第3379話 はるかな過去編 ――外へ――
世界の情報の消失という果ては世界の崩壊さえ招きかねない事態。それは自然には起き得ないはずの事態で、大精霊達は優れた何者かによる意図的は抹消と判断する。
というわけで大精霊達の指示を受けたカイトであったが、彼はソラ達と共に世界の壁の消失によりこちら側に入り込んだ『狭間の魔物』により軍の一個中隊が壊滅させられたというエザフォス帝国の要請を受け、帝王との会合を持つ事になる。
そうしてエザフォス帝国へと入国し、一週間。向こう側の思惑と事情から謁見の時間より早い時間に帝王の兄妹との謁見を果たしていた一同であったが、そこでのやり取りの結果、ソラ達はエザフォス帝国の要望を受ける形で軍の一派が帝王にも密かに保有する研究所へと潜入することになる。
『とりあえずさっきも言ったが、今回の訪問においては大神官様、レーヴェの二人が主導者。オレが護衛の総隊長という立ち位置。お前らもまた護衛隊の一人というわけだ。だから謁見の場に参列していないでも良い……まぁ、オレみたいに名前がデカく成りすぎると参列していないと何処で何をしているんだ、って話になるが……』
「俺達にその心配はない、と」
『そういうこと……まぁ、向こうもぞろぞろ雁首揃えて話し合いに参加することもないヤツを謁見の間に入れるってのも無意味な話だろう』
「安全保障上もヤバいだろうしなぁ」
考えれば普通の話だな。ソラはカイトからの言葉になるほどと道理を見て納得する。そしてそういうわけなので、帝王が良しとしてしまえば彼らが外に出ても問題はなくなる。
というわけでそんな彼らが向かうのは、帝城の一角。軍の施設だった。といっても流石に軍の研究施設などがガッツリあるというわけではなく、帝城の守護を行う者たちの訓練場や会議を行うスペースがある程度だ。そんな建物の前ではグラキエースが待っていた。
「あ、グラキエースさん。すみません、おまたせしました」
「不要……ひとまず情報を共有する」
ソラの言葉に対して、グラキエースは踵を返しながらついて来いと背で告げる。そして帝王の腹心たる彼女が案内しているのだ。特に問題なく軍の施設へと通されることになる。そうして施設内を歩くこと十分ほど。一つの会議室へと通される。そこではすでに一人の青白い髪を持つ壮年の大男が座って待っていた。
「パーパ」
「……」
グラキエースの呼びかけにパーパと呼ばれた男性が無言で一つ頷く。その様は正しく氷のようで、寡黙さが似合う偉丈夫だった。そんな彼を見て、瞬が念話で一同に告げる。
『<<厳冬将軍>>……リオート・ヒムエスだな。冬の名を冠する将軍』
『っすね……ってことはやっぱ今回の一件、かなり重く見ているってことなんっすかね』
『さぁな……』
どうなることやら。瞬もソラも<<厳冬将軍>>の登場に僅かな警戒感を滲ませる。というわけで一同がリオートの視線での促しを受けて椅子に腰掛けたと共に、リオートが口を開いた。
「客人。まずは我らの招聘を受けてくれたことに感謝する」
「あ、いえ……今回の一件は大精霊様直々にご指示をされているものですから、その解決に向けて最大限力を尽くすことは当然かと」
「うむ……それを彼奴らも理解していれば良いのだが」
ソラの返答にリオートは盛大にため息を吐きながら首を振る。その声はまるで狼の遠吠えの様に透き通っているが同時に恐ろしさも感じられるもので、彼が決して凡夫ではないと声だけで知らしめていた。
「……まぁ、良い。とりあえず今回貴公らに頼みたいのは、軍の一部……貴族派に属する貴族達が『ドゥリアヌ』崩壊の報告を受け確保したサンプルの破却及びその研究記録の強奪だ」
「ご、強奪……穏やかじゃないですね。裏で行われる会議で出してくれるのならそれで良いのでは?」
「大精霊様のご指示で素直に受け入れられるのならそもそも揉めてなぞおらん」
ごもっとも。ソラはそうならないだろうと予想するからこそ、こうして裏でコソコソと動くのだと理解していた。が、強奪と言われてはいそうですか、と素直に頷けるほど彼とて感性が荒事に向いているわけでもなかった。というわけではっきりと断言するリオートに僅かに沈黙が流れるが、しばらくしてリオート自身が口を開いた。
「……それは良いだろう。場所と敵情についての情報を共有する」
とんっ。リオートが机の特定の場所を叩くと、部屋が僅かに薄暗くなり壁の一部が淡く光り輝く。プロジェクター、というところなのだろう。彼が傍に控えていた軍人に目配せをすると、淡く光り輝いた部分に映像が映し出される。
「この帝都から10キロほど南東に向かったところに山岳がある。そこの山岳に貴族派の連中が先帝の頃から秘密裏に保有している軍の秘密研究所が存在している」
山岳の岩肌に出入り口を隠して、中をくり抜いて外からは見つかりにくくしているわけか。一同は映し出された映像を見ながらそう理解する。そんな映像を見ながら、瞬が問いかけた。
『セレスティア。この施設についてなにか情報はないのか?』
『申し訳ありません。流石に私もエザフォス帝国の秘密研究所……しかも過去の秘密研究所のことはあまり。シンフォニアやレジディアであれば、知っていないこともないのですが……』
『そうか……確かに仕方がないか』
セレスティアの血統はレジディア王家とシンフォニア王家に連なっており、エザフォス帝国には連なっていない。一応担い手や巫女の中にはエザフォス帝国の兄王に連なる血筋の者もいるそうなのだが、やはり血筋などから知り得る情報は異なっている。何でもかんでも共有されているわけではない、というのが後の彼女の言葉であった。と、そんな念話を尻目にミーティングの内容を聞いていたソラがリオートへと問いかける。
「立ち入り調査とか出来ないんですか?」
「厳しい。先にも述べたが、ここは貴族派の連中が独自に建造した物だ。表向きには存在しない。元々荒事前提であれば話は違うが」
つまり今回の様に。一同はリオートの言葉をそう理解する。そうして、一同はその後もしばらくの間リオートから今回の潜入工作についての情報共有と打ち合わせを行うことになるのだった。
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