第3407話 はるかな過去編 ――捕獲作戦――
世界の情報の抹消という世界さえ滅ぼしかねない事態の発生を受け、事態の収拾に乗り出すことになったカイト。彼はソラ達と共に様々な地へと調査に赴くことになるのであるが、北の帝国ことエザフォス帝国に赴いた帰り。女魔族のイヴリースからの情報提供を受けることになり、一旦調査を切り上げてシンフォニア王国の王都へと帰還する。
そうして魔族達からの情報を受けて少し危ない橋を渡ることを決めたベルナデットの要請を受け、彼は今度は『狭間の魔物』の一体を捕獲するべく動くことになっていた。というわけで王都から少し離れた場所にある老朽化と戦力の再編により放棄された古い砦に潜んだという『狭間の魔物』を捕獲するべく明け方に行動を開始する。
「……こちらマクダウェル。配置に着いた」
『了解しました。こちらも各員配置についております』
「良し……」
ロッシュからの返答に、カイトは一度だけソラ達に視線を送る。
「問題は?」
『大丈夫だけど……一応突入前にもう一回だけ作戦を確認させてくれ』
「ああ」
『道中の敵を手当たり次第に殲滅して、最深部に居ると思われる融合個体……この名で良いんだよな? その大元を捕獲する。間違いは?』
「ない。ただその途中、お前らの方は一旦そこから敵を殲滅しながら、砦の結界の基盤を流用した結界を展開。それが完了次第、こちらのサポートだ」
『……うん。問題ない』
カイトの返答にソラは少しの間を空けて頷いた。少しの間は話を聞いている他の面々の様子を伺ったためだ。なお、融合個体は大元の『狭間の魔物』の素体と区別を付けるために何かしらの存在と融合した個体をこう呼び表すことにしたらしい。
『だけどよく考えりゃ、どれが大本かとかわかるもんなのか?』
「わからんが……ノワの推測では大本が一番『狭間の魔物』の素体に近いはずだから、一番重要視されるんじゃないか、ってことだ。だから最深部に居るだろう、って」
『結局推測だけど、だろ』
「そうだな」
今の話は突入前のブリーフィングで一度しているものだ。なのでその時にされた言葉を口にされ、カイトも笑って認めるしかなかった。というわけで作戦の最終確認を行う彼らに、モルテが問いかける。
「勇者くん。何時までも駄弁ってて良いの?」
「だめだな……ソラ。再確認はここまでだ。そちらは東側。こちらは南側正面口から砦へ侵攻する。ロッシュ卿。そちらは当初の打ち合わせ通り、上層階で動き出した魔物の狙撃と外に出てしまった場合の即座の殲滅をお願いする」
『『了解』』
カイトの言葉にソラとロッシュが応ずる。今回、北側には丘があることからそれを利用して上から崩れた部分に潜む魔物を討伐。中に潜む魔物達を二方向から攻め立てることにしていた。西側が除外されているのはこちら側は比較的倒壊しておらず、侵入ルートが定まらなかったことが大きい。というわけで作戦の再確認を終えて、カイトは一度だけ深呼吸。一瞬先の戦闘に備える。
「……はぁ!」
気合一閃カイトが砦の正面口の大扉に向けて思い切り蹴りを叩き込み、扉を内側へと叩き込む。そうして一瞬。大音を轟かせ破片を撒き散らして吹き飛ぶ木製の大扉と入ってきたカイトに敵が気づく刹那。カイトは即座に内部の状況を把握する。
(ひのふのみのよの……やはり巨大な融合を仕掛けるにはまだ戦力が整っていないのか)
先にエザフォス帝国で戦った異形の化け物は比較的高い戦闘力は持っていたものの、必ずしもそれで優位に立てるわけではない。まずあの大きさだしあの異形の見た目だ。隠れ潜むことはまず出来ない。
ただでさえ異形なのに大きくなれば、そして力を手にすればするほど見付かりやすくなる。無造作に融合を仕掛けては自分の首を絞めることになりかねなかった。
なのである程度の戦力が見込めるまで融合に融合を重ねることはないのでは、と推測されていたのだ。というわけで案の定だろうと判断したカイトに続いて、モルテが突入する。
「プランA」
「了解さね……喰らいな」
カイトが場を譲ると同時に、モルテが死神の代名詞とでも言うべき大鎌をなにもない空間へと振るう。そうして薙ぎ払われた虚空にはまるで血の様に赤黒い三日月が生まれ、それが小さな真紅の三日月に分裂。大扉を入った先の大広間を縦横無尽に駆け回り、大本からの指示を待つ融合個体達へと突き刺さる。
「……」
かぁん。モルテが大鎌の石突で強く床を叩くと、甲高い音と共に突き刺さった無数の三日月が赤く輝いた。
「流石にこれはこの世界の存在じゃなかろうと効くだろうねぇ」
まるで血を吸う様に、無数の三日月が融合個体達から力を吸収し巨大化。それに比例する様に魔物たちは縮んでいく。そうして生命力を含めその全てを三日月が吸収し、モルテは先とは違い軽く石突で床を小突く。すると肥大化した三日月が彼女の大鎌へと殺到する。
「ま、流石にこの程度は余裕さね」
「みたいだな……さて」
こんな派手な突入をしたのはソラ達から視線を逸らさせるためだ。あちらにはまずは結界を展開してもらい、中の融合個体達が逃れられない様にしてもらわなければならなかった。というわけでカイト達は派手に。ソラ達は密かに侵攻することにしていた。そしてそうなれば、だ。
「……うーん……やっぱり魔物を呼び寄せる力はありそう、か」
「そうさねぇ……でないと廃墟にここまで屯することはまずないだろうからねぇ」
大広間の融合個体達を完全に消滅させたわけであるが、それを察知したのか奥からおそらく融合されたのだと思われる魔物が続々と湧いて出てくる。それにカイトは弓矢をつがえ、モルテは大鎌をくるくると回して無数の真紅の三日月を編み出した。
「ひとまずここらの魔物達を片付けないとどうにもならないだろうね」
「だわな……はてさて。最奥の個体が出てこないことを願いたい所なんだが」
「失敗したらお慰みさね」
「そうなったら更に数日移動して予備の地点へ向かうしかないな」
やはりカイトと死神だ。特に融合個体と言えど、物の数にはならないらしい。まぁ、二人共本来は近接戦闘を主体とする戦士なので本来ならば非常に戦い難いのだろうが、それでも気にならないあたりやはり人類でも上位の戦士という所なのであった。と、そんなカイトはふと先程見た個体を見付け、僅かな苦笑を浮かべる。
「どしたね」
「あれ……骸骨型……どうやらやっこさん、肉がなくてもお構いなしらしい」
「あらら……あらら?」
なんだあれ。モルテはカイトの見た個体を見て一瞬笑うも、次に見えた光景に困惑を露わにする。
「ほ、骨の触手?」
「だと思うが……なんなんだろうな、ありゃ」
「元々『狭間の魔物』はなんでもありとは聞いていたけれど……本当になんでもありさね」
骨の触手なんて冥界に住む自分達でも見たことがないぞ。モルテは骸骨型の魔物から生える骨で出来た触手というなんとも不思議な様子に苦笑いしか浮かべられなかった。と、そんな彼女は横のカイトが弓弦を引き絞るのを見て問いかける。
「……そっちがやるの?」
「一度やってみるか、という所だ。砕ければ大笑いだな」
カイトもまた骨の触手なぞという固いのに柔らかな存在は見たことも聞いたこともない。なのでどういう感じなのか、と実感を掴むべく自身が直接攻撃することにしたらしい。そうして威力を調節した彼の矢が骸骨型の魔物へと飛翔を開始する。
「……」
僅か一瞬だが、魔術が使えるカイト非常にゆっくりとした速度で矢は飛翔。そしてそれは十分に骸骨型の魔物にも対応できる程度だったらしい。骨の触手が動いて、矢を振り払おうと速度を上げる。が、これにカイトがほくそ笑む。
「ばぁん」
カイトが楽しげに口ずさむと同時に、骨の触手へ矢が激突。その瞬間に内包していた力が増大して、骨の触手を打ち砕いて骨を粉砕する。
「うーん……骨っぽいな」
「本当になんでもありさね」
「ま、元々が元々だ。気にするだけ無駄かもしれんか」
モルテの言葉を聞きながら、カイトはそういうものなのだと判断していた。というわけで二人はその後も少し気になる所があればそれを調べながら、圧倒的な様子で魔物達を殲滅していくのだった。
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