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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3390話 はるかな過去編 ――蠱毒――

 世界の情報の抹消。それは世界の壁という世界そのものの果てを定める概念も含まれる非常に重要なものだ。それの消失は即ち中に住まう者たちが世界と世界の狭間に放り出されたり、逆に世界と世界の狭間に生息する『狭間の魔物』という特殊かつ強大な力を持つ魔物達が入り込む要因と成りかねないものであった。

 そんな世界の情報の抹消によりこちら側に入り込んだ『狭間の魔物』により軍の一個中隊が壊滅させられたというエザフォス帝国の要請を受け帝王との謁見を行うカイトであったが、その最中。帝王と敵対する貴族派という一派が『狭間の魔物』を捕獲したことを知らされることになる。

 というわけで帝王の要請を受ける形で『狭間の魔物』が捕獲されているという秘密研究所に突入したのであるが、その最深部では『狭間の魔物』に侵食されたと思しき生き物達がまるでひとつに融合したかのような魔物でさえない化け物が屯し、なにかを行っていた。

 その観察を進めていたカイトであったが、彼らと同じく最深部を目指していたエザフォス帝国の突入部隊が乗った床が崩落し大実験室へと放り出されたことを受け、やむを得ずカイトもまた最深部へと飛び込んでいた。


「ちぃ!」


 深さはおよそ50メートルほど。数秒という所か。カイトは轟音と共に崩落する地面に巻き込まれ落ちていく兵士達を見ながら、残された数秒を使って逡巡する。最下層に居た得体の知れない化け物達も流石の物音に気が付いて一斉にそちらを振り向いており、監視塔の床と共に落下する兵士達に気付いていた。

 流石にこういった状況下で突入を任されるのだから反射神経に優れた兵士は何人か居たようですでに虚空を蹴って離脱した兵士も居るには居たが、あまりに突然のことでうまく反応出来ていない兵士もいる。放っておけば間違いなく碌な事にならないだろう。


(数はおそらく6。全員向こう側を向いている……1……いや、2ぐらいはやれるか?)


 このまま一気に奇襲を仕掛けられれば、1体ぐらいは消し飛ばせるだろう。その後上手く追撃が出来るのであれば、2体目もなんとかなるかもしれない。カイトはそう判断すると、虚空を蹴って一気に一番近い個体へと急降下を仕掛ける。が、ここは流石に彼が常識に囚われていたと言って良かっただろう。


「!?」


 うぞる。敢えて擬音を付けるのであればそんな奇っ怪な音だ。カイトが急降下を仕掛けたとほぼ同時に、彼が先制攻撃を仕掛けようとした個体が大きく蠢いたのだ。しかもそれに釣られた様子もなく、近くの個体もまた大きく蠢く。


(気付かれた!?)


 カイトの技量は間違いなくこの世界でも最上位だ。その彼が咄嗟の判断とはいえ虚空を蹴る際に音が鳴ることはない。無論その後も風を切る音をさせるわけもなく、轟音が鳴り響いている中で気付かれる要因はないはずだった。とはいえ、それならそれで、と彼は腹を括った。


「おぉ!」


 こちとら元々防がれるのなら防がれるで構わないつもりなんだよ。カイトはもとよりゼロ距離と言える距離まで距離を詰めるつもりはなかった。

 故に彼はこちらに向けて多種多様な腕だか足だかと無数の触手を伸ばそうとする化け物を見て困惑しながらも、それからかなり離れた場所へと着地する。そしてそれと共に、落下中に構えていた大剣を床へと叩きつけるようにして巨大な斬撃を(はし)らせる。


「……良し」


 流石に高位の魔族でさえ直撃すれば一撃で消し飛ぶほどの威力だ。カイトは迎撃しようとしたのか防ごうとしたのかは判別出来なかったものの、どちらにせよ消し飛んだことを良しとする。だが、その次の瞬間だ。彼の鋭敏化した聴覚が周囲の異変を感じ取る。


「っ、瞬! 降りるな!」

「っ!」


 カイトの声掛けを受けて、彼に続いて急降下を仕掛けようとしていた瞬が空中で身を翻す。そんな彼が最後に見たのは、大剣を持ち上げ大太刀を逆の手に持ち交差させ、全周囲へ向けて無差別な攻撃を放とうとするカイトの姿だ。

 なにかのっぴきならないことが起きる。瞬もそれを察して速度を落とそうとするも、流石に急降下を制止するのは難しい。故に彼は勢いを手にしていた槍に全て収束させ、投槍として投ずることであった。


「おぉおおおおお!」

「はぁああああ!」


 二つの雄叫びが響き渡りカイトの全周の様々な生き物の残骸が消し飛んで、少し離れた所で巨大な閃光が迸る。そうしてその両方が収まったとほぼ同時に、カイトの付近に瞬が着地する。

 おそらく瞬が停止に間に合えたのは、彼のたゆまぬ鍛錬の賜物と彼が投擲に長けた戦士だったことが一番の要因だろう。投擲に落下のエネルギーを集約させることは投槍を行う上で必ず学ばねばならないことであり、今回も急降下の威力を全てそちらに移すことが出来たのだ。とはいえ、慌てたことは事実で、瞬が声を荒げる。


「何があった!?」

「……見ろ。それでわかる」


 やはりのっぴきならないことが起きていたらしい。周囲を警戒するカイトの様子に、瞬は注意深く周囲の生き物の残骸を見る。そうして、彼は思わず息を呑んだ。


「……なんだ? 蠢いて……いる……のか?」

「それだけなら良いんだがな」

「っ!?」


 これがカイトが自身を制止した理由か。瞬は続いて起きた現象に、目を見開く。


「触手が……生えただと!? まさか生きているのか!? あの状態で!?」

「みたいだな……最悪だ、こりゃ……全員、こっちに来るな! 上に上がろうとしたら何が何でも叩き落とせ! 一体たりともここから出すな!」


 生き物の残骸を含めて全てを消さねばならないだろう。そう判断したカイトは同時にもはや自身の常識が通用しない状況に何が起きても不思議はないと判断したらしい。瞬に続いて降下しようとしたセレスティア達を剣圧で吹き飛ばして押し返すと、そのまま万が一地上を目指そうとした場合に備えさせる。そしてそれに続けて指示を飛ばす。


「イミナ! 合わせて将軍に戦術的な攻撃の許可を出させろ! この研究所を丸ごと消し飛ばす! 一片の肉片も残さん!」

「はっ!」


 カイトの言葉にイミナは即座に踵を返して即座に外のソラへと連絡を取る。そうしてそれを見届けると、彼は瞬と並んで再び異形の化け物達と相対する。


「今ので……一体は追加で消し飛んだか。残る一体も半壊、と……」

「咄嗟の判断だったが……それが功を奏した、か。接近戦は控えた方が良さそうか?」

「だろうな」


 流石に正確な狙いを付けられなかったが、それでも大火力を間近で受けたのだ。その時点で大ダメージを受けた一体はその直後のカイトの渾身の一撃に飲まれて、完全に消し飛んだようだ。そして残る四体の内一体はカイトの広範囲の一撃を受け半損。身体が両断されかけていた。そんな敵影を見ながら、カイトは瞬の確認に同意する。


「見ての通り、あの様でも触手が蠢いているんだ。そして魔族曰く、貫かれた程度でも感染だか侵食されちまうらしい……どの程度で汚染されるか確かめたいなら止めはしないがね」

「遠慮しよう……それに少し試したい戦闘方法があった所でな」

「うん?」


 瞬の言葉にカイトはちらりとそちらを見る。すると瞬は短めにした槍を左手だけで持つ二槍流の構えに近い型を取りながら、右手には小型の使い捨てナイフを携えていた。


「面白い構えだな……なるほど。大体は察したが……サポートは出来んぞ?」

「わかっている……が、一度だけサポートを貰えるか? 周囲の肉塊はなんとかしておきたい」

「それはオレもだからやっておこう……合わせられるか?」

「わかった」


 瞬も目にしていたが、残骸と化した肉片はまだ生きているらしくこちらに向けて触手を伸ばそうとしているのだ。流石に何をしていくるか定かではない異形の化け物相手に、周囲に散らばる無数の残骸を注意しながら戦うのは厳しい。故にカイトも先手を打って周囲を掃除してから戦いに臨むつもりだったようだ。

 そうして蠢きながらこちらへと距離を詰めてくる四体の内二体――残る二体は落下した兵士達側へ向かっていた――を正面に見ながら、二人が総身から魔力を迸らせる。


「「おぉおおおおお!」」


 流石に最初はどの程度の防御力を持っているかわからずカイトも距離を絞った上で高火力の一撃を周囲に放ったわけであるが、一撃やればどの程度かはおおよそ察せられる。故に大実験室は崩すことなく、そして兵士達にも影響を与えない程度に二人は魔力を放射。周囲に散らばる肉片だけを器用に消し飛ばす。


「良し……じゃあ、やるか」

「おうよ……手負い……じゃなくなっちまってるみたいだが。そっちの個体をやれ。流石に馬鹿みたいに見栄は張るなよ」

「了解」


 カイトの言葉に瞬は苦笑しながらも、その指示を素直に受け入れる。どうやら彼らが周囲の残骸を消し飛ばしている間に、半壊していた異形の化け物はきれいに身体を元通りにしていたようだ。切断の痕跡はすでになく、切り飛ばされていた触手も生え変わっていた。

 そうして二人はこちらから攻め込むではなく、向こうがこの何も無い空間まで来るのを待つ。こちらから肉薄してはせっかくきれいにした意味がないだろう。


「ふぅ……」

「は?」

「なんだよ」


 こいつらが何をしてくるかはわからないが、接近戦は不利だろう。そう考えていた瞬であるが、それはカイトも同様だったようだ。双剣を再び腰に帯びた彼が唐突に弓矢を取り出したのを見て瞬が目を丸くする。


「弓……か?」

「そうだが?」

「それで戦うのか」

「そうだが? 確かにオレは双剣士だしサルファ並じゃないけど、弓は使えるよ。あんな接近戦ヤバい相手に近付きたくなんてねぇよ。ほら、それは良いから戦いに集中しろ」

「そ、そうか」


 そう言えば出来るとは聞いていたが。瞬はカイトが何処か不貞腐れた様子なのを見て慌てて前を向く。そうして、本来の戦い方から姿を変えた二人は自分達の間合いに入ったと同時に戦闘を開始するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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