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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3410話 はるかな過去編 ――実験開始――

 世界の情報の抹消という世界さえ滅ぼしかねない事態の発生を受け、事態の収拾に乗り出すことになったカイト。彼はソラ達と共に様々な地へと調査に赴くことになるのであるが、北の帝国ことエザフォス帝国に赴いた帰り。女魔族のイヴリースからの情報提供を受けることになり、一旦調査を切り上げてシンフォニア王国の王都へと帰還する。

 そうして魔族達からの情報を受けて少し危ない橋を渡ることを決めたベルナデットの要請を受け、彼は今度は『狭間の魔物』の一体を捕獲するべく動くことになっていた。

 というわけでソラ達と共に王都から少し離れた場所にある老朽化と戦力の再編により放棄された古い砦に潜んだという『狭間の魔物』を捕獲した彼はそれをほとんど人の寄り付かない僻地まで移送していたわけであるが、更にそれをはるか遠く魔王城から見ている影があった。


「……」

「「「……」」」


 我が直々に見てやろう。そう言われた時、周囲の魔族達は全員揃って耳を疑った。今までは一度目の侵攻において派遣した魔王の撃破にさえ興味を示さず、ただ報告を受けそれに差配するだけだった大魔王その人が人類が行う実験とやらに興味を見せたのだ。

 魔王城どころか旧統一王朝首都周辺は一切の物音がせず、静寂に満ちていた。そんな光景を遠目に見ながら、イヴリースは驚愕に包まれていた。


「……本当にご観覧されているなんて」


 先にカイト達も言及しているが、今回の一件は魔族達の動きを探る意味もあり魔族側に意図的に実験の実施を流していた。なので人類側の言い方をすれば魔族軍の諜報部に所属しているに近いイヴリースはさらなる報告を行うべく実験を確認できる場所に潜むことにして、魔王城にも報告を入れていた。

 が、そんな彼女に返ってきた答えが大魔王様が直々にご観覧される、という前代未聞の返答であった。彼女が仕事を忘れ魔王城側を確認したのは無理のないことであった。


「……大魔王様にとってこれは些事ではない、ということなのだろう」

「銀剣卿……卿もこちらへ?」

「大魔王様直々のご命令だ」


 先に廃坑で一緒に行動していた銀剣卿とイヴリースであるが、別にこの二人がセットで行動しているというわけではない。ないが、やはり知性的な行動が出来てある程度戦闘力のある魔族というのはあまりいない。なので必然として一緒になることはすくなくなかった。


「この程度のことであれば、卿だけで十分と存じますが」

「だろうが……別にそのまま雷凰殿へと今回の実験結果を伝えに行けと下った。どちらがついでかはわからんが、そのついでに近くで見てくる様に、とも」

「そうでしたか……にしても、大魔王様が外に姿を現されたのは何時ぶりでしたか」

「片手の指で数えられるほどだろう。無論、我ら魔族でなければ見通せぬ闇の中での話だが」


 闇の中から出たのはこの十年近くで一度もない。銀剣卿もイヴリースも大魔王の存在をカイト達が疑うのは無理もないと思っていた。なにせ魔王城から外に出たのとて5回を下回るのだ。

 そこから更に進んで魔王城とその城下町付近を包む闇の中から出たのは一度もないという。魔族達の話の中にしか出てこない大魔王の存在を疑うのは当然であった。それでも実在する可能性が高いと判断されているのは、時折魔族軍の無法が過ぎた時に『粛清』が起きることがあるからであった。


「ええ……あの噂、どう思われますか?」

「どの噂だ」

「大魔王様が勇者カイトには興味を示すという噂です」

「あれか」


 ほぼ感情が面に出ない大魔王だが、もう百年以上も臣従している者の中には僅かな機微を見抜ける様になった者も少なくない。そんな彼らがそう噂しているというのをイヴリース達は聞いたことがあったのだ。


「わからん……此度の一件の重大性を考えれば誰が実験を行っていたとてご観覧されていた可能性はある。何より此度の実験は我らにはいささか条件を整えるのは厳しいものだ……無論、我ら魔族にとって最大の障害はヤツだ。それが近くに来るというのであれば、興味を示さぬという方がおかしかろうという話もまた事実ではあるが」

「それもそうなのですが」


 結局の所、こういった噂は魔族達にとっても得体の知れない圧倒的な存在である大魔王に何かしらの人間味のような物を求める弱者ゆえの勘違いなのかもしれない。イヴリース達はそうも考えていた。そんな話をする二人はその後もカイト達が行う実験を遠くから観察することとなるのだった。




 さて大魔王を筆頭にした魔族側がある意味で固唾を飲んで見守る中。当のカイト達はというと、準備を進めながらもイヴリース達の監視には気付いていた。


「……そうか」

『ええ。流石に魔王城の方は掴めませんでしたが……』

「そこまでは今回の作戦で期待はせんほうが良いだろう」


 サルファの報告にカイトは一つため息を吐く。魔王城とその周辺を包む闇はサルファの魔眼による透視を妨害する力もあったらしい。というわけで彼らもまさか大魔王が直々に見ているとは知らなかった。


「まぁ、どうにせよ向こうも興味はあるというわけか。流石に二人だけで、しかもその二人じゃオレ達を奇襲しても倒せんしな」

『ええ……とはいえ、警戒は続けます。そちらもご注意を』

「ああ……ああ、そうだ。オレから言わなくてもわかっているだろうが、今回の実験。世界に負荷が掛かるものなんだろう? 魔眼の負荷は注意しろよ」

『わかっています……そちらもそのタイミングは僕からの支援がなくなるので注意してください』

「おう」


 元々今回の実験は危険が伴うものだと言われている。なのでお互いに注意するべきことは多々あったようだ。というわけでお互いに注意喚起をした所で、カイトは実験を行うべくレックス達が準備していた実験場の様子を見る。


(にしてもよく許可されたもんだ。最悪は世界に穴が空くかもしれない、ってのに……)


 全体を見渡せる場所から実験場全体を見て、そこに刻まれた巨大な魔法陣を改めてカイトは僅かな驚愕を抱いていた。

 実のところ、今回の実験に際してベルナデットはサルファを通してシルフィに確認を取っていたらしい。そこで彼女から問題なしの判定が下ったため、実験の実施となったわけであった。というわけでそこらを思い出しながら実験の準備を見守る彼に、レックスから念話が飛んできた。


『おーう、カイト。そっち問題は?』

「今の所大丈夫そうだ……そっちは?」

『こっちも大丈夫だ……一応こっちでも即座に対応できる様にはしてるけど、万が一の場合は頼むぞ』

「わかってる」


 カイトが一人遠く離れた場所に居る理由は単純で、今回の実験の成否に関わらず万が一今回の実験が原因で敵側が動きを見せた場合に移動することを考えてのことだ。一方のレックスは実験エリアの近辺で待機し、万が一『狭間の魔物』が出現した場合に備えるのであった。


「さて……」


 後は実験がどう転ぶかという所だが。カイトは実験場全体を見ながら、うまく行ってくれれば良いのだがと嘆息する。そうして彼は一人暇なのも相まって、今回の実験の内容を思い出していた。


(基本的に融合個体は本体と何かしらの手段で連絡を取り合っているはず。ですので必然としてそれを掴めば本体の場所を逆探知できるのではないかと思いましてー……だったか。いや、そりゃ当然なんだが……)


 そもそも今回出ている『狭間の魔物』はどれもが魔術的には同一個体と化しているという不可思議な事象が起きているのだ。この不可思議さについては誰もが疑問を抱きつつも、相手は『狭間の魔物』という常識が通じない相手として一旦は横に置いた。


(けれどそうなるとこちらが実験などをしている情報も向こうに伝わる可能性は高いんですよねー……そして救難信号のような物を発せられた場合……まぁ、どうなるかはわかりますよねー。そういった軍隊じみた知性的な行動が可能であるのなら、ですがー……とかなんとかだったか)


 今回の実験に際してのベルナデットの様子を思い出しながら、カイトは少しだけ苦い顔だ。最悪は『狭間の魔物』の大軍勢に狙われかねないのだ。

 素体だけならばまだ楽に相手ができるが、今回は敵に直接繋がる形で実験を行う予定だ。こちらになにかの目的で送り込んでいる素体よりはるかに強い個体を送り込んでくる可能性は十分に存在していた。それらを思い出し、カイトは一人ごちる。


「やれやれ……そういう大胆な策を平然と練るあたりあいつらしいといえばあいつらしいんだが。そりゃ魔族共も興味を示さぁな」


 なにせこちらは大精霊に許可を取っているのだ。普通はそんな恐れ多いことは考えても実行に移さない。そして魔族側は大精霊への接触は流石に厳しすぎる。大精霊への許可を取った方が良いだろう実験を行うことは難しく、許可を取ってまで行う実験に興味を示すのは無理もないことであった。


「まさかあの闇の中で大魔王様が直々にー、なんてオチはないよなぁ」

『あったら大笑いですね。どれだけ今回の事態が大事なのか、と思いますよ』

「あっはははは。いやまったくだな。オレ達に加えて大将軍達。それにそれらを上回るという大魔王様だ。それだけを勢揃いさせているんだから、もう敵は天晴なもんだよ」


 まさしく世界の敵。そうとしか言い得ない状況にカイトは魔王城側を見ながら楽しげに笑う。まぁ、その実本当に大魔王が直々に見ている上、今しがた楽しげに笑うカイトを見ているとは二人も思っていないのだが。そうして大魔王のみが最強同士の視線の交差に気付く中も実験の準備は進められていき、呑気なカイトへとレックスから再び連絡が入った。


『カイト。こっちの準備が整った。お前さえ大丈夫なら、実験を開始する』

「わかった……こっちは上に上がる。十分に注意してくれよ」

『わかってる……じゃあ、実験を開始する』


 ぽひゅっ。カイトの応諾を受けたレックスが実験場全域に伝わる様に信号弾を打ち上げる。そうして全員が身構えると共に、モルテが展開した<<隔絶結界(かくぜつけっかい)>>が解けて実験が開始されることになるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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