第3402話 はるかな過去編 ――帰還――
世界の情報の抹消。世界の崩壊さえ招きかねない事態の発生を受けて、その解決に乗り出すことになったカイト。そんな彼は魔族達との遭遇や先代『黒き森』の大神官にしてかつての開祖マクダウェルの旅の仲間であるグウィネス。北の帝国ことエザフォス帝国での事件を受けて、シンフォニア王国へと再び戻ってきていた。
そうして再び戻ってきた彼を待っていたのは、なんと後の世には妖魔将と呼ばれることになる魔族のイヴリースであった。そんな彼女から魔族側が今回の一件の解決まで魔族側に交戦の意図がないこと。とどのつまり暗に停戦を求められることになり、その報告と協議のためシンフォニア王国の王都へと急ぎ戻ることになっていた。
「ふぅむ……進軍停止命令書、か。魔族共の書類、しかも向こうが出してきた物を鵜呑みには出来んが……」
「出来ないとしても、厄介であることに違いはありません」
「そうだな……」
レックスの言葉に、アルヴァは深い溜め息を吐く。そんな彼らに、軍の高官が眦を上げて断言する。
「嘘に決まっております。奴らの書面なぞ信じる価値もない」
「嘘と断ずるのは容易い。だがもし真実であった場合、大精霊様のご意思に背くのは我らだぞ」
「うっ……」
先ほどまで眦を上げて断言していた軍高官がまた別の軍高官の言葉に押し黙る。どのような場合であれ指示を出すことなぞない大精霊が指示を下した。しかもそれは事もあろうに自国の民が受けているのだ。国としてこれ以上の栄誉はなく、シンフォニア王国がカイトに最優先事項として対応させているのもそれ故だ。というわけで黙らせた高官が深い溜め息を吐いた。
「大精霊様が直接神託を下されたのは確かにマクダウェル卿だ。だがそこに我らの支援への期待がないわけがない。その我らが、大精霊様のご意思を察せず動くことは出来ん」
「……マクダウェル卿。此度の一件、やはり魔族絡みではないか?」
「そう断ずるしかないでしょう。魔族であるのなら、大精霊様がわざわざ調査せよと命ずることはない」
軍高官の言葉に、カイトは今回の一件は魔族が主導していないだろうと口にする。そしてそんな彼に、レックスもまた同意する。
「これは私の推測ですが、奴らの望みは支配。此度の一件は魔族の侵略戦争……言ってしまえば公共事業にも等しい。それも潜伏期間も含めれば数十年も費やした大事業です。それを無に帰すなぞ、彼らからしても看過できる話ではないでしょう。おまけに、自分達の故郷である魔界まで滅びる。我らに対して趨勢としては優位に立つ奴らが取る手とは到底思えません」
「「「……」」」
確かにレックスの言うことはもっともな話だろう。魔族達からしてみればこのまま戦っても勝ち目はあるのだ。だがそんな彼らとて、大精霊達に敵対されれば一気に不利になりかねない。みすみす敗北を選ぶ理由はないだろう。というわけで、アルヴァが最終的な結論を下した。
「あの進軍停止命令が真実であれ偽りであれ、我らが無視できる道理はない。それを前提として、我らも戦闘を停止させねばならんだろう……レックス殿下。ひとまずその方向で我らは進めたい。レジディア王にもそれでお伝え願えるか」
「お引き受け致しましょう」
アルヴァの要請にレックスが一つ頭を下げる。レジディア王国側の結論はまた別に下さねばならないだろうが、それはそれだ。というわけで潜在的には不満を抱く者も少なくないものの、ひとまずは様子見ということで会議は終了する。そうして会議が終了し、アルヴァは通信で会議に参加していた――『黒き森』側での協議があるため――スイレリアへと問いかけた。
「ふぅ……『黒き森』の大神官殿。我が国としてはそのような形でよろしいか?」
『ありがとうございます。先ごろ元老院より返答があり、元老院は魔族側の停戦要請に対して承諾の意向を示しております』
「やはりそうなりますか」
さすがのエルフ達の元老院も今回の一件となると話が早いな。アルヴァは少し苦笑しながら、予想されていた返答に納得を示す。これにスイレリアが笑った。
『ええ……元老院は何より大精霊様のご意向を優先します。此度の進軍停止は大精霊様の威光が轟いていることにより起きたもの、と判断したようです』
「あながち誤りではないですな」
『ええ……後はレックス殿下と『銀の山』という所ですが……』
「拒絶はないでしょう。すでに聖獣様が父上には伝えにいってくださっておりますので、私が帰り次第、決を採ることになるかと」
スイレリアの視線に、レックスはため息混じりにそう告げる。
「此度の一件、大精霊様により統一王朝の後継として大陸を統一するにあたり我らの正当性と妥当性が示されたにも等しい。喩え魔族達の言葉が嘘であれ、此度の一件は応諾せねばならないでしょう」
レックスはこの一件を利用すれば、戦乱の早期終結が為し得ると考えていた。大精霊の意向とはそれほどまでに強く、その神託を受けたというのはそれほどまでに重要なことだったのだ。
『そうでしょう……ただだからと警戒しなくて良いというのはまた別の話。十分に警戒は怠ることのないようご注意ください』
「ありがとうございます。その様に父にも必ずお伝え致しましょう」
更に先を見据えるレックスの言葉に、スイレリアは一応の掣肘を加えておく。そうしてスイレリアからの通信が終了すると、残ったのはカイト、アルヴァ、レックスと内々の話ができる面子だけとなる。
「エザフォスも大変か」
「あはは……ええ。まぁ、ただ此度の一件で貴族派も少しは大人しくなるかと」
「だろう。此度は大精霊様のご意向が伝えられる前とはいえ、その意思に背くことをしていたようなもの。しばらくは大人しくせねばなるまいな……後は我が国の貴族達も大人しくしてくれれば良いのだが」
「あはは……」
流石にカイトが直接指示を受けている以上、貴族達もカイトの邪魔をすることは出来ない。なので大人しくしているのであるが、それそのものに不満を抱いている者がいないわけではなかった。
というわけでしばらくの雑談にも近い話の後、三人もそれぞれするべきことを為すべくそれぞれが向かうべき場所に戻っていくのだった。
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