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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3412話 はるかな過去編 ――実験結果――

 世界の情報の抹消という世界さえ滅ぼしかねない事態の発生を受け、事態の収拾に乗り出すことになったカイト。彼はソラ達と共に様々な地へと調査に赴くことになるのであるが、北の帝国ことエザフォス帝国に赴いた帰り。女魔族のイヴリースからの情報提供を受けることになり、一旦調査を切り上げてシンフォニア王国の王都へと帰還する。

 そうして帰還した彼は今度はベルナデットの要請を受けてレックス達と共にシンフォニア王国、レジディア王国の国境沿い。魔族側の制圧地近くにて『狭間の魔物』の融合個体を利用した実験を行うこととなる。

 というわけでその実験の結果、『狭間の魔物』達は世界の外側と共にこの大陸の何処かへと信号を送っていることが判明することになっていたのであるが、その判明と共に融合個体により魔物が呼び寄せられることになり、その殲滅戦へともつれ込んでいた。

 とはいえ、所詮はこの段階で融合個体が呼べる程度の魔物だ。強さとしてはさほどではなく、人類側最高戦力の二色の騎士団にとって敵ではなかった。


「周囲に敵影無し、と……ん? そう言えば……」

『なにか気になることでも?』

「いや、気付いたら魔族からの視察二人が居ないな、と……な」

『ああ、それですか。それですが戦闘開始から程なくして女魔族は中央へ。銀剣卿は北へ向かいました。女魔族の方は流石に闇に消えたので追えませんでしたが、銀剣卿の方でしたらまだ追っています。この方角ですとおそらく北の要塞に向かっているのではないかと』

「なるほど……雷凰に報告に向かっている、という所か」


 向かう方角と両者の関係性から、カイトは銀剣卿が雷凰へと報告に向かったのだと察したようだ。そしてであれば、と判断する。


「ヤツへの監視はもう良いだろう。どうせ砦が目的地じゃないにせよ、一度はその近辺で隠形を施してお前の監視の眼を逃れるだろうよ。お前はそれより融合個体の監視に注力してくれ」

『わかりました』


 現状魔族よりも優先するべきなのは『狭間の魔物』とそれを送り込んでいるのだろう某の相手だ。そう判断したカイトの判断をサルファもまた支持。思考の分割により監視していた銀剣卿への監視を解いて、その分を融合個体の監視に割り当てることとする。


「さって……こちらカイト。周囲に敵影は見受けられず。レックス、そっちどうだー?」

『あいよー……こっちも特に問題はなさそうだ。敵も……うん。こっちも大丈夫だ』

「よっしゃ……モルテ、そっちゃどう?」

『こっちも問題ないさね……ただこれ以上やると向こうさんにこっちの意図がバレる可能性があるから、消しといたよ』

「それで良いと思う……多分」


 融合個体の傍に控えていたモルテは融合個体が魔物を呼び寄せるとほぼ同時に隠形を解除。大鎌により一太刀で融合個体を切り捨てていた。その後は呼び寄せられた魔物の討伐に参加してくれていたのであるが、死神である彼女にも問題があろうはずもなかった。というわけで今回の実験は概ね成功と判断。一同は一旦野営地の会議室に集合することにするのだった。




 さて実験の終了から程なく。騎士団の面々には撤収の用意をさせながら、カイト達は今回の実験結果の洗い出しを行っていた。


「とりあえずわかったのはなにかの信号を世界の外側へ向けて発していることが一つ。世界の内側に向けてなにか共振か同期に似た信号を放っている……ということで良いのか?」

「そうさねぇ……ちょっとあれはどう判断して良いのかさっぱりと言えばさっぱりではあるんだけれども。魔術ではなかったのは確かさね」

「外は一瞬かつ極小。内は神様……それも生死を司る神でもないと認識不可、か」


 それは誰も今まで気付かなかったわけだ。カイトは推測はされながらも実証はされていなかった内容にため息を吐く。特に前者はともかく後者はモルテがいなければ未だに判明しなかった可能性は高い。しかもこちらは融合個体同士が情報共有をしている可能性が高いという点だ。想像していなかった部分でもあった。


「モルテさん。その融合個体同士の共振だか同期だかで送られている情報が何か、という点はわかりますか?」

「それは流石に無理さね。たださっきも言った通り、所感としてはヤツそのものが出ていったような感じだった」

「そう。そのヤツそのものが出ていったような感じ、というのはどういうものですか?」

「そうさねぇ……」


 先ほどは色々とあったので詳しく聞けていなかった。そんな様子でレックスがモルテへと問いかけ、それにモルテは少しだけ考え込む様に眉間にシワを寄せる。そうしてしばらくして、彼女が口を開いた。


「多分だけど、ヤツにとって肉体ってのは重要じゃないんさね。だからその肉体の持つ情報……記憶というか記録というか、確保した情報を何処かへ送って共有してるんだろうね。あの個体は謂わば通信機の親機子機みたいなもんさね。子機の持つ情報を親機に送って、子機が滅んでも問題ない様にしてる……って感じかな」

「なるほど……それで送っている方角も一つになっていると」

「あー……そうさね。そういえばそれもあったね……うん。多分そっちの方角に融合個体の親機があるんだと思う。地図、あるかい? シンフォニア王国ので良いよ。多分そっちで事足りる」


 レックスの問いかけに答えつつ、モルテは地図を求める。それに彼は控えさせていた騎士の一人に頷きかけ、地図を取り出させる。


「こちらを」

「うん、ありがとう……ここらだろうね。親機の場所は」

「ここは……何もなかったと思いますが」


 モルテが指し示した場所はちょうど北の要塞の制圧地と<<七竜の同盟>>の領地の境目付近。しかもエザフォス帝国の国境にも近く小競り合いが多く発生し、特に疎開が進んだ一帯だ。が、だからこそレックスはここらに何度か足を運んでおり、何もない事を知っていたのだ。


「うん。多分砦とかそういうのに潜んでいるのではないだろうね。なにかは調べないとなんとも言えないけれど……多分、普通には見つからない形で潜んでいたりするんだと思う」

「ふむ……」


 モルテの返答にレックスは少し考え込む。可能なら調査に赴きたい所であるが、場所があまりに悪い。小競り合いが多すぎて下手に手を出すと今回の実験が行われた場所以上に厄介な事態を引き起こす可能性があった。というわけでしばらくレックスは考え込むのであるが、カイトへと一つ問いかける。


「カイト……確か北の帝国も協同するって言ってたんだよな?」

「ああ。必要があらば声を掛けてくれ、と言っていた」

「……」


 いくらなんでもここに無闇矢鱈に部隊を派兵するのは愚策。そう考えていたレックスはカイトの返答に再び少し考え込む。こういった政治の絡む話であれば、彼の方に決定権はあった。そうして考え込む彼の所へと、念話が飛んできた。


『多分お考えの内容で良いと思いますよー』

「ベル?」

『そろそろ時期的にも敵の行動も本格化すると思うんですよねー。となると、必然としてこの親機も動き始めると思われるんですよねー。まぁ、気になることがないではないのですがー……』


 いつもの呑気な様子の彼女の声であるが、底には何処か苦味に近いものが滲んでいた。どうやらこの流れは彼女にとって想定された範疇を逸脱しないものだったようだが、だからこそ彼女には更に先も見通せていたようだ。というわけでそれを察したカイトが問いかける。


「なにか気になる所でもあるのか?」

『そうですねー……正直な所を言うと、親機は外にあると思ってたんですよねー。でも内側に置いている、と……うーん……』

「次は何だ?」

『え? ああ……えーっと、ですね。ただそうなると気になることがありましてー……』

「気になること」

『はいー……どうにも解せないんですよねー……おそらく子機は外側から何者かにより送られてきているのではと思うわけなのですが、そうなると何故親機から子機を送り込まないのか。無論親機から分離させていると親機の存在が露呈する上、離れた場所に送り込めないという問題があるわけですが……』

「確かに……それで世界の外側から送り込んでいれば世界の外側になにかが居ると教えているようなもの。そっちの方が隠したいはずだよな……」

『そういうわけなんですよー。情報を集めたいなら親機に情報を集約させて、親機から一括で送り返させれば良いわけです。でもそれをしていないのなら、その理由は何なのか。それがわからないんですよねー』


 カイトと話しながらもその理由の推測を始めたのか、ベルナデットが再び思考の海へと沈んでいく。そうしてそれを見て、カイトもレックスもこれ以上聞くことは難しいと判断した。


「これ以上は無理そうか」

「だな……とはいえ、とりあえず次の方法は定まったな」

「どうするんだ?」


 そもそもレックスもなにかを考えていたわけで、そこでベルナデットが割り込んできただけだ。というわけで彼女の支持を受けて、レックスも結論を出していたようだ。


「檄文を出す。どうにせよあそこを調べるのなら事前に根回しはしないといけないだろうし、そうなるともう大々的に会議を開いた方が良い」

「だろうなぁ……流石にあそこに兵団を派兵すると魔族側も北の帝国も刺激する。最低北の帝国には使者を出して協力は求めないと不要な小競り合いを引き起こしかねん」

「ああ……これが敵の思惑なら、上手いことやってくれたって感じだが……」


 やはり敵は無策かつ無秩序にこちらに『狭間の魔物』を送り込んでいるわけではなさそうか。カイトもレックスも自分達が手を出せる中では一番厄介な場所に送り込まれていた可能性が高い融合個体の親機の在り処にため息混じりだ。そうして、一同は一旦これからの本格的な行動開始に備えてそれぞれの王都に戻ることにするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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