」
『うん。今回、僕らは事態を伝えた際に君に狭間へ向かってもらう様に伝えたよね。それだよ』
「……」
あの件か。カイトは今回の事態が発覚した際に自分が中継地となることで大精霊達が本来は確認出来ない世界の外を確認することが出来ると話していたことを思い出す。
『でもそれは流石にそのままだと少し厳しくてね。その準備をしてもらいたいんだ。大丈夫?』
「かしこまりました」
『ありがとう……じゃあ、手順とかを説明するね』
カイトの応諾にシルフィードが感謝を述べる。そうして一同へとこれからの指針が指示されて、再びシンフォニア王国の王都から天醒堂のある空間へと向かうことになるのだった。
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