第3418話 はるかな過去編 ――会合――
世界の情報の抹消という世界の崩壊を招きかねない事態を受けて、一時なりとも停止した戦国乱世。もはや侵略者たる魔族達さえ密かに停戦するという前代未聞の事態となったわけであるが、その結果。大陸全土の国家が一堂に介する会議が開かれることになっていた。
というわけですべての国を問答無用に黙らせるべく大精霊からの協力を取り付けることに成功したカイトは一度シンフォニア王国の王都へと帰還したわけであるが、それからおよそ半月。流石に大精霊直々に神託が下るとあってはどの国も緊急事態と判断し、参加を表明。合わせて今まで秘していた被害状況も公開されることになり、各国での状況もわかってくる様になっていた。
「思ったより被害が酷いな」
「まぁ……そうもなるかと。あれを一度逃すと後始末は骨が折れる。我が国とて、何処に潜んでいることやらという所ですし……」
「そうだな……一応、得られている情報から廃坑や廃墟など潜めそうな場所を今一度探索しているが……何処かで繁殖? で良いのかはわからんが……増えられでもすれば一大事だ」
「はっ……」
やはり各国『狭間の魔物』の対応には手を焼いていたようで、一部にはそれでも情報を隠そうとした勢力はないではなかったようだが、意外なことに軍部が積極的に情報を供出してきたらしい。中には貴族達が隠していた情報を勝手に流した所もあったようだ。
まぁ、カイトたちや魔族達でさえ手を焼く相手なのだ。情報がないが故にかなりの被害が強いられていた国も珍しくなかったようで、特に直接的な被害を被る軍部が出していても不思議はないだろう。
「まぁ良い。とりあえずそこらを片付けるための今回の会合だ。お前達にも労を掛けたな」
「いえ……それよりあれが繁殖された方が厄介ですので……」
「うむ……ともかくその甲斐あってなんとか開催が出来そうか」
「はっ……それで帝国はなんと?」
「おぉ、すまんな」
カイトの問いかけにアルヴァは一つ謝罪する。実はカイト――というより騎士団全体――はここ暫く各国からの要請で融合個体の始末に出向いており、その一方でエザフォス帝国には使者を出して今回問題となっている融合個体が潜むと思われる地へと合同で調査隊を派遣することを打診していたのであった。そしてその返答があったとカイトを呼んでいたのであった。
「異論なく受け入れる、と。流石に向こうも自分の領地と主張しておいて調査を投げ付けるわけにもいかんだろう。さりとて先の一件以上の個体となれば、やはり自国一国で片付けるとは言い難かろうな」
「やはりそうなりましたか」
「うむ……ひとまず調査隊については現地で合流する様にしてすでに出発させた。また追って調査隊からの報告は上がってくるだろう」
後はその調査結果次第で何をするべきかが変わってくる。カイトはアルヴァの状況説明を聞きながらそう思う。というわけで一通りの話をした所で、アルヴァは改めて会合についてへと話を戻した。
「さて……それで会合だが、基本は俺の方で進めておこう。カイト。お前は裏で各国軍部と情報交換を行って、実態の把握に努めてくれ。どうせこちらは侃々諤々の議論というよりも裏の意図を読んで、という十年ぶりのやり取りになるのだろうし、各国で重要な情報を握っている者たちであればお前の方が繋がりは強かろう」
「はっ……久方ぶりですか」
「はははは。懐かしくは思いたくはなかったがな」
まだ統一王朝が健在だった頃には最低年に一度、すべての国が一堂に介した会議が行われていた。そこでは当然だがアルヴァのような国王が発言するわけであるが、胸襟を開く議論なぞあり得るわけがなかった。今回もそうなのだろうな、とは二人の共通した認識であった。とはいえ、開かれるからこそ良いことがないわけではないとも考えていた。
「まぁ、それでも……額を突き合わせられるのは重要かと」
「うむ……あわよくば、これで戦乱が終わる兆しとなってくれれば良いのだが」
「であれば、良いのですが……」
武器を取り上げられた形にはなってしまっているが、それでも各国この状況下では仕方がないと判断出来る土台はあるのだ。ならばそこで停戦や和平がなせれば、と二人は考えていた。
「カイト。そのためにも此度の会合、どこの暗躍も許してはならん。レックスくんと共に苦労は掛けるが、会場の守護はしっかり頼む」
「はっ!」
アルヴァの言葉にカイトが力強く応ずる。そうして会合前最後の情報共有は終わり、会合に向けてカイトはレックスらと合流することにするのだった。
さてカイトがアルヴァから呼ばれた翌日。カイトはというと、再びソラ達と話をしていた。とはいえ、それは雑談ではなく出発のための合流であった。
「良し……食料やらは良いんだよな?」
「ああ。今回は全体的に同盟が負担する。そこらの手配も神託を直接受けたウチの仕事だ」
「しっ……じゃあ、これで何時でも行けるよ」
「わかった」
「……何がさっきから気になるんだ?」
時折カイトは王城の方を眺めていた。それがソラには気になったようだ。
「ああ、すまん。この間言った鍵が使われたら王城で柱が立ち上るんだ。それが昔は会議が始まる日が近い、と思ったもんでな」
「神託の光ですね」
「ああ……知ってるか。未来でも使われるのか?」
「いえ。流石にそういうものを昔は使っていた、という所です」
カイトの問いかけにセレスティアは首を振る。このシンフォニア王国の王都然りで内乱の結果遷都が起きて、別の場所に首都が移動した国も少なくなかった。その際に<<神託の杖鍵>>を利用した呼びかけを行う機構も失われてしまった国は少なくなかったようだった。
「そうか……まぁ、すでに新たに王城を立て直した国だと機構が失われているという噂も耳にはしている。分かり易いが、使い難いか」
「そう判断されたのかと」
「そうか……ま、そりゃ仕方がないか。っと、それはそれとしてだ」
セレスティアの言葉に道理を見たカイトは納得を示したものの、改めて脱線した話を元に戻す。そうして彼が告げる。
「天醒堂に先に入っておきたい。で、それに同行して欲しい」
「俺達に? なんで」
「先に天醒堂が問題ないことを確認しておきたい。色々と問題がないかを確認しておかないと、陛下らが来た後にトラブルに巻き込まれた方が色々と面倒にしかならん。一緒に大精霊様がご顕現出来る場があるのか、とかも色々とチェックしておきたい」
「なるほど……で、俺達も、になるのか」
元々大精霊達はカイトとソラ達の縁を頼りにして顕現が出来るということなのだ。そうなるとソラ達が一緒に入ったことによりなにかの影響が出ることもあり得るだろう。というわけでそこらを確認するためにもソラ達に一緒に来て欲しいというわけであった。そうしてその言葉に道理を見たソラは二つ返事で快諾を示した。
「わかった。それなら大丈夫だ。こっちももう準備は終わってるしな」
「そうか。ありがとう。じゃあ、明日の朝で大丈夫か? 明日の朝、裏道を通ってベルとレックスが来る。で、オレ達は先入りして向こうのいろいろなチェックだ」
「わかった。それに合わせて俺達は何処に行けば良い?」
「明け方、王城のオレ達の棟まで来てくれ。それで大丈夫だ。ベル達もそっちに控えておくからな」
「わかった」
カイトの言葉にソラが応ずる。そうしてその翌日。一堂はアルヴァ達に先駆けて明け方に天醒堂へ向けて出発することになるのだった。
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